2015年12月13日日曜日

ASAサンディエゴ発表報告

麻酔科勉強会  担当:Y先生

「ANESTHESIOLOGY 2015@San Diego発表報告」

・ASA Annual Meating
  ・アメリカ麻酔学会の総会かつ最大の祭典。
  ・毎年10月末にアメリカの都市で開催。
    →1846年10月16日に初のエーテル麻酔が行われたことを記念。
  ・参加者は麻酔科医だけでおよそ15,000人。
  ・最近は日本からの参加者もかなり増えている。
・非会員の参加費は高い!10万円超!
  ・Resident身分のうちに参加するのが絶対にお得!
    →1-2万円程度で参加できる。
  ・筆頭演者には割引がある。
・演題登録まで
  ・演題登録はASAのWebsiteにて。
  ・発表は原則e-poster型式。
  ・だいたい毎年4月末あたりが締め切り。
  ・ASA非会員の場合は演題登録料として$25必要。
  ・ポスター登録にも別途$65必要。
  ・MCCSは比較的通りやすいらしい。
・サンディエゴへ
  ・関空からはロサンゼルスかサンフランシスコで乗り換えとなる。
  ・成田からは毎日JALの直行便が出ている。
・Registration
  ・ASAから来たバーコード付きメールを見せると、
   ネームプレートとプログラムが貰える。
・MCCS
  ・困難症例報告セクション。プレゼン・掲示は10分間のみ。
  ・発表者はResidentクラスが多い。
  ・比較的通りやすい。
  ・大盛況。
・E-Poster Presentation
  ・ポスターは半日間掲示される。
  ・発表は入り口にあるさらに大きなメインモニター前で行う。
  ・特にジャンル分けはない。基礎から臨床までバラバラ。
  ・日本からの発表も目立ちました。
・全てのポスターはE-Poster On DemandというPCブースで閲覧可能。
・発表は無事終わりました。
・Refresher Course聞いてきました。
 ・妊婦の区域麻酔について
  ・合併症リスクは長期留置、複数回穿刺、ステロイド、DM、HIV感染
  ・硬膜外血腫の経皮的ドレナージの報告
  ・マスクを付けずに手技をしたら口腔内菌を起炎菌とする
   髄膜炎をきたしたという報告
    →背中の手技の際には必ずマスクを付けること!
 ・心臓手術での血液戦略
  ・血小板機能を測る機械がある。
 ・緊急気道管理について
  ・20度のヘッドアップでpreoxygenationを行うと
   呼吸停止許容時間が長くなる。特に肥満患者には有効。
  ・酸素化が厳しい場合はNHFCを使用しながら挿管
   (RCTも2つあるが結果が違う。。。)。
  ・SALADを使おう。
   =Suction-Assisted-Laryngoscopy-Airway-Decontamination
    →ビデオ型挿管デバイスに吸引をつけたもの。
  ・Out of ORでは挿管は最大最強の手段を最初から用いて
   一撃で決めること。
 ・病的肥満妊婦の麻酔
  ・アメリカでは妊婦の50%が肥満、10%が病的肥満。
  ・そのせいか、先進国でアメリカだけでは
   妊産婦の死亡症例が年々増えている。麻酔関連は0.3%。
  ・BMI 35以上の妊婦のうち19%しか自分は病的と認識していない。
  ・肥満妊婦の区域麻酔はsitting positionで!
   Middle lineを同定するのが鍵。
    →エコーは?施行時間はかかるが、成功率は上がる。
  ・肥満妊婦は動くと硬膜外カテーテルが移動する。抜けるかも。
  ・非観血的血圧測定値が信頼出来ないことが多い。
    →動脈ラインも考慮。
・サンディエゴ観光も楽しんできました。
・来年はシカゴです。
   
 

筋弛緩とリバース

初期研修医勉強会  担当:I先生

「筋弛緩薬とリバース」

・中枢性筋弛緩薬
 ・GABAb受容体遮断
・末梢性筋弛緩薬
 ・脱分極性
   ・ACh受容体に結合
     →イオンチャネルを開いて終板電位を発生させる
     →脱分極を起こす
     →長時間持続されるため終末周囲筋膜の閾値が上昇して
      遮断が起こる。
   ・シナプス間隙にあるAChエステラーゼによる加水分解はされず、
    拡散して血漿中コリンエステラーゼ分解される。
   ・副作用:洞性徐脈、心室性期外収縮、悪性高熱症、高K血症
     →現在はあまり使われなくなった。
 ・非脱分極性
   ・ACh受容体に結合し、Achと競合的に働いてAchを遮断
     →筋弛緩効果を発揮。受容体に結合はするが、
      受容体を活性化させないためイオンチャネルは開かない。
・筋弛緩薬リバース
 ・ネオスチグミン
   ・コリンエステラーゼを一時的に不活化
     →アセチルコリンの分解を抑制
     →終板近辺にアセチルコリンが増加
     →神経筋接合部の伝達が促進される。
   ・アセチルコリンは神経筋接合部のみならず、
    ニコチン受容体やムスカリン受容体に結合。
     →分泌の亢進、気管支収縮、徐脈などを起こす
     →ムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンを併用。

 ・スガマデックス
   ・スガマデクスはロクロニウムと1:1の複合体を形成
     →ロクロニウムがニコチン性Ach受容体に結合できなくする
     →血液中の非結合ロクロニウム濃度が急激に減少
     →濃度勾配に基づいて神経筋接合部や
      末梢Compartmentからロクロニウムの急激な拡散が生じる。
     →ロクロニウムが終板のニコチン性Ach受容体から解離し、
      筋弛緩効果から迅速に回復する
・リバース使用法
 ・ネオスチグミン
   ・TOF 4以上を確認
   ・ネオスチグミン:アトロピン=2:1
 ・スガマデクス
   ・浅い筋弛緩状態(TOF T2確認)→2mg/kg
   ・深い筋弛緩状態(TOF 0, PTC 1-2回単収縮確認)→4mg/kg
・再筋弛緩
 →拮抗後の筋弛緩作用の再出現。
  麻酔終了後に筋弛緩効果が再出現すること。
・ネオスチグミンに影響を与える因子
   ・ネオスチグミンは腎排泄
     →腎不全患者では半減期が約2倍に延長するため、
      再筋弛緩の可能性は少ないと考えられる。
   ・呼吸性アシドーシス、代謝性アルカローシス存在下では、
    ネオスチグミン濃度の神経筋接合部と血中との平衡状態が変化し、
    ネオスチグミン作用が減弱すると考えられているが、詳細不明。
   ・重症筋無力症
     →治療にコリンエステラーゼ阻害薬を使用。
     →ネオスチグミンの投与で筋弛緩拮抗を行う場合は、
      コリン作動性クリーゼの危険性あり。
     →筋弛緩状態をモニタリングすべし。
・硫酸Mgの前投与はスガマデクスによるリバース時間に影響なし
・筋弛緩モニターなしでスガマデクス投与→PACUでのTOFR<0.9
  →1.7%-9.4%(95%CI)
・スガマデクス投与でも筋弛緩が残存する可能性あり
  →モニタリング
・スガマデクスに関する論文を2本読んできました。紹介。


2015年12月12日土曜日

挿管チューブのカフ

ICU勉強会  担当:T先生

「挿管チューブのカフについて」

・カフの役割
  ・挿入時の進入長の目安(カフが声門を1-2cm過ぎるまで)
  ・気道分泌物のシール
  ・誤嚥防止
  ・咽頭や消化管分泌物の流入を防ぐ
  ・陽圧換気の促進
・カフ圧は20-35mmHg(27-34cmH2O)に保つ
・Low pressure High volume cuff
  ・陽圧換気中は20-30cmH2Oに
    →粘膜虚血を防ぐため。
  ・気道損傷は起こりうる。
    ・繊毛の剥奪
    ・気道狭窄
    ・気道破裂
    ・気管食道瘻
・VAPを防ぐために・・・
  ・カフ上吸引
  ・カフ圧(持続的に20cmH2O)
・カフの材料はポリ塩化ビニル&ウレタン
・カフ圧調整は?
  ・カフ圧系
  ・手動→リーク音聴取、パイロットバルン触診
     →24%の麻酔科医しか適切な圧を予想できなかった。
・カフリークテスト
  ・感度0.56、特異度0.92という報告が
・抜管後トラブルは気道内腔の狭小化が影響
・抜管後気道浮腫のリスクファクター
  ・女性
  ・太いチューブ
  ・長期間の挿管
  ・高いカフ圧
  ・挿管困難症例
・その他使用上の注意
 ・パーカー気管チューブにリドカイン噴霧剤は使用しない。
 ・キシロカインポンプスプレー8%も噴霧しない。
    →カフが破損するおそれがある。
    →実験してみましたが破損しませんでした。


