2014年5月14日水曜日

周術期β遮断薬

麻酔科EBM勉強会  担当:K先生

「周術期βブロッカー」

・β受容体
  ・主に心筋に存在するβ1受容体
  ・平滑筋に存在するβ2受容体
  ・脂肪細胞に存在するβ3受容体
・βブロッカーについて
  ・β1選択性
    →非選択型β遮断薬は、β2受容体も阻害する
    →気管支喘息患者には禁忌となる。
  ・脂溶性or水溶性
        →脂溶性のβ遮断薬は肝代謝
       →作用時間が短い
    →水溶性のβ遮断薬は腎排泄
       →作用時間が長い。
  ・ISA(内因性β刺激作用)
    →交感神経が興奮しているときはβを抑制
    →興奮していないときはβをわずかに刺激する。
    ・ISA+は心拍出量を減少させすぎない
      →高齢者や徐脈の患者さんに適している。
    ・ISA-は心拍出量を減少させる
      →狭心症や頻脈の患者さんに適している。
      ・心筋梗塞の再発や虚血性疾患を防止
      ・心不全の予後を改善する。
・降圧薬としてのβ遮断薬
  ・臨床応用され半世紀以上経過する。
  ・高血圧治療ガイドライン(JSH2009)
     Ca拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,
     アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬と並ぶ高血圧の第一選択薬
  ・心臓血管死や心血管系イベントの観点からは・・・
    ・降圧薬の種類間で差異を認めない。
    ・むしろ目標血圧までの積極的な降圧の重要性を強調
    ・メタ解析
      →降圧薬の種類に有意差なし。
      →降圧の程度と心血管イベントのオッズ比との間に
       逆相関関係が認められると報告
  ・高血圧治療ガイドライン(GL)2013改訂
    →第一選択薬からβ遮断薬を外し、
    →Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬の4クラスとした
・抗不整脈薬としてのβ遮断薬
  ・術後心房細動
    ・心臓手術
      →CABG後に最も多く(30%)発症する。
      →弁置換術では30-40%、複合手術では40-50%で発症        Almassi GH et al: Ann Surg.1997;226 :501-11
    ・肺手術
      →葉切除で10-20%,全摘術では40%の症例で発症する 
  ・術後心房細動は術後2日目にもっとも多く発症
  ・その40%が再発
  ・発症すると・・・
    ・在院日数の延長
    ・脳梗塞発症率は3倍
    ・周術期死亡率も悪化
  ・β遮断薬の効果  
   ・頻脈性頻脈,上室性不整脈,
     さらにリドカイン抵抗性の心室細動に対しても有効との報告。
   ・アミオダロンとともに術後心房細動予防効果は確立。
   ・周術期心房細動発症時の治療にも使用される.
     ・ACC/AHA/ESC心房細動治療ガイドライン
       →Class Ⅰで推奨(LOE A),
     ・ACC/AHA冠動脈バイパスガイドライン
       →Class Ⅰで勧告(LOE B),
     ・ACC/AHA非心臓手術のための
      周術期心血管系評価・管理ガイドライン
       →Class Ⅰで推奨(LOE B)
・虚血性心疾患におけるβ遮断薬
  ・陰性変力作用による心収縮力抑制
  ・陰性変時作用による心拍数低下
  ・心筋酸素消費量の低下
  ・拡張時間延長による拡張機能の改善
  ・交感神経・レニン抑制による血管拡張
  ・β遮断薬,とくにカルベジロールは抗酸化作用が強い。
    → アポトーシス抑制にも関与する
  ・β遮断薬の有効性のメカニズムは複合的
    →単一機能で説明することができない
・ACC/AHAガイドライン~非心臓手術の周術期β遮断薬
  ・服用中のβ遮断薬は継続(ClassⅠ; LOE C)
  ・血管手術・高リスク手術
    →β遮断薬の投与を推奨(ClassⅡa; LOE B)
  ・新たに徐脈・低血圧に注意して使用
  ・低リスク症例に対する使用は明らかでない(ClassⅡb;LOE B)
  ・周術期に新たに開始する高用量β遮断薬の投与は有害
                                          (ClassⅢ;LOE B)



