2016年11月23日水曜日

術中よく使う抗生剤を知ろう

麻酔科勉強会 担当:I先生

「術中よく使う抗生剤を知ろう」

・SSI(Surgical Site Infection)
・麻酔科医が術中にできるSSI対策
 ・適切な予防的抗菌薬投与
 ・術中血糖管理
 ・適切な組織酸素分圧の維持
・抗菌薬決定に関わる5項目
 ・背景、臓器、微生物、抗菌薬、投与期間
・細菌の分類を整理しておくと・・・
 ・グラム陽性球菌(GPC)
   ①黄色ブドウ球菌②腸球菌③その他
 ・グラム陰性桿菌(GNR)
   ①腸内細菌群②緑膿菌③その他
 ・嫌気性菌
 ・耐性菌
   ①MRSA②ESBL産生菌など

・第1世代:CEZ(セファゾリン)
 ・CEZの特徴
   ・黄色ブドウ球菌専用の抗菌薬!
   ・本当は連鎖球菌や肺炎球菌などのGPCを広くカバー
   ・実はGNRもカバー(大腸菌、クレブシエラなど)
 ・なぜCEZを黄ブ菌にのみ使うのか?
   ・海外には「ナフシリン」などの抗黄ブ菌ペニシリンが存在。
     →日本にはありません・・・
   ・病原性の強い黄ブ菌を抑える次の候補がCEZ
     →だから他には使いたくない!(=”温存”の思想)
   ・髄液移行性がないので注意!
    →中枢神経感染症には使えない。
    →髄膜炎の治療には第3世代以降を使う。
・第2世代:CTM(パンスポリン)
 ・CTMの特徴
   ・第1世代に加えてグラム陰性菌のカバーが広がる
    ・GNR:大腸菌、クレブシエラ、プロテウス
    ・GNC:インフルエンザ菌)、モラクセラ-カタラーリス
 ・GPCに対する抗菌活性は第1世代・CEZに劣る
 ・日本にしかない抗菌薬
   →サンフォードではCefuroximeを参考に。
 ・単純性尿路感染症の初期治療で大活躍。
・第2世代:CMZ(セフメタゾール)
 ・CMZの特徴
   ・腹腔内嫌気性菌をカバーする
    =腹腔内感染症に有用!―ぜひ”温存”を
   ・注意:腸球菌にはセフェム全世代とも無効!
 ・有名な副作用
   ①Wfとの併用でPT延長、②ジスルフィラム様作用
 ・日本にしかない抗菌薬
   →サンフォードではCefotetanやCefoxitinを参考に。
 ・CMZの適応疾患
  ・腹腔内感染症全般
    ・急性胆管炎(ドレナージ併用必須)
  ・虫垂炎・憩室炎
  ・胆嚢炎(手術待機中)
  ・二次性腹膜炎(消化管穿孔)
  ・骨盤内炎症性疾患(PID)
    Q.腹腔内感染症に腸球菌カバーはルーチンでいるか?
    A. IDSAguidelineでは「不要」と記載している。
     →CMZで十分!
  ・下部消化管手術の周術期予防的抗菌薬
・VCM(バンコマイシン)
 ・VCMの特徴
  ・全てのGPCに有効―ぜひ”温存”を!
  ・耐性GPCの第1選択薬・・・3つのtarget
    ①メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
    ②ABPC耐性の腸球菌
     ・主にEnterococcus faecium (腸球菌の約20%)
    ③ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
     ・髄膜炎の場合のみ
 ・VCMの適応疾患
   ①MRSAを想定するとき
    ・GPC cluster菌血症の初期治療
    ・重症でMSSAかMRSAか分からないときの初期治療
    ・人工物感染の初期治療
      ・ちなみにブドウ球菌が好きなものは?
       ・皮膚→蜂窩織炎
       ・血流→カテーテル関連血流感染症(CRBSI)
           感染性心内膜炎
       ・骨→椎体椎間板炎、関節炎
       ・膿瘍→硬膜外膿瘍
       ・人工物
         →弁、関節、ペースメーカー、VPシャント
   ②腸球菌を想定するとき
    ・GPC chain菌血症の初期治療
    ・腸球菌菌血症の初期治療
     →「腸球菌が血培から生える」=超重症のサイン
    ・尿路感染症
    ・胆道感染症
    ・感染性心内膜炎
    ・CRBSI・・



2016年11月22日火曜日

高乳酸血症の鑑別

ICU勉強会 担当:O先生

「高乳酸血症の鑑別」

・乳酸とは
 ・ピルビン酸
  =細胞質におけるブドウ糖解糖の最終産物
    →LDHによる脱水素
    →乳酸の産生。
・乳酸の多くは、肝臓に取り込まれ代謝される。
・バイオマーカーとしての乳酸
  ・ショック状態において重症化初期の乳酸値が4mmol/L以上
    →72時間後の死亡率上昇に関連する。
  ・24時間以内に乳酸値が正常範囲内に戻れば死亡率は低下する。
・高乳酸血症(L-Lactate)の原因
  ・ピルビン酸の産生増加
    ・糖原病、褐色細胞腫、β刺激、敗血症(SIRS)
  ・ピルビン酸から乳酸への代謝シフト
    ・組織低酸素
      ・全身性痙攣、激しい運動、シバリング、重症喘息発作
       ショック、心停止、重症低酸素血症
    ・ミトコンドリアでの代謝異常
      ・敗血症(SIRS)、チアミン欠乏、DKA、Rey's 症候群
  ・薬剤性
     ・抗ウイルス薬、メトホルミン、プロピレングリコール、
      プロポフォールなど
・乳酸代謝障害
     ・低灌流、アルコール依存症、肝障害
  ・メカニズム不明
     ・特発性、悪性腫瘍、低血糖
・D-乳酸について
  ・乳酸にはL-乳酸とD-乳酸が存在。
    →両者は光学異性体の関係にある。
  ・臨床の現場で遭遇する乳酸はL-乳酸
  ・D-乳酸は細菌により産生されることが多い。
  ・稀にD-乳酸がアシドーシスの原因となる。
・D-乳酸アシドーシスを考慮するのは?
  ①短腸症候群
     ・腸管での吸収不全が背景にある患者
     ・吸収されなかったグルコースが腸内細菌による分解。
       →細菌から大量のD-乳酸が産生される。
       →これらが大腸で吸収されることで生じる。  
  ②プロピレングリコールの投与
     ・プロピレングリコール 
       →ロラゼパム、ジアゼパムの溶媒として使用される。
     ・プロピレングリコールの代謝産物の中にD-乳酸あり。
  ③ 糖尿病性ケトアシドーシス
     ・DKA患者
       →アセトンやジヒドロキシアセトンが産生される。    
       →代謝産物であるmethylglyoxalからD-乳酸産生。
・D-乳酸アシドーシスの診断
  ・臨床症状+患者背景から疑う。
    ・何らかの意識障害や構音障害が最も頻度が多い症状。
    ・検査から迅速に診断することは困難