周術期喫煙と禁煙

麻酔科勉強会  担当:T先生

「喫煙について」

・現在の日本の喫煙率
  ・男性30.3%  女性9.8%
・喫煙の利点
  ・ストレス解消
  ・痩せる
  ・暇つぶしになる
  ・タバコづくりに関する人々の雇用を支える
・喫煙の影響
  ・機能的影響・・・酸素運搬能など
   ・禁煙後すぐに回復
  ・器質的影響・・・絨毛障害、肺実質障害など
   ・禁煙しても回復まで時間がかかる
・手術における喫煙の影響
  ・循環機能への負荷増大
  ・酸素需要供給バランスの悪化
     →低酸素血症への恐れ
・手術患者、術後30日後の合併症
 喫煙者は非喫煙者に比べて
  ・肺炎2倍、再挿管1.9倍、人工呼吸遷延1.5倍、創部感染1.3倍、
   心停止1.6倍、心筋梗塞1.8倍、脳卒中1.7倍、・・・
・ASA PSにおいてcurrent smokerはPS 2に分類される。
・術前、術後は可能なかぎりの禁煙が推奨される。
・禁煙による短期的影響
 ・組織への酸素供給量の低下
 ・不整脈
・ニコチンの作用
 ・気道分泌、血管収縮が主。
 ・毒性としては中枢神経症状、骨格筋麻痺、
  神経終末の持続的脱分極など
 ・薬理作用
   ・血管抵抗上昇
   ・血圧上昇
   ・心拍数上昇
   ・侵襲反応上昇
   ・心仕事量上昇
・喫煙の肺への影響
 ・絨毛へのダメージ
   ・感染増加
   ・排痰困難
 ・肺胞隔壁の障害
・創部治癒遅延
 ・縫合不全
 ・表皮縫合部の離開
・周術期禁煙ガイドライン
  →強い推奨
     ・安全な手術のために禁煙は必須の術前準備である。
   ・有効性が高いのはカウンセリングと禁煙補助薬。
   ・禁煙指導の専門家に紹介。
   ・長期禁煙は生命予後を改善する。
   ・介入を行ったほうが術後再喫煙率を下げる。
・ニコチン代替療法
 ・手術当日は中止
 ・禁煙できなくても減煙は進む
・当院の術前喫煙率は18%でした。


2015年10月19日月曜日

日本心臓血管麻酔学会@福岡

10月9-11日、アクロス福岡にて、
第20階日本心臓血管麻酔学会学術集会が開催されました。
当院からは7名の先生方が発表をされました。






発表された先生、お疲れ様でした。
JB-POT試験も迫ってまいりました。
受験予定の先生方には是非頑張って欲しいと思います。

2015年8月17日月曜日

後期研修医募集!

 神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科では、新・麻酔科専門医研修プログラムに対応した平成27年度採用の専攻医(後期研修医)を募集しています。
 研修プログラムにおいて責任基幹施設である神戸市立医療センター中央市民病院は神戸市の基幹病院であると同時に、救急救命センターを併設する救急病院であり、小児心臓外科を除く全科の麻酔管理に対応しています。麻酔科専攻医は現在14名であり、当院の手術室、集中治療室の実働部隊としての中央診療部門の核心を担っています。時にはハードな日々もあるとは思いますが、経験可能症例数、指導体制の充実度は国内有数の研修施設であり、麻酔科医としての臨床能力をつけるには最適の病院であると自負しています。なお、神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科専門医研修プログラムにおける病院群は以下の通りです。

責任基幹施設

・神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)

基幹研修施設
・神戸市立医療センター西市民病院(神戸市長田区)
・西神戸医療センター(神戸市西区)
・岐阜県総合医療センター

関連研修施設
・兵庫県立こども病院(2016年、当院の300m東側に移転予定)
・神戸大学医学部附属病院(神戸市中央区)
・京都大学医学部附属病院


希望があれば研修の全てを神戸市内で完結することが可能であるのが当院プログラムの特徴です。4年間の研修期間を神戸市在住のまま、引っ越しや長距離通勤なしで過ごすことができるのは大きなメリットと思います。
 また当院麻酔科の特徴として、手術部門に隣接して麻酔科管理型ICU(G-ICU)を有しており、心臓大血管手術をはじめとする大手術の術後管理、内科的重症患者、院内急変患者の治療を麻酔科主体で行なっている点があります。専攻医は1年次、および3年次に集中治療部に専従し、集中治療を学び、経験することとなります。当院麻酔科における集中治療研修で、集中治療専門医の習得に必要な集中治療勤務歴を満たすことが可能です。
 朝の麻酔科ミーティングも当院麻酔科の特徴です。毎朝、日々の業務が始まる前に全員集合での勉強会が開催され、麻酔、集中治療、TEE、神経ブロック、症例フィードバックなど、麻酔科ローテーション中の研修医の先生も加えて発表&質疑応答が行われ、全員で知識を深め、共有しています。

 充実したスタッフ構成のため、オンオフがはっきりしていることも当科の特徴です。夜間は麻酔科当直(麻酔部門2人、集中治療部門1人)が緊急手術、集中治療に対応するため、非当直日は仕事が終われば完全duty freeです。夜間呼び出されることはありません。また当直明けも可能な限り早く帰れるよう努力しています(だいたい午前中には解放です)。
 忙しい病院ですが、麻酔科スタッフ28名、協力して、お互いから刺激を受けながら日々の業務に勤しんでいます。神戸市の高度医療、救急医療の第一線を担う当院麻酔科で研鑽を担いたいという志の高い先生方の応募を期待しています。是非一度見学にお越しください。
 研修医の先生の見学は随時受け付けています。麻酔部門中心、集中治療部門中心、どちらも、など希望があればお伝え下さい。もちろん医学生、後期研修医の先生、その他ベテランの先生方の見学も歓迎しています。お待ちしております。

■見学申し込みなど、お問い合せはこちらへ。
副院長兼麻酔科部長 山崎 和夫
313kyama■kcho.jp (■を@に変換してご送信ください。)


なお、インターネット出願の期限は8月24日(月)17:00までとなっています。
研修希望の方はお早めにお申込み下さい。

2015年7月12日日曜日

集中治療医学会近畿地方会

2015年7月5日、大阪国際交流センターにて
第60回日本集中治療医学会近畿地方会が開催されました。
当院からの演題発表は7題(麻酔科6題、救急部1題)と、
参加施設の中では最多でした。





発表された先生方、お疲れ様でした。
今後も「集中治療ができる麻酔科」として、
集中治療領域での学術活動も活発にしていこうと思います。

2015年6月9日火曜日

こどもの麻酔導入

麻酔科勉強会  担当:Y先生

「こどもの麻酔導入」

・小児の気道解剖
 ・頭部、特に後頭部が大きく仰臥位で気道が屈曲しやすい。
 ・アデノイドや口蓋扁桃が比較的大きい。
 ・口の中で舌が占める割合が大きい。
 ・喉頭が成人と比較してより頭側かつ全面に位置している。
 ・喉頭蓋が長くU字型をしている。
 ・気管長が短い。
 ・気管最狭部は声門直下の輪状軟骨部である。
   →成人挿管に慣れている施行者にとって難しい原因。
・マスク換気
 ・頭部が全身の中で比較的に大きく、特に後頭部が大きい。
   →仰臥位で気道屈曲、閉塞傾向になるリスク。
   →2歳以下では肩枕が必要。
   →3歳以上ではsniffing positionが有効。
 ・EC法が基本
 ・基本はマスクフィットのみで換気可能。
 ・マスクは軽く密着させる。
 ・頸部の軟部組織を押さえつけない。
 ・頸部を少し右に傾けると換気しやすい。
 ・自発呼吸に合わせて換気する。
   →決して胃に空気を入れてはいけない!
    ・腹部膨隆に合わせてバッグを押す。
      →腹部が凹んだらバッグを離す。
    ・マスク換気は可能な限り低圧で。
    ・バッグが完全に膨らみきらない程度に維持。
    ・乳児なら新鮮ガス総流量も少なめ(3L以下)に。
    ・1回換気量は少なめ、その代わり回数で稼ぐ。
 ・マスク換気困難の可能性は?
    ・先天異常による頭蓋形成異常
    ・顔面熱傷
    ・外傷後の下部顔面の異常
    ・病的肥満(乳児ではまれ)
    ・頸部可動域制限(乳児ではまれ)
    ・重症喘息発作・・・
  ・挿管困難で有名な様々な疾患もマスク換気困難であることは
   非常に少ない。
  ・小児ではOPAを使用すれば、上気道の問題で
   マスク換気困難となることは極めて少ない。
 ・OPA(経口エアウェイ)
    ・意識消失、咽頭反射消失後に使用。
    ・舌根沈下による気道閉塞を防ぐ。SAS系には極めて有効。
    ・ただし・・・
       ・誤嚥誘発のリスクあり。
       ・喉頭痙攣誘発のリスクも。
       ・短すぎると気道閉塞。
       ・長すぎても気道閉塞。
・喉頭展開
 ・小児は食道入口と声門を誤認しやすい。
 ・小児は成人と比較してFRCに対する酸素消費量が大きい。
 ・さらに小児は術前酸素吸入に非協力的である。
 ・肺高血流性疾患ではそもそも酸素投与が禁忌である。
   →無呼吸によるdesaturationが早い!
   →無呼吸時間を伴う挿管操作を極めて短縮する必要がある。
 ・デバイスは何を使う?
   ・マッキントッシュ喉頭鏡、ミラー喉頭鏡、AWSなど。
   ・近年はAWSが注目されている。
    →マネキンを使用したstudy
    →Millar喉頭鏡群と比較してAWS群で挿管成功率が上がる。
    ・1歳以下はAWSが有効。
     ・正中挿入法が推奨される。
     ・挿入時は十分な頚部後屈を。
     ・乳児用イントロックは目標より右側にチューブが進む。
        →声帯に当たれば無理せずチューブを回転。
        ・決して無理して押し込まない。
・気管内挿管
  ・小児の気管は声門下、輪状軟骨レベルが最狭。
   →チューブが声門を通過してもその先に進まない可能性。
  ・無理して浮腫を作ると気道抵抗が急上昇する。
    ・Poisuilleの法則。
  ・声門下でチューブが進まない!
    →無理せずワンサイズ細いチューブに変更する。
    ・頑張り過ぎると気道浮腫により換気すら困難となる。
    ・細い!と判断した気道には無理に触らない!
  ・カフ付きか、カフなしかについては症例を吟味。
・挿管前にどうしても抹消静脈ラインが取れない時
  ・吸入麻酔のみで挿管可能。
  ・充分に麻酔が深くなったところで上手な施行者が1度で挿管する。
    ・ただし高濃度Sevoの吸入は痙攣を誘発する。
       ・痙攣により換気困難になることは少ない。
       ・神経学的ダメージの有無はわからない。
・導入方法
 ・小児は導入前酸素吸入に非協力的である。
 ・小児は成人と比較して酸素消費量が大きい。
 ・低酸素から徐脈に至るまでが早く、結果も重篤である。
 ・(慣れてない施行者が)短時間で挿管できるとは限らない。
   →迅速導入(RSI)はリスクが高い。
     ・full stomachでも愛護的に換気しながら急速導入
     ・胃管挿入、吸引後に急速導入
     ・modified RSI(輪状軟骨を圧迫しながら換気)
・ベイン回路について。

