2013年2月15日金曜日

妊婦の非産科手術の麻酔

麻酔科勉強会  担当:A先生

「妊婦の非産科手術の麻酔」

・妊婦の生理
  ・妊娠前との違い
    ①ホルモン:プロゲステロン↑
    ②出産に備える体
    ③増大する子宮
  ・呼吸器系
    ・呼吸器系の粘膜毛細血管の怒張
      →挿管困難のリスク
    ・1回換気量の増加、分時換気量の増加、酸素消費量の増大
      →低酸素のリスク
    ・機能的残気量減少
      →低酸素のリスク
  ・循環器系
    ・心拍出量増加、血液量の増加、血液凝固因子の増加
      →塞栓症のリスク
    ・下大静脈の圧迫(妊娠18~20週以降)
      →低血圧のリスク
  ・消化器系
    ・下部食道括約筋圧の低下(妊娠18~20週以降)
      →誤嚥のリスク
  ・中枢神経系
    ・硬膜外腔の血管怒張、疼痛閾値上昇
      →麻酔効果の増大
・妊婦の非産科手術
   →頻度:0.3~2.2%
・手術適応となる疾患
  ①急性虫垂炎 1/500-1500
  ②胆石・胆嚢炎 
  ③卵巣疾患(卵巣茎捻転、卵巣嚢腫破裂、卵巣腫瘍など)
  ④外傷
  ⑤乳癌
  ⑥子宮頸癌
  ⑦腸閉塞など・・・
・診断の困難さ
  ・子宮の増大により変わる位置の変化
    →虫垂炎の誤診の頻度は36%
  ・CTなどの使用が困難
    →50mGy以下では奇形が生じることはない
    →10mGy以上で小児悪性腫瘍の発生リスク増加
・手術のタイミング
  ・緊急手術
    ・時期は関係なくやるしかない。
      →非妊婦と同様に施行。
    ・重症患者では母体の生命を守ることを優先。
    ・週数・手術内容によっては帝王切開先行を考慮。
  ・予定手術
    ・出産後で可能なものは出産後がよい
  ・準予定手術
    ・第2三半期が望ましい
      →流産・早産の頻度が低い
      →器官形成期を避けられる
      →子宮の影響が小さい
    ・流産・早産の頻度が第1三半期で増えるという
     強いevidenceはない。
    ・第2三半期の早期~中期(15~24週)がより望ましい
・催奇形性について
  ①胎児奇形(死亡、体の奇形、成長障害)
  ②機能性奇形(行動学的奇形)
・麻酔薬と催奇形性
  →基本的に日常使用している麻酔関連の薬剤で
   ヒトで催奇形性が証明されている薬剤はない。
・笑気と催奇形性
  ・慢性的な笑気の暴露(手術室で働く女性)で
   先天性奇形、自然流産の危険性が高いという報告あり。
  ・ヒトにおいては妊娠第2三半期に短時間暴露されても
   有害な影響はなかった
・行動学的奇形
  ・NMDA受容体およびGABA受容体と反応する化合物が
   胎児脳細胞のアポトーシスを惹起するという報告
  ・臨床的には証明されていない。
    →しかし麻酔薬への暴露は必要最小限に。
・麻酔の考え方
  ①術式は非妊婦と同様で術者に任せる
  ②区域麻酔が可能なら区域麻酔で
  ③全身麻酔を避ける必要はない
   (帝王切開では全身麻酔は区域麻酔の17倍のリスク
    挿管困難・低酸素・誤嚥・循環動態不安定など)
  ④術後鎮痛に硬膜外麻酔が使用できるなら積極的に使用考慮

・論文
Am J Obstet Gynecol  1989 Nov;161(5):1178-85.
Reproductive outcome after anesthesia and operation during pregnancy
 ・唯一の大規模study。
 ・72万人の妊婦のうち5405人(0.75%)が非産科手術を受けた。
 ・奇形や死産の率は変わらず。
 ・ただ低出生体重児や生後一週間での死亡は増加した。
 ・麻酔・手術の種類は結果に関係ない。

・硬膜外麻酔の利点
  ・全身投与の麻酔薬を減らすことが可能
  ・術後疼痛に対して子宮収縮抑制効果があり
・硬膜外麻酔の注意点
  ・硬膜外腔の血管怒張
  ・血管穿刺に注意
  ・局所麻酔薬投与量は非妊婦より少なくてよい
  ・低血圧
    →交感神経遮断・子宮による下大静脈圧迫で著明な低血圧
・全身麻酔での注意点
  ・挿管困難・低酸素・誤嚥・低血圧に注意
  ・全身麻酔の使用薬の投与量に注意
    ・吸入麻酔薬のMACは妊娠早期より30~40%低下
    ・チオペンタールの導入時の使用量は18~35%低下
    ・プロポフォールは減量の必要なし
  ・EtCO2 32mmHgにkeep
    ・妊婦は生理的に過換気(Progesteroneの影響)
  ・ロピオンは使っていい?
    ・胎児の動脈管閉鎖が生じる可能性がある。
    ・慎重にいくなら妊娠中期まで。
    ・世界的なコンセンサスでは32週までなら投与可能。
・妊婦と腹腔鏡手術
  ・基本的に非妊婦と同様
    ・術後痛が少ない
    ・出血量が少ない
    ・術後イレウスが少ない
    ・術後の癒着が少ない
    ・入院期間の短縮
    ・日常生活への早期復帰(早期離床でDVTも少ない)
  ・腹腔鏡手術の注意点
    ・気腹に伴う腹腔内圧上昇による子宮胎盤血流の減少
    ・胎児のアシドーシスがCO2の吸収から生じる
    ・手技に伴う子宮・胎児への外傷の可能性
    ・増大した子宮と手術体位による呼吸・循環への影響

・妊婦腹腔鏡手術のガイドラインの紹介
Guidelines for Diagnosis, Treatment, and Use of Laparoscopy for Surgical Problems during Pregnancy
Practice/Clinical Guidelines published on: 01/2011 by the Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons (SAGES)