ロボット支援下前立腺手術にて

2016年11月21日月曜日

回収血輸血

麻酔科勉強会 担当:M先生

「回収血輸血」

・回収血の利点
  ・術中輸血量の減少
  ・輸血に伴う有害事象の回避
    ・GVHD、輸血に伴う免疫修飾反応の回避など
  ・同種輸血よりもコストが安い
    ・ちなみにRBC 2単位:16,333円。
  ・同種輸血よりも速やかに投与できる。
    ・交差試験を行う必要がない。
・回収血の適応は?
  →開心術、大血管手術並びにその他無菌手術。
  ・細菌あるいは悪性腫瘍細胞の混入がある場合は禁忌。
  ・出血量が600ml以上(小児では10ml/kg以上)で保険算定。
・ちなみにup to dateでは?
  ・出血1,000mlで適応。
  ・循環血液量20%以上の出血が予想される症例。
  ・術前Hbが低い症例。
  ・出血の危険性が高い症例。
  ・多くの不規則抗体を持つ症例。
  ・血液型がRh(-)の症例。
  ・感染、悪性腫瘍についてはCase by Case。
  ・妊婦は基本的に安全。
・感染について
  ・2015年のsystematic review
    ・外傷緊急手術において回収血vs回収血なし
    ・術後のsepsisの発生に有意差なし。
    ・Cost、死亡率はやや低下したが有意差なし。
     ・術後3時間の輸血量は減少。
  ・要因として・・・
    ・術前のSSI予防の抗生剤投与。
    ・回収血の処理において98%の細菌は除去される。
    ・IEに関しては調べきれず。
・悪性腫瘍について
  ・前立腺がん、肝細胞癌、子宮がん、消化器腫瘍を対象とした
   メタアナリシスでは再発率に差はなし。
  ・肝細胞癌、前立腺がんの一部では再発が早かったという報告も。
  ・血行性転移の早い腫瘍ではリスクがあるかも。
  ・白血球除去フィルターの使用により腫瘍を除去できる可能性。
・妊婦について
  ・羊水塞栓の可能性は??
    ・回収血を処理し洗浄する場合リスクは低い。
    ・羊水を吸引する場合は注意。
    ・ただし産科手術が禁忌というわけではない。
    ・癒着胎盤などの大量出血予想症例では使用を考慮。
    ・血液型の問題。
      →児Rh(+)、母Rh(-)の場合は感作される。
・回収血に伴う事象
  ・凝固因子の欠乏
    →凝固成分は除去されている。
  ・輸液過多、TACO。
  ・空気塞栓
  ・脂肪塞栓
    →40um以下の成分は濾過できない。
  ・鉄過剰
  ・電解質異常

 

2016年11月7日月曜日

利尿薬の使い方

ICU勉強会  担当:A先生

「利尿薬の使い方」

・そもそも利尿薬とは???
  →塩を体の外に出す薬(水利尿は例外)
・利尿薬の作用部位
  ・近医尿細管での再吸収60%
  →近位尿細管に作用する薬が最強では?
    →ヘンレ上行脚以降のNa再吸収量は
     管腔液流量に比例して増える。
    →近位尿細管でNa再吸収抑制しても
     下流で再吸収されてしまう。
    →利尿薬抵抗性の所以。
・塩分感受性と非感受性の話題。
・利尿薬が働くには??
  →そもそも尿細管に たどり着かないといけない。
  ・利尿薬はアルブミンなどと結合。
  ・その大きさから糸球体では濾過されず、
   近位尿細管細胞に取り込まれ管腔内に分泌。
  ※スピロノラクトンは唯一分泌されずに
   血管側から 集合管に入りアルドステロン受容体に作用。
・利尿薬が効かない・・・
尿細管にたどりつくまでの どこで障害が生じてもおこる 。
 ・腸管からの吸収不良
 ・腎血漿流量の低下
 ・低アルブミン血症
 ・GFR低下
 ・NSAID使用
 ・短期間作用型利尿薬投与のリバウンド
 ・・・
・利尿薬の個性について
 ・ループ利尿薬
   ・『最強』…?
   ・尿細管側からTALHにあるNKCC2を阻害。
   ・腎直血管血流量を増加
     →腎髄質の浸透圧勾配が崩れ尿濃縮を抑制する。
   ・心不全、AKIにおいて予後改善は示されていない。
  ・Braking phenomenon
      →近位尿細管より遠位に達するNaが増加し Na再吸収が増加。
    ・フロセミド朝1回投与
       →6時間は強力な利尿効果を発揮する。
       →その後18時間は減弱する。
    ・初日投与時よりも2日目以降は利尿効果が減少。
    ・連続投与で遠位尿細管の肥大やNKCC2の活性化が
     起こることが報告されている。
    →ループ利尿薬を急に中止すると浮腫が増悪する。
    ・心不全患者における利尿薬抵抗性
      ・腎不全では尿細管への分泌が低下しており
       同じ効果を得るには高用量が必要。
      ・心不全ではRAA系亢進によりNa再吸収が亢進している。
        →利尿薬の最大効果が減弱する。
     ・Braking phenomenonへの対応
    ・容量の増加
    ・投与方法の変更
      経口→iv、1回/day→2回/day、間欠投与→持続投与など。
    ・他のループ利尿薬への変更
      →長時間作用型のアゾセミド、トラセミドへ変更。
      →フロセミドと比し心不全患者におけるイベント抑制が示唆。
    ・その他の利尿薬との併用 サイアザイド,hANP等
 ・サイアザイド
  ・『利尿薬の祖』
  ・尿細管腔へ分泌され遠位尿細管のNa/Cl共輸送体を阻害。
  ・Ca拮抗薬、ACE阻害薬と比較してサイアザイドは
   心血管イベント/死亡で遜色なくコスト面でも使いやすい。
  ・単独での効果は弱め
    ・低用量で効果が飽和。
     増量しても副作用が増えるだけ。
    ・GFR<20ml/min, Cre>2.0mg/dLでは無効。
    ・Ca依存性Kチャネルを活性化し、
     血管平滑筋を弛緩させることによる降圧作用も。
 ・アルドステロン拮抗薬
  ・『付加価値』
  ・尿細管から分泌されず、集合管でアルドステロン受容体に
   拮抗しNa再吸収(ENaC)を阻害。
  ・作用発現まで3-7日程度かかるため純粋な利尿薬としてよりは
   RAA系抑制による心不全での予後改善を期待して投与するイメージ。
  ・アルダクトンを行儀よくしたのがセララ。
   セララは選択的アルドステロン受容体拮抗薬。
  ・HFrEF患者でのエビデンスが蓄積されている。
     ・EF<35%, NYHAⅢ-Ⅳを呈する患者において、
      スピロノラクトンを追加した群で死亡率が30%低下、
      再入院率が35%低下した。
     ・EF<30%, NYHAⅡを呈する患者において、
      心血管死亡/入院リスクがエプレレノンを追加した群で37%低下した。  
     ・EF<40%で心不全を合併したACS患者において、
      エプレレノンを追加した群で死亡率が15%低下した。
  ・HFpEFでの予後改善効果は不明
     ・心不全を有さないSTEMI患者において、
      エプレレノンを24時間以内に開始した群で
      心血管死亡/入院を含めた複合エンドポイントが抑制。
     ・HFpEF患者においてスピロノラクトン投与群は
      心不全による再入院を有意に抑制した。
      WRFや高K血症などの有害事象は有意に増加した。
 ・hANP
  ・『Cool Japan』
  ・ヒトの心房から出ているANPを合成したもの。
  ・日本でこれだけ使われているのはANP,BNP,CNPも
   その受容体もすべて日本人が発見したため(?)
  ・cGMP活性化を通じた心血管系に対する多様な作用。
   血管拡張、RAA系抑制、endothelin抑制、
   利尿作用、交感神経系抑制などなど。
  ・ループ利尿薬と違い利尿作用は用量依存性でない。
  ・高用量使用で低血圧による腎還流圧低下が生じないよう注意が必要。
   wet & warmで使いやすい。
  ・ATTEND registryでは急性心不全の約70%でhANPが使用されていた。
  ・Nesitirideの失われた10年
    ・ヒトBNPを合成したもの。
      →海外で積極的に使われていたが
       予後改善効果が否定され急速に下火に…。
  ・hANPの国内エビデンスは蓄積されている。
    ・日本国内65施設1216例の心筋梗塞患者において、
     低用量ハンプの3日間投与により梗塞サイズ縮小(14.7%)
     左室駆出率改善(5.1%)、慢性期左心機能改善により
     複合エンドポイントの 発生リスク低減。
    ・NYHA3−4を呈する急性心不全患者8施設49例で
     低用量ハンプの3日間投与。
     追跡期間18ヶ月での複合エンドポイント
    (総死亡+心不全による再入院)はハンプ投与群で有意に低かった。
 ・トルバプタン
  ・『待望の作用機序』
  ・腎集合管のV2受容体を阻害しAQP2発現を抑制。
  ・尿細管分泌を必要とせず腎機能に左右されない。
  ・自由水のみを排泄する点で他の利尿薬と異なる。
  ・腎髄質の高浸透圧が保たれ
   集合管での水再吸収が 活発に行われている場合に効果を発揮。
  ・ループの長期使用後に使用しても効果が出にくい。
  ・長期的な予後改善効果は不明。
   しかし・・・
     →体液貯留が多いほど術後のICUでの滞在日数が延長する。
     →トルバプタンは従来の利尿薬と全く別の機序で作用するため、
      現行薬剤に反応しない場合に効果が期待できる。
     →ちなみにADPKDに対してはトルバプタンが
      1st lineに位置づけられている。(cAMP阻害作用)
  ・注意点は重篤な肝機能障害、高Na血症。
     →必ず入院中に少量から投与開始。口渇時には飲水を。