  ロボット支援下腎部分切除術

2015年6月8日月曜日

周術期疼痛管理について

初期研修医勉強会  担当:S先生

「周術期疼痛管理について」

・術後疼痛とは?
  →手術侵襲による組織障害とそれに伴う炎症反応のために
   術直後より数日間続く強い痛み
・体性痛
  ・浅い痛み
    →切開創の痛み
    ・安静時の鈍い痛み:C線維によって伝わる
    ・緊張時の鋭い痛み:Aδ線維によって伝わる
  ・深い痛み
    →筋肉痛など
・内臓痛
  ・術中に内臓器官が引っ張られたり、
   引き裂かれたりしたことに対する
   生体反応によって起こる痛み
  ・胃や腸の運動が反射性に抑制されたことにより生じる痛み
  ・Aδ、C線維を通る
・疼痛の修飾因子
  ・患者因子
    →性別(女性)、性格、痛みの経験の有無、不安・恐怖など
  ・麻酔管理
    →全身麻酔?伝達麻酔併用?先行鎮痛あり?
  ・手術部位、手術時間、侵襲の程度
    ・上腹部>下腹部
    ・深部臓器の手術>体表の手術
    ・長時間の手術>短時間の手術
  ・術前に存在する慢性痛
  ・分子レベルでの患者因子
    ・ブラジキニン受容体、プロスタノイド受容体、
     グルタミン酸受容体など。
・術後疼痛の影響(急性期)
  ・疼痛による交感神経緊張
    ・カテコラミン等の遊離促進→代謝亢進、酸素消費量↑
    ・心筋の酸素消費量↑→心筋虚血・梗塞の完成
    ・消化管運動の抑制→術後イレウス
  ・呼吸機能低下
    ・横隔膜機能低下→呼吸機能低下
    ・深呼吸や咳嗽の抑制→分泌物貯留、無気肺
  ・精神面
    ・恐怖、不信感など
・術後疼痛の影響(慢性期)
  ・長期に渡る慢性痛
    ・離床の遅れ、心身機能の低下、QOL低下
  ・中枢性感作
    ・創部からの持続的な末梢障害性入力
      →疼痛感度の異常な増大
・遷延性術後疼痛ハイリスク患者には・・・
  ・急性期疼痛管理の徹底
  ・ガバペンチン・プレガバリンなどの
   Caチャネルα2δリガンドの術前投与
  ・痛みの自己管理に関する教育
  ・リハビリテーションによる早期介入など
・痛みの評価
 →VAS、NRS、Face scale、Word scaleなど。
 ・PHPS(Prince Henry Pain scale)
   →術後安静時痛と体動時痛の総合評価
 ・Behavioral pain scale(BPS)
   →会話や意思疎通が不可能な患者に対して使用
・先制鎮痛
 ・侵害刺激の前に鎮痛を行う。
 ・中枢性感作を防ぐpreventive analgesiaという概念
・今後臨床応用が期待される薬物など
 ・TRPV1
   ・C線維に特異的に発現しているイオンチャネル
   ・唐辛子の主成分のカプサイシンや熱、
    水素イオンなどで活性化
   ・直接阻害するTRPV1抗体と、
    カプサイシンのように刺激して脱感作することで
    作用を阻害するTRPV1作動薬
 ・TNFα
   ・IL-1、IL-6とともに炎症細胞より分泌される
    炎症性サイトカイン
   ・エタネルセプト(TNFRとIgGの融合蛋白)、
    アダリムマブ・ゴリムマブ(抗TNF-α抗体)
   ・鼠径ヘルニア手術の術前にエタネルセプトを注射し
    術後痛を評価した臨床研究で鎮痛効果が認められたとの報告
 ・カンナビノイド
   

2015年6月5日金曜日

バソプレシン

「麻酔科勉強会」 担当:S先生

「バソプレシン」

・1954年 du Vigneaudによって発見
・1955年 ノーベル化学賞受賞
  →Vaso(血管)+pres(圧迫)
  →血管収縮により血圧上昇
・視床下部の神経分泌細胞で産生
  →軸索輸送で下垂体後葉
  →下垂体後葉より分泌
・分泌条件
  ・血漿浸透圧の上昇
     →肝臓・視床下部の浸透圧受容器で検出
     →バソプレシン増加
     →水排出低下
     →浸透圧低下へ。
  ・血圧低下
      →心臓、肺の圧受容器が検出
      →バソプレシン増加
      →尿中の水排出低下
      →血漿量増加
  ・心容積の減少
・半減期
 ・Vasopressinの血漿半減期は4-20分
 ・Vasopressinの誘導体Terlipressinの半減期は6時間
・循環作動薬としてのバソプレシン
  ・通常の状態ではバソプレシンの血行動態に及ぼす影響は少ない。
  ・しかしアシドーシス下では
     ・カテコラミン・・・効力が低下
     ・バソプレシン・・・影響を受けない
   →アシドーシスもしくはカテコラミン反応性が悪い時は
    バソプレシンの効力が期待できる
  ・ショックの遷延や心停止では・・・
    →細胞内に乳酸が蓄積
    →ATP 依存性のK チャネルが開口。
    →カテコラミンの刺激があってもCaが流入できなくなる。
    →血管拡張,血圧低下
  ・一方バソプレシンは・・・
    →直接的に血管平滑筋のATP 依存性のK チャネルを不活化,
    →一酸化窒素や心房性ナトリウム利尿ペプチドにより
     誘導されたcGMP の増加抑制、
     誘導型一酸化窒素合成酵素の合成抑制など
    →昇圧効果を発揮する.
・心停止に対するバソプレシンの適応
   ・3つのRCTと1つのメタアナリシス試験
     →バソプレッシン(40単位 IV)とエピネフリン(1mg )とを
      最初の血管収縮薬として心停止に用いた際の、
      結果(ROSC、生存退院率、神経学的結果)に差はない
   ・2つのRCT
     →エピネフリンとバソプレシンを合わせて使った時と
      エピネフリンのみを使った時を比べると、
      結果(ROSC、生存退院率、神経学的所見)に差はない
   ・1つのRCT
     →心停止にバソプレッシンを繰り返し使用しても、
      エピネフリンを繰り返し使った場合と比べて、
      生存率は改善しない
・心停止に対する用法
  ・2010 AHA Guideline for CPR and ECC
  ・バソプレシン静注/骨髄内投与:
    →初回または 2回目のアドレナリン投与の代わりに
     40単位を投与してもよい(ClassⅡb)
・Septic Shockに対する用法
  ・Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2013
    →平均動脈圧の上昇やノルアドレナリンの減量の目的で、
     ノルアドレナリンに加えてバソプレシン0.03単位/分を
     投与しても良い(UG)。
  ・敗血症による血圧低下のある患者に最初に選択する昇圧剤として
   低用量バソプレシンは推奨されない。
   0.03-0.04単位/分以上のバソプレシンは
  (他の昇圧剤で平均動脈圧が上昇しないなどの)
   サルベージ治療として温存すべきである(UG)
・アナフィラキシーショックに対する用法
  ・通常はエピネフリン筋注0.3mg
  ・向精神薬ではボスミンが禁忌(?)、
   βブロッカー内服者の場合、
   ノルエピネフリン、グルカゴンが推奨
  ・カテコラミン不応性アナフィラキシーの場合
    →バソプレシン10Uを繰り返し静注
    →0.04U/minの静脈投与(MGH麻酔の手引より)
・出血性ショックに対する用法
  ・出血性ショックの場合
   →輸液負荷のみと、輸液負荷+血管収縮薬を併用した場合
    後者のほうが治療成績がいいという報告がある。
  ・バソプレシン併用療法が出血性ショックに対して
   有効な正確なメカニズムは不明。
   →バソプレシンによる血管収縮がwouded siteから
    血液分布を移行させる?
   →また枯渇した内因性バソプレシンを補充する?
・肝腎症候群に対して
  ・治療法としては肝移植以外にTerlipressin。
  ・1mg/4-6hr ivもし治療に反応なければ2mg/4-6hrまで増量可。
   通常は5-15日間継続する。
・人間の情動や社会性にもバソプレシンが関連?


