2015年5月1日金曜日

PONVまとめ

「初期研修医勉強会」 担当:H先生

「PONVまとめ」

・PONV:Postoperative Nausea and Vomiting(術後嘔気嘔吐)
  ・術後嘔吐の発生率は約30%、
  ・術後嘔気の発生率は50%
  ・高リスク患者においてはPONVの発生率は80%
 →患者にとって不快
 →早期離床を妨げる
 →日帰り手術では退院の遅れや再入院の原因に
    →PONVの発生率を低下させることが医療費の削減にまでつながる。
 →PONVの発生率の低下が患者の手術への満足度の上昇につながる。
・嘔吐の生理
  ・嘔吐中枢は延髄網様体にある。
  ・種々の求心性刺激に対して嘔吐を起こす。
  ・嘔吐を引き起こす求心路にはおよそ5つの経路がある
     ・5-HTから迷走神経を解する経路
     ・前庭迷路系から第VIII脳神経を解する経路
     ・視覚中枢からの経路
     ・大脳辺縁系を解する経路
     ・延髄最後野のCTZを解する経路
・PONVのメカニズムは明らかにされていない。
・PONVは特定の受容体拮抗薬で完全に抑えられない
  →いくつかの受容体が関わっていることが考えられる。
・PONVの患者要因
  ・女性 (OR:2.57)
  ・PONVの既往 (OR:2.09)
  ・非喫煙者 (OR:1.82)
  ・乗り物酔いしやすい (OR:1.77)
  ・年齢 (OR:0.88,10歳上がるごとに)
・Apfel Score
  →該当リスク項目が1つ増えるごとに PONV 確率は 20 % 増加する。
   ・女性、非喫煙者、PONV既往、術後オピオイドの使用
・小児におけるPONVのリスクファクター
   ・30分以上の手術
   ・3歳以上
   ・斜視手術
   ・血縁者にPOVまたはPONVの既往
・小児のPONV
  ・嘔吐は成人の2倍の頻度
  ・年齢の増加とともにリスクは増大し、思春期以後は減少
  ・思春期以前は性差なし
・一般的にPONVのリスクとなる手術と言われている手術
  ・腹腔鏡下手術、開腹/開胸術、形成、婦人科、
   脳外科、眼科(特に斜視手術)、泌尿器科、頭頸部手術など
・独立したPONVリスク因子となりうる手術
  →腹腔鏡下手術、婦人科手術、胆嚢摘出術
・手術時間はPONV発生率に関連する
  →手術時間60分以上はリスク因子
    ・Koivuranta Scoreには上記項目が考慮されている
・麻酔要因
  ・全身麻酔
  ・吸入麻酔→容量依存性に発症率が上昇
  ・亜酸化窒素(笑気)
  ・術後のオピオイド使用
     ・術中のオピオイド使用はPONVの要因とはならない
・薬物による治療
  ・アメリカのガイドラインでは多数の薬剤がラインナップ
    →日本ではほとんどが保険適応外・・・。
・セロトニン受容体拮抗薬 (オンダンセトロンなど)
  ・腸管からの迷走神経刺激に基づくセロトニン分泌による
   嘔吐中枢の刺激を遮断
  ・嘔気よりも嘔吐に対してより効果を持つ
    (POV;NNT=6、PON;NNT=7)
  ・手術終了時に4mg投与することが推奨されている
  ・副作用
    ・セロトニン症候群
    ・QT延長作用
      →容量依存性
      →先天性QT延長症候群の患者では避けるべき
      →不整脈のリスクが高い患者ではECGモニターが必要
  ・米国では5-HT3拮抗薬は最もcommonなPONV対策
      →しかし薬価が高価(\4,290/4mg)
      →日本では抗がん剤投与時以外は保険適応外である
・デキサメタゾン
  ・PONVの発生を約25%予防する (NNT=4)
    →手術様式や麻酔方法に関わらず効果あり。
  ・PONV予防のメカニズムははっきりとはわかっていない。
    →手術に起因する炎症を減らすため?
  ・日本では保険適応外=適応外使用 (cf. \97/1A)
  ・標準的な予防投与量
     →経静脈的に4~5mgを麻酔導入時に投与する方法である。
