2015年6月9日火曜日

こどもの麻酔導入

麻酔科勉強会  担当:Y先生

「こどもの麻酔導入」

・小児の気道解剖
 ・頭部、特に後頭部が大きく仰臥位で気道が屈曲しやすい。
 ・アデノイドや口蓋扁桃が比較的大きい。
 ・口の中で舌が占める割合が大きい。
 ・喉頭が成人と比較してより頭側かつ全面に位置している。
 ・喉頭蓋が長くU字型をしている。
 ・気管長が短い。
 ・気管最狭部は声門直下の輪状軟骨部である。
   →成人挿管に慣れている施行者にとって難しい原因。
・マスク換気
 ・頭部が全身の中で比較的に大きく、特に後頭部が大きい。
   →仰臥位で気道屈曲、閉塞傾向になるリスク。
   →2歳以下では肩枕が必要。
   →3歳以上ではsniffing positionが有効。
 ・EC法が基本
 ・基本はマスクフィットのみで換気可能。
 ・マスクは軽く密着させる。
 ・頸部の軟部組織を押さえつけない。
 ・頸部を少し右に傾けると換気しやすい。
 ・自発呼吸に合わせて換気する。
   →決して胃に空気を入れてはいけない!
    ・腹部膨隆に合わせてバッグを押す。
      →腹部が凹んだらバッグを離す。
    ・マスク換気は可能な限り低圧で。
    ・バッグが完全に膨らみきらない程度に維持。
    ・乳児なら新鮮ガス総流量も少なめ(3L以下)に。
    ・1回換気量は少なめ、その代わり回数で稼ぐ。
 ・マスク換気困難の可能性は?
    ・先天異常による頭蓋形成異常
    ・顔面熱傷
    ・外傷後の下部顔面の異常
    ・病的肥満(乳児ではまれ)
    ・頸部可動域制限(乳児ではまれ)
    ・重症喘息発作・・・
  ・挿管困難で有名な様々な疾患もマスク換気困難であることは
   非常に少ない。
  ・小児ではOPAを使用すれば、上気道の問題で
   マスク換気困難となることは極めて少ない。
 ・OPA(経口エアウェイ)
    ・意識消失、咽頭反射消失後に使用。
    ・舌根沈下による気道閉塞を防ぐ。SAS系には極めて有効。
    ・ただし・・・
       ・誤嚥誘発のリスクあり。
       ・喉頭痙攣誘発のリスクも。
       ・短すぎると気道閉塞。
       ・長すぎても気道閉塞。
・喉頭展開
 ・小児は食道入口と声門を誤認しやすい。
 ・小児は成人と比較してFRCに対する酸素消費量が大きい。
 ・さらに小児は術前酸素吸入に非協力的である。
 ・肺高血流性疾患ではそもそも酸素投与が禁忌である。
   →無呼吸によるdesaturationが早い!
   →無呼吸時間を伴う挿管操作を極めて短縮する必要がある。
 ・デバイスは何を使う?
   ・マッキントッシュ喉頭鏡、ミラー喉頭鏡、AWSなど。
   ・近年はAWSが注目されている。
    →マネキンを使用したstudy
    →Millar喉頭鏡群と比較してAWS群で挿管成功率が上がる。
    ・1歳以下はAWSが有効。
     ・正中挿入法が推奨される。
     ・挿入時は十分な頚部後屈を。
     ・乳児用イントロックは目標より右側にチューブが進む。
        →声帯に当たれば無理せずチューブを回転。
        ・決して無理して押し込まない。
・気管内挿管
  ・小児の気管は声門下、輪状軟骨レベルが最狭。
   →チューブが声門を通過してもその先に進まない可能性。
  ・無理して浮腫を作ると気道抵抗が急上昇する。
    ・Poisuilleの法則。
  ・声門下でチューブが進まない!
    →無理せずワンサイズ細いチューブに変更する。
    ・頑張り過ぎると気道浮腫により換気すら困難となる。
    ・細い!と判断した気道には無理に触らない!
  ・カフ付きか、カフなしかについては症例を吟味。
・挿管前にどうしても抹消静脈ラインが取れない時
  ・吸入麻酔のみで挿管可能。
  ・充分に麻酔が深くなったところで上手な施行者が1度で挿管する。
    ・ただし高濃度Sevoの吸入は痙攣を誘発する。
       ・痙攣により換気困難になることは少ない。
       ・神経学的ダメージの有無はわからない。
・導入方法
 ・小児は導入前酸素吸入に非協力的である。
 ・小児は成人と比較して酸素消費量が大きい。
 ・低酸素から徐脈に至るまでが早く、結果も重篤である。
 ・(慣れてない施行者が)短時間で挿管できるとは限らない。
   →迅速導入(RSI)はリスクが高い。
     ・full stomachでも愛護的に換気しながら急速導入
     ・胃管挿入、吸引後に急速導入
     ・modified RSI(輪状軟骨を圧迫しながら換気)
・ベイン回路について。