2015年6月3日水曜日

線溶系と抗線溶薬

麻酔科勉強会  担当:S先生

「線溶系と抗線溶薬」

・抗線溶薬
  ・TXA(トラネキサム酸)
  ・EACA(イプシロンアミンのカプロン酸)
  ・アプロチニン
・TXAとEACA
  ・共にリジン誘導体
  ・TXAは血中で分解されるとEACAに
  ・プラスミノゲンのリジン結合部位と結合
    →プラスミノゲンのフィブリンへの吸着を阻止
    →抗線溶作用を発揮
・アプロチニン
  ・セリンプロテアーゼ阻害薬
  ・プラスミン、カリクレイン、トリプシン、
   キモトリプシンを効率よく阻害する。
  ・1987年、心臓外科手術の出血を減らすことが偶然発見された。
  ・現在は使用中止
・トラネキサム酸(TXA)
   ・全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向
   ・局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血
   ・湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹における
    紅斑・腫脹・掻痒
   ・咽喉頭炎・扁桃炎における咽頭痛・発赤・充血・腫脹
   ・口内炎における口内痛及び口内粘膜アフタ
   ・メラノサイト活性化因子「プラスミン」をブロック
            →メラニン発生の要因のひとつ
      →肝斑の原因となるメラニンの発生を抑制
      →肝斑を薄くする
   ・化粧品や歯磨き粉にも含有
・トラネキサム酸と外傷
  ・CRASH-2 trial
      ・40ヵ国274施設から重篤な出血あるいはそのリスクを有する
     20211例の外傷患者
    ・トラネキサム酸投与群と非投与群で比較
    ・初回負荷量1gのトラネキサム酸を10分間で投与後、
     更に1gを8時間かけて持続点滴
    ・主要評価項目は受傷後4週以内の院内死亡
    ・死亡原因を出血、血管閉塞(心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓)、
     多臓器不全、頭部外傷、その他のカテゴリーで分けた。
   →死亡リスクを有害事象の増加なく安全に低下させた。
   →血管閉塞イベントによる死亡、イベントに有意差なし。 
   →輸血の必要性や輸血量に有意差なし
・トラネキサム酸と手術
  ・Systematic review and meta-analysis
      ・1972-2011の10488例の手術患者を含む129 trialsが対象。
     →輸血リスクはTXA投与群は38%低下
      (リスク比:0.62、95%信頼区間:0.58~0.65、P<0.001)
     →血栓性イベント(心筋梗塞、脳卒中、PE)
      Mortality TXA投与群は39%低下
    ・ただしadequate concealmentのtrialに限定すると有意差なし
・TXAと心臓外科手術
    ・Anesthe Analg.2012 Aug;115(2):239-43 
    ・231人のOPCAB予定の患者をTXA群とプラセボ群に割付
    ・主要転記は術後 24 時間のチェスト・チューブ排液量、
     また輸血、死亡率、重大な合併症、医療材料の使用量も評価
     →ドレーン排液量、輸血量はTXA群で減少
     →死亡率、合併症率、医療材料使用量は有意差なし。
・TXA使用時の注意点
  →痙攣
  ・2004-2009年の心臓手術を施行した患者8929人について、
   痙攣発作の危険因子を評価したstudy
     →8,929例中119例(1.3%)で早期痙攣発作が発現し、
     そのうち111例でTXAが投与。
  ・TXA総投与量100mg/kg以上は早期痙攣発作のリスク(OR 2.6)。


   SEP・MEPモニタリング併用の大血管手術


周術期DVTとPE

麻酔科勉強会  担当:T先生

「周術期DVTとPE」

・JSA-PTE調査
  →2002年から毎年1回、周術期PEについて
  ・2009-11、周術期PE発生率 25人/10万人
  ・周術期PE死亡率は約14%
  ・手術部位は開胸+開腹が多い。続いて股関節・四肢。
  ・年齢は高齢者が多い。
・病態について
  ・ウィルヒョウの三徴
    →血流うっ滞、凝固能亢進、血管壁損傷
  ・DVTの3型
    →腸骨型、大腿型、下腿型
・ヒラメ筋静脈血栓
   ・致死的PE剖検例の9割でヒラメ筋静脈に血栓あり
     →血栓の性状が最も古かった
   ・孤立型ヒラメ筋静脈血栓が致死的PEをきたすのはきわめてまれ
   ・ヒラメ筋静脈の2割で中枢への進展あり
・ヒラメ筋静脈の特徴
   ・弁が小さく、少ない
   ・吻合部が狭窄している
     →ヒラメ筋(抗重力筋)ポンプ作用が失われると、
      一気に血流がうっ滞する (Ex.ベッドレスト)
   ・血栓が中枢側に進展した部位は血管壁への接着が弱い。
      →血栓がちぎれやすい(フリーフロート血栓)
   ・ヒラメ筋静脈は下腿型DVTの発生源
・問診、症状、所見で異常なしかつd-dimer正常値
  →急性期VTEは否定できる。
  ・いずれかが以上を示した場合は画像診断などが必要。
  ・d-dimerは様々な要因で高値となりうる。
・術中PE
  ・体位変換時や大腿部・骨盤手術操作時に多い
  ・血圧低下や頻脈
  ・EtCO2低下: 術中PEの8割
  ・SpO2低下: 術中PEの55%
  ・心エコー所見はmassiveなもので見られる
    ・右心系の拡張
    ・心室中隔扁平化
    ・TR
    ・肺動脈や右室内に血栓が見られることも
・DVTの治療
  →抗凝固療法
    ・ヘパリン: APTT1.5-2.5倍延長 (Class I)
    ・ワーファリン: PT-INR 1.5-2.5、可逆的リスクで3ヵ月間 (IIb)
    ・低分子ヘパリンやXa阻害薬: 保険適応限られる
    ・孤立下腿型では症状軽度なら進展するまでは抗凝固不要
      →2週間程度は画像フォロー (ACCP guideline)
    ・完全に血栓溶解するのは4%程度
  →カテーテル治療 (IIb) と外科的血栓摘除 (IIb)
    ・元来健康で症状(腫脹や疼痛)強い症例
    ・カテーテル:ウロキナーゼによる血栓溶解や血栓吸引
    ・施設の実情により選択
  →全身的血栓溶解療法
    ・本邦で適応が認められているウロキナーゼ用量は
     欧米の数分の1
     →カテーテル治療を選択すべき
  →IVC フィルター
    ・抗凝固療法が行えない症例 (Class I)
    ・抗凝固療法にもかかわらず再発した症例 (I)
    ・骨盤内やIVCの血栓、近位部の大きな遊離血栓 (IIa)
    ・心肺予備能が低い症例 (IIa)
    ・急性PEを来したDVTの残存
・予防→リスク別に対策。
  ・低リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳未満の非大手術
          →40歳未満の大手術
       :整形外科、上肢手術
       :産科、正常分娩
    →早期離床と積極的な運動
  ・中リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳以上orDVTリスクある非大手術
          →40歳以上orDVT危険因子ある大手術
       :整形外科、脊椎手術、大腿骨遠位部以下の下肢手術
       :産科、帝王切開
    →弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法
  ・高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →40歳以上の癌の手術
       :整形外科、股関節、骨盤、膝関節手術
             下肢性腫瘍手術、DVTリスクある下肢手術
       :産科、高度肥満の帝王切開、DVTリスクある経膣分娩
    →間欠的空気圧迫法or抗凝固療法
  ・最高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →DVTリスクある大手術
        :整形外科、DVTリスクある高リスク手術
        :産科、DVTリスクある帝王切開
    →抗凝固療法と間欠的空気圧迫法、弾性ストッキング併用
・弾性ストッキングの合併症
  ・皮膚炎や皮膚潰瘍
  ・腓骨神経麻痺
  ・コンパートメント症候群 (特に砕石位で多い)
・弾性ストッキングの禁忌
  ・動脈血行障害
  ・下肢の蜂窩織炎、血栓性静脈炎の急性期
  ・下肢の急性外傷、創傷
  ・末梢神経障害を伴う糖尿病
  ・重度のうっ血性心不全
  ・DVT急性期
  ・循環不全を伴うPE急性治療期
・間欠的空気圧迫法 (IPC)
  ・下腿大腿を30-60mmHg、30-60秒間隔で圧迫
  ・足底足関節を圧迫するvenous foot pumpもある
  ・下肢静脈叢を圧迫し静脈血流を促す
  ・凝固VIIa因子を低下させ、t-PAを上昇させる?
  ・合併症や禁忌は弾ストとほぼ同様
    (ASOは大丈夫?)
・低用量未分画ヘパリン
  ・APTT延長しない程度
  ・HIT-IIに注意→週数回はCBCフォロー
  ・2500-5000単位×2-3回/日皮下注
・フォンダパリヌクス
  ・Xa阻害薬
  ・低分子量ヘパリンと予防効果同等
  ・まれにHIT-II生じる?
  ・2.5mg (腎障害あれば1.5mg)×1回/日皮下注
  ・術後は24時間空ける
・ワーファリン
  ・PT-INR 2.0-2.5 (高齢者1.5-2.0)
・その他経口抗凝固薬
  ・Xa阻害薬
  ・抗トロンビン薬
・ACCP guidelineから
  ・低分子量ヘパリンが治療の中心: 中リスク以上で使用
  ・ただし、出血リスク存在する間は抗凝固療法を行わない
  ・ヘパリンが使用できない場合、低用量アスピリン(120mg)で代用も


