2013年9月30日月曜日

傾向スコアについて

麻酔科勉強会  担当:S先生

「傾向スコアについて」

・臨床研究の目的は、因果推論にある
・そのツールとして統計を用いる
・観察研究と介入研究(実験研究)
  ・観察研究:研究者は介入せず観察する
    →コホート研究 ケースコントロール研究
  ・介入研究:研究者により、治療法が決められるなど
   ある種の実験的介入
    →ランダム化比較試験など
・コホート研究
  ・定義した対象集団から抽出した標本(コホート)を追跡。
  ・観察して事象の発生を記述する。
     ・リスク要因に曝露している群と曝露していない群に分ける。
     ・両群をある期間にわたって追跡する
     ・アウトカムが発生するかどうかを観察する。
     ・曝露群と非曝露群で発生頻度や累積発生率を比較する。
     ・相対リスク、寄与リスクを求めることができる。
・ケースコントロール研究
  ・アウトカムを発生した群(ケース群)を特定し、
   発生しなかった群(コントロール群)を選択する
・バイアスと交絡
  ・観察研究では以下の因子が問題になる
    ・因果関係(研究要因とアウトカムとの関係)
    ・偶然誤差(データ数が小さい場合など)
    ・系統誤差(バイアス、交絡)
  ・因果関係を主張するには・・・
    →偶然誤差、系統誤差の程度を評価する必要がある。
  ・特に交絡が問題
・介入研究
  ・研究者の介入による群間比較
  ・ランダム化を行うと研究の質が上がる。
  ・ランダム化比較試験はバイアスや誤差が入りにくいデザイン
・因果効果の定義と 無作為割り付けの重要性
  ・集団で考えると・・・
  ・E(Yt=0)=ΣYt=0(個体i)/n=処置t=0を与えたときの反応の期待値
  ・E(Yt=1)=ΣYt=1(個体i)/n=処置t=1を与えたときの反応の期待値
    →集団の因果効果の定義は
    →E(Yt=1)ーE(Yt=0)
  ・ただし、同じ集団に異なる処置を同時に行うことはできない
    →因果推論は原理的に不可能
・因果推論の根本問題=欠損値の問題
  ・欠損値問題として捉えれば・・・
     →ランダム割付けにより根本問題を解決
・共変量の調整法
  ・マッチング・層別化
     ・共変量の似ている物を比較
     ・ただし”似ている”の定義はあいまい
     ・共変量が多いと類似するデータが少なくなる
  ・共変量を含めた回帰モデル(共分散 重回帰)
     ・回帰モデルで共変量の影響を調整
     ・モデルの依存度が高い(ロバストが低い)
・傾向スコア(propensity score)
  →両者の良いとこ取りをする
・傾向スコアとは
  →割り付けられやすさの指標
    ・ei = p(t=1|ci)
 ・共変量ベクトルがciの時に処置群に割り当てられる条件付確率
 ・この式は“割付け”と共変量の関係を示す。
    →説明変数と結果変数はでない
 ・一般的にはロジスティック回帰で求める
・傾向スコアでは「割付け」をモデル化
・同じ傾向スコアを持つ患者
  →実際どちらの群に割り付けられたかは偶然による
  →処置以外の効果は無作為化されている
・傾向スコアが一致しているペアをマッチングすると
  →差の平均が因果効果の不偏推定量になることが証明できる。
  →ちょっと難しいけど。。。
・傾向スコアの具体的方法
  ①傾向スコアの計算
    →ロジスティック回帰などから共変量を用いて計算
  ②算出された傾向スコアで調整
     →マッチング、層別解析、IPW推定量
・傾向スコアが共分散分析に比べて優れている点
  ①次元の縮約
   ・傾向スコアは共変量を一次元に縮約している
      →共変量の重なりが少ない場合でも使用できる
  ②モデル依存度の低さ 解析のロバストさ
   ・共変量と結果変数の関係をモデリングしなくてもよい
   ・回帰モデルよりもモデルの誤設定に強い
・傾向スコアの前提条件
  ・「強く無視できる割当て」条件
  ・どちらの群に割り当てられるかは共変量の値にのみ依存
    →結果変数に依存しない
  ・どの対象となっている共変量が上記を満たしているかは
   はっきりしないことが多い。
・前提条件の確認法
  ・割り付けを共変量が説明していることを示す。
    →C統計量など
  ・共変量自体の分布が調整されていることを示す
    →群間での共変量の差がないこと
  ・逆に説明できないor調整されない場合
    →見逃している共変量があることが示唆される
  ・従属変数との因果関係を考えて共変量を選択
    ・処置前かつ結果変数に先行→共変量
    ・処置後かつ結果変数に先行→微妙
    ・処置後かつ結果変数の後になる→共変量ではない
・傾向スコアの限界
  ・2群以上の比較を行う場合
   →2群ごとに傾向スコアを計算することになり母集団がかわる。
  ・マッチング・層別解析では因果効果の推定値は計算できるが、
   標準誤差が計算できない。
  ・マッチングでは「同じ傾向スコア」を持つものをペアにするが、
   連続変数のため完全に一致することは少ない。
   そのためペア選択に恣意性が残る。
  ・マッチングでは多いデータの群で多くのデータが無駄になる。
  「対象者の少ないほうの群の共変量」上での期待値が
   因果効果の推定量になる。