スタイレットスコープで挿管

2016年10月27日木曜日

輸液蘇生の6つの原則

ICU勉強会  担当:K先生

「輸液蘇生の6つの原則」

先月号のCCM、Mr. Marik氏より。

1・輸液反応性が大事!輸液蘇生の目的を知るべし。
    ・輸液蘇生の目的はSVの増加!!これに尽きる。
   ・SVが増加するためには以下の2つの条件が揃わなければならない。
  ①CVPが上がるよりもstressed volume (MCFP)が増え、
   結果としてVenous returnが増えること
  ②両心室の機能がFrank-Starling曲線の上行脚にいること

2・臨床所見、胸部レントゲン、CVP、エコーで輸液反応性を評価すべきでない。
   ・低血圧や頻脈、脈圧の低下、CRTの延長など
     →不適切な組織灌流を反映するが
      volume statusや輸液反応性を決定することはできない。
   ・CVPの変化やIVCの変化、MAPの変化など
     →輸液反応性の指標としては不適切である。
   ・心エコーでのVTI
     →測定手技の習熟度の問題と再現性の問題もあり適さない。
  → やっぱりSVモニタリング!

3・Stroke volumeをモニターしながらの下肢挙上テストと
  Fluid challengeが輸液反応性を見る唯一の正しい方法である。

4・輸液反応性の効果は短命と知るべし。
   ・Fluid challenge (200-500mL)の効果はわずかで一時的なものである。
   ・30min-1hrもすれば元に戻る。
  →低血圧、ショック、乏尿の場合の治療戦略として
   Fluid challengeは不十分であることが多い。

5・輸液反応性があるからといって輸液をしなければならないわけではない。
  ・健康成人のほとんどがFrank-Starling曲線の上行脚にいる。
  ・重症患者をFrank-Starling曲線のトップを目指す必要はない。
  ・fluid challengeによる血行動態に及ぼす利点が
   プラスバランスとして体液を蓄える欠点を上回る時だけである。

6・CVP高値は臓器灌流障害の原因となる。
  ・MAP-CVPが臓器灌流を規定する。
  ・SSCGでは初期輸液で8mmHgを目指すよう言われているが
   CVP>8mmHgはAKIリスクである。