術後ICU申し送り風景

2015年6月1日月曜日

生体肝移植の麻酔

麻酔科勉強会   担当:S先生

「生体肝移植の麻酔」

・生体肝移植の歴史
  ・1963年に世界初の肝移植
  ・1988年にブラジルで世界ではじめて生体肝移植実施
  ・本邦では1989年に開始。先天性胆道閉鎖症小児に対して。
  ・1994年に成人に対する生体肝移植が実施
・本邦での生体肝移植
  ・年間400-500例ほど実施
  ・小児:成人は1:3程度
  ・当院では平成17年から5年間で36例実施
・肝移植適応疾患
  →肝移植の他に治療法がないすべての疾患
  ・以下の状態を除く
     ・制御不能の肝胆道系以外の感染症
     ・制御不能の肝胆道系以外の悪性疾患
     ・移植の妨げとなる多臓器疾患
     (社会的理由;禁酒できないなど)
・生体肝移植ドナーの条件
  ・倫理的条件
    →本人の自発的な意志に基づいて臓器の提供を希望される方
  ・レシピエントとの関係
    →3親等以内の親族あるいは配偶者(京都大学基準)
  ・肉体的・精神的に健康
  ・ウイルス感染症(肝炎ウイルスやHTLV1など)がない
  ・肝機能が正常であること
    ・軽度脂肪肝であれば、改善後ドナーになれる
  ・レシピエントに提供できる部分肝(グラフト)の大きさが十分で、
   かつドナーにも十分な大きさの肝臓が残ること
  (グラフトの重量がレシピエント体重の0.6%以上あり、
   かつドナーの肝臓の30%以上が残る)
  ・ABO式血液型は一致または適合が望ましい、
   一致または適合しているドナーがいない場合、不適合でも実施
・生体肝移植ドナーのリスク
  ・リスクは短期的には良性腫瘍に対する肝葉切手術と同じ
  ・ドナーの死亡率は欧米で0.9%(4人)、米国で0.3%(3人)
   本邦でも1人死亡、原因は肺塞栓?
・レシピエントの合併症
   ・出血
   ・血栓症 1-2%
   ・胆管合併症 15%
   ・感染症 
   ・拒絶反応 30-60%
   ・原疾患の再発
 ・5年生存率は成人で約70〜80%、小児で約80〜85%

・末期肝不全の病態生理
   ・門脈圧亢進症
   ・高心拍出量状態
   ・腹水・胸水・浮腫
   ・低アルブミン血症、ナトリウム異常
   ・利尿薬の使用により、電解質異常
   ・肝肺症候群と門脈肺症候群
   ・凝固障害
 ・肝肺症候群
   →肺内血管拡張に付随する酸素化の低下(Pao2<70 mmHg
    あるいは空気呼吸下でPAO2~Pa02較差>20 mmHg)。
    ・実際この症候群の顕著な特徴の1つは肺内シャント。
    ・肝肺症候群患者は,起立性低酸素症を起こす。
   →肝移植後に治癒
 ・門脈肺症候群
   →門脈圧克進を伴う肺高血圧症
    ・急速に進行し重症では周術期の合併症と死亡率が高くなる。
   →肝移植に治癒するとは限らない。悪化することも。
 ・凝固障害
    ・凝固因子(Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)、
     抗凝固因子(プロテインC,S、アンチトロンビン)の減少
    ・脾機能亢進の結果として血小板減少、質的血小板機能不全、
     線維素溶解系の以上
 
・肝移植の手術
 ・剥離期、無肝期、再灌流期
 ・肝移植麻酔の準備
    ・肺動脈カテーテル、中心静脈カテーテルなど
    ・RBC 10U、FFP 10U、PC 10U以上の輸血準備。
    ・適応に応じてセルセーバ、急速輸血器など。
 ・肝移植麻酔
   ・重度の腹水、胃内容停滞時間の延長
      →フルストマック扱い、迅速導入がしばしば必要。
   ・導入は静脈麻酔薬。 
   ・ハロタン以外の全ての揮発性吸入麻酔薬は使用可能。
   ・モニタリングを行えば全ての非脱分極性筋弛緩薬は使用可能。
   ・オピオイドも禁忌なし。
 ・剥離期の麻酔
   ・術操作による静脈還流の阻害、腹水の吸引
     →低血圧の原因となる。
     →膠質液を中心とした十分な輸液が必要となる。
 ・無肝期の麻酔
   ・下大静脈クランプによる血行動態の変化
   ・アシドーシスと低Ca血症
   ・輸液過剰に注意
 ・再灌流期の麻酔
   ・クランプ解除時(特に門脈のクランプ解除後)に
    重大な血行動態の変化が起こりうる。
   →Post Reperfusion syndrome
     ・心臓の収縮力低下、不整脈、高度の徐脈、低血圧、
      高カリウム血症、代謝性アシドーシス
   ・デクランプ前に電解質、酸塩基平衡、循環血液量の補正。
   ・デクランプ前にCaの投与、過換気
   ・Post Reperfusion syndrome
     →カテコラミン、メイロン、グルコン酸カルシウム、GI療法
   ・高血糖
   ・吻合部、切断面からの出血

・当院での生体肝移植麻酔振り返り。



ロボット支援下膀胱全摘・回腸導管造設術

日本麻酔科学会学術集会

日本麻酔科学会第62回学術集会が神戸市において行われました。
当院麻酔科からは6名の先生が演題発表を行いました。


発表前2週間にはスタッフ全員の前で予演会。


手術室より。ちなみに学会会場は当院より徒歩5分です。


学会発表された先生、お疲れ様でした。
今年は集中治療医学会学術集会も神戸、
引き続きの地元開催ですが、
若手の先生を中心にまた多くの演題が出せるよう、
専攻医教育にさらに力を入れていこうと思います。

