2014年5月14日水曜日

術後認知機能障害~POCD

「麻酔科EBM勉強会」 担当;W先生

「術後認知機能障害:POCD」

・POCD(Postoperative cognitive dysfunction)
 ・術後に注意力・実行機能・記憶などが低下
 ・せん妄・認知症とは異なる
 ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載がない
 ・明確な定義がなく診断基準がバラバラ
 ・診断には術前術後の神経心理学検査が必要
 ・多くは可逆的で大半は治癒
・厳しい診断基準
 ・認知機能の任意の2領域が-2SD以下
 ・複合認知機能スコアが-2SD以下
・やや緩い診断基準:多
 ・認知機能の任意の1領域が-1SD以下
 ・複合認知機能スコアが-1SD以下
 ・術前術後検査の信頼性、検査時の意欲などにより
  認知機能スコアの解釈が難しい
    →ある研究では33%の患者がPOCDと診断されてしまった
・POCDの診断
 ・reliable change index
   →学習効果を除外するため、
    対照群の平均学習効果を補正因子として差し引く
・せん妄とは
  ・高齢者に起こる急性の認知機能低下
  ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載あり
  ・覚醒レベル・注意力・論理的思考などの障害
  ・急性発症、日内変動あり
  ・非術後のせん妄は、中等度認知機能障害者や
   早期認知症患者で起こりやすく、
   全身状態増悪や死亡率増加に関係
 ・非術後のせん妄
    →中等度認知機能障害者や早期認知症患者で起こりやすく、
     全身状態増悪や死亡率増加に関係
    →術後せん妄は術後早期の65歳以上の患者に起こりやすく、
     術後1〜2週間以内に改善
 ・術後せん妄とPOCDの関係、
    →エビデンスがちらほら
・認知症とは
  ・脳機能の不可逆的&退行性変化
     ex)Alzheimer病、Lewy小体型、脳血管性、Huntington
  ・DSM-Ⅳ、ICD-10に記載あり
  ・記憶、性格変化、抑うつ、判断力低下、睡眠障害、ADL低下
    →家族認識☓、寝たきり
 ・認知症とPOCDの関係性に結論は出ていないが…
  →入院を繰り返すと認知機能↓
 ・特定の全身麻酔薬は病理学的変化をもたらす可能性
   ex)イソフルラン
     →脳内でβ-アミロイドやリン酸タウ蛋白を産生促進
     →認知症発症or進行を加速?
 ・手術は神経系の炎症を促進
   →認知症発症?
 ・手術&麻酔と認知症の関係は推測
   →大半の研究で否定されている
・POCDの予防と治療
 ・低血圧・低酸素・低血糖・代謝異常を回避
   →術中は十分な脳灌流を保つ!
 ・ICU入室者はPOCDのハイリスク!
 ・脳の臓器不全:SIRS、MODSの一症状
 ・他臓器不全の予防・治療が重要
    ex)AKI→原因検索・治療、透析など
 ・手術合併症の回避
    ex)出血、感染
 ・多面的治療
    ・疼痛・炎症への多面的アプローチ
    ・周術期の睡眠障害を最小に
    ・身体的・精神的活動を活性化:リハビリ
・いろいろな報告
  ・心臓手術を受けた患者の41%が
   5年後も認知機能が低下していた
         NEJM 2001; 344(6): 395-402
    →認知機能低下は心臓手術の主要合併症だ!
    →おそらくCPBが原因だ!  
    →off-pump手術の登場
  ・非心臓大手術を受けた高齢者の46%が
   1年後も認知機能が低下していた
         Anesthesiology 2010; 112(4): 852-9
    →心臓・非心臓に限らず、約半数の患者にPOCDが起こる!
    →International Study of POCD
     ・1994年設立、インパクト大
     ・非心臓手術でのPOCDの特徴を調査
・心臓手術、特にCPBを用いた術後は、重度のPOCDが持続する。
・POCDの遺伝的素因
  →Alzheimer病などの変性疾患とoverlapしている?
・アポリポ蛋白E遺伝子のエプシロンアレル
  →ADのリスク因子、脳損傷後の予後不良因子
  →加齢での認知機能低下を加速
・POCDとアポリポ蛋白E遺伝子との関連は示されていない
 →POCDの遺伝的素因は存在すると予想
 →断基準が曖昧なため調査は難しい