気管支喘息と麻酔

初期研修医勉強会  担当:M先生

「気管支喘息と麻酔」

・気管支喘息とは
  ・気道の慢性炎症性疾患
  ・気道の狭窄、過敏性亢進
・術前評価するポイントは?
  ・発症年齢
  ・最近の発作
  ・内服加療や吸入薬使用の有無
  ・季節性
  ・睡眠障害
  ・入院歴(時期、回数)
  ・アスピリン喘息
  ・喫煙の有無
・喘息の既往があると言われたら・・・
  ・過去数年間発作なし
  ・内服薬や吸入薬なし
  ・身体所見や呼吸機能検査にて異常なし
    →術前処置は不要
・今でもゼーゼーいってる場合は・・・
  ・緊急でないのであれば手術は延期
  ・緊急を要するなら
    →吸入薬で改善してから手術 
    →術中も吸入でコントロール
・アスピリン喘息
  ・好発年齢は30~40歳代
  ・慢性副鼻腔炎や鼻茸を合併
  ・NSAIDsの使用により発作が誘発
    →時に致死的
  ・コハク酸エステル型ステロイドの使用を避ける
・麻酔導入
  ・プロポフォールは実はアレルギー反応を誘発しやすい!
   →注意が必要な患者
    ・喘息のコントロールが悪い
    ・アトピー患者
    ・多数の薬剤にアレルギーあり
・挿管
  ・気管への刺激により発作が誘発される率が上昇
  ・可能な限りマスクで維持することが推奨される
  ・長時間の手術、full stomach
   手術部位が気道の確保を難しくするなどの場合
    →躊躇せず挿管する
・吸入麻酔薬
  ・吸入麻酔薬には気管支拡張作用あり
  ・セボフルランは粘膜への刺激性が弱く好んで用いられる
・術中喘息発作について
 ・カプノグラムで呼気が延長
 ・1回換気量の減少
   →これらの所見で疑えば聴診で確認
・術中発作が起こったら?
 ・麻酔を深くする
   →吸入麻酔薬の濃度を上げる
 ・β2刺激薬の吸引
 ・ステロイド静注
 ・吸引は麻酔深度が十分に深くなってから!
・リドカインの静脈内投与は気管支痙攣を抑制しうる
・β2刺激薬との併用により、更なる効果が期待できる

2013年9月15日日曜日

監察医制度と解剖のお話

「麻酔科勉強会」 担当:S先生


「監察医制度と解剖のお話」


・監察医制度
  ・1946年:戦後のGHQによる占領政策で導入された制度。
    →米国の「Medical Examiner‘s System 」に基づき、
     東京都変死者等死因調査規定を制定。
  ・1947年:監察医制度を制定
    →人口上位7都市に。
    →東京23区・大阪市・京都市・名古屋市・横浜市・神戸市・福岡市。
  ・1949年:死体解剖保存法が制定
    →伝染病、中毒、災害で死亡した疑いのある死体、
     その他死因の明らかでない死体について、
     死因究明と公衆衛生の向上を図る。
  ・1985年:京都、福岡は自治体の財政上の都合により同制度は廃止。
・監察医制度の役割
  ・サンプリング地域内の正確な死因統計作成
  ・残された家族のために
  ・県民の安心安全のために
  ・医療へのフィードバック
・兵庫県監察医務室の紹介
・多数の地域は監察医制度はない。
  →CPAOAを見た担当医が検案
  →問題となる事案も。
    ・北見市ガス漏れ事故
    ・犯罪死の見逃し
・心肺蘇生について
  ・胸骨圧迫の合併症
    ・全合併症:21-65%と高率に発生
    ・肋骨骨折:13-97%
    ・重篤な合併症:大動脈破裂、心破裂、胃破裂、
            肝損傷、脾損傷、内胸動脈損傷
  →解剖すると胸骨・肋骨骨折は必発。
  →時々、肝損傷や心外膜出血のケースも。
・CPAOA症例、CPR外傷が致命的となるケースもあるかも。。



