2015年4月23日木曜日

筋弛緩薬まとめ

「麻酔科勉強会」 担当:T先生

「筋弛緩薬まとめ」

・筋弛緩薬の分類
 ・脱分極性筋弛緩薬
     ・超短時間作用型(スキサメトニウム)
 ・非脱分極性筋弛緩薬
     ・短時間作用型(mivacurium)
     ・中時間作用型(ロクロニウム,ベクロニウム)
     ・長時間作用型(パンクロニウム)
・効果発現時間、効果持続時間、代謝経路、副作用を理解。
・アセチルコリン受容体において
  ・脱分極性筋弛緩薬
    ・あたかもAChのようにふるまう
      →AChEにより分解されない
      →持続的脱分極を引き起こす
      →筋肉は興奮しなくなる
  ・非脱分極性筋弛緩薬  
    ・ACh受容体に結合
      →受容体を活性化させない
      →筋肉は興奮しない
・脱分極性筋弛緩薬
  ・スキサメトニウム(SCh)のみ臨床で利用。
  ・筋に線維束攣縮が起こる。
  ・作用発現時間と作用持続時間が短い。
     ・作用発現 0.5-1.0min
     ・作用持続 5.0-10.0min (0.5-1.5 mg/kg使用)
  ・肝臓で作られた血漿ChEにて分解
  ・副作用が多い
    ・不整脈
       ・交感神経節のACh受容体を刺激
        →頻脈、高血圧を引き起こす
       ・副交感神経節のACh受容体を刺激
        →徐脈、低血圧を引き起こす
        →SCh投与1-3分前のアトロピン投与で防止
    ・高カリウム血症
       ・通常、血清カリウム濃度が0.5-1.0mEq/L上昇
       ・特に広範囲熱傷、上位及び下位運動ニューロン疾患、
        広範な筋挫傷、筋疾患患者では危険。
       ・Extrajunctional receptorが関与
          →胎児型ACh受容体と呼ばれている。
           α, α, β, γ, δサブユニットからなる。
          ・熱傷、運動ニューロン障害、敗血症などで発現。
          ・イオンチャンネルの長期開存により
           高カリウム血症を引き起こす。
       ・筋肉が普通の状態に戻れば大丈夫
         →臨床的に推測することは困難
         →熱傷後24時間から2年は投与しない方が無難
    ・筋肉痛
       ・線維束攣縮
         →腹部、背部、頸部の筋肉痛を訴えることが多い。
       ・頸部痛は“咽頭痛”と表現されることもある。
       ・外来手術後の若い患者に多い。
       ・少量の非脱分極性筋弛緩薬を前投与すると発生率は低下。
       ・治療はNSAIDs
    ・眼内圧上昇
    ・胃内圧上昇
    ・頭蓋内圧上昇
    ・悪性高熱症

・非脱分極性筋弛緩薬
   ・血液脳関門、胃腸上皮、胎盤通過性が無い
     →中枢神経作用や胎児への影響はない。
     →経口摂取では効果が無い。
   ・日本では主にベクロニウムとロクロニウムが使用可能。
   ・ベクロニウム
     ・20-30% は肝臓で代謝、40-75%は胆汁中に排泄、
      15-25%は腎臓から排泄される。
     ・代謝産物である3-desacetylvecuroniumは
      ベクロニウムの50-70%の活性を持ち、腎不全では蓄積する。
     ・心循環系に対する作用はほとんどない。
   ・ロクロニウム
     ・効果はベクロニウムの1/6程度
     ・70%は肝臓を介して胆汁中に、
      30%は腎臓を介して尿中に排泄される。
     ・腎不全、肝機能不全では作用の遷延がみられる。

・筋弛緩作用に関連する因子
  ・筋弛緩作用を増強
    →揮発性麻酔薬、アミノグルコシド系抗菌薬、局所麻酔薬、
     抗不整脈薬、ダントロレン、マグネシウム、リチウム
  ・筋弛緩作用を減弱
    →カルシウム、ステロイド、抗てんかん薬

・筋弛緩モニタリング
  ・末梢神経の電気刺激による反応の評価は、
   筋弛緩薬の効果判定に最も有用である。
  ・しかしアメリカやヨーロッパの麻酔科医の30-70%しか利用していない。
  ・モニタリングは筋弛緩薬の追加や拮抗薬の量決定に有用であり、
   PACU(postanesthesia care unit)での合併症を減らした。
 ・モニタリング法
   ・手根や肘の尺骨神経を刺激し、母指内転筋の反応を見る方法。
   ・顔面神経を刺激し、眼輪筋の反応を見る方法。
      →末梢神経の刺激方法には、いろいろなパターンがある。
 ・神経刺激のパターン
   ・単一刺激(single twitch)
     ・0.2msec持続する刺激を0.1Hz(10秒に1回)で与える。
     ・刺激電流の大きさは“最大刺激電流”を用いる。
     ・筋弛緩投与前のコントロール値との比で評価する。
     ・コントロール値にまで回復しても、
      まだ受容体の75%を筋弛緩薬が占拠している可能性あり。
   ・四連刺激(train of four;TOF)
     ・0.5秒ごとに2Hzの刺激を4回与える。
     ・1発目と4発目の収縮の高さを比較し評価する。
   ・テタヌス刺激
   ・Double-burst刺激
     ・3つの50Hzの刺激(第1刺激)が行われ、
      その0.75秒後に2-3回50Hzの刺激(第2刺激)を与える。
     ・第2刺激に対する反応が第1刺激に対する反応より弱ければ、
      筋弛緩の残存を示唆する。
     ・TOFより感度が高い。
   ・Post-tetanic count
     ・50Hzのテタヌス刺激を5秒間与えた後、
      3秒後から1Hzで単一刺激を与えた時にみられる
      収縮の数を数える。
     ・テタヌス刺激後に単一刺激を行うと筋の反応が増強される(PTP)
     ・TOFでは何も反応がみられないような
      深い筋弛緩を評価するのに用いられる。

・筋弛緩作用の拮抗
  ・抗コリンエステラーゼ薬(ネオスチグミン)やスガマデクスなど。
  ・筋弛緩の残存
    →気道閉塞、不十分な換気、低酸素血症リスク(発生率0.8%-6.9%)
  ・肥満、麻薬の使用、緊急手術、長時間手術
    →上記悪影響を引き起こす要因となる。
  ・ネオスチグミン
    ・コリンエステラーゼ阻害によりAChが増加。
     →ニコチン作用性受容体とムスカリン作用性受容体に作用。
     →ムスカリン作用で徐脈、縮瞳、分泌物増加。
     →この作用をブロックするために、アトロピンを併用。
  ・スガマデクス
    ・ステロイド性筋弛緩薬を包接することで拮抗する。
    ・作用発現が迅速で、深い筋弛緩の拮抗も可能。
    ・心血管系に影響を及ぼさない。
    ・腎臓排泄性であり、腎不全患者では注意して使用。