  ロボット支援下腎部分切除術

2015年6月8日月曜日

周術期疼痛管理について

初期研修医勉強会  担当:S先生

「周術期疼痛管理について」

・術後疼痛とは?
  →手術侵襲による組織障害とそれに伴う炎症反応のために
   術直後より数日間続く強い痛み
・体性痛
  ・浅い痛み
    →切開創の痛み
    ・安静時の鈍い痛み:C線維によって伝わる
    ・緊張時の鋭い痛み:Aδ線維によって伝わる
  ・深い痛み
    →筋肉痛など
・内臓痛
  ・術中に内臓器官が引っ張られたり、
   引き裂かれたりしたことに対する
   生体反応によって起こる痛み
  ・胃や腸の運動が反射性に抑制されたことにより生じる痛み
  ・Aδ、C線維を通る
・疼痛の修飾因子
  ・患者因子
    →性別(女性)、性格、痛みの経験の有無、不安・恐怖など
  ・麻酔管理
    →全身麻酔?伝達麻酔併用?先行鎮痛あり?
  ・手術部位、手術時間、侵襲の程度
    ・上腹部>下腹部
    ・深部臓器の手術>体表の手術
    ・長時間の手術>短時間の手術
  ・術前に存在する慢性痛
  ・分子レベルでの患者因子
    ・ブラジキニン受容体、プロスタノイド受容体、
     グルタミン酸受容体など。
・術後疼痛の影響(急性期)
  ・疼痛による交感神経緊張
    ・カテコラミン等の遊離促進→代謝亢進、酸素消費量↑
    ・心筋の酸素消費量↑→心筋虚血・梗塞の完成
    ・消化管運動の抑制→術後イレウス
  ・呼吸機能低下
    ・横隔膜機能低下→呼吸機能低下
    ・深呼吸や咳嗽の抑制→分泌物貯留、無気肺
  ・精神面
    ・恐怖、不信感など
・術後疼痛の影響(慢性期)
  ・長期に渡る慢性痛
    ・離床の遅れ、心身機能の低下、QOL低下
  ・中枢性感作
    ・創部からの持続的な末梢障害性入力
      →疼痛感度の異常な増大
・遷延性術後疼痛ハイリスク患者には・・・
  ・急性期疼痛管理の徹底
  ・ガバペンチン・プレガバリンなどの
   Caチャネルα2δリガンドの術前投与
  ・痛みの自己管理に関する教育
  ・リハビリテーションによる早期介入など
・痛みの評価
 →VAS、NRS、Face scale、Word scaleなど。
 ・PHPS(Prince Henry Pain scale)
   →術後安静時痛と体動時痛の総合評価
 ・Behavioral pain scale(BPS)
   →会話や意思疎通が不可能な患者に対して使用
・先制鎮痛
 ・侵害刺激の前に鎮痛を行う。
 ・中枢性感作を防ぐpreventive analgesiaという概念
・今後臨床応用が期待される薬物など
 ・TRPV1
   ・C線維に特異的に発現しているイオンチャネル
   ・唐辛子の主成分のカプサイシンや熱、
    水素イオンなどで活性化
   ・直接阻害するTRPV1抗体と、
    カプサイシンのように刺激して脱感作することで
    作用を阻害するTRPV1作動薬
 ・TNFα
   ・IL-1、IL-6とともに炎症細胞より分泌される
    炎症性サイトカイン
   ・エタネルセプト(TNFRとIgGの融合蛋白)、
    アダリムマブ・ゴリムマブ(抗TNF-α抗体)
   ・鼠径ヘルニア手術の術前にエタネルセプトを注射し
    術後痛を評価した臨床研究で鎮痛効果が認められたとの報告
 ・カンナビノイド
   

