2015年6月1日月曜日

生体肝移植の麻酔

麻酔科勉強会   担当:S先生

「生体肝移植の麻酔」

・生体肝移植の歴史
  ・1963年に世界初の肝移植
  ・1988年にブラジルで世界ではじめて生体肝移植実施
  ・本邦では1989年に開始。先天性胆道閉鎖症小児に対して。
  ・1994年に成人に対する生体肝移植が実施
・本邦での生体肝移植
  ・年間400-500例ほど実施
  ・小児:成人は1:3程度
  ・当院では平成17年から5年間で36例実施
・肝移植適応疾患
  →肝移植の他に治療法がないすべての疾患
  ・以下の状態を除く
     ・制御不能の肝胆道系以外の感染症
     ・制御不能の肝胆道系以外の悪性疾患
     ・移植の妨げとなる多臓器疾患
     (社会的理由;禁酒できないなど)
・生体肝移植ドナーの条件
  ・倫理的条件
    →本人の自発的な意志に基づいて臓器の提供を希望される方
  ・レシピエントとの関係
    →3親等以内の親族あるいは配偶者(京都大学基準)
  ・肉体的・精神的に健康
  ・ウイルス感染症(肝炎ウイルスやHTLV1など)がない
  ・肝機能が正常であること
    ・軽度脂肪肝であれば、改善後ドナーになれる
  ・レシピエントに提供できる部分肝(グラフト)の大きさが十分で、
   かつドナーにも十分な大きさの肝臓が残ること
  (グラフトの重量がレシピエント体重の0.6%以上あり、
   かつドナーの肝臓の30%以上が残る)
  ・ABO式血液型は一致または適合が望ましい、
   一致または適合しているドナーがいない場合、不適合でも実施
・生体肝移植ドナーのリスク
  ・リスクは短期的には良性腫瘍に対する肝葉切手術と同じ
  ・ドナーの死亡率は欧米で0.9%(4人)、米国で0.3%(3人)
   本邦でも1人死亡、原因は肺塞栓?
・レシピエントの合併症
   ・出血
   ・血栓症 1-2%
   ・胆管合併症 15%
   ・感染症 
   ・拒絶反応 30-60%
   ・原疾患の再発
 ・5年生存率は成人で約70〜80%、小児で約80〜85%

・末期肝不全の病態生理
   ・門脈圧亢進症
   ・高心拍出量状態
   ・腹水・胸水・浮腫
   ・低アルブミン血症、ナトリウム異常
   ・利尿薬の使用により、電解質異常
   ・肝肺症候群と門脈肺症候群
   ・凝固障害
 ・肝肺症候群
   →肺内血管拡張に付随する酸素化の低下(Pao2<70 mmHg
    あるいは空気呼吸下でPAO2~Pa02較差>20 mmHg)。
    ・実際この症候群の顕著な特徴の1つは肺内シャント。
    ・肝肺症候群患者は,起立性低酸素症を起こす。
   →肝移植後に治癒
 ・門脈肺症候群
   →門脈圧克進を伴う肺高血圧症
    ・急速に進行し重症では周術期の合併症と死亡率が高くなる。
   →肝移植に治癒するとは限らない。悪化することも。
 ・凝固障害
    ・凝固因子(Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)、
     抗凝固因子(プロテインC,S、アンチトロンビン)の減少
    ・脾機能亢進の結果として血小板減少、質的血小板機能不全、
     線維素溶解系の以上
 
・肝移植の手術
 ・剥離期、無肝期、再灌流期
 ・肝移植麻酔の準備
    ・肺動脈カテーテル、中心静脈カテーテルなど
    ・RBC 10U、FFP 10U、PC 10U以上の輸血準備。
    ・適応に応じてセルセーバ、急速輸血器など。
 ・肝移植麻酔
   ・重度の腹水、胃内容停滞時間の延長
      →フルストマック扱い、迅速導入がしばしば必要。
   ・導入は静脈麻酔薬。 
   ・ハロタン以外の全ての揮発性吸入麻酔薬は使用可能。
   ・モニタリングを行えば全ての非脱分極性筋弛緩薬は使用可能。
   ・オピオイドも禁忌なし。
 ・剥離期の麻酔
   ・術操作による静脈還流の阻害、腹水の吸引
     →低血圧の原因となる。
     →膠質液を中心とした十分な輸液が必要となる。
 ・無肝期の麻酔
   ・下大静脈クランプによる血行動態の変化
   ・アシドーシスと低Ca血症
   ・輸液過剰に注意
 ・再灌流期の麻酔
   ・クランプ解除時(特に門脈のクランプ解除後)に
    重大な血行動態の変化が起こりうる。
   →Post Reperfusion syndrome
     ・心臓の収縮力低下、不整脈、高度の徐脈、低血圧、
      高カリウム血症、代謝性アシドーシス
   ・デクランプ前に電解質、酸塩基平衡、循環血液量の補正。
   ・デクランプ前にCaの投与、過換気
   ・Post Reperfusion syndrome
     →カテコラミン、メイロン、グルコン酸カルシウム、GI療法
   ・高血糖
   ・吻合部、切断面からの出血

・当院での生体肝移植麻酔振り返り。



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