初期研修医勉強会 担当:S先生
「呼吸器外科手術の麻酔」
・呼吸器外科の対象疾患
→原発性肺癌、転移性肺癌、胸壁腫瘍、縦隔腫瘍
自然気胸、膿胸、嚢胞性肺疾患、肺胞蛋白症・・・
・呼吸器外科手術の歴史
・1880年 経口気管挿管の発明
・1990年代初頭 胸部外科手術の黎明期
・肺結核に対する肺虚脱術が主
・陰圧の手術室と頭部を陽圧に保つボックスを使用
・1942年 Carlens気管内チューブ開発
・1962年 Robertshawダブルルーメンチューブ開発
・肺の解剖
・右肺は上葉(B1,2,3)・中葉(B4,5)
下葉(B6,7,8,9,10)の3葉。
・左肺は上葉(B1+2,3,4,5)・下葉 (B6,8,9,10)の2葉。
・右肺上葉支は右肺中間幹より近位でほぼ垂直に分岐。
・側臥位での呼吸生理
・肺底部は軽度のシャント流の状態。
→比較的効率よく換気が可能。
・低酸素性肺血管攣縮(HPV)
・肺胞が低酸素状態に
→血管が収縮
→低酸素に陥った肺胞への血流が減少。
・分離肺換気中の”守り神”
・理論的には・・・
・吸入麻酔薬と血管拡張薬は、HPVを抑制する。
・静脈麻酔薬と麻薬は影響がない。
・論文1
Effects of propofol vs sevoflurane on arterial oxygenation during one lung ventilation
BJA 98(4):539-44 (2007)
・対象は肺葉切除術を行った80人
・吸入麻酔薬群とTIVA群群に割り当て。
・結果
→酸素化に大きな変化はなかった。
→片肺換気に吸入麻酔薬を用いても大きな問題はない。
・分離肺換気について
・絶対的適応:やらないと死に至る
①肺出血、膿胸
②片側肺の重大な異常(気管支瘻、巨大ブラ等)
により、左右別々の換気が必要な場合
③肺胞蛋白症に対する肺胞洗浄
・相対的適応
・高優先度
・胸部大動脈瘤
・肺全摘、上葉切除
・胸腔鏡下切除
・低優先度
・中・下葉切除
・胸椎切除
・食道切除
・ダブルルーメンチューブ(DLT)
・左肺用と右肺用がある。
→主に左肺用が使われる。
・大人なら32-41Frを用いる。
・チューブの太さは身長と強く相関。
・DLTの位置異常
・深すぎる・浅すぎる・位置が逆の3パターン
・聴診で正常と思えても、実際は78%に位置異常あり
・気管支鏡下での確認は必須
・DLTの利点と欠点
・利点
・気管内の分泌物を盲目的に吸引可能
・両肺"片肺への切り替えが用意
・欠点
・気道系の変形が強い患者には禁忌。
・小柄な患者はサイズが・・・
・チューブの入れ替えが必要な場合がある。
・挿管困難だと大変。
・論文2
Hypoxemia during One-lung Ventilation
-Prediction, Prevention, and Treatment
Anesthesiology 2009;110:1402-11
・片肺換気中の低酸素血症(SpO2<90%)
・OLVを行った4-10%に出現
・予測因子、予防法、治療についてのreview
・手術側
・左肺手術:平均PaO2 280mmHg
・右肺手術:平均PaO2 170mmHg
→右肺手術は低酸素血症の危険因子。
・肺機能検査
・検査結果が悪いと、低酸素血症の確率が上がる。
→ただしFEV1が低いほど酸素化が改善したとの報告も。
・術前血液ガス検査
・術前のPaO2が低ければ術中低酸素血症の危険因子。
・手術側への灌流(V/Qスキャンによる)
→手術側への還流が多いほど低酸素血症に陥りやすい。
→中心に近い、大きな腫瘍ほど酸素化は良好。
・デバイスの確認
・DLTは周術期に12%に位置異常あり
・側臥位にした状態で位置確認が必要
・手術前の肺機能改善
・気管支拡張薬、分泌物低下
・貧血の是正
・貧血があるとシャント流が増加
・人工呼吸器の設定
①非手術側:無気肺の防止
→低一回換気量(6-8ml/kg)+中程度PEEP(4-5mmH2O)
②手術側:再膨張性肺水腫予防
→3cmH2O程度のCPAP
・肺血流の是正
・NO:換気側の血流を多くするという報告あり
・アルミトリン
・HPV増強、非換気側の血流を低下
・PaO2が130%増強
・日本では未発売、毒性あり
・低酸素時の対応
・FiO2増加
・最も有効。
・純酸素の投与は、無気肺を防ぐため避ける。
・FiO2は正常時は0.5程度の投与が望ましい。
・手術肺の一時的換気
・手術を3-5分程度中止し、再膨張させる。
・CPAPの併用も有効。
・必要ならば手術側肺動脈クランプ。
バレンタインデー、たくさんの差し入れを頂きました。