2015年6月5日金曜日

バソプレシン

「麻酔科勉強会」 担当:S先生

「バソプレシン」

・1954年 du Vigneaudによって発見
・1955年 ノーベル化学賞受賞
  →Vaso(血管)+pres(圧迫)
  →血管収縮により血圧上昇
・視床下部の神経分泌細胞で産生
  →軸索輸送で下垂体後葉
  →下垂体後葉より分泌
・分泌条件
  ・血漿浸透圧の上昇
     →肝臓・視床下部の浸透圧受容器で検出
     →バソプレシン増加
     →水排出低下
     →浸透圧低下へ。
  ・血圧低下
      →心臓、肺の圧受容器が検出
      →バソプレシン増加
      →尿中の水排出低下
      →血漿量増加
  ・心容積の減少
・半減期
 ・Vasopressinの血漿半減期は4-20分
 ・Vasopressinの誘導体Terlipressinの半減期は6時間
・循環作動薬としてのバソプレシン
  ・通常の状態ではバソプレシンの血行動態に及ぼす影響は少ない。
  ・しかしアシドーシス下では
     ・カテコラミン・・・効力が低下
     ・バソプレシン・・・影響を受けない
   →アシドーシスもしくはカテコラミン反応性が悪い時は
    バソプレシンの効力が期待できる
  ・ショックの遷延や心停止では・・・
    →細胞内に乳酸が蓄積
    →ATP 依存性のK チャネルが開口。
    →カテコラミンの刺激があってもCaが流入できなくなる。
    →血管拡張,血圧低下
  ・一方バソプレシンは・・・
    →直接的に血管平滑筋のATP 依存性のK チャネルを不活化,
    →一酸化窒素や心房性ナトリウム利尿ペプチドにより
     誘導されたcGMP の増加抑制、
     誘導型一酸化窒素合成酵素の合成抑制など
    →昇圧効果を発揮する.
・心停止に対するバソプレシンの適応
   ・3つのRCTと1つのメタアナリシス試験
     →バソプレッシン(40単位 IV)とエピネフリン(1mg )とを
      最初の血管収縮薬として心停止に用いた際の、
      結果(ROSC、生存退院率、神経学的結果)に差はない
   ・2つのRCT
     →エピネフリンとバソプレシンを合わせて使った時と
      エピネフリンのみを使った時を比べると、
      結果(ROSC、生存退院率、神経学的所見)に差はない
   ・1つのRCT
     →心停止にバソプレッシンを繰り返し使用しても、
      エピネフリンを繰り返し使った場合と比べて、
      生存率は改善しない
・心停止に対する用法
  ・2010 AHA Guideline for CPR and ECC
  ・バソプレシン静注/骨髄内投与:
    →初回または 2回目のアドレナリン投与の代わりに
     40単位を投与してもよい(ClassⅡb)
・Septic Shockに対する用法
  ・Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2013
    →平均動脈圧の上昇やノルアドレナリンの減量の目的で、
     ノルアドレナリンに加えてバソプレシン0.03単位/分を
     投与しても良い(UG)。
  ・敗血症による血圧低下のある患者に最初に選択する昇圧剤として
   低用量バソプレシンは推奨されない。
   0.03-0.04単位/分以上のバソプレシンは
  (他の昇圧剤で平均動脈圧が上昇しないなどの)
   サルベージ治療として温存すべきである(UG)
・アナフィラキシーショックに対する用法
  ・通常はエピネフリン筋注0.3mg
  ・向精神薬ではボスミンが禁忌(?)、
   βブロッカー内服者の場合、
   ノルエピネフリン、グルカゴンが推奨
  ・カテコラミン不応性アナフィラキシーの場合
    →バソプレシン10Uを繰り返し静注
    →0.04U/minの静脈投与(MGH麻酔の手引より)
・出血性ショックに対する用法
  ・出血性ショックの場合
   →輸液負荷のみと、輸液負荷+血管収縮薬を併用した場合
    後者のほうが治療成績がいいという報告がある。
  ・バソプレシン併用療法が出血性ショックに対して
   有効な正確なメカニズムは不明。
   →バソプレシンによる血管収縮がwouded siteから
    血液分布を移行させる?
   →また枯渇した内因性バソプレシンを補充する?
・肝腎症候群に対して
  ・治療法としては肝移植以外にTerlipressin。
  ・1mg/4-6hr ivもし治療に反応なければ2mg/4-6hrまで増量可。
   通常は5-15日間継続する。
・人間の情動や社会性にもバソプレシンが関連?