麻酔科ローテーション研修医Drへのオリエンテーション

虚血性心疾患患者の麻酔管理

麻酔科勉強会  担当:M先生

「虚血性心疾患患者の麻酔管理」

・リスク評価
  ・1999年のLeeらの報告では50歳以上の待機的手術患者
  ・High-risk seurgery(AAA 開腹など)
  ・虚血性心疾患の既往
  ・心不全の既往
  ・インスリン使用の糖尿病
  ・Cre>2.0
  ・術中MACEが0.5%(0-2点)、1.3%(4)、4%(5)、9%(5)
・2014年AHA周術期ガイドラインでは?
  ・Low risk(MACE1%)とelevated riskに分類
  ・MACEの計算は専用サイトで。
  ・1%以下でもRCRI2点以上はelevated risk
    →いずれにせよ何らかのスコア化は有用。
・ハイリスク群では?
 ・運動耐用能力を調べる
  ・METs
   →>10:excellent 7-10:good,4-7:moderate,<4:poor
  ・Dukes Activity Status Index
・スコア化されていないがMACEに影響する併存疾患
  ・7日以内のACSもしくは1か月以内のMI
  ・Canada calssⅢ以上のuAP
  ・非代償性心不全
  ・Severe AS
  ・不整脈:高度房室ブロックなど
  ・高齢
  ・肺高血圧
・術前検査
 ・心電図
   →虚血性心疾患患者のroutine検査は有用(Ⅱa)
   →冠動脈疾患の既往が不明な場合も考慮してよい(Ⅱb)
 ・左室機能検査
   →原因不明の労作時息切れの患者
   →LVEF<30 p="">・術前CAGの適応
  ・AHA
    ・ルーチンの検査は不要
  ・日本
    ・術後心不全管理を要求される患者
    ・冠動脈再建を先行させるかの精査
・術前からの内服薬について
 ・βブロッカー
   ・継続か否か
    →POISE studyではβの内服で心臓イベントは抑制、
     脳卒中および死亡率は増加
    →術中の血圧低下、徐脈の関与の関与
    →維持量の患者は原則継続
    →RCRI>2のhigh risk群ではより効果は高い
   ・新規の導入
     →新規の導入はlow risk患者において推奨されない。
 ・ACEi/ARB
   ・現時点では継続によるbenefitは示されず
   ・術中低血圧が多かったがoutcomeには影響せず。
   ・休薬が必ずしも必要ではない
   ・休薬する場合は可能な限り早期の再開
 ・αブロッカー
   ・心イベントの予防効果なし
   ・術中低血圧イベント多く基本休
 ・ニトロ製剤
   ・予防的投与における虚血予防効果は認めていない。
 ・CCB
   ・虚血および頻脈の予防効果は一部論文であり。
   ・ルーチンでの投与は推奨されない。
   ・休薬の必要は指摘されず。
 ・スタチン
   ・スタチン内服は死亡率の低下あり。
   ・内服は継続
   ・ESCガイドラインでは2週間前からの内服も推奨
 ・アスピリン
   ・出血量は増加する
     →重篤な合併症をきたすほどの出血は有意差なし
   ・休薬によってmaceは3倍以上になるとの報告もあり。
   ・出血リスクが上回る場合を除いて継続を可能な限りおこなう。 
・周術期の虚血、梗塞を起こす病態は?
 ・需要の増大
 ・頻脈
 ・後負荷増大
 ・手術侵襲
 ・供給の低下
 ・還流圧の低下
 ・低酸素血症
 ・貧血
・術後モニタリング
 ・心電図
   →72時間以上の心電図のモニタリングは勧められず
 ・マーカー
   →上昇するタイミングは術後8-24時間がピーク




ハイリスク患者における抜管後の予防的HFNCvsNIV

ICU勉強会 担当:K先生

「ハイリスク患者における抜管後の予防的HFNCvsNIV」

・HFNCの研究
→比較対象が通常の「酸素療法」の場合と「NIV」の場合の2種類。
→抜管後の「予防」の場合と、呼吸不全の「治療」の場合の2種類。
  ・HFNCでは「予防」に関する研究が多い?
・予防的NIV
  ・これまでに2つのメタアナリシスで有効性が示されている。
   →ある程度のエビデンスはあると捉えて良いだろう。
  ・ただしメタアナリシスはないような。
  →ハイリスク患者での予防という意味ではコンセンサスを得ている。
・予防的HFNC
  ・2014年のAJRCCM、2016年のJAMA
    ・それぞれICU一般ローリスク患者を対象
    ・HFNCは酸素療法と比較して
     酸素化の維持や再挿管率の低下などを示した。
  ・2015年のJAMA
    ・心外術後患者の術後低酸素に対するNIVとの比較での
     非劣勢を示した。
  ・同じく2015年のICM
    ・肥満患者で通常酸素療法と比較して有効性を示せなかった。
・ハイリスク患者の抜管後再挿管「予防」に対しての「NIVとの比較」は?
 →スペインの3つのICUで行われたRCT(PROBE法)、非劣性試験。
  P:12時間以上挿管された患者で抜管が予定されたハイリスク患者
  I:HFNC群290名(抜管後24時間使用)
  C:NIV群314名(抜管後24時間使用)
  O:Primary;72時間以内の再挿管率
 →結果
  ・Primary:再挿管率はNIV群19.1% vs. HFNC群22.8%と非劣性
  ・再挿管理由が非呼吸関連のものを除いても同様の結果
  ・実際にNIVを装着した時間は14時間(IQR 8-23)
   18時間以上装着できなかったものが40%
  ・Secondary:抜管後呼吸不全率とその理由、再挿管理由、
   再挿管までの時間、ICU/入院期間、死亡などに有意差なし
・治療的HFNC
  ・2015年のNEJMに報告あり。
  ・2015年のICMでHFNC粘りすぎたら予後悪いという報告もあり。)
 →治療的HFNCの立ち位置はまだ定まってはいない。
 →治療的HFNCを通常の酸素療法とNIVとどう使い分けるのかはまだわからない。


GICU回診

2016年9月12日月曜日

関西支部学術集会

9月3日、大阪国際交流センターにて、
日本麻酔科学会・第62回関西支部学術集会が開催されました。
当院からは6名の先生が演題発表を行いました。








9月の日本心臓血管麻酔学会においても、
当院から多数の演題を発表する予定です。
専攻医Drの学術活動支援にもさらに力を入れていきたいと思います。

術前検査とASA-PS

初期研修医勉強会  担当:S先生

「術前検査とASA-PS」

・麻酔科ローテーション中の疑問
 →術前検査はどのくらい役に立っているのか。

・術前検査
  →病歴、身体所見、周術期のリスク、
   その他臨床的判断に基いて行う。
  ・白内障手術を行う健康な患者に術前検査は不要
 ・各種検査
  ・心電図
    →心血管系合併症や症状のある患者に。
  ・胸部X線
    →新たな/不安定な心肺病変の症状・所見がある場合に。
  ・CBC
    →出血イベントが予測される場合に。
  ・腎機能と電解質
    →腎不全患者とリスクのある症例に。
  ・血糖やHbA1c値
    →血糖値の異常がマネジメントを変えうる場合に。
  ・凝固検査
    →出血の病歴、抗凝固薬の服用、肝疾患等
     凝固異常のリスクがある患者に
重要なもの3つ・・・心電図、胸部Xp、CBC
 ・術前心電図
  ・異常が見つかったのは4.6〜31.7%
  ・マネジメントが変わったのは0〜2.2%
    ・当院の麻酔科管理症例数は6000件/年
    →12例はマネジメントが変わることになる。
  ・周術期心血管イベントリスク
    ・低リスク(<1 div="">
      →外来手術、乳癌、内視鏡、
       皮膚科、白内障
    ・中リスク(1-5%)
      →胸部、腹部、内頚動脈内膜剥離術、
       頭頸部、整形外科、前立腺
    ・高リスク(>5%) 
      →大動脈/大血管、末梢血管
  ・RCRI(Revised Cardiac Risk Index)を計算する。
 ・胸部Xp
  ・ルーチンで異常が見つかるのは10%
  ・マネジメントが変わるのは1.3%
  ・肺合併症のリスク因子
    ・COPD
    ・60歳以上
    ・ASA-PS 2以上
    ・低アルブミン⾎症
    ・緊急手術患者
    ・うっ血性心不全既往
    ・長時間手術
    ・頭頸部・上腹部手術
 ・CBC
  ・術前CBCで周術期に影響があった頻度:0.2%
  ・65歳以上で貧血や多血は術後30日以内の死亡率や
   心血管イベントと相関
・ASA-PS
  →患者の術前全身状態の分類
 ・ASA-PSの高さと死亡率に相関関係あり。
 ・ただしASA-PSから死亡率が予測されるわけではない。
 ・ASA-PSの問題点
   ・Inter-rater reliabilityの低さ
   ・年齢が考慮されていない
 ・ASA-PSだけでなく手術侵襲によるリスクの評価も必要