2015年5月1日金曜日

PONVまとめ

「初期研修医勉強会」 担当:H先生

「PONVまとめ」

・PONV:Postoperative Nausea and Vomiting(術後嘔気嘔吐)
  ・術後嘔吐の発生率は約30%、
  ・術後嘔気の発生率は50%
  ・高リスク患者においてはPONVの発生率は80%
 →患者にとって不快
 →早期離床を妨げる
 →日帰り手術では退院の遅れや再入院の原因に
    →PONVの発生率を低下させることが医療費の削減にまでつながる。
 →PONVの発生率の低下が患者の手術への満足度の上昇につながる。
・嘔吐の生理
  ・嘔吐中枢は延髄網様体にある。
  ・種々の求心性刺激に対して嘔吐を起こす。
  ・嘔吐を引き起こす求心路にはおよそ5つの経路がある
     ・5-HTから迷走神経を解する経路
     ・前庭迷路系から第VIII脳神経を解する経路
     ・視覚中枢からの経路
     ・大脳辺縁系を解する経路
     ・延髄最後野のCTZを解する経路
・PONVのメカニズムは明らかにされていない。
・PONVは特定の受容体拮抗薬で完全に抑えられない
  →いくつかの受容体が関わっていることが考えられる。
・PONVの患者要因
  ・女性 (OR:2.57)
  ・PONVの既往 (OR:2.09)
  ・非喫煙者 (OR:1.82)
  ・乗り物酔いしやすい (OR:1.77)
  ・年齢 (OR:0.88,10歳上がるごとに)
・Apfel Score
  →該当リスク項目が1つ増えるごとに PONV 確率は 20 % 増加する。
   ・女性、非喫煙者、PONV既往、術後オピオイドの使用
・小児におけるPONVのリスクファクター
   ・30分以上の手術
   ・3歳以上
   ・斜視手術
   ・血縁者にPOVまたはPONVの既往
・小児のPONV
  ・嘔吐は成人の2倍の頻度
  ・年齢の増加とともにリスクは増大し、思春期以後は減少
  ・思春期以前は性差なし
・一般的にPONVのリスクとなる手術と言われている手術
  ・腹腔鏡下手術、開腹/開胸術、形成、婦人科、
   脳外科、眼科(特に斜視手術)、泌尿器科、頭頸部手術など
・独立したPONVリスク因子となりうる手術
  →腹腔鏡下手術、婦人科手術、胆嚢摘出術
・手術時間はPONV発生率に関連する
  →手術時間60分以上はリスク因子
    ・Koivuranta Scoreには上記項目が考慮されている
・麻酔要因
  ・全身麻酔
  ・吸入麻酔→容量依存性に発症率が上昇
  ・亜酸化窒素(笑気)
  ・術後のオピオイド使用
     ・術中のオピオイド使用はPONVの要因とはならない
・薬物による治療
  ・アメリカのガイドラインでは多数の薬剤がラインナップ
    →日本ではほとんどが保険適応外・・・。
・セロトニン受容体拮抗薬 (オンダンセトロンなど)
  ・腸管からの迷走神経刺激に基づくセロトニン分泌による
   嘔吐中枢の刺激を遮断
  ・嘔気よりも嘔吐に対してより効果を持つ
    (POV;NNT=6、PON;NNT=7)
  ・手術終了時に4mg投与することが推奨されている
  ・副作用
    ・セロトニン症候群
    ・QT延長作用
      →容量依存性
      →先天性QT延長症候群の患者では避けるべき
      →不整脈のリスクが高い患者ではECGモニターが必要
  ・米国では5-HT3拮抗薬は最もcommonなPONV対策
      →しかし薬価が高価(\4,290/4mg)
      →日本では抗がん剤投与時以外は保険適応外である
・デキサメタゾン
  ・PONVの発生を約25%予防する (NNT=4)
    →手術様式や麻酔方法に関わらず効果あり。
  ・PONV予防のメカニズムははっきりとはわかっていない。
    →手術に起因する炎症を減らすため?
  ・日本では保険適応外=適応外使用 (cf. \97/1A)
  ・標準的な予防投与量
     →経静脈的に4~5mgを麻酔導入時に投与する方法である。
     →4~5mgの投与と8~10mg投与はPONV予防の有効性は同等。
  ・副作用
    ・臨床的に重度な高血糖や創部感染の頻度は増加しない
      →IGTやDM、肥満患者では8mg投与で
       投与後6~12時間に高血糖が生じるという研究あり。
      →糖尿病の患者に投与するのは相対的禁忌である
      →4~5mgの投与が推奨されているのは、
       上記も要因となっている。
  ・一般的にデキサメサゾンは一度生じたPONVの治療には
   予防投与時ほど有効ではない
・ドロペリドール
  ・中枢神経系においてドパミン、GABAの伝達を阻害。
   ・chemoreceptor trigger zoneにおいて受容体を遮断
     →制吐作用を発現。
  ・オンダンセトロンと有効性は同等(NNT=5)
  ・手術の最後に投与することが推奨されている
     →0.625~1.25mg IV
  ・日本では保険適応外→適応外使用となる
  ・副作用
    ・QT延長作用:QT延長症候群の患者ではTdPに至る可能性あり
       →2001年にFDAで警告
       →第一選択ではなくなった
      ・短時間での使用なら問題ないという報告も
      ・QT延長作用はオンダンセトロンと差異はないなどの報告も。
    ・間代性けいれん
  ・低用量(<1mg or 15ug/kg;0.3~0.5mgでも有効か) でも
   有害事象なく十分な制吐作用をもつとの報告も。
・ニューロキン受容体拮抗薬
・抗コリン薬
・日本で保険適応がある薬剤は?
  ・メトクロプラミド(プリンペラン:ドパミン受容体拮抗薬)
    ・嘔気時に10mg(1A) IVが適応となっている
       →メトクロプラミドは制吐作用が弱い
       →10mgの投与ではPONVの発症率の低下につながらない
        という研究も…(NNT=30)
  ・プロクロルペラジン(ノバミン:D2受容体遮断薬) 
    →5〜10mg静注 手術終了時
  ・ヒドロキシジン(アタラックスP:抗ヒスタミン薬)
    →25〜50mg静注、点滴静注。悪心嘔吐時、手術終了時
・非薬物治療
  ・輸液
    ・適切量の輸液がPONVの発生を減少させる!?
      →晶質液と膠質液との間に差異はない
    ・小児における斜視手術での報告
      ・30ml/kg VS 10ml/kgでは
       30ml/kgの群でPOVの発生率低下 (22% VS 54%)
  ・P6刺激法
    ・ツボ刺激
    ・長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間で手首のしわから3
     3横指(2インチ)中枢側にある。
    ・麻酔導入前後のいずれに刺激しても効果に差異はない
    ・Up to Dateでは効果は小さいとの記述が
  ・アロマセラピー
  ・酸素療法
    →エビデンスはなく有効性も不明だがコストは低い。
・介入について
  ・risk factorなし
    ・PONV予防薬の投与は必要ない
    ・嘔吐の合併の可能性の手術を行う場合は予防薬の適応
  ・risk factor 1つ
    ・予防薬の単一剤投与
    ・デキサメサゾン、アプレピタント、経皮スコポラミンは
     長時間作用効果がありPONVの発生を減少させる
  ・risk  factor 2つ以上
    ・複数の薬剤を併用。
    ・可能であれば吸入麻酔薬の使用を回避
     TIVA、術後のオピオイド使用を最小限にとどめる
・PONV発症後の治療
  ・予防ほどの有効性はない。
  ・セロトニン受容体拮抗薬が最も一般的に用いられている。
  ・デキサメサゾン、ドロペリドールも一定の効果がある。
  ・日本ではいずれも適応がなくメトクロプラミドが用いられている。
  ・予防治療を行ったのにも関わらずPONVが進行した場合
    →別の作用機序の薬剤を選択することが推奨されている。


2015年4月28日火曜日

新しい専攻医Drを迎えました

新年度を迎え、神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科では、
新たに4人の専攻医の先生方を迎えました。










当院初期研修医から1名、
全国から3名、合計4名の先生方が当院専攻医に加わりました。
新たな先生方を迎えて、これからもさらに安全な周術期管理を提供すべく、
スタッフ一同頑張っていこうと思います。


なお神戸市立医療センター中央市民病院・麻酔科では、
2016年度採用の専攻医の先生を募集しています。
見学は随時可能です。詳細は病院公式HPを御覧ください。

2015年4月24日金曜日

悪性高熱症

「初期研修医勉強会」  担当:S先生

「悪性高熱症について」

・悪性高熱症とは
 ・全身麻酔による最も死亡率の高い合併症
・歴史 
 ・1962年 Denboroughらによって発表されたオーストラリアでの報告
 ・1975年 Gaisford Harrisonがダントロレンによる治療を発見
 ・1982年 ヒトでダントロレンによる治療の有効性を確認
・疫学
 ・頻度は・・・
   →完全静脈麻酔(TIVA)の普及に伴い頻度は減少
   →全身麻酔症例 20000 人に 1 人
 ・男女比3.4:1、30歳以下(とくに小児)に多い
 ・死亡率はダントロレンにより死亡率は劇的に改善
 ・しかし依然10-15%と高値
・臨床症状
 ・体温上昇(40℃以上)
 ・筋硬直
 ・横紋筋融解
 ・低酸素血症
 ・ミオグロビン尿
 ・代謝性アシドーシス
 ・高K血症
 ・不整脈など
・鑑別診断
 ・鎮痛・鎮静・筋弛緩・換気の不足
 ・感染
 ・腹腔鏡手術におけるEtCO2の増加
 ・移植反応
 ・薬物乱用
 ・アルコール離脱症候群
 ・悪性症候群
 ・セロトニン症候群
 ・甲状腺クリーゼ
 ・褐色細胞腫・・・
・病態生理
 ・悪性高熱症の本態
  →骨格筋の異常な代謝亢進状態
 ・骨格筋は全体重の40%
  →骨格筋の代謝亢進は全身の代謝に重大な影響をもたらす
・CICR(Ca-induced Ca release)機構
 ・Ca遊離速度を亢進させる因子のうち、
  CaそのものがCa放出を促進させる系(positive feedback)
 ・生理的には、急激な筋収縮を得るために、
  激しく細胞内Ca濃度を上昇させるための機構
 ・通常はCa取り込み速度>放出速度であるため、
  一旦CICR機構が発動しても、細胞内Ca濃度はすぐに低下し、
  CICR機構は停止する
 ・ある素因を持つ患者が、誘引にさらされると、
  Ca放出速度>取り込み速度となり、
  CICR機構を止める事ができず、
  細胞内Caが異常に上昇し制御できなくなる。
・誘引
 ・麻酔薬による誘発
   ・揮発性吸入麻酔薬
     →ハロタン,エンフルラン,イソフルラン,
      デスフルラン,セボフルランなど
 ・脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウムなど)
 ・アミノフィリン,テオフィリン,アミド型局所麻酔薬など
 ・非麻酔時の誘発
  ・運動、熱射病などの高体温
・ハロタン
  →リアノジン受容体を活性化、SERCAを阻害
  →細胞内Ca↑
・スキサメトニウム
  →Ach受容体にAchと競合して結合し、持続的脱分極をもたらす
  →CICR機構を促進、細胞内Ca↑
・患者素因
 ・骨格筋の筋小胞体のリアノジン受容体の異常
  (Ca感受性亢進、最大Ca放出速度の増大)
 ・T管上のジヒドロピリジン受容体異常
 ・その他Ca再取り込み異常など
・参考その1
 ・Duchenne型、Becker型などの筋ジストロフィー
   →ハロタンやスキサメトニウムを用いると、
    高K血症・ミオグロビン尿などの
    悪性高熱類似症状が出現することがある。
   →厳密には機序は異なるとされている。
   →先天性筋疾患をもつ患者もこれらの薬物の使用を避ける。
・以下の疾患は悪性高熱リスクではない。
  ・骨形成不全症
  ・ヌーナン症候群
  ・先天性多発性関節拘縮症
  ・ミオトニア
  ・悪性症候群
・遺伝性
 ・悪性高熱には家族性がある
 ・ヒトでは病態関連遺伝子の変異点が複数存在
   →常染色体優性遺伝する
   ・点変異が単一でない
   →素因を持っていても発症時の症状や重症度は患者毎に異なる
 ・ブタの悪性高熱はすべて1つの点変異が原因
・悪性高熱感受性の判定
 ・ハロタンまたはカフェイン(筋小胞体からのCa放出を促進)
  を用いた骨格筋生検標本の収縮検査
 ・血清CK値測定による筋膜の透過性の評価
 ・DNA解析による変異の同定(ブタの場合はこれだけで特定可能)
・治療
 ・特効薬:ダントロレン
   ・筋弛緩薬の1つ。
   ・リアノジン受容体に結合し、
    T管から筋小胞体への興奮の伝達過程を遮断
    →筋小胞体からのCa2+の遊離を抑制。
   ・悪性高熱症の類似疾患である悪性症候群の特効薬でもある
・発症を疑うポイント
 ・咬筋の痙攣によって開口困難
 ・誘因薬物の使用後、咬筋の痙攣や全身の硬直
   →その後換気が難しい・または挿管が難しい
 ・体温が上昇するのはやや遅れて発現する徴候
 ・適切な換気、十分な流量、人工呼吸器に問題が無いにもかかわらず
  EtCO2↑、SpO2↓、頻脈、頻呼吸など
 ・その他患者の皮膚の色・循環・体温・尿の色・
  四肢の状態・筋肉の緊張など
・実際の対応
  ・応急処置
    ・助けを呼ぶ
    ・ダントロレンを持って来てもらう。
    ・原因となる麻酔薬を中止し、手術も中止する
    ・純酸素で通常の2~3倍の過換気を行う
    ・太い静脈路を確保し、冷却した輸液を15ml/kg行う
    ・その他全ての方法を用いて冷却
    ・ダントロレンを投与(2.5mg/kg)、徴候が収まるまで同じ量を繰り返す
   ・電解質(特にK)をチェック
    ・ABG check。
  ・必要なら動脈圧ライン、CVライン。
    ・GI療法、メイロン投与、凝固検査、CK check、ミオグロビン測定。
  ・不整脈に対してはACLSプロトコルに従って。
  ・Ca blockerはダントロレン使用中は避ける。
  ・尿量 1ml/kg/hを確保
  ・厳密な経過観察(25%で症状が再発)
     →少なくとも24時間は継続チェックが必要。
・ダントロレンの費用対効果
  ・アメリカの5316の全てのASCでダントロレンを
   1年間36バイアル常備する総コストは646万ドル
  ・アメリカの1年間の悪性高熱患者数は47人
   そのうちダントロレンの使用によって救命できる数は
   47×(80%−10%)=32.9人
  ・ICER=薬物の使用によって1人を助けるのにかかる費用
      =646万ドル/32.9人
      =19.6万ドル/人
  ・the values of statistical life (VSL):統計的生命の価値
    →アメリカのFDA、EPAなどの規制局が用いている基準によると、
     医療統計学的に、患者1人の命を救うのにかかる費用が
     400~1000万ドルまでに治まれば費用対効果は良いとされる
  ・ダントロレン36バイアルを常備した際のICER
    =19.6万ドル/人<400万ドル/人
    →ダントロレンの費用対効果は良い!