     →4~5mgの投与と8~10mg投与はPONV予防の有効性は同等。
  ・副作用
    ・臨床的に重度な高血糖や創部感染の頻度は増加しない
      →IGTやDM、肥満患者では8mg投与で
       投与後6~12時間に高血糖が生じるという研究あり。
      →糖尿病の患者に投与するのは相対的禁忌である
      →4~5mgの投与が推奨されているのは、
       上記も要因となっている。
  ・一般的にデキサメサゾンは一度生じたPONVの治療には
   予防投与時ほど有効ではない
・ドロペリドール
  ・中枢神経系においてドパミン、GABAの伝達を阻害。
   ・chemoreceptor trigger zoneにおいて受容体を遮断
     →制吐作用を発現。
  ・オンダンセトロンと有効性は同等(NNT=5)
  ・手術の最後に投与することが推奨されている
     →0.625~1.25mg IV
  ・日本では保険適応外→適応外使用となる
  ・副作用
    ・QT延長作用:QT延長症候群の患者ではTdPに至る可能性あり
       →2001年にFDAで警告
       →第一選択ではなくなった
      ・短時間での使用なら問題ないという報告も
      ・QT延長作用はオンダンセトロンと差異はないなどの報告も。
    ・間代性けいれん
  ・低用量(<1mg or 15ug/kg;0.3~0.5mgでも有効か) でも
   有害事象なく十分な制吐作用をもつとの報告も。
・ニューロキン受容体拮抗薬
・抗コリン薬
・日本で保険適応がある薬剤は?
  ・メトクロプラミド(プリンペラン:ドパミン受容体拮抗薬)
    ・嘔気時に10mg(1A) IVが適応となっている
       →メトクロプラミドは制吐作用が弱い
       →10mgの投与ではPONVの発症率の低下につながらない
        という研究も…(NNT=30)
  ・プロクロルペラジン(ノバミン:D2受容体遮断薬) 
    →5〜10mg静注 手術終了時
  ・ヒドロキシジン(アタラックスP:抗ヒスタミン薬)
    →25〜50mg静注、点滴静注。悪心嘔吐時、手術終了時
・非薬物治療
  ・輸液
    ・適切量の輸液がPONVの発生を減少させる!?
      →晶質液と膠質液との間に差異はない
    ・小児における斜視手術での報告
      ・30ml/kg VS 10ml/kgでは
       30ml/kgの群でPOVの発生率低下 (22% VS 54%)
  ・P6刺激法
    ・ツボ刺激
    ・長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間で手首のしわから3
     3横指(2インチ)中枢側にある。
    ・麻酔導入前後のいずれに刺激しても効果に差異はない
    ・Up to Dateでは効果は小さいとの記述が
  ・アロマセラピー
  ・酸素療法
    →エビデンスはなく有効性も不明だがコストは低い。
・介入について
  ・risk factorなし
    ・PONV予防薬の投与は必要ない
    ・嘔吐の合併の可能性の手術を行う場合は予防薬の適応
  ・risk factor 1つ
    ・予防薬の単一剤投与
    ・デキサメサゾン、アプレピタント、経皮スコポラミンは
     長時間作用効果がありPONVの発生を減少させる
  ・risk  factor 2つ以上
    ・複数の薬剤を併用。
    ・可能であれば吸入麻酔薬の使用を回避
     TIVA、術後のオピオイド使用を最小限にとどめる
・PONV発症後の治療
  ・予防ほどの有効性はない。
  ・セロトニン受容体拮抗薬が最も一般的に用いられている。
  ・デキサメサゾン、ドロペリドールも一定の効果がある。
  ・日本ではいずれも適応がなくメトクロプラミドが用いられている。
  ・予防治療を行ったのにも関わらずPONVが進行した場合
    →別の作用機序の薬剤を選択することが推奨されている。