2013年9月13日金曜日

脳動脈瘤クリッピング術とMEP

「麻酔科勉強会」 担当:Y先生


「脳動脈瘤クリッピング術とMEP」


・MEP
  →運動誘発電位:Motor evoked potential
・脳動脈瘤の好発部位
  ・内頸動脈後交通動脈分岐部 (IC-PC)
  ・前交通動脈 (A-com)
  ・中大脳動脈第一分岐部 (MCA)
  ・脳底動脈終末部 (basilar top)
・重要な穿通枝
  ・前脈絡叢動脈(AChA)
    ・内頚動脈の後交通動脈分岐部より末梢で分枝
    ・灌流領域:内包後脚。外側膝状体、視床など
    ・片麻痺、半身感覚障害、半盲
      →Abbie症候群 or Monakow症候群
  ・レンズ核線条体動脈(LSA)
    ・中大脳動脈の水平部分(M1)から分枝
    ・M1以外から分枝することも。
    ・BAD、被殻出血など
    ・灌流域は線条体、内包、視床など
    ・閉塞で錐体路障害
  ・Heubner反回動脈
    ・前交通動脈分岐近傍の前大脳動脈A1
     ないしはA2近位側から分岐し外側方向に反回して走行
    ・灌流域:尾状核や被殻、淡蒼球の前下部および低位内包前脚
    ・閉塞で対側の上肢に優位な麻痺、
     顔面・口蓋・舌の障害
・MEP
 ・頭蓋または脳表を電気刺激
 ・短母指外転筋、前脛骨筋の電位を記録
・麻酔薬は脊髄前角においてシナプス伝導を抑制する。
  ・興奮性シナプス後電位(EPSP)
      →7-10 msec持続する
  ・EPSP持続している間に連続刺激を与えると閾値に達する。
      →Temporal Summation:時間的加算
  ・5連発高頻度(500Hz)矩形波電気刺激
      →麻酔中のMEPが可能となった。
・刺激方法
 ・脳表直接電気刺激(d-MEP)
    ・刺激部位
      ・中心溝上で正中から7cm外側位置
       →手指運動野
    ・グリッド電極(陽極)を硬膜下腔に挿入する。
    ・陰極は前頭部針電極。
    ・筋電図記録用電極
       →反対側母指球筋
  ・利点 
   ・脳表を直接刺激するので低い刺激エネルギーでの刺激が可能。
   ・皮質、皮質脊髄路の血流不全に鋭敏に反応する。
   ・t-MEPと比較してfalse nevativeが少ない。
  ・欠点
   ・開頭された状態でなければ使用できない。
   ・硬膜癒着例、脳腫脹の強い例では使用できない。
   ・前交通動脈、前大脳動脈付近の手術では使用できない。
   ・脳脊髄液吸引により電極が浮き上がり反応が消えることがある
 ・経頭蓋電気刺激(t-MEP)
    ・刺激部位:C3,C4にスクリュー電極
    →患側:陽極、健側:陰極
  ・C3-C4で刺激すると上肢・下肢ともに刺激される場合が多い。
  ・利点
   ・開頭されていない場合でも施行可能。
   ・硬膜癒着例、脳腫脹の強い症例でも使用可能。
   ・設置が簡便。(清潔野を必要としない)
  ・欠点
   ・強い刺激エネルギーを必要とする。
   ・False nevativeの可能性。
      ・経頭蓋電気刺激
        →皮下組織を通電、大孔から延髄刺激に
        →MEPは正常
・MEP変化の基準に関して、明確な基準はない。
・MEPの消失、振幅の50%以上の低下をMEP変化とする施設が多い。
・MEPの報告をいろいろと見てみると…
  ・d-MEPの反応消失は皮質脊髄路の虚血が疑われる。
  ・t-MEPはやはり一定のfalse negativeが発生する可能性。
  ・MEP変化が5分以内に回復
     →術後運動麻痺を起さない可能性が高い。
  ・穿通枝血流不全
     →MEP変化は直ちに生じる。
  ・皮質枝(特にMCA分枝)は10分ほど観察が必要。
・MEPと麻酔
  ・吸入麻酔薬、静脈麻酔薬いずれもMEPを抑制する。
  ・静脈麻酔薬は吸入麻酔薬よりもMEP抑制が少なかったという報告が多い。
  ・Rapid trainpulse法によるMEP
     →麻酔薬による抑制をあまり受けなかったという報告も。
     →吸入麻酔薬を使用してもいいかも。
  ・筋弛緩薬をT1 twitchが30%程度になるよう調節
     →体動を抑制しかつMEPモニタリングも可能。
・術中誘発電位モニタリングの現状:アンケート調査による検討
  ・吸入麻酔派2%、TIVA派80%
  ・筋弛緩薬は導入のみ使用が73%
・当院における症例の紹介