2015年4月23日木曜日

筋弛緩薬まとめ

「麻酔科勉強会」 担当:T先生

「筋弛緩薬まとめ」

・筋弛緩薬の分類
 ・脱分極性筋弛緩薬
     ・超短時間作用型(スキサメトニウム)
 ・非脱分極性筋弛緩薬
     ・短時間作用型(mivacurium)
     ・中時間作用型(ロクロニウム,ベクロニウム)
     ・長時間作用型(パンクロニウム)
・効果発現時間、効果持続時間、代謝経路、副作用を理解。
・アセチルコリン受容体において
  ・脱分極性筋弛緩薬
    ・あたかもAChのようにふるまう
      →AChEにより分解されない
      →持続的脱分極を引き起こす
      →筋肉は興奮しなくなる
  ・非脱分極性筋弛緩薬  
    ・ACh受容体に結合
      →受容体を活性化させない
      →筋肉は興奮しない
・脱分極性筋弛緩薬
  ・スキサメトニウム(SCh)のみ臨床で利用。
  ・筋に線維束攣縮が起こる。
  ・作用発現時間と作用持続時間が短い。
     ・作用発現 0.5-1.0min
     ・作用持続 5.0-10.0min (0.5-1.5 mg/kg使用)
  ・肝臓で作られた血漿ChEにて分解
  ・副作用が多い
    ・不整脈
       ・交感神経節のACh受容体を刺激
        →頻脈、高血圧を引き起こす
       ・副交感神経節のACh受容体を刺激
        →徐脈、低血圧を引き起こす
        →SCh投与1-3分前のアトロピン投与で防止
    ・高カリウム血症
       ・通常、血清カリウム濃度が0.5-1.0mEq/L上昇
       ・特に広範囲熱傷、上位及び下位運動ニューロン疾患、
        広範な筋挫傷、筋疾患患者では危険。
       ・Extrajunctional receptorが関与
          →胎児型ACh受容体と呼ばれている。
           α, α, β, γ, δサブユニットからなる。
          ・熱傷、運動ニューロン障害、敗血症などで発現。
          ・イオンチャンネルの長期開存により
           高カリウム血症を引き起こす。
       ・筋肉が普通の状態に戻れば大丈夫
         →臨床的に推測することは困難
         →熱傷後24時間から2年は投与しない方が無難
    ・筋肉痛
       ・線維束攣縮
         →腹部、背部、頸部の筋肉痛を訴えることが多い。
       ・頸部痛は“咽頭痛”と表現されることもある。
       ・外来手術後の若い患者に多い。
       ・少量の非脱分極性筋弛緩薬を前投与すると発生率は低下。
       ・治療はNSAIDs
    ・眼内圧上昇
    ・胃内圧上昇
    ・頭蓋内圧上昇
    ・悪性高熱症

・非脱分極性筋弛緩薬
   ・血液脳関門、胃腸上皮、胎盤通過性が無い
     →中枢神経作用や胎児への影響はない。
     →経口摂取では効果が無い。
   ・日本では主にベクロニウムとロクロニウムが使用可能。
   ・ベクロニウム
     ・20-30% は肝臓で代謝、40-75%は胆汁中に排泄、
      15-25%は腎臓から排泄される。
     ・代謝産物である3-desacetylvecuroniumは
      ベクロニウムの50-70%の活性を持ち、腎不全では蓄積する。
     ・心循環系に対する作用はほとんどない。
   ・ロクロニウム
     ・効果はベクロニウムの1/6程度
     ・70%は肝臓を介して胆汁中に、
      30%は腎臓を介して尿中に排泄される。
     ・腎不全、肝機能不全では作用の遷延がみられる。

・筋弛緩作用に関連する因子
  ・筋弛緩作用を増強
    →揮発性麻酔薬、アミノグルコシド系抗菌薬、局所麻酔薬、
     抗不整脈薬、ダントロレン、マグネシウム、リチウム
  ・筋弛緩作用を減弱
    →カルシウム、ステロイド、抗てんかん薬

・筋弛緩モニタリング
  ・末梢神経の電気刺激による反応の評価は、
   筋弛緩薬の効果判定に最も有用である。
  ・しかしアメリカやヨーロッパの麻酔科医の30-70%しか利用していない。
  ・モニタリングは筋弛緩薬の追加や拮抗薬の量決定に有用であり、
   PACU(postanesthesia care unit)での合併症を減らした。
 ・モニタリング法
   ・手根や肘の尺骨神経を刺激し、母指内転筋の反応を見る方法。
   ・顔面神経を刺激し、眼輪筋の反応を見る方法。
      →末梢神経の刺激方法には、いろいろなパターンがある。
 ・神経刺激のパターン
   ・単一刺激(single twitch)
     ・0.2msec持続する刺激を0.1Hz(10秒に1回)で与える。
     ・刺激電流の大きさは“最大刺激電流”を用いる。
     ・筋弛緩投与前のコントロール値との比で評価する。
     ・コントロール値にまで回復しても、
      まだ受容体の75%を筋弛緩薬が占拠している可能性あり。
   ・四連刺激(train of four;TOF)
     ・0.5秒ごとに2Hzの刺激を4回与える。
     ・1発目と4発目の収縮の高さを比較し評価する。
   ・テタヌス刺激
   ・Double-burst刺激
     ・3つの50Hzの刺激(第1刺激)が行われ、
      その0.75秒後に2-3回50Hzの刺激(第2刺激)を与える。
     ・第2刺激に対する反応が第1刺激に対する反応より弱ければ、
      筋弛緩の残存を示唆する。
     ・TOFより感度が高い。
   ・Post-tetanic count
     ・50Hzのテタヌス刺激を5秒間与えた後、
      3秒後から1Hzで単一刺激を与えた時にみられる
      収縮の数を数える。
     ・テタヌス刺激後に単一刺激を行うと筋の反応が増強される(PTP)
     ・TOFでは何も反応がみられないような
      深い筋弛緩を評価するのに用いられる。

