麻酔科勉強会 担当:S先生
「生体肝移植の麻酔」
・生体肝移植の歴史
・1963年に世界初の肝移植
・1988年にブラジルで世界ではじめて生体肝移植実施
・本邦では1989年に開始。先天性胆道閉鎖症小児に対して。
・1994年に成人に対する生体肝移植が実施
・本邦での生体肝移植
・年間400-500例ほど実施
・小児:成人は1:3程度
・当院では平成17年から5年間で36例実施
・肝移植適応疾患
→肝移植の他に治療法がないすべての疾患
・以下の状態を除く
・制御不能の肝胆道系以外の感染症
・制御不能の肝胆道系以外の悪性疾患
・移植の妨げとなる多臓器疾患
(社会的理由;禁酒できないなど)
・生体肝移植ドナーの条件
・倫理的条件
→本人の自発的な意志に基づいて臓器の提供を希望される方
・レシピエントとの関係
→3親等以内の親族あるいは配偶者(京都大学基準)
・肉体的・精神的に健康
・ウイルス感染症(肝炎ウイルスやHTLV1など)がない
・肝機能が正常であること
・軽度脂肪肝であれば、改善後ドナーになれる
・レシピエントに提供できる部分肝(グラフト)の大きさが十分で、
かつドナーにも十分な大きさの肝臓が残ること
(グラフトの重量がレシピエント体重の0.6%以上あり、
かつドナーの肝臓の30%以上が残る)
・ABO式血液型は一致または適合が望ましい、
一致または適合しているドナーがいない場合、不適合でも実施
・生体肝移植ドナーのリスク
・リスクは短期的には良性腫瘍に対する肝葉切手術と同じ
・ドナーの死亡率は欧米で0.9%(4人)、米国で0.3%(3人)
本邦でも1人死亡、原因は肺塞栓?
・レシピエントの合併症
・出血
・血栓症 1-2%
・胆管合併症 15%
・感染症
・拒絶反応 30-60%
・原疾患の再発
・5年生存率は成人で約70〜80%、小児で約80〜85%
・末期肝不全の病態生理
・門脈圧亢進症
・高心拍出量状態
・腹水・胸水・浮腫
・低アルブミン血症、ナトリウム異常
・利尿薬の使用により、電解質異常
・肝肺症候群と門脈肺症候群
・凝固障害
・肝肺症候群
→肺内血管拡張に付随する酸素化の低下(Pao2<70 mmHg
あるいは空気呼吸下でPAO2~Pa02較差>20 mmHg)。
・実際この症候群の顕著な特徴の1つは肺内シャント。
・肝肺症候群患者は,起立性低酸素症を起こす。
→肝移植後に治癒
・門脈肺症候群
→門脈圧克進を伴う肺高血圧症
・急速に進行し重症では周術期の合併症と死亡率が高くなる。
→肝移植に治癒するとは限らない。悪化することも。
・凝固障害
・凝固因子(Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)、
抗凝固因子(プロテインC,S、アンチトロンビン)の減少
・脾機能亢進の結果として血小板減少、質的血小板機能不全、
線維素溶解系の以上
・肝移植の手術
・剥離期、無肝期、再灌流期
・肝移植麻酔の準備
・肺動脈カテーテル、中心静脈カテーテルなど
・RBC 10U、FFP 10U、PC 10U以上の輸血準備。
・適応に応じてセルセーバ、急速輸血器など。
・肝移植麻酔
・重度の腹水、胃内容停滞時間の延長
→フルストマック扱い、迅速導入がしばしば必要。
・導入は静脈麻酔薬。
・ハロタン以外の全ての揮発性吸入麻酔薬は使用可能。
・モニタリングを行えば全ての非脱分極性筋弛緩薬は使用可能。
・オピオイドも禁忌なし。
・剥離期の麻酔
・術操作による静脈還流の阻害、腹水の吸引
→低血圧の原因となる。
→膠質液を中心とした十分な輸液が必要となる。
・無肝期の麻酔
・下大静脈クランプによる血行動態の変化
・アシドーシスと低Ca血症
・輸液過剰に注意
・再灌流期の麻酔
・クランプ解除時(特に門脈のクランプ解除後)に
重大な血行動態の変化が起こりうる。
→Post Reperfusion syndrome
・心臓の収縮力低下、不整脈、高度の徐脈、低血圧、
高カリウム血症、代謝性アシドーシス
・デクランプ前に電解質、酸塩基平衡、循環血液量の補正。
・デクランプ前にCaの投与、過換気
・Post Reperfusion syndrome
→カテコラミン、メイロン、グルコン酸カルシウム、GI療法
・高血糖
・吻合部、切断面からの出血
・当院での生体肝移植麻酔振り返り。
ロボット支援下膀胱全摘・回腸導管造設術