2015年6月3日水曜日

線溶系と抗線溶薬

麻酔科勉強会  担当:S先生

「線溶系と抗線溶薬」

・抗線溶薬
  ・TXA(トラネキサム酸)
  ・EACA(イプシロンアミンのカプロン酸)
  ・アプロチニン
・TXAとEACA
  ・共にリジン誘導体
  ・TXAは血中で分解されるとEACAに
  ・プラスミノゲンのリジン結合部位と結合
    →プラスミノゲンのフィブリンへの吸着を阻止
    →抗線溶作用を発揮
・アプロチニン
  ・セリンプロテアーゼ阻害薬
  ・プラスミン、カリクレイン、トリプシン、
   キモトリプシンを効率よく阻害する。
  ・1987年、心臓外科手術の出血を減らすことが偶然発見された。
  ・現在は使用中止
・トラネキサム酸(TXA)
   ・全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向
   ・局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血
   ・湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹における
    紅斑・腫脹・掻痒
   ・咽喉頭炎・扁桃炎における咽頭痛・発赤・充血・腫脹
   ・口内炎における口内痛及び口内粘膜アフタ
   ・メラノサイト活性化因子「プラスミン」をブロック
            →メラニン発生の要因のひとつ
      →肝斑の原因となるメラニンの発生を抑制
      →肝斑を薄くする
   ・化粧品や歯磨き粉にも含有
・トラネキサム酸と外傷
  ・CRASH-2 trial
      ・40ヵ国274施設から重篤な出血あるいはそのリスクを有する
     20211例の外傷患者
    ・トラネキサム酸投与群と非投与群で比較
    ・初回負荷量1gのトラネキサム酸を10分間で投与後、
     更に1gを8時間かけて持続点滴
    ・主要評価項目は受傷後4週以内の院内死亡
    ・死亡原因を出血、血管閉塞(心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓)、
     多臓器不全、頭部外傷、その他のカテゴリーで分けた。
   →死亡リスクを有害事象の増加なく安全に低下させた。
   →血管閉塞イベントによる死亡、イベントに有意差なし。 
   →輸血の必要性や輸血量に有意差なし
・トラネキサム酸と手術
  ・Systematic review and meta-analysis
      ・1972-2011の10488例の手術患者を含む129 trialsが対象。
     →輸血リスクはTXA投与群は38%低下
      (リスク比:0.62、95%信頼区間:0.58~0.65、P<0.001)
     →血栓性イベント(心筋梗塞、脳卒中、PE)
      Mortality TXA投与群は39%低下
    ・ただしadequate concealmentのtrialに限定すると有意差なし
・TXAと心臓外科手術
    ・Anesthe Analg.2012 Aug;115(2):239-43 
    ・231人のOPCAB予定の患者をTXA群とプラセボ群に割付
    ・主要転記は術後 24 時間のチェスト・チューブ排液量、
     また輸血、死亡率、重大な合併症、医療材料の使用量も評価
     →ドレーン排液量、輸血量はTXA群で減少
     →死亡率、合併症率、医療材料使用量は有意差なし。
・TXA使用時の注意点
  →痙攣
  ・2004-2009年の心臓手術を施行した患者8929人について、
   痙攣発作の危険因子を評価したstudy
     →8,929例中119例(1.3%)で早期痙攣発作が発現し、
     そのうち111例でTXAが投与。
  ・TXA総投与量100mg/kg以上は早期痙攣発作のリスク(OR 2.6)。


