2015年4月21日火曜日

硬膜外麻酔の合併症

「麻酔科勉強会」 担当:H先生

「硬膜外麻酔の合併症」

・1969年のDawkinsの報告が有名
・胸・腰部硬膜外麻酔では血管穿刺が2.9%と最も多い
・次いで硬膜穿刺は2.5%
・永続的な神経麻痺は0.02%(5000回に1回)
・1981年にKaneらが45783例で検討しているが神経麻痺は3例のみ(17000回に1回)
・2004年の日本麻酔科学会の偶発症調査では
   ・脊髄損傷 7件(78000回に1回)
   ・末梢神経損傷 22件(25000回に1回)
・末梢神経障害の発生頻度のメタ解析
   ・硬膜外麻酔 0.02%
   ・腕神経叢ブロック(斜角筋間法) 2.8%
                       (腋窩法) 1.5%
   ・大腿神経ブロック 0.3%
  →硬膜外麻酔よりブロックのほうが合併症が多い。

・血管損傷・血管穿刺
  ・McNeilらの妊婦685人に対しての研究
    →18%の患者で針の刺入とカテーテルの挿入時に出血している
    →針よりもカテーテル挿入での出血が多い
  ・大藤らはカテーテルの材質も関与していると報告している。
    ・先の曲がりにくいナイロン製のカテーテル
       →22/404人(5.4%)で血管損傷が発生
       →柔らかいポリウレタン製のカテーテルの使用では
        407人で1人もいなかった。
  ・無痛分娩での研究
    ・抵抗消失確認後にカテーテル挿入→9/100で逆血
    ・ブピバカイン10ml注入後に挿入→3/100に減少
  ・坐位、水平側臥位、頭低位側臥位の順に血管内留置は減る。
  ・胎児心拍測定用Dopplerプローブを胸骨上におき、
   硬膜外カテーテルから1mlの空気を注入し、
   15秒間心音を聴き、5秒間ヒューっという音が聞こえたときは
   血管内留置と判断する。
  ・20万倍エピネフリン入リドカイン3mlの投与の投与で
   HRが20/min以上上昇するときは血管内留置を疑う。
 →何の所見もなくても血管内留置を常に考える。

・硬膜穿破
  ・無痛分娩において137250人を対象に調査された研究
    →硬膜外穿破の頻度は0.04-6%とされる
  ・抵抗消失を確認する時に空気を用いるより
   液体を用いたときの方が硬膜穿刺の確率は低くなる。
       →液体を用いることで硬膜は腹側で広がるので
      針先から離れると考えられる。
  ・硬麻針で硬膜穿刺すると52-88%で頭痛が発生する。
     ・穿刺後頭痛 
       ・多くは48時間以内に始まる。
       ・まれに数日から数ヶ月後に発症することもある
       ・女性は2倍の頻度でおきやすい
       ・後頭部から前頭部、首から肩へ放散する
       ・悪心・嘔吐、視覚・聴覚症状を伴うこともある
     ・穿刺後頭痛の治療
       ・脊麻針による頭痛も含め85%は6週間以内に治る
       ・髄液産生を促すために水分摂取を促し、
        必要なら輸液で補う
       ・カフェインが有効で300-500mgを1日2回摂取する
       ・Nsaids
       ・片頭痛の治療薬のトリプタン製剤は有効ではない
       ・生食を硬膜外注入すると頭痛は緩和される
       ・血液パッチ療法は70-98%で頭痛を改善させる
          →20mlの注入で平均4.6椎間ひろがる
     ・ベベルを側方にして硬膜穿刺してしまったときと
      頭側にで穿刺した時の頭痛の程度は結論はでていない。

・脊髄損傷、神経根損傷
  ・神経根は可動性があるため、針から逃げる
  ・穿刺時に感覚異常を訴えることがあっても、
   不可逆的な障害の発生は少ないと考えられる
  ・誤って硬膜穿刺をして突き進んだら・・・
     ・軟膜は感覚神経の受容体はない
     ・脊髄に刺さっても痛みは感じない
     ・脊髄に針が刺さると運動、感覚障害が起こる
     ・薬液の注入で下肢、臀部などに痛みを訴える
・カテーテル遺残、迷入
・硬膜外血腫
  ・穿刺後にヘパリンを併用するものはリスクが7倍となる。
  ・穿刺後出血を伴うとリスクは10倍。
  ・NSAIDs単独使用はリスクとならない。
  ・未分画ヘパリン(UFH)
    ・APTTで評価可能であるので穿刺、抜去前に評価する
    ・UFH投与によるリスクの増大は
       ・穿刺後一時間以内の投与
       ・穿刺時出血
       ・他の抗凝固、抗血小板薬との併用
    ・UFHによる血腫の半数は抜去時に起こる
       →中止後2-4時間以上あける
    ・4日以上投与されている場合
       →HITを考慮し血小板数をチェックしたほうが良い
  ・ワルファリン
    ・ワルファリン投与中はOP3-5日前に投与中止し、
     未分画ヘパリンに変更
    ・ヘパリンは4時間前までに投与中止し
      PT-INR<1.5 or ACT<180を確認する
    ・カテーテルの抜去もPT-INR<1.5で行う
・硬膜外膿瘍
  ・Kindlerらの調査では13000回の硬膜外留置に1回の頻度で起こる  
  ・他にも7140回に1回、1930回に1回など報告にばらつきがある
  ・起炎菌は黄色ブドウ球菌が57-73%を占める
  ・多くは他の感染部位からの血行性感染で直接感染は少ない
・網膜出血
  ・硬膜外麻酔後に網膜出血をきたした報告がある
  ・急激な硬膜外腔圧と髄液圧の上昇によって
   網膜静脈圧が上昇が出血を来す原因と考えられる
  ・いずれも一度に多くの局所麻酔薬を使用されている
・誤薬投与
  ・いろいろな薬剤の硬膜外誤投与が報告されている。
  ・神経障害を残した報告はカリウムのみ。
  ・生食を加えて希釈するのが良いかは不明。
    →範囲を広げてしまう可能性がある。
・局所麻酔薬中毒
・悪心嘔吐
  ・低血圧、交感神経遮断による消化管の蠕動運動亢進
    →アトロピンで対応可能
  ・オピオイドの硬膜外投与(モルヒネ>フェンタニル)
    →ドロペリドール
    →低用量ドロペリドールはQTを延長させない。