麻酔科勉強会 担当:Y先生
「成人先天性心疾患患者の非心臓手術麻酔」
・日本には現在約50万人の先天性心疾患患者。
・年間12,000程度が生まれ、10,000人が成人する。
・1997年に、成人患者と小児患者はほぼ同数となった。
・2020年には成人患者のほうが多くなる。
・複雑心奇形術後患者の成人も増加している。
・Functinal Classification(古典的、臨床的)
・L-R shunt→肺高血圧
・R-L shunt→チアノーゼ
・両心室循環と単心室循環
・両心室循環:経過観察 or OPE
・単心室循環:姑息手術、Fontan手術、Fontan循環
・体血流増加のためには
・肺血管抵抗増加
・低酸素
・低換気(CO2 ↑)
・ヘマトクリット上昇
・PEEP
・低体温
・代謝性アシドーシス
・α受容体刺激
・体血管抵抗減少
・血管拡張薬
・脊椎麻酔
・硬膜外麻酔
・深麻酔
・高体温
・肺血流増加のためには
・肺血管抵抗減少
・過換気 (CO2 ↓)
・血管拡張薬(NO)
・体血管抵抗増加
・交感神経刺激
・血管収縮薬
・低体温
・点滴に絶対にairを入れない!
→液面はチャンバーの2/3程度にすべきらしい。
・Severe Cyanosis患者では凝固異常、出血傾向が共存しうる。
・周術期の絶食により脱水傾向となる。
→血栓塞栓症のリスク。
→輸液により循環血液量をeuvolemicに保つ。
・周術期の瀉血
→Hct > 65%を超えた場合は考慮。
・鉄欠乏は術前に補正されるべきである。
・Hct上昇・血漿量低下の状態では通常のPT、APTTは信頼できない。
→Hctを考慮した補正式での補正が必要。
・左心不全はガイドライン通り治療。右心不全は個別に対応。
・不整脈、呼吸不全、肝機能異常など他にも併存合併症は多い。
・麻酔計画
・中等度-高度complex症例は地域の中心施設に集める。
・各分野の専門スタッフを集合させて周術期計画を練る。
・周術期リスクを理解
・患者因子:心機能、PHの存在、シャントの状態など
・手術因子:片肺換気、腹臥位、Trendelenburg体位など
・前投薬
・低換気→低酸素→肺血管抵抗上昇のリスク
・不安が強い患者(trisomy 21など)では考慮。
・IE予防
・極めてIEリスク高い患者のみ考慮。
・ルーチンでのIE予防のための抗生剤投与は必要ない。
・スタンダードモニタリング。
・Pulse oximetry、ECG、ABP、Capnography、体温計など。
・Pulse oximetryは特にACHD患者で有用。
→SpO2低下は肺血流低下を示唆する。
→すなわちR-Lシャントの増大を示唆する。
・しかしPulse oximetryはL-Rシャントの増大を感知できない。
→体血流が著明に減少してもSaO2が維持されるため。
・CapnogramはR-Lシャント増大時にPaCO2との解離が増大する。
・CVライン
・Glenn、Fontan術後の患者はSVCのCVで血栓リスク高い。
・いずれにしろ輸液ラインから絶対にairを抜く。
・経食道心エコー(TEE)
・圧データ(CVP、LAP)のみでは循環影響因子の把握は困難。
→TEEが有用
・心機能、volume status逆流の有無、血管圧迫の有無など)。
→ただし、CHDのTEEに慣れている術者が行うべき。
・肺高血圧患者の麻酔
・特にEisenmenger syndrome患者
→非心臓手術が絶対に必要な場合にのみ手術を行う。
・予後不良の予測因子
→失神の既往、ES発症年齢、早い症状進行、
上室性頻脈の合併、右房圧上昇、SpO2 < 85%、腎不全、
重症右心不全、trisomy 21、
・肺血管抵抗を下げて、体血管抵抗も保つことが管理目標。
・肺血管抵抗を下げる
・肺血管抵抗増悪因子を防ぐ
・FiO2 up (通常1.0)
・Hyperventilation
・交感神経刺激の抑制
・通常体温維持
・胸腔内圧を低く保つ
・アシドーシスの補正
・クスリを使う
・PGE1(プロスタグランジンE1)
・PGI2(ベラプロストナトリウム)
・ニトログリセリン
・ニトロプルシド
・エンドセリン受容体拮抗薬
・PDE5阻害薬
・NO
・局所麻酔
→体表の手術なら可能。
・脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔
→体血管抵抗の減少
→R-L Shuntが急激に増大するリスクあり。
・全身麻酔
→High Risk患者では全身麻酔が好ましい。
→呼吸管理(肺血管抵抗のcontrol)ができるため。
・Fontan循環患者の麻酔
・Fontan手術の歴史
・1990年代から成績向上:急性期死亡率1-2%
→2012年現在、20歳前後となっている。
・Fontan循環の特徴
・右心室をバイパスしている。
・SVC、IVC血流は直接、受動的に、非拍動流としてPAへ。
・Fontan循環患者の麻酔目標
・肺血管抵抗を減らし、肺血流を保つ。
・SaO2 90-95%を目安として維持する。
→CSからの非酸素化血があるため100%にはならない。
→preloadを保つ
・充分な輸液
・ただし拡張障害がベースにあるので注意。
→肺血管抵抗を低く保つ
・可能なら自発管理
・呼吸回数を減らし、陽圧吸気時間を減らす。
・PEEPを避ける。
→洞調率および心収縮力の維持
→体血管抵抗を低く維持
・Milrinoneは有効である可能性。
・Fontan循環患者は術前合併症も多い。
→上室性頻脈、拘束性肺障害、血栓合併症、肝機能異常など。
・凝固亢進傾向、抗凝固傾向いずれも存在しうる。
・肝機能異常、蛋白喪失性胃腸症などの影響
・TEEは有用。
→逆流やvolume statusの評価、導管狭窄の診断などに有効。
・症例報告
・ラパロ・・・症例報告はそれなりに。
・分離肺換気・・・PubmedではCase report1件のみ。
・帝王切開・・・症例報告が散見
・ACHDと妊娠・出産
・ACHD 90妊娠についての報告によれば、
・術前合併症として母体肺水腫 16.7% 遷延性不整脈 2.8%
・心臓関連有害事象を予測する独立危険因子
→ PV下心室の駆出率低下、重度PR、喫煙歴あり。
・なおACHDに限らず心疾患合併妊娠については、
・NYHA Ⅲ-Ⅳ、母体cyanosis、不整脈既往、肺血管疾患、
心筋障害(EF<40%)、左心狭窄病変
→心臓関連事象の独立した危険因子。
・新生児の転帰
・早産 20.8%、脳室内出血 1.4%、
子宮内胎児死亡 2.8%、新生児死亡 1.4%
・新生児の有害事象を予測する危険因子
→動脈弁下心室の流出路圧較差>30mmHg
・Cyanosis性心疾患では母体SpO2<85%で児の予後不良。
・Eisenmenger症候群では母体死亡危険性30-50%。
→原則として妊娠出産は禁忌。
→どうしても希望する場合は硬膜外無痛分娩
→with NO吸入の報告も。
・いかなる麻酔方法を選択するか。
11月から麻酔科に来てくれた研修医Y先生