   SEP・MEPモニタリング併用の大血管手術


周術期DVTとPE

麻酔科勉強会  担当:T先生

「周術期DVTとPE」

・JSA-PTE調査
  →2002年から毎年1回、周術期PEについて
  ・2009-11、周術期PE発生率 25人/10万人
  ・周術期PE死亡率は約14%
  ・手術部位は開胸+開腹が多い。続いて股関節・四肢。
  ・年齢は高齢者が多い。
・病態について
  ・ウィルヒョウの三徴
    →血流うっ滞、凝固能亢進、血管壁損傷
  ・DVTの3型
    →腸骨型、大腿型、下腿型
・ヒラメ筋静脈血栓
   ・致死的PE剖検例の9割でヒラメ筋静脈に血栓あり
     →血栓の性状が最も古かった
   ・孤立型ヒラメ筋静脈血栓が致死的PEをきたすのはきわめてまれ
   ・ヒラメ筋静脈の2割で中枢への進展あり
・ヒラメ筋静脈の特徴
   ・弁が小さく、少ない
   ・吻合部が狭窄している
     →ヒラメ筋(抗重力筋)ポンプ作用が失われると、
      一気に血流がうっ滞する (Ex.ベッドレスト)
   ・血栓が中枢側に進展した部位は血管壁への接着が弱い。
      →血栓がちぎれやすい(フリーフロート血栓)
   ・ヒラメ筋静脈は下腿型DVTの発生源
・問診、症状、所見で異常なしかつd-dimer正常値
  →急性期VTEは否定できる。
  ・いずれかが以上を示した場合は画像診断などが必要。
  ・d-dimerは様々な要因で高値となりうる。
・術中PE
  ・体位変換時や大腿部・骨盤手術操作時に多い
  ・血圧低下や頻脈
  ・EtCO2低下: 術中PEの8割
  ・SpO2低下: 術中PEの55%
  ・心エコー所見はmassiveなもので見られる
    ・右心系の拡張
    ・心室中隔扁平化
    ・TR
    ・肺動脈や右室内に血栓が見られることも
・DVTの治療
  →抗凝固療法
    ・ヘパリン: APTT1.5-2.5倍延長 (Class I)
    ・ワーファリン: PT-INR 1.5-2.5、可逆的リスクで3ヵ月間 (IIb)
    ・低分子ヘパリンやXa阻害薬: 保険適応限られる
    ・孤立下腿型では症状軽度なら進展するまでは抗凝固不要
      →2週間程度は画像フォロー (ACCP guideline)
    ・完全に血栓溶解するのは4%程度
  →カテーテル治療 (IIb) と外科的血栓摘除 (IIb)
    ・元来健康で症状(腫脹や疼痛)強い症例
    ・カテーテル:ウロキナーゼによる血栓溶解や血栓吸引
    ・施設の実情により選択
  →全身的血栓溶解療法
    ・本邦で適応が認められているウロキナーゼ用量は
     欧米の数分の1
     →カテーテル治療を選択すべき
  →IVC フィルター
    ・抗凝固療法が行えない症例 (Class I)
    ・抗凝固療法にもかかわらず再発した症例 (I)
    ・骨盤内やIVCの血栓、近位部の大きな遊離血栓 (IIa)
    ・心肺予備能が低い症例 (IIa)
    ・急性PEを来したDVTの残存
・予防→リスク別に対策。
