2013年2月15日金曜日

呼吸器外科手術の麻酔

初期研修医勉強会  担当:S先生

「呼吸器外科手術の麻酔」

・呼吸器外科の対象疾患
  →原発性肺癌、転移性肺癌、胸壁腫瘍、縦隔腫瘍
   自然気胸、膿胸、嚢胞性肺疾患、肺胞蛋白症・・・
・呼吸器外科手術の歴史
  ・1880年 経口気管挿管の発明
  ・1990年代初頭 胸部外科手術の黎明期
    ・肺結核に対する肺虚脱術が主
    ・陰圧の手術室と頭部を陽圧に保つボックスを使用
  ・1942年 Carlens気管内チューブ開発
  ・1962年 Robertshawダブルルーメンチューブ開発
・肺の解剖
  ・右肺は上葉(B1,2,3)・中葉(B4,5)
   下葉(B6,7,8,9,10)の3葉。
  ・左肺は上葉(B1+2,3,4,5)・下葉 (B6,8,9,10)の2葉。
  ・右肺上葉支は右肺中間幹より近位でほぼ垂直に分岐。
・側臥位での呼吸生理
  ・肺底部は軽度のシャント流の状態。
    →比較的効率よく換気が可能。
・低酸素性肺血管攣縮(HPV)
    ・肺胞が低酸素状態に
   →血管が収縮
   →低酸素に陥った肺胞への血流が減少。
  ・分離肺換気中の”守り神”
・理論的には・・・
  ・吸入麻酔薬と血管拡張薬は、HPVを抑制する。
  ・静脈麻酔薬と麻薬は影響がない。

・論文1
Effects of propofol vs sevoflurane on arterial oxygenation during one lung ventilation
BJA 98(4):539-44 (2007)
・対象は肺葉切除術を行った80人
・吸入麻酔薬群とTIVA群群に割り当て。
・結果
  →酸素化に大きな変化はなかった。
  →片肺換気に吸入麻酔薬を用いても大きな問題はない。

・分離肺換気について
  ・絶対的適応:やらないと死に至る
    ①肺出血、膿胸
    ②片側肺の重大な異常(気管支瘻、巨大ブラ等)
     により、左右別々の換気が必要な場合
    ③肺胞蛋白症に対する肺胞洗浄
  ・相対的適応
    ・高優先度
       ・胸部大動脈瘤
       ・肺全摘、上葉切除
       ・胸腔鏡下切除
    ・低優先度
       ・中・下葉切除
       ・胸椎切除
       ・食道切除
・ダブルルーメンチューブ(DLT)
  ・左肺用と右肺用がある。
    →主に左肺用が使われる。
  ・大人なら32-41Frを用いる。
  ・チューブの太さは身長と強く相関。
・DLTの位置異常
  ・深すぎる・浅すぎる・位置が逆の3パターン
  ・聴診で正常と思えても、実際は78%に位置異常あり
  ・気管支鏡下での確認は必須
・DLTの利点と欠点
  ・利点
    ・気管内の分泌物を盲目的に吸引可能
    ・両肺"片肺への切り替えが用意
  ・欠点
    ・気道系の変形が強い患者には禁忌。
    ・小柄な患者はサイズが・・・
    ・チューブの入れ替えが必要な場合がある。
    ・挿管困難だと大変。

・論文2
Hypoxemia during One-lung Ventilation
-Prediction, Prevention, and Treatment
Anesthesiology 2009;110:1402-11
・片肺換気中の低酸素血症(SpO2<90%)
・OLVを行った4-10%に出現
・予測因子、予防法、治療についてのreview
・手術側
  ・左肺手術:平均PaO2 280mmHg
  ・右肺手術:平均PaO2 170mmHg
     →右肺手術は低酸素血症の危険因子。
・肺機能検査
  ・検査結果が悪いと、低酸素血症の確率が上がる。
    →ただしFEV1が低いほど酸素化が改善したとの報告も。
・術前血液ガス検査
  ・術前のPaO2が低ければ術中低酸素血症の危険因子。
  ・手術側への灌流(V/Qスキャンによる)
    →手術側への還流が多いほど低酸素血症に陥りやすい。
    →中心に近い、大きな腫瘍ほど酸素化は良好。
・デバイスの確認
  ・DLTは周術期に12%に位置異常あり
  ・側臥位にした状態で位置確認が必要
・手術前の肺機能改善
  ・気管支拡張薬、分泌物低下
・貧血の是正
  ・貧血があるとシャント流が増加
・人工呼吸器の設定
  ①非手術側:無気肺の防止
   →低一回換気量(6-8ml/kg)+中程度PEEP(4-5mmH2O)
  ②手術側:再膨張性肺水腫予防
   →3cmH2O程度のCPAP
・肺血流の是正
  ・NO:換気側の血流を多くするという報告あり
  ・アルミトリン
    ・HPV増強、非換気側の血流を低下
    ・PaO2が130%増強
    ・日本では未発売、毒性あり
・低酸素時の対応
  ・FiO2増加
    ・最も有効。
    ・純酸素の投与は、無気肺を防ぐため避ける。
    ・FiO2は正常時は0.5程度の投与が望ましい。
  ・手術肺の一時的換気
    ・手術を3-5分程度中止し、再膨張させる。
    ・CPAPの併用も有効。
  ・必要ならば手術側肺動脈クランプ。



バレンタインデー、たくさんの差し入れを頂きました。