小児の気道管理

麻酔科勉強会  担当:W先生

「小児の気道管理」

・無呼吸後の酸素飽和度低下時間
  ・肥満127kg大人<10kg子供<70kg大人
・解剖学的違い
  ・相対的に舌が大きく、鼻腔が狭い
  ・喉頭位置は前方・頭側(成人C6、小児C4)
  ・喉頭蓋が長い
  ・声帯が傾斜し、円錐型の喉頭は輪状軟骨部が最も狭い
  ・相対的に頭が大きく、後頭部突出
    →仰臥位で自然と首が屈曲
・生理学的違い
  ・酸素予備量・機能的残気量が小さい
  ・酸素消費量が多い(成人3ml/kg/min、乳児6ml/kg/min)
    →上気道閉塞や無呼吸で急激に酸素飽和度が低下する
  ・新生児と乳児
    →肺胞が少なく、肺の弾性収縮力・コンプライアンスが小さく、
     胸郭コンプライアンスが大きい
    →無気肺と肺内シャントのリスクが増大
・低酸素血症
  ・気管挿管に手間取る、迅速導入
  ・喉頭痙攣
    →感冒やインフルエンザ、興奮期や第2期の麻酔深度で抜管
  ・覚醒時でも普段から息こらえがある
    ・息こらえ=Valsalva様現象
       →声門閉鎖により腹腔・胸腔内圧が上昇
       →換気困難となり肺血管抵抗↑、
        卵円孔開存から右→左シャントが生じる可能性
・準備は万端に
  ・薄い円座と肩枕
  ・経口・経鼻エアウェイが非常に有効
  ・曲型ブレード
    →アデノイドや扁桃肥大で視野が悪いとき
    →舌を圧排し視野を確保
  ・直型ブレード
    →喉頭が前方頭側にあり喉頭蓋で喉頭が見えないとき
  ・基本的に「~1歳が直型、1歳~が曲型」
  ・LMA、気管支ファイバー、AWSなど
  ・挿管チューブ
    ・カフ無し:4+年齢/4
    ・カフ有り:3.5+年齢/4
    ・少なくとも前後3サイズを準備
    ・カフ有りチューブでは、カフを輪状軟骨より遠位に挿入
  ・カフ圧:25~30cmH2O未満?
  ・成人の毛細管圧は25~35mmHgだが小児は不明
  ・気道内圧25cmH2Oでリークがない場合
    →抜管後の咳嗽・喉頭痙攣が多いという報告
・小児の迅速導入
  ・準備万端にし、導入時役割分担を決定
  ・可能であれば予め胃管で胃内容吸引
  ・マスク密着で酸素化
  ・輪状軟骨の位置確認
  ・薬剤投与
     ・アトロピン0.01mg/kg
     ・チオペンタール4~6mg/kg
     ・ロクロニウム0.9mg/kg
  ・入眠後に輪状軟骨圧迫
  ・マスク換気は行わず30~60秒後に挿管
  ・挿管確認
  ・挿管失敗時は輪状軟骨を圧迫しながらマスク換気を行い再度挿管
・ロクロニウムを増量
  →効果発現は早くなるが作用時間が延長する
・不適切な輪状軟骨圧迫
  →喉頭展開不良・気道閉塞・食道損傷の原因となる
・浅麻酔での輪状甲状軟骨圧迫
  →バッキングや咳を誘発させる
・輪状甲状軟骨に必要な圧
  ・成人では30~40N(約3~4kgf)が推奨
  ・小児では規定されていない
・迅速導入変法
  新生児
   →十分太い胃管で体位を変えながら胃を圧迫しつつ吸引
   →誤嚥には問題のないレベルまで胃内容が減少する
  ・十分に胃を吸引した後に、
   単なる急速導入または輪状軟骨を圧迫しながら
   換気を行うmodified RSIが行われることも多い
・薬剤投与後に輪状軟骨を圧迫しながら100%酸素でマスク換気
  →筋弛緩が得られたのちに挿管する方法も。
・腸重積整復について
  ・「非観血的整復術を無麻酔で行っても全身麻酔下で行っても
    整復率に差はなく、全身麻酔は必要ない:推奨度C2」
  ・動物実験
     ・鎮静は息こらえの働きを抑制させる。
       →穿孔の危険性が高くなる可能性。
・腸重積症
  ・6ヶ月〜2歳未満、男児に多い
  ・三大症状は、腹痛・嘔吐・血便
  ・脱水が強い
  ・発症から時間経過が短く、軽症のものは注腸整復が容易
  ・開腹手術適応
    ・イレウスや消化管穿孔を合併した症例
    ・器質的疾患を持ち整復不可能であった症例など
  ・当院では原則全身麻酔だが・・・
    ・そもそも全身麻酔で行わない
    ・スキサメトニウムによる迅速導入
    ・筋弛緩の発現が早い
    ・非脱分極性筋弛緩薬による迅速導入
    ・priming principle
    ・意識下挿管


