2012年11月8日木曜日

成人先天性心疾患患者の非心臓手術麻酔

麻酔科勉強会  担当:Y先生

「成人先天性心疾患患者の非心臓手術麻酔」

・日本には現在約50万人の先天性心疾患患者。
・年間12,000程度が生まれ、10,000人が成人する。
・1997年に、成人患者と小児患者はほぼ同数となった。
・2020年には成人患者のほうが多くなる。
・複雑心奇形術後患者の成人も増加している。

・Functinal Classification(古典的、臨床的)
  ・L-R shunt→肺高血圧
  ・R-L shunt→チアノーゼ
・両心室循環と単心室循環
  ・両心室循環:経過観察 or OPE
  ・単心室循環:姑息手術、Fontan手術、Fontan循環
・体血流増加のためには
  ・肺血管抵抗増加
    ・低酸素
    ・低換気(CO2 ↑)
    ・ヘマトクリット上昇
    ・PEEP
    ・低体温
    ・代謝性アシドーシス
    ・α受容体刺激
  ・体血管抵抗減少
    ・血管拡張薬
    ・脊椎麻酔
    ・硬膜外麻酔
    ・深麻酔
    ・高体温
・肺血流増加のためには
  ・肺血管抵抗減少
    ・過換気 (CO2 ↓)
    ・血管拡張薬(NO)
  ・体血管抵抗増加
    ・交感神経刺激
    ・血管収縮薬
    ・低体温
・点滴に絶対にairを入れない!
  →液面はチャンバーの2/3程度にすべきらしい。
・Severe Cyanosis患者では凝固異常、出血傾向が共存しうる。
・周術期の絶食により脱水傾向となる。
  →血栓塞栓症のリスク。
  →輸液により循環血液量をeuvolemicに保つ。
・周術期の瀉血
  →Hct > 65%を超えた場合は考慮。
・鉄欠乏は術前に補正されるべきである。
・Hct上昇・血漿量低下の状態では通常のPT、APTTは信頼できない。
  →Hctを考慮した補正式での補正が必要。
・左心不全はガイドライン通り治療。右心不全は個別に対応。
・不整脈、呼吸不全、肝機能異常など他にも併存合併症は多い。
・麻酔計画
  ・中等度-高度complex症例は地域の中心施設に集める。
  ・各分野の専門スタッフを集合させて周術期計画を練る。
・周術期リスクを理解
  ・患者因子:心機能、PHの存在、シャントの状態など
  ・手術因子:片肺換気、腹臥位、Trendelenburg体位など
・前投薬
  ・低換気→低酸素→肺血管抵抗上昇のリスク
  ・不安が強い患者(trisomy 21など)では考慮。
・IE予防
  ・極めてIEリスク高い患者のみ考慮。
  ・ルーチンでのIE予防のための抗生剤投与は必要ない。
・スタンダードモニタリング。
  ・Pulse oximetry、ECG、ABP、Capnography、体温計など。
  ・Pulse oximetryは特にACHD患者で有用。
     →SpO2低下は肺血流低下を示唆する。
     →すなわちR-Lシャントの増大を示唆する。
  ・しかしPulse oximetryはL-Rシャントの増大を感知できない。
     →体血流が著明に減少してもSaO2が維持されるため。
・CapnogramはR-Lシャント増大時にPaCO2との解離が増大する。
・CVライン
 ・Glenn、Fontan術後の患者はSVCのCVで血栓リスク高い。
 ・いずれにしろ輸液ラインから絶対にairを抜く。
・経食道心エコー(TEE)
 ・圧データ(CVP、LAP)のみでは循環影響因子の把握は困難。
  →TEEが有用
   ・心機能、volume status逆流の有無、血管圧迫の有無など)。
  →ただし、CHDのTEEに慣れている術者が行うべき。