・筋弛緩作用の拮抗
  ・抗コリンエステラーゼ薬(ネオスチグミン)やスガマデクスなど。
  ・筋弛緩の残存
    →気道閉塞、不十分な換気、低酸素血症リスク(発生率0.8%-6.9%)
  ・肥満、麻薬の使用、緊急手術、長時間手術
    →上記悪影響を引き起こす要因となる。
  ・ネオスチグミン
    ・コリンエステラーゼ阻害によりAChが増加。
     →ニコチン作用性受容体とムスカリン作用性受容体に作用。
     →ムスカリン作用で徐脈、縮瞳、分泌物増加。
     →この作用をブロックするために、アトロピンを併用。
  ・スガマデクス
    ・ステロイド性筋弛緩薬を包接することで拮抗する。
    ・作用発現が迅速で、深い筋弛緩の拮抗も可能。
    ・心血管系に影響を及ぼさない。
    ・腎臓排泄性であり、腎不全患者では注意して使用。


集中治療とTEE

「ICU勉強会」  担当:M先生

「集中治療とTEE」

・ICUにおけるTEEの適応
  →TTEではっきりとした情報が得られなくて、
   TEEで得られた情報で管理が変わると「期待」できる患者のみ
・ICUにおけるエコーの重要性
  ・ICUにおいて、急激な血行動態が起こったときには、
   まず心臓の動きを評価するべき
  ・急激な血行動態変化を伴うときには心臓の収縮能だけでなく、
   拡張能も調べるべき
 →TTEではダメなのか?
・TEE vs TTE
  ・TTEの後TEEを行い新しい所見が発見された確率:27-98%
  ・TEEの所見で血行動態が安定した症例:80%
・TTE所見を見えにくくする因子
  ・ドレッシングテープ
  ・挿管チューブ
  ・人工呼吸による過膨張
  ・気胸
  ・縦隔気腫
・TTEが失敗する因子
  ・体重増加>10%
  ・PEEP>15cmH2O
  ・胸腔ドレーン
  ・強心薬
  ・血管収縮薬
 →心臓手術後ICUではほとんどの患者が上記条件を満たす。。。
・TTEの技術的進歩
  ・ハーモニックイメージ
  ・デジタル処理
    →これらの進歩のおかげで
     TTEによる心原性ショックの原因検索
      ・感度:100%
      ・特異度:95%
・他のデバイスではダメなのか?
  ・TEE vs 肺動脈カテーテル(PAC)
    ・セットアップからモニタリングできるまでの時間
       ・PAC:63分
       ・TEE:19分
    ・PACを留置している低血圧状態の患者
       →63%がTEEによって状態が改善した
・心外術後でPAC留置している患者
   →血行動態と所見が完全に一致したのはTEEのみ
・TEEの安全性について
  ・TEEはsemi-invasiveである
  ・ある程度の修練をつんだ医師が行えば
  「ほとんど」合併症は起きない。
  ・7200例の心臓血管手術で死亡率は0%、
   その他の合併症発生率は0.2%であった
・結局のところ
  ・「TTEではっきりとした情報が得られなくて、
    TEEで得られた情報で管理が変わると「期待」できる患者のみ」
    がICUにおけるTEEの適応であろう。

2015年4月21日火曜日

硬膜外麻酔の合併症

「麻酔科勉強会」 担当:H先生

「硬膜外麻酔の合併症」

・1969年のDawkinsの報告が有名
・胸・腰部硬膜外麻酔では血管穿刺が2.9%と最も多い
・次いで硬膜穿刺は2.5%
・永続的な神経麻痺は0.02%(5000回に1回)
・1981年にKaneらが45783例で検討しているが神経麻痺は3例のみ(17000回に1回)
・2004年の日本麻酔科学会の偶発症調査では
   ・脊髄損傷 7件(78000回に1回)
   ・末梢神経損傷 22件(25000回に1回)
・末梢神経障害の発生頻度のメタ解析
   ・硬膜外麻酔 0.02%
   ・腕神経叢ブロック(斜角筋間法) 2.8%
                       (腋窩法) 1.5%
   ・大腿神経ブロック 0.3%
  →硬膜外麻酔よりブロックのほうが合併症が多い。

・血管損傷・血管穿刺
  ・McNeilらの妊婦685人に対しての研究
    →18%の患者で針の刺入とカテーテルの挿入時に出血している
    →針よりもカテーテル挿入での出血が多い
  ・大藤らはカテーテルの材質も関与していると報告している。
    ・先の曲がりにくいナイロン製のカテーテル
       →22/404人(5.4%)で血管損傷が発生
       →柔らかいポリウレタン製のカテーテルの使用では
        407人で1人もいなかった。
  ・無痛分娩での研究
    ・抵抗消失確認後にカテーテル挿入→9/100で逆血
    ・ブピバカイン10ml注入後に挿入→3/100に減少
  ・坐位、水平側臥位、頭低位側臥位の順に血管内留置は減る。
  ・胎児心拍測定用Dopplerプローブを胸骨上におき、
   硬膜外カテーテルから1mlの空気を注入し、
   15秒間心音を聴き、5秒間ヒューっという音が聞こえたときは
   血管内留置と判断する。
  ・20万倍エピネフリン入リドカイン3mlの投与の投与で
   HRが20/min以上上昇するときは血管内留置を疑う。
 →何の所見もなくても血管内留置を常に考える。

・硬膜穿破
  ・無痛分娩において137250人を対象に調査された研究
    →硬膜外穿破の頻度は0.04-6%とされる
  ・抵抗消失を確認する時に空気を用いるより
   液体を用いたときの方が硬膜穿刺の確率は低くなる。
       →液体を用いることで硬膜は腹側で広がるので
      針先から離れると考えられる。
  ・硬麻針で硬膜穿刺すると52-88%で頭痛が発生する。
     ・穿刺後頭痛 
       ・多くは48時間以内に始まる。
       ・まれに数日から数ヶ月後に発症することもある
       ・女性は2倍の頻度でおきやすい
       ・後頭部から前頭部、首から肩へ放散する
       ・悪心・嘔吐、視覚・聴覚症状を伴うこともある
     ・穿刺後頭痛の治療
       ・脊麻針による頭痛も含め85%は6週間以内に治る
       ・髄液産生を促すために水分摂取を促し、
        必要なら輸液で補う
       ・カフェインが有効で300-500mgを1日2回摂取する
       ・Nsaids
       ・片頭痛の治療薬のトリプタン製剤は有効ではない
       ・生食を硬膜外注入すると頭痛は緩和される
       ・血液パッチ療法は70-98%で頭痛を改善させる
          →20mlの注入で平均4.6椎間ひろがる
     ・ベベルを側方にして硬膜穿刺してしまったときと
      頭側にで穿刺した時の頭痛の程度は結論はでていない。

・脊髄損傷、神経根損傷
  ・神経根は可動性があるため、針から逃げる
  ・穿刺時に感覚異常を訴えることがあっても、
   不可逆的な障害の発生は少ないと考えられる
  ・誤って硬膜穿刺をして突き進んだら・・・
     ・軟膜は感覚神経の受容体はない
     ・脊髄に刺さっても痛みは感じない
     ・脊髄に針が刺さると運動、感覚障害が起こる
     ・薬液の注入で下肢、臀部などに痛みを訴える
・カテーテル遺残、迷入
・硬膜外血腫
  ・穿刺後にヘパリンを併用するものはリスクが7倍となる。
  ・穿刺後出血を伴うとリスクは10倍。
  ・NSAIDs単独使用はリスクとならない。
  ・未分画ヘパリン(UFH)
    ・APTTで評価可能であるので穿刺、抜去前に評価する
    ・UFH投与によるリスクの増大は
       ・穿刺後一時間以内の投与
       ・穿刺時出血
       ・他の抗凝固、抗血小板薬との併用
    ・UFHによる血腫の半数は抜去時に起こる
       →中止後2-4時間以上あける
    ・4日以上投与されている場合
       →HITを考慮し血小板数をチェックしたほうが良い
  ・ワルファリン
    ・ワルファリン投与中はOP3-5日前に投与中止し、
     未分画ヘパリンに変更
    ・ヘパリンは4時間前までに投与中止し
      PT-INR<1.5 or ACT<180を確認する
    ・カテーテルの抜去もPT-INR<1.5で行う
・硬膜外膿瘍
  ・Kindlerらの調査では13000回の硬膜外留置に1回の頻度で起こる  
  ・他にも7140回に1回、1930回に1回など報告にばらつきがある
  ・起炎菌は黄色ブドウ球菌が57-73%を占める
  ・多くは他の感染部位からの血行性感染で直接感染は少ない
・網膜出血
  ・硬膜外麻酔後に網膜出血をきたした報告がある
  ・急激な硬膜外腔圧と髄液圧の上昇によって
   網膜静脈圧が上昇が出血を来す原因と考えられる
  ・いずれも一度に多くの局所麻酔薬を使用されている
・誤薬投与
  ・いろいろな薬剤の硬膜外誤投与が報告されている。
  ・神経障害を残した報告はカリウムのみ。
  ・生食を加えて希釈するのが良いかは不明。
    →範囲を広げてしまう可能性がある。
・局所麻酔薬中毒
・悪心嘔吐
  ・低血圧、交感神経遮断による消化管の蠕動運動亢進
    →アトロピンで対応可能
  ・オピオイドの硬膜外投与(モルヒネ>フェンタニル)
    →ドロペリドール
    →低用量ドロペリドールはQTを延長させない。