2016年8月6日土曜日

手術室の電気と放射線のお話

麻酔科勉強会 担当:Y先生

「手術室の電気と放射線のお話」

・手術室における電気のお話。
・手術室の電気トラブル
  ・感電、停電、漏電、Overload
・電位があるから電流が流れる。
  →患者を挟んで電位差が発生すれば感電リスクとなる。
・感電
  ・皮膚抵抗+体内抵抗に打ち勝って体内に電流が流れる。
    ・皮膚抵抗:1000-5000Ω
    ・体内抵抗:150-500Ω 
  ・特に心臓に通電した時が問題となる。
    →致死性不整脈を引き起こす恐れ
  ・MicroshockとMacroshock
    ・Microshock
      ・カテーテル等を介して体内に直接通電
      ・皮膚抵抗を越えなくてよいので小電流でも問題となる。
      ・0.1mAでもVFをきたすリスクがある。
      ・主に病院で問題となる感電
    ・Macroshock
            ・皮膚を介して感電、比較的大きな電流
      ・院外で一般的な感電
      ・皮膚抵抗は発汗により変化
      ・1mAで電気を感じる(最小感知電流)
      ・10-20mAで持続的筋収縮により離脱できなくなる。
       →離脱電流
  ・アース
   →医療機器をアースすることにより機器間の電位差をなくす。
   →感電を防ぐ。
  ・保護設置
    →患者が触れるすべての機器、露出金属を0.1Ω以下の導線で
        医用設置センタに1点集中接地することによって、
        すべての金属表面間の電位差を10 mV以下に抑える。
      →手術室の3点コンセントの下の穴がアース。
     ・アースピンは最も長くなっている。
       →最初にアースが入り、抜くときも最後まで残る。
・もしも地絡や感電などで大電流が流れると・・・
   →電流本幹のヒューズが飛んで施設全体が停電する可能性。
   →患者の生命に関わる医療機器を扱う病院では危険!!!
   →非接地配線方式の採用。
     ・絶縁トランスの使用
       →電磁誘導により電気的に隔離された二次回路を形成。
       →手術室は電気的に隔離(isolation)されている。
       →地絡によっても本線ののヒューズが飛ぶことはない。
     ・漏電監視モニターの使用
       ・機器に絶縁不良が、起こっていないか監視、警報する装置。
       ・2mA以上の漏れ電流が発生した場合は、
        ランプと警報音により危険状態を警告。
       ・もし絶縁監視警報が鳴ったら1つ1つ機器をコンセントから抜き、
        どの機器で警報が停止するかを確認する。
・停電時には???
  ・一般非常電源(白)
    →40秒以内に自家発電設備が電圧を確立。
  ・特別非常電源(当院では赤)
    →10秒以内に自家発電設備が電圧を確立。
  ・瞬時特別非常電源(当院では緑)
    →0.5秒以内に電池設備が電圧を確立、10分は持つ。
・ロードモニター
  ・各コンセントユニットは20Aまで。
  ・16Aを越えると警告が鳴る。
    ・ウォームタッチ、TEEは電力消費が非常に大きい。
      →タコ足配線禁忌!
  ・体表エコーも電力消費が大きい。できるだけ単独で。
  ・HOTLINEもタコ足配線は避けましょう。

・手術室における放射線のお話
 ・確率的影響と確定的影響
 ・Gy(グレイ)とSv(シーベルト)
 ・線量限度
   ・男性および妊娠の可能性、意思のない女性
     →5年で100mSv、1年で50mSv
   ・女性(妊娠予定がある方)
     →5年で100mSv、1年で50mSv、3カ月で5mSv
   ・女性(妊娠中)
     →妊娠予定のある女性の規則に加えて、
      妊娠の事実を知った時から出産までに
      内部被ばく限度1mSv, 腹部表面被ばく限度2mSv.
   ・目安として1.8mSv/月を越えて被ばくしてはならない。
 ・術後ポータブル写真撮影時にどれだけ離れればよいか。
   ・患者から2m離れると・・・
     →胸部単純:0.09uSv、腹部単純:0.52uSvを被ばく。
   ・通常、自然放射線は6.6uSv/day浴びている。
     →撮影時は2m離れればほぼ被ばくの影響は皆無。
 ・CT、透視、血管造影は大量に被ばくするので要注意。
   →必ずプロテクターを着用すること。
 ・X線透視時にはベッド下に光電管が来ることが多い。
   →放射線は下から上に向かって放射される。
   →そしてベッドや患者に反射して周囲に散らばる。
   →麻酔科医は主に下からの放射線を防御すべし。
 ・プロテクターの選定
   ・重いプロテクターと軽いプロテクター、どちらがよいか。
     ・0.25mmと0.35mmとで遮へい能力に有意差はない。
     ・重い防護衣を着用すると診療行為に対する集中力が
      低下したり腰痛の原因になる。
    →軽いプロテクターを選ぶべし。