2013年9月5日木曜日

食道術後の合併症

「ICU勉強会」 担当:U先生

「食道手術後の合併症」

・食道癌手術は困難な手術である。
・再建術式
  ・後縦隔再建・胸骨後再建・胸骨前再建
・合併症:20-80%
  ・肺炎:16-67%
  ・心筋梗塞
    ・急性心不全
  ・吻合部リーク
  ・心房細動
  ・反回神経麻痺
  ・UTI
  ・無気肺
・死亡率:0-22%
  ・30日死亡率:0-6%
  ・合併症が多くなれば死亡率が上がる。
・リスク因子
  ・morbidity、30日mortalityいずれもリスク因子なのは
    →インスリン使用のDM、高齢、ALP>125
・術後合併症として
  ・肺合併症
  ・導管不全
  ・横隔膜ヘルニア
  ・心臓合併症
  ・反回神経麻痺
  ・乳び胸
  ・・・
・縫合不全
  ・5-18%に生じる。
  ・死亡率12%
    ・大網充填が行われる。
  ・適切な組織灌流を保つ。
  ・CTガイド下ドレナージ
  ・低血圧、無尿、アシドーシスなどが予測因子
  ・抗生剤使用
・導管血流不全
  ・外科的介入を必要とするのは1-2%
  ・大腸導管より胃管つり上げのほうが多い。
  ・30日死亡率を上げる。
  ・内視鏡観察すると、灰色、白色、黒色の粘膜を呈する。
  ・septic shockとなり急性の経過を呈する。
・機能的導管障害
  ・胃内容排出遅延、ダンピング症候群、低血糖、食道反射など
・食道切除後症候群
  ・早期:ダンピング症候群、晩期:低血糖
・胃内容排出遅延
  ・ボツリヌス毒素両方が効果がある場合がある。





Journal超ななめ読み8月

「Journal超ななめ読み8月」


Effect of Intraoperative High Inspired Oxygen Fraction on Surgical Site Infection, Postoperative Nausea and Vomiting, and Pulmonary Function: Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials.
術中高濃度酸素吸入が創部感染、PONV、術後呼吸機能に与える影響
Anesthesiology. 2013 Aug;119(2):303-16.


Vocal cord paralysis after aortic surgery.
大動脈手術後の声帯麻痺
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2013 Jun;27(3):522-7


Systemic vascular resistance has an impact on the reliability of the Vigileo-FloTrac system in measuring cardiac output and tracking cardiac output changes.
体血管抵抗はFloTracによる心拍出量および心拍出量変化追跡に影響を及ぼす
Br J Anaesth. 2013 Aug;111(2):170-7


A trial of intraoperative low-tidal-volume ventilation in abdominal surgery.
腹部手術における術中低容量換気に関する試験
N Engl J Med. 2013 Aug 1;369(5):428-37


Efficacy of intraoperative dexmedetomidine infusion on emergence agitation and quality of recovery after nasal surgery.
鼻手術後の覚醒時興奮と回復の質に対する術中デクスメデトミジンの効果
Br J Anaesth. 2013 Aug;111(2):222-8



・術中高FiO2は創部感染、PONVをおそらく減らし呼吸合併症は増やさない。
・長い人工心肺時間と下行置換は術後声帯麻痺のリスクとなる。
・FloTracの心拍出量は体血管抵抗がnormalでないと信頼できない可能性。
・呼吸器リスクのある患者で術中肺保護換気は合併症を減らす。
・術中プレセデックス持続投与により覚醒時興奮を減らせる可能性。