・肺高血圧患者の麻酔
  ・特にEisenmenger syndrome患者
    →非心臓手術が絶対に必要な場合にのみ手術を行う。
  ・予後不良の予測因子
    →失神の既往、ES発症年齢、早い症状進行、
     上室性頻脈の合併、右房圧上昇、SpO2 < 85%、腎不全、
     重症右心不全、trisomy 21、
  ・肺血管抵抗を下げて、体血管抵抗も保つことが管理目標。
  ・肺血管抵抗を下げる
     ・肺血管抵抗増悪因子を防ぐ
        ・FiO2 up (通常1.0)
        ・Hyperventilation
        ・交感神経刺激の抑制
        ・通常体温維持
        ・胸腔内圧を低く保つ
        ・アシドーシスの補正
     ・クスリを使う
        ・PGE1(プロスタグランジンE1)
        ・PGI2(ベラプロストナトリウム)
        ・ニトログリセリン
        ・ニトロプルシド
        ・エンドセリン受容体拮抗薬
        ・PDE5阻害薬
        ・NO
  ・局所麻酔
    →体表の手術なら可能。
  ・脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔
    →体血管抵抗の減少
    →R-L Shuntが急激に増大するリスクあり。
  ・全身麻酔
    →High Risk患者では全身麻酔が好ましい。
    →呼吸管理(肺血管抵抗のcontrol)ができるため。
・Fontan循環患者の麻酔
  ・Fontan手術の歴史
  ・1990年代から成績向上:急性期死亡率1-2%
    →2012年現在、20歳前後となっている。
  ・Fontan循環の特徴
    ・右心室をバイパスしている。
    ・SVC、IVC血流は直接、受動的に、非拍動流としてPAへ。
  ・Fontan循環患者の麻酔目標 
    ・肺血管抵抗を減らし、肺血流を保つ。
    ・SaO2 90-95%を目安として維持する。
      →CSからの非酸素化血があるため100%にはならない。
   →preloadを保つ
     ・充分な輸液
     ・ただし拡張障害がベースにあるので注意。
   →肺血管抵抗を低く保つ
     ・可能なら自発管理
     ・呼吸回数を減らし、陽圧吸気時間を減らす。
     ・PEEPを避ける。
   →洞調率および心収縮力の維持
   →体血管抵抗を低く維持
     ・Milrinoneは有効である可能性。
  ・Fontan循環患者は術前合併症も多い。
    →上室性頻脈、拘束性肺障害、血栓合併症、肝機能異常など。      
  ・凝固亢進傾向、抗凝固傾向いずれも存在しうる。
  ・肝機能異常、蛋白喪失性胃腸症などの影響
  ・TEEは有用。
    →逆流やvolume statusの評価、導管狭窄の診断などに有効。
  ・症例報告
    ・ラパロ・・・症例報告はそれなりに。
    ・分離肺換気・・・PubmedではCase report1件のみ。
    ・帝王切開・・・症例報告が散見

・ACHDと妊娠・出産
  ・ACHD 90妊娠についての報告によれば、
    ・術前合併症として母体肺水腫 16.7%  遷延性不整脈 2.8%
    ・心臓関連有害事象を予測する独立危険因子
      → PV下心室の駆出率低下、重度PR、喫煙歴あり。
  ・なおACHDに限らず心疾患合併妊娠については、
    ・NYHA Ⅲ-Ⅳ、母体cyanosis、不整脈既往、肺血管疾患、
     心筋障害(EF<40%)、左心狭窄病変
         →心臓関連事象の独立した危険因子。
  ・新生児の転帰
    ・早産 20.8%、脳室内出血 1.4%、
     子宮内胎児死亡 2.8%、新生児死亡 1.4%
  ・新生児の有害事象を予測する危険因子
    →動脈弁下心室の流出路圧較差>30mmHg
  ・Cyanosis性心疾患では母体SpO2<85%で児の予後不良。
  ・Eisenmenger症候群では母体死亡危険性30-50%。
    →原則として妊娠出産は禁忌。
    →どうしても希望する場合は硬膜外無痛分娩
       →with NO吸入の報告も。
    ・いかなる麻酔方法を選択するか。



  11月から麻酔科に来てくれた研修医Y先生