アセトアミノフェン

麻酔科勉強会 担当:T先生

「アセトアミノフェン」

・アセトアミノフェンの歴史
  ・1877年、Morse(米)がはじめて合成
  ・1887年、von mering(独)が鎮痛薬として臨床使用
  ・1953年、処方薬として発売
   その後、忘れられる
  ・1940年代、アセトアミノフェンがアニリド系の代謝産物と判明
  ・1955年、小児用のTylenol発売
・作用機序
  →実はよくわかっていない・
   ・ペルオキシダーゼ阻害作用説
   ・AM404説
   ・Cox-3阻害作用説
・薬物動態
 ・IVもoralも投与直後以外は血漿中濃度の推移同様
 ・しかし、CSF中濃度(効果部位?)はIV, oral, rectalの順にピーク。
   →IV: 2h後, oral: 4h後, rectal: 6h後
   ・肝臓での初回通過効果の有無
   ・投与直後の急激な濃度上昇→濃度勾配によるCSFへの受動拡散
 ・坐薬は以外と時間かかる(便やpHの影響?)
・効果のほどは?
 ・術後痛に対する単回IV投与に関するメタアナリシス
   →4時間後も50%以上の鎮痛が得られているのは、
    アセトアミノフェン37% vs プラセボ 16%
    ・オピオイド使用量減少
    ・しかしオピオイド関連の副作用には有意差なし
・肝障害について
  ・CYP2E1による代謝産物NAPQI
    →グルタチオン抱合され排泄
    →グルタチオンが枯渇すると肝障害
  ・肝障害→炎症→さらなる肝障害?
  ・飲酒→CYP2E1誘導→NAPQI増加
  ・低栄養→グルタチオン不足
 ・150mg/kg以上で肝障害の可能性 350mg/kg以上で重篤な肝障害
 ・慢性肝疾患(肝硬変含む)でも4g/日までなら
  問題ないとする報告が多い。
   →14日以上投与する場合は2-3g/日にするべき。
 ・治療
   →活性炭、1h以内なら胃洗浄
    N-アセチルシステイン(グルタチオン前駆体)


  TAVI症例も増えてきました。

2016年6月16日木曜日

開心術後のCPR

ICU勉強会 担当:T先生

「開心術後の心肺蘇生」

・心肺停止の定義
  →心機能,肺機能のいずれか、または両方が停止状態
 ・心肺停止の判断は
   ①深昏睡
   ②自発呼吸消失
   ③頸動脈(乳児は上腕動脈)拍動消失
   ④心電図モニター上,心静止(asystole),心室細動(VF),
    無脈性心室頻拍(pulseless VT)、無脈性電気活動(PEA)
・開心術後の心肺停止
  ・CABGもしくはAVR後の心肺停止を解析したイギリスの報告では
   1999-2008年の7029例のうち108例(1.5%)が心肺停止
     ・心停止:86例(80%)、呼吸停止:13例(12%)
       心停止n=86のうち・・・
          ・VF/VT:70%
          ・Asystole:17%
          ・PEA:13%
              同じく心停止n=86のうち・・・
          ・心筋梗塞:53%
          ・心タンポナーデ/出血:24%
          ・ブロック:5%
          ・低K血症:6%
          ・原因不明:12%
       呼吸停止のn=13例のうち・・・
                    ・ARDS/COPD増悪:9例
          ・Stroke/narcosis(抜管後):4例
・心肺停止の時期は術当日が最も多い。
・蘇生方法
  →再開胸:52%, Bypass再建:16%
      再度bypass施行:6%, IABP:45%
・生存退院率は心停止で50%, 呼吸停止で69%
・ガイドラインあります。
  →EACTS guideline for resuscitation of a patient who arrests after cardiac surgery.
・開心術後CPRの注意点
  ・すぐには胸骨圧迫をしない
  ・VF/VTの場合にはまず除細動をする
  ・徐脈性不整脈から心停止となった場合はペーシングを
  ・ルーチンにアドレナリンは投与しない
  ・蘇生の可能性が低ければすぐに再開胸を
・気道・呼吸管理については・・・
  ・挿管されていたらFiO2=100%にしてPEEPをオフにする
  ・100%酸素のバッグバルブマスクに変えて
   挿管チューブの位置確認とカフ圧確認
  ・両側の胸郭運動、呼吸音確認(気胸血胸の評価)
  ・緊張性気胸が疑われたら第2肋間鎖骨中線に
   太いカニューレを留置
・CPAの確認
  ・まず頸動脈を触れる(10秒以内)
  ・その間にA lineやCVP、肺動脈圧PAPなどを確認する
  ・頸動脈も触れず波形が出ていなければ
   CPAとして人を集めて蘇生開始
  ・いずれかがある場合はNBPなども確認
・胸骨圧迫前に
  ・VF/pulseless VT
     →まずは心拍再開するまで3回DCを行う
     →心拍再開しなければ胸骨圧迫を行う
     →アミオダロン300mgをCVから静注
     →緊急再開胸の準備をしながら
      2分ごとのCPRとDCを継続する
  ・Brady cardia / asystole
     →心外膜ペーシングがあればすぐに
      DDDでbpm90にて最大出力にてpacingを行う
      (なければ経皮ペーシングを)
     →1分間で効果なしor1分以内にpacingできない場合は
      胸骨圧迫を開始する
     →可及的にアトロピン3mg投与を考慮する
          →緊急再開胸までCPR継続
  ・PEA
     →pacingをしている場合は
      VF誘発の可能性があるので中止する
     →緊急再開胸までCPRを行う
・胸骨圧迫を直ちには行わない理由
  ・2分以内に除細動すると生存が増えるという報告が多い
  ・胸部術後の胸骨圧迫による心損傷が多数報告されている
・ペーシングについて
  ・Pacingの有用性を示した報告はない
  ・侵襲性は低い
   →心停止、重度の徐脈に対してはまず試みるべきとの推奨
・アドレナリンについて
  ・心臓手術後の心停止にアドレナリンの有用性を示す研究はない
  ・一般的な心停止に対するアドレナリンの有用性は
   動物実験レベルのものしかない
  ・自己心拍再開後に重度の高血圧で大量に失血して
   心停止になった報告がある
   →可逆的な原因があったときに
    重度の高血圧をきたすリスクがある
 →アドレナリンのルーチンでの使用を推奨しない
 →0.1-0.3㎎静注を推奨
・再開胸について
  ・胸骨正中切開後の患者は再開胸が容易である
  ・心停止後10分以内に開胸した方が
   生存率が高かったとの報告がある(48% vs 12%)
  ・EACTSでもCPRが5~10分以上必要であると予測される場合は
      適応になるとしている
  ・術後10日は癒着が形成されないため再開胸を推奨している








