2012年11月16日金曜日

周術期輸液について

初期研修医勉強会  担当:Y先生

「周術期輸液について」

・体重の約60%が水分(体液)
・細胞内液40%、細胞外液20%
       →細胞間質15%+血漿量5%
・総体液量は全体重における筋肉量の比率で変化する
・水分は筋内にあり、脂肪にはない
  →年齢や肥満度で体液量は変化する
・女性は男性に比べて脂肪の割合が多いため水分量は少ない
・周術期の輸液、輸血の目的
 →血管内volumeとstroke volumeを最適化するため
 →体液の恒常性を保つため
・体液の恒常性
 →体内外の水の出入りは複雑
   ・IN:食事、飲水から電解質、栄養を取り入れる
   ・OUT:尿、便、肺、皮膚、不感蒸泄、発汗
・体内での水分移動
 ・消化管:消化液の分泌、再吸収
 ・腎臓:糸球体で原尿を生成、尿細管で再吸収
・腎
  ・腎から排泄される溶質:1日10mOsm/kg
  ・体重60㎏だと600mOsmを排泄
  ・腎の最大濃縮力は1200mOsm/L
     →600÷1200=0.5L=500mlは尿量必要
・便中水分:100~200ml
  →下痢や嘔吐があると、その分水も電解質も出ていく
  ・胆汁や大腸液は高電解質。
  ・ドレナージ量が多ければ補正は必要。
・呼吸器、皮膚
  ・不感蒸泄:皮膚、呼気からの喪失量の和
  ・体温が1℃上昇するごとに15%増量
  ・呼気から30%喪失
    →全身麻酔では人工呼吸管理・・・
    →100%加湿や人工鼻を付けていれば不感蒸泄量は
     無視できる。
   ・ただしhyperventilationは避ける
・代謝水
  ・栄養素(炭水化物、蛋白質、脂質)の代謝で生じる
  ・400kcalの食事で50ml、1日2400kcalで300ml程度
・アンギオテンシンは血管収縮作用、ANPは血管拡張作用
  →互いに密接な関係あり
・ANPはレニン分泌を抑制
  →アンギオテンシンを介するアルドステロン分泌も抑制。
  →アルドステロン作用も抑制する
・組織間の水の移動
  ・細胞内液、細胞外液(組織間液、血漿)
  ・各コンパートメント間で水、電解質は分布が一定となる。
     ・半透膜
     ・浸透圧
     ・Na-K ATPase
・周術期には恒常性が乱れる.
  ・術前:絶飲食、嘔吐、胃液吸引、下痢、下剤投与など
  ・術中:麻酔の影響、手術自体の影響など
    ・全身麻酔導入時の循環血液量の相対的減少
      →体血管抵抗減少、心機能抑制
    ・手術による出血の影響
    ・サードスペースの影響
  ・術後:ドレーンチューブによるドレナージ
     →炎症や感染症の影響
・サードスペース
   ・非機能的細胞外液
   ・細胞外液との交通はあるが平衡関係にない
   ・術野周囲の浮腫、液貯留によるもの
   ・腹腔臓器手術後に多い
 ・サードスペースの存在を疑う状況とは?
   ・手術部位や周囲の腫脹
   ・輸液をしても血圧、尿量の低下がある
 ・refillingの際には?
  ・サードスペースの水が戻ってくる。
  ・輸液量過剰や心疾患があれば心不全をきたす可能性。
   →術後の輸液量は必要最小限に

・輸液の種類
 ・生理食塩水
  ・浸透圧はやや高い
  ・血漿よりもNa濃度は高い。
    ・塩素濃度はかなり高い。
     →大量に入れると高Cl性アシドーシスになりうる
 ・乳酸リンゲル液
  ・血漿中の濃度に近いK、Caを含む
  ・Naはやや低い
  ・乳酸の存在のため、塩素濃度も削減
  ・高度肝機能障害、ショック、外傷の場合。
    →乳酸Na代謝が滞る。
    →高乳酸血症のリスクあるかも。
 ・アルブミン溶液
  ・ヒト血清アルブミンを生理食塩水に溶解したもの。
  ・5%と25%のものがある。。
    ・5%は血漿と同量のAlbと浸透圧
       →70%は血管内
    ・25%は血漿よりはるかに高い浸透圧
       →間質から水を移動させまくる
 ・HES
  ・ヒドロキシエチルデンプン(HES)
  ・デンプンの重合体、生食にHESを含む製剤
  ・膠質浸透圧は5%Albより高いため血漿量の増加も多い
  ・デンプン→小さな断片に分解→腎臓から排泄
  ・副作用
    ・凝固因子のⅦ因子、vWFの抑制、血小板粘着能の障害
      →出血傾向を起こす
      →血小板減少患者には原則禁忌
    ・腎障害や脱水状態の患者は腎不全を起こす可能性あり

・輸液量について
  ・色々なstrategyが研究されている
  ・Liberal fluid Therapy
    →尿量やthird spaceへのlossを考慮に入れた輸液。
      ・腹部のopeなら10-15ml/㎏/hの晶質液を入れる
    →多すぎて、術後の 体重が3-6㎏増加!
    →腸管浮腫、縫合不全や肺水腫の原因に
    →予後や入院期間に影響が出る
・Restrictive fluid therapy
  ・サードスペースへの補充を除外
  ・手術で喪失する分だけ補う。
  ・術後合併症(腹膜炎、縫合不全など)は?
    ・liberal protocol群で多い。
    ・入院期間もrestrictive protocol群の方が短い。
    ・術後の腎機能(Crea値)は両群で差なし
      →術中尿量の減少は術後の腎機能に大きく関係せず。
    ・尿量低下はある程度の時間許容できる
・goal directed therapy
  ・適切なstroke volumeを維持して組織還流量を適正に保つ
  ・循環「動態」パラメーターを指標
 ・実際には?
  ・導入時負荷
  ・術前脱水に依存。晶質液をボーラスで投与。
  ・制限的晶質液投与量:1.5~2ml/kg /h
  ・膠質液:goal未達成で輸液反応性がある場合。
    →200~250mlの膠質液によるfluid challenge
  ・HES製剤を使う
  ・欧米では分子量13万のHES製剤使用されている。
    →日本では7万のHES製剤を使用。
  ・Goalは、1回拍出量と静脈血酸素飽和度
    →酸素供給量、酸素需要量を表す
  ・Goalの指標
    ・ScvO2:中心静脈血酸素飽和度
      →75%以上をgoalとした報告あり
    ・PVI:脈派変動指数
       →13%未満をgoalとした報告あり



            PICC挿入