  ・低リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳未満の非大手術
          →40歳未満の大手術
       :整形外科、上肢手術
       :産科、正常分娩
    →早期離床と積極的な運動
  ・中リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →60歳以上orDVTリスクある非大手術
          →40歳以上orDVT危険因子ある大手術
       :整形外科、脊椎手術、大腿骨遠位部以下の下肢手術
       :産科、帝王切開
    →弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法
  ・高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →40歳以上の癌の手術
       :整形外科、股関節、骨盤、膝関節手術
             下肢性腫瘍手術、DVTリスクある下肢手術
       :産科、高度肥満の帝王切開、DVTリスクある経膣分娩
    →間欠的空気圧迫法or抗凝固療法
  ・最高リスク:一般外科、泌尿器科、婦人科
          →DVTリスクある大手術
        :整形外科、DVTリスクある高リスク手術
        :産科、DVTリスクある帝王切開
    →抗凝固療法と間欠的空気圧迫法、弾性ストッキング併用
・弾性ストッキングの合併症
  ・皮膚炎や皮膚潰瘍
  ・腓骨神経麻痺
  ・コンパートメント症候群 (特に砕石位で多い)
・弾性ストッキングの禁忌
  ・動脈血行障害
  ・下肢の蜂窩織炎、血栓性静脈炎の急性期
  ・下肢の急性外傷、創傷
  ・末梢神経障害を伴う糖尿病
  ・重度のうっ血性心不全
  ・DVT急性期
  ・循環不全を伴うPE急性治療期
・間欠的空気圧迫法 (IPC)
  ・下腿大腿を30-60mmHg、30-60秒間隔で圧迫
  ・足底足関節を圧迫するvenous foot pumpもある
  ・下肢静脈叢を圧迫し静脈血流を促す
  ・凝固VIIa因子を低下させ、t-PAを上昇させる?
  ・合併症や禁忌は弾ストとほぼ同様
    (ASOは大丈夫?)
・低用量未分画ヘパリン
  ・APTT延長しない程度
  ・HIT-IIに注意→週数回はCBCフォロー
  ・2500-5000単位×2-3回/日皮下注
・フォンダパリヌクス
  ・Xa阻害薬
  ・低分子量ヘパリンと予防効果同等
  ・まれにHIT-II生じる?
  ・2.5mg (腎障害あれば1.5mg)×1回/日皮下注
  ・術後は24時間空ける
・ワーファリン
  ・PT-INR 2.0-2.5 (高齢者1.5-2.0)
・その他経口抗凝固薬
  ・Xa阻害薬
  ・抗トロンビン薬
・ACCP guidelineから
  ・低分子量ヘパリンが治療の中心: 中リスク以上で使用
  ・ただし、出血リスク存在する間は抗凝固療法を行わない
  ・ヘパリンが使用できない場合、低用量アスピリン(120mg)で代用も