2016年4月30日土曜日

AHA CPR Guidelines 2015

初期研修医勉強会  担当:M先生

「AHA CPR GUIDELINES 2015」

・AHA CPR GUIDELINES 2010からの主な変更点
  ・EtCO2モニタリング下CPRによる予後予測
  ・CPR中バソプレシン単独投与をアルゴリズムから削除
  ・アドレナリン投与について
  ・入院患者心停止におけるステロイド、バソプレシン、
   アドレナリン併用治療について
  ・ECPRの使用について
・CPRの質をモニタリングすること
  ・4つのモニタリング。
    →EtCO2、冠動脈圧、動脈圧(拡張期、収縮期)、ScvO2
   →CPR中の心拍出量と心筋血流量とが相関。
  ・これら数値上昇はROSCの良い指標になる。
  ・ROSCとETCO2の関連
    ・Retrospective case control study (チェコ)
     ・単施設で院外心停止症例108名を対象。
     ・ROSCとCO2上昇関連性を調べた。
      →ROSC群ほうがCO2平均値が優位に高かった。
      →ROSC前後でCO2値平均9.95mmHgの差があった。
    ・蘇生失敗を予測する。
      →EtCO2が20分間の蘇生努力後に10mmHg以下である場合、
       ROSC及び生存の可能性が極めて低かった。
      →交絡因子が存在する可能性や, 症例数の少なさが問題。
     ・上記の内容を蘇生努力を中止する時期を決定する集学的アプローチの
      一つとして考慮して良いが、単独で用いるべきではない。
・バソプレッシン
  ・生存入院率、自己心拍再開率、生存退院率、一年生存率、
   退院時神経学的機能改善に関して有意差は認められなかった。
   →アドレナリン単剤と比較しバソプレシンの有効性認められず。
   →CPR中バソプレシン単独投与をアルゴリズムから削除。
・アドレナリンの投与について
  ・ショック可能リズム群
     →アドレナリン投与しない群でROSC率、予後、
      神経学的転帰が良い。
     →アドレナリン投与群ではROSC率、予後は良いが、
      神経学的転帰は変化なし。
  ・非ショック可能群
     →アドレナリン投与群では病院前ROSC率が上昇、
      20分以内の投与で1ヶ月生存率上昇、神経学的転帰は悪化。
  →初期のショック非適応リズムによる心停止後、
   できるだけ速やかにアドレナリンを投与することは妥当として良い。
・入院患者心停止における, ステロイド, バソプレシン, エピネフリン併用治療
   ・ステロイドはIHCA治療において、
    バソプレシン及びアドレナリンとの併用である程度有用な可能性がある。
   ・フォローアップの研究結果が出るまではルーチンでの使用は
    推奨されないが併用は妥当として良い。
・ECPR
  →Extracorporeal CPR:PCPSを用いた心肺蘇生
  →CCPR:Chest Compression Only CPR:胸骨圧迫のみの心肺蘇生
  ・AHA-G2010
    →ECPRは血流停止時間の短い心停止患者でその原因が治癒可能な場合、
     もしくは心臓移植や冠血行再建術により修復可能な場合に
     考慮すべきである(クラスIIb)
    →ERC-G2010では記載なし
  ・目撃ある院内心停止においてCCPR群よりECPR群のほうが神経学的転帰が良く
   生存退院率が高い。蘇生後初期の死亡率も低下する。
  ・目撃ある院外心原性心停止に対するECPR群は
   CCPR群より神経学的転帰が良い。
  ・初期波形VF/VTの院外心原性心停止患者ではCCPR群よりECPR群のほうが
   1ヶ月後、6ヶ月後の神経学的転帰がよい。
    ・ECPRを使用すると従来のCPRで蘇生しない患者において、
   治癒可能な病態を治療するための時間、
   または心臓移植を手配するための時間稼ぎをできる可能性がある。
  ・ERCPを迅速に実施することで生存期間を延長できる。
  ・初回の従来のCPRに反応しなかった一部の心停止患者に対し、
   環境設備が整っていればECPRを考慮しても良い。
・BLSの変更点については・・・
  ・救助者が傷病者のそばを離れずに救急対応システムに通報できるよう、
   携帯電話の使用について明記。
  ・心停止リスクのある人々がいる地域ではPADプログラムを実行することが推奨。
  ・成人に対する推奨される胸骨圧迫のテンポ
     →100回以上から100~120回へと更新。
  ・成人に対する推奨される胸骨圧迫の深さが5cm以上6cm以下と明記。
  ・バイスタンダーによるナロキソン投与を考慮しても良い。
     →オピオイド関連の生命を脅かす緊急事態が疑われる場合。



2016年4月7日木曜日

新専攻医

新年度となり、当院麻酔科は新たに
4人の専攻医(後期研修医)を迎えました。







今年も北は北海道から、西は九州からと、
様々な病院から当院麻酔科に来てくれました。
忙しい病院ですが、当院での修行を経て、
ぜひ麻酔科医として大きく成長して頂けるよう、
スタッフ一同、教育に力を入れていこうと思います。

ペースメーカー勉強会

ICU勉強会  担当:臨床工学技士 Yさん

・本体
 ・本体は電子回路とリチウム電池、および収納ケースから成る。
 ・前胸部皮下に埋め込まれる。
   →成長が見込まれる小児の場合は腹部のケースも。
 ・収納ケースは缶詰と同じ意味で缶canと呼ばれる。
・リード
 ・タイン・スクリュー
・デバイスの種類
 ・PM:徐脈
 ・ICD:致死性不整脈
 ・CRTP:心不全
 ・CRTD:致死性不整脈+心不全
・体外式ペースメーカー
 ・一時的にペーシングを入れる機器
 ・設定変更も簡易的にできるが細かい設定はできない
 ・電池寿命:500時間程度(DDD70ppm設定 5V出力)
 ・電池指示灯点灯:約36時間
 ・交換時:30秒間のバックアップペース
・PM
 ・日本語では「徐脈治療器」
 ・原則的に徐脈に対して植込み
    →洞不全症候群、AVBなど
 ・脈拍が設定以下になると刺激
・ICD
 ・植込み型除細動器
 ・致死性不整脈に対して治療(ATP or Shock)を行う。
・ILR
 ・植込型心電用ループレコーダ
 ・長期的に心電図の記録を行う
 ・Brady・Asystole・ Tachycardia の記録を行うことができる。
・モード
 ・NBGコード
   →アルファベットであらわされる国際ペースメーカコード
・トラブルシューティング
 ・ペーシング不全とセンシング不全
 ・ペーシングを行っているにも関わらず心筋が反応しない
   →ペーシングスパイクのみで、QRS波が無い。
   →徐脈になる可能性あり!
 ・患者サイド
   ・刺激閾値の上昇(薬剤による一過性の上昇など)
     →食事,服薬,代謝等も関係
   ・VW分類Ic群:ペーシング閾値上昇の可能性
       Ⅲ群:除細動閾値を上昇させる可能性あり!!
 ・リードサイド
   ・電極の離脱・位置ズレ
   ・破損
   ・接続の外れ
・アンダーセンシング
 ・自己脈(P波・QRS波)を見逃している
 ・自己収縮波が出ているにもかかわらず、ペーシングしている
 ・R on TによるVfの可能性
 ・不要なペーシングにより電池消耗も早まる
 ・原因
   ・患者サイド
     ・センシング閾値の変化
   ・リードサイド
     ・電極の離脱・位置ズレ
     ・損傷
     ・接続外れ
   ・ペースメーカサイド
     ・感度設定値が高すぎる(感度が鈍すぎる )
     ・電池消耗
・オーバーセンシング
 ・QRS波が出ていないのにペーシングが抑制
    →徐脈になる可能性
 ・原因
   ・患者サイド
     ・筋電位
     ・EMI(電磁干渉) 
   ・リードサイド
     ・被膜損傷 
   ・ペースメーカサイド
     ・感度設定値が低すぎる(感度が鋭すぎる )
・術中設定変更
  ・固定モード(AOO・VOO・DOO)の選択
  ・センシングをせず、設定Rateでペーシングのみ
  ・長所:ノイズなどの外部刺激が入っても
      ペーシングが抑制されない
  ・短所:自己脈が出ていてもペーシングが入る
     →Spike on Tが発生する可能性あり
・自己脈チェック・設定変更は麻酔導入後!
  ・覚醒時、自己脈が確認できても、
   麻酔導入後にRateの変動が起こる可能性あり
・設定解除は抜管前!
  ・抜管の刺激で期外収縮が起こる可能性あり
  ・Spike on Tを防ぐため、先に変更する
・ICD・CRTDの治療機能は術中はOFFに設定
  ・電気メスのノイズを頻脈と誤認識してしまうと、
   不適切にショックが放出される危険性がある
    →VT・VFが発生しても治療されない。
・パッド装着部位
   1.心臓を挟む位置
   2.植込み型デバイスから8cm離す
・まず、患者の自己脈チェック(麻酔導入後)
 ・自己脈でもRate・血圧が維持できる場合
  ・Mode:DDIやVVIなどのバックアップモード
  ・Rate:自己脈より低い設定
 ・自己脈がでないor血圧が維持できない場合
  ・Mode:DOOやVOOなどの固定モード
  ・Rate:自己脈より高い設定