術後認知機能障害~POCD

「麻酔科EBM勉強会」 担当;W先生

「術後認知機能障害:POCD」

・POCD(Postoperative cognitive dysfunction)
 ・術後に注意力・実行機能・記憶などが低下
 ・せん妄・認知症とは異なる
 ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載がない
 ・明確な定義がなく診断基準がバラバラ
 ・診断には術前術後の神経心理学検査が必要
 ・多くは可逆的で大半は治癒
・厳しい診断基準
 ・認知機能の任意の2領域が-2SD以下
 ・複合認知機能スコアが-2SD以下
・やや緩い診断基準:多
 ・認知機能の任意の1領域が-1SD以下
 ・複合認知機能スコアが-1SD以下
 ・術前術後検査の信頼性、検査時の意欲などにより
  認知機能スコアの解釈が難しい
    →ある研究では33%の患者がPOCDと診断されてしまった
・POCDの診断
 ・reliable change index
   →学習効果を除外するため、
    対照群の平均学習効果を補正因子として差し引く
・せん妄とは
  ・高齢者に起こる急性の認知機能低下
  ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載あり
  ・覚醒レベル・注意力・論理的思考などの障害
  ・急性発症、日内変動あり
  ・非術後のせん妄は、中等度認知機能障害者や
   早期認知症患者で起こりやすく、
   全身状態増悪や死亡率増加に関係
 ・非術後のせん妄
    →中等度認知機能障害者や早期認知症患者で起こりやすく、
     全身状態増悪や死亡率増加に関係
    →術後せん妄は術後早期の65歳以上の患者に起こりやすく、
     術後1〜2週間以内に改善
 ・術後せん妄とPOCDの関係、
    →エビデンスがちらほら
・認知症とは
  ・脳機能の不可逆的&退行性変化
     ex)Alzheimer病、Lewy小体型、脳血管性、Huntington
  ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載あり
  ・記憶、性格変化、抑うつ、判断力低下、睡眠障害、ADL低下
    →家族認識☓、寝たきり
 ・認知症とPOCDの関係性に結論は出ていないが…
  →入院を繰り返すと認知機能↓
 ・特定の全身麻酔薬は病理学的変化をもたらす可能性
   ex)イソフルラン
     →脳内でβ-アミロイドやリン酸タウ蛋白を産生促進
     →認知症発症or進行を加速?
 ・手術は神経系の炎症を促進
   →認知症発症?
 ・手術&麻酔と認知症の関係は推測
   →大半の研究で否定されている
・POCDの予防と治療
 ・低血圧・低酸素・低血糖・代謝異常を回避
   →術中は十分な脳灌流を保つ!
 ・ICU入室者はPOCDのハイリスク!
 ・脳の臓器不全:SIRS、MODSの一症状
 ・他臓器不全の予防・治療が重要
    ex)AKI→原因検索・治療、透析など
 ・手術合併症の回避
    ex)出血、感染
 ・多面的治療
    ・疼痛・炎症への多面的アプローチ
    ・周術期の睡眠障害を最小に
    ・身体的・精神的活動を活性化:リハビリ
・いろいろな報告
  ・心臓手術を受けた患者の41%が
   5年後も認知機能が低下していた
         NEJM 2001; 344(6): 395-402
    →認知機能低下は心臓手術の主要合併症だ!
    →おそらくCPBが原因だ!  
    →off-pump手術の登場
  ・非心臓大手術を受けた高齢者の46%が
   1年後も認知機能が低下していた
         Anesthesiology 2010; 112(4): 852-9
    →心臓・非心臓に限らず、約半数の患者にPOCDが起こる!
    →International Study of POCD
     ・1994年設立、インパクト大
     ・非心臓手術でのPOCDの特徴を調査
・心臓手術、特にCPBを用いた術後は、重度のPOCDが持続する。
・POCDの遺伝的素因
  →Alzheimer病などの変性疾患とoverlapしている?
・アポリポ蛋白E遺伝子のエプシロンアレル
  →ADのリスク因子、脳損傷後の予後不良因子
  →加齢での認知機能低下を加速
・POCDとアポリポ蛋白E遺伝子との関連は示されていない
 →POCDの遺伝的素因は存在すると予想
 →断基準が曖昧なため調査は難しい