2015年6月3日水曜日

周術期DVTとPE

麻酔科勉強会  担当:T先生

「周術期DVTとPE」

・JSA-PTE調査
  →2002年から毎年1回、周術期PEについて
  ・2009-11、周術期PE発生率 25人/10万人
  ・周術期PE死亡率は約14%
  ・手術部位は開胸+開腹が多い。続いて股関節・四肢。
  ・年齢は高齢者が多い。
・病態について
  ・ウィルヒョウの三徴
    →血流うっ滞、凝固能亢進、血管壁損傷
  ・DVTの3型
    →腸骨型、大腿型、下腿型
・ヒラメ筋静脈血栓
   ・致死的PE剖検例の9割でヒラメ筋静脈に血栓あり
     →血栓の性状が最も古かった
   ・孤立型ヒラメ筋静脈血栓が致死的PEをきたすのはきわめてまれ
   ・ヒラメ筋静脈の2割で中枢への進展あり
・ヒラメ筋静脈の特徴
   ・弁が小さく、少ない
   ・吻合部が狭窄している
     →ヒラメ筋(抗重力筋)ポンプ作用が失われると、
      一気に血流がうっ滞する (Ex.ベッドレスト)
   ・血栓が中枢側に進展した部位は血管壁への接着が弱い。
      →血栓がちぎれやすい(フリーフロート血栓)
   ・ヒラメ筋静脈は下腿型DVTの発生源
・問診、症状、所見で異常なしかつd-dimer正常値
  →急性期VTEは否定できる。
  ・いずれかが以上を示した場合は画像診断などが必要。
  ・d-dimerは様々な要因で高値となりうる。
・術中PE
  ・体位変換時や大腿部・骨盤手術操作時に多い
  ・血圧低下や頻脈
  ・EtCO2低下: 術中PEの8割
  ・SpO2低下: 術中PEの55%
  ・心エコー所見はmassiveなもので見られる
    ・右心系の拡張
    ・心室中隔扁平化
    ・TR
    ・肺動脈や右室内に血栓が見られることも
・DVTの治療
  →抗凝固療法
    ・ヘパリン: APTT1.5-2.5倍延長 (Class I)
    ・ワーファリン: PT-INR 1.5-2.5、可逆的リスクで3ヵ月間 (IIb)
    ・低分子ヘパリンやXa阻害薬: 保険適応限られる
    ・孤立下腿型では症状軽度なら進展するまでは抗凝固不要
      →2週間程度は画像フォロー (ACCP guideline)
    ・完全に血栓溶解するのは4%程度
  →カテーテル治療 (IIb) と外科的血栓摘除 (IIb)
    ・元来健康で症状(腫脹や疼痛)強い症例
    ・カテーテル:ウロキナーゼによる血栓溶解や血栓吸引
    ・施設の実情により選択
  →全身的血栓溶解療法
    ・本邦で適応が認められているウロキナーゼ用量は
     欧米の数分の1
     →カテーテル治療を選択すべき
  →IVC フィルター
    ・抗凝固療法が行えない症例 (Class I)
    ・抗凝固療法にもかかわらず再発した症例 (I)
    ・骨盤内やIVCの血栓、近位部の大きな遊離血栓 (IIa)
    ・心肺予備能が低い症例 (IIa)
    ・急性PEを来したDVTの残存
・予防→リスク別に対策。
  ・低リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳未満の非大手術
          →40歳未満の大手術
       :整形外科、上肢手術
       :産科、正常分娩
    →早期離床と積極的な運動
  ・中リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳以上orDVTリスクある非大手術
          →40歳以上orDVT危険因子ある大手術
       :整形外科、脊椎手術、大腿骨遠位部以下の下肢手術
       :産科、帝王切開
    →弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法
  ・高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →40歳以上の癌の手術
       :整形外科、股関節、骨盤、膝関節手術
             下肢性腫瘍手術、DVTリスクある下肢手術
       :産科、高度肥満の帝王切開、DVTリスクある経膣分娩
    →間欠的空気圧迫法or抗凝固療法
  ・最高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →DVTリスクある大手術
        :整形外科、DVTリスクある高リスク手術
        :産科、DVTリスクある帝王切開
    →抗凝固療法と間欠的空気圧迫法、弾性ストッキング併用
・弾性ストッキングの合併症
  ・皮膚炎や皮膚潰瘍
  ・腓骨神経麻痺
  ・コンパートメント症候群 (特に砕石位で多い)
・弾性ストッキングの禁忌
  ・動脈血行障害
  ・下肢の蜂窩織炎、血栓性静脈炎の急性期
  ・下肢の急性外傷、創傷
  ・末梢神経障害を伴う糖尿病
  ・重度のうっ血性心不全
  ・DVT急性期
  ・循環不全を伴うPE急性治療期
・間欠的空気圧迫法 (IPC)
  ・下腿大腿を30-60mmHg、30-60秒間隔で圧迫
  ・足底足関節を圧迫するvenous foot pumpもある
  ・下肢静脈叢を圧迫し静脈血流を促す
  ・凝固VIIa因子を低下させ、t-PAを上昇させる?
  ・合併症や禁忌は弾ストとほぼ同様
    (ASOは大丈夫?)
・低用量未分画ヘパリン
  ・APTT延長しない程度
  ・HIT-IIに注意→週数回はCBCフォロー
  ・2500-5000単位×2-3回/日皮下注
・フォンダパリヌクス
  ・Xa阻害薬
  ・低分子量ヘパリンと予防効果同等
  ・まれにHIT-II生じる?
  ・2.5mg (腎障害あれば1.5mg)×1回/日皮下注
  ・術後は24時間空ける
・ワーファリン
  ・PT-INR 2.0-2.5 (高齢者1.5-2.0)
・その他経口抗凝固薬
  ・Xa阻害薬
  ・抗トロンビン薬
・ACCP guidelineから
  ・低分子量ヘパリンが治療の中心: 中リスク以上で使用
  ・ただし、出血リスク存在する間は抗凝固療法を行わない
  ・ヘパリンが使用できない場合、低用量アスピリン(120mg)で代用も


術後ICU申し送り風景