   田中竜馬Drが当院GICUを訪問されました。

2016年3月4日金曜日

HITについて

麻酔科勉強会  担当:T先生

「HITについて」

・HITはヘパリンによる重大な副作用の一つ
・ヘパリン依存性自己抗体の出現が原因
・発症機序から2つに分類される
  ・I型
   ・ヘパリン投与後2-3日で発症
   ・非免疫機序
   ・血小板は10-20%の減少
   ・合併症は少ない
   ・ヘパリン継続可能、自然に回復a
  ・Ⅱ型
   ・ヘパリン投与後5-14日で発症
   ・ヘパリン依存性抗体の出現
   ・血小板は30-40%の減少
   ・動脈血栓の危険性
   ・ヘパリン中止で回復
   ・代替薬による抗凝固療法継続
・HITのリスク
 ・未分画ヘパリン>低分子ヘパリン (2.6% vs 0.2%)
 ・高容量>超高容量(CPB)>低用量(皮下注)
 ・女性>男性
 ・外科患者>内科患者(血管損傷が原因?)
・臨床的特徴
 ・ヘパリン投与開始5-14日に血小板減少が発症
 ・100日以内にヘパリン投与歴があれば急性発症を来すこともある
 ・Plt値は50%以下または10万/μl以下に減少
 ・Plt値は2万/μl以下になることはまれ
・臨床的特徴
 ・出血傾向を来すことはほとんどない
 ・約50%に血栓塞栓症が発症する
   →静脈血栓症:深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症
   →動脈血栓症:脳梗塞、心筋梗塞、四肢動脈閉塞症
   →透析での回路内凝血
・4T'sによるHITの臨床診断
  →3点以下可能性低い、6点以上可能性高い
・HIT抗体測定法
 ・機能的測定法:特異度が高い
   ・14C-セロトニン放出試験→日本では行えない。
   ・血小板凝集試験
   ・マイクロパーティクル法など
 ・免疫学的測定法:感度が高く特異度は低い
   ・酵素免疫測定法(ELISA)
   ・化学発光免疫測定法
   ・ラテックス免疫比濁法など
・治療
 ・すべてのヘパリン投与を中止
    →圧ライン中のヘパリン加生食、
     ヘパリンコーティング回路など
 ・代替の抗凝固療法
    →行われない場合は、約6%/dayの患者で
     血栓塞栓症を発症する
    ・抗トロンビン薬:アルガトロバン
    ・合成Ⅹa阻害薬:フォンダパリヌクス
・アルガトロバン
 ・10mg/2ml  1A
 ・フィブリン形成阻害、血小板凝集阻害
 ・主に肝代謝 ⇒腎機能低下でも使用可能
 ・アンチトロンビンⅢ活性が低くても使用可能
 ・半減期 45分
 ・拮抗薬なし
 ・モニタリング:aPTT 、ACT
・具体的な投与量
 ・2μg/kg/min(0.7μg/kg/min)で投与開始
 ・2時間ごとに採血を行い、aPTT 1.5-3.0倍(100秒以下)で調節
 ・最初の24時間は2時間ごと、その後は24時間ごとに採血
 ・ワーファリン投与にスイッチ 血栓症なし:最低4週間継続   
                血栓症あり:3ヵ月程度継続
 ・最低5日間はワーファリンとアルガトロバンの併用
 ・併用した状態でアルガトロバン 2γ以下で、
  PT-INRを4以上とする
 ・アルガトロバンを中止し4-6時間後にPT-INR測定
 ・PT-INR 2-3倍ならばそのまま継続。
  2倍以下ならアルガトロバン再開しワーファリン増量。
  翌日再評価。
・ワーファリン移行時の注意
 ・急性期HIT患者にワーファリンを投与すると、
  凝固阻止因子(プロテインC)の低下が率先して起こり、
  逆に血栓傾向へと傾く。
 ・Plt値が15万/μl以上に回復してから移行
・その後の対応
 ・HIT抗体は約50-85日で陰性化する
 ・HIT抗体が陰性化した後はヘパリンを再使用しても
  HITを必ずしも発症しないとされている。
 ・待機的心臓手術
    ・100日以上待ち、HIT抗体を陰性化させる。
    ・人工心肺中はヘパリンを使用(未分画ヘパリン)
    ・術前、術後の抗凝固はアルガトロバンを使用する。
・緊急の心臓手術時
 ・CPB使用時:アルガトロバン 0.1mg/kg投与後5-10γで持続投与
       評価はACT値で行う
 ・オフポンプ:アルガトロバン 2.5γ持続投与
        ACTをコントロールの2倍程度にする
 ・Up To Dateによると・・・
   →血漿交換を行い、HIT抗体の力価を弱めながらヘパリン使用
・海外のガイドラインでは
 ・肝機能、腎機能両方が悪い患者にbivalirudinの使用を推奨する。
 ・HIT抗体陽性患者が緊急心臓手術を要する場合は、
  bivalirudinの使用を推奨する。
・Bivalirudinとは??
 ・日本未発売
 ・抗凝固作用、抗血小板作用
 ・作用発現 5分、半減期 25分
   →出血リスクが少ない
 ・ほぼ血中で代謝(トロンビン、血中>腎) 
   →肝機能障害でも使用可
 ・ACT、aPTTでモニタリング可能
 ・出血合併症は少ないが、PCIでの使用時に  
  再梗塞やステント血栓症発生率が高い。