術後ICU申し送り風景

2015年6月1日月曜日

生体肝移植の麻酔

麻酔科勉強会   担当:S先生

「生体肝移植の麻酔」

・生体肝移植の歴史
  ・1963年に世界初の肝移植
  ・1988年にブラジルで世界ではじめて生体肝移植実施
  ・本邦では1989年に開始。先天性胆道閉鎖症小児に対して。
  ・1994年に成人に対する生体肝移植が実施
・本邦での生体肝移植
  ・年間400-500例ほど実施
  ・小児:成人は1:3程度
  ・当院では平成17年から5年間で36例実施
・肝移植適応疾患
  →肝移植の他に治療法がないすべての疾患
  ・以下の状態を除く
     ・制御不能の肝胆道系以外の感染症
     ・制御不能の肝胆道系以外の悪性疾患
     ・移植の妨げとなる多臓器疾患
     (社会的理由;禁酒できないなど)
・生体肝移植ドナーの条件
  ・倫理的条件
    →本人の自発的な意志に基づいて臓器の提供を希望される方
  ・レシピエントとの関係
    →3親等以内の親族あるいは配偶者(京都大学基準)
  ・肉体的・精神的に健康
  ・ウイルス感染症(肝炎ウイルスやHTLV1など)がない
  ・肝機能が正常であること
    ・軽度脂肪肝であれば、改善後ドナーになれる
  ・レシピエントに提供できる部分肝(グラフト)の大きさが十分で、
   かつドナーにも十分な大きさの肝臓が残ること
  (グラフトの重量がレシピエント体重の0.6%以上あり、
   かつドナーの肝臓の30%以上が残る)
  ・ABO式血液型は一致または適合が望ましい、
   一致または適合しているドナーがいない場合、不適合でも実施
・生体肝移植ドナーのリスク
  ・リスクは短期的には良性腫瘍に対する肝葉切手術と同じ
  ・ドナーの死亡率は欧米で0.9%(4人)、米国で0.3%(3人)
   本邦でも1人死亡、原因は肺塞栓?
・レシピエントの合併症
   ・出血
   ・血栓症 1-2%
   ・胆管合併症 15%
   ・感染症 
   ・拒絶反応 30-60%
   ・原疾患の再発
 ・5年生存率は成人で約70〜80%、小児で約80〜85%

・末期肝不全の病態生理
   ・門脈圧亢進症
   ・高心拍出量状態
   ・腹水・胸水・浮腫
   ・低アルブミン血症、ナトリウム異常
   ・利尿薬の使用により、電解質異常
   ・肝肺症候群と門脈肺症候群
   ・凝固障害
 ・肝肺症候群
   →肺内血管拡張に付随する酸素化の低下(Pao2<70 mmHg
    あるいは空気呼吸下でPAO2~Pa02較差>20 mmHg)。
    ・実際この症候群の顕著な特徴の1つは肺内シャント。
    ・肝肺症候群患者は,起立性低酸素症を起こす。
   →肝移植後に治癒
 ・門脈肺症候群
   →門脈圧克進を伴う肺高血圧症
    ・急速に進行し重症では周術期の合併症と死亡率が高くなる。
   →肝移植に治癒するとは限らない。悪化することも。
 ・凝固障害
    ・凝固因子(Ⅱ、Ⅴ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)、
     抗凝固因子(プロテインC,S、アンチトロンビン)の減少
    ・脾機能亢進の結果として血小板減少、質的血小板機能不全、
     線維素溶解系の以上
 
・肝移植の手術
 ・剥離期、無肝期、再灌流期
 ・肝移植麻酔の準備
    ・肺動脈カテーテル、中心静脈カテーテルなど
    ・RBC 10U、FFP 10U、PC 10U以上の輸血準備。
    ・適応に応じてセルセーバ、急速輸血器など。
 ・肝移植麻酔
   ・重度の腹水、胃内容停滞時間の延長
      →フルストマック扱い、迅速導入がしばしば必要。
   ・導入は静脈麻酔薬。 
   ・ハロタン以外の全ての揮発性吸入麻酔薬は使用可能。
   ・モニタリングを行えば全ての非脱分極性筋弛緩薬は使用可能。
   ・オピオイドも禁忌なし。
 ・剥離期の麻酔
   ・術操作による静脈還流の阻害、腹水の吸引
     →低血圧の原因となる。
     →膠質液を中心とした十分な輸液が必要となる。
 ・無肝期の麻酔
   ・下大静脈クランプによる血行動態の変化
   ・アシドーシスと低Ca血症
   ・輸液過剰に注意
 ・再灌流期の麻酔
   ・クランプ解除時(特に門脈のクランプ解除後)に
    重大な血行動態の変化が起こりうる。
   →Post Reperfusion syndrome
     ・心臓の収縮力低下、不整脈、高度の徐脈、低血圧、
      高カリウム血症、代謝性アシドーシス
   ・デクランプ前に電解質、酸塩基平衡、循環血液量の補正。
   ・デクランプ前にCaの投与、過換気
   ・Post Reperfusion syndrome
     →カテコラミン、メイロン、グルコン酸カルシウム、GI療法
   ・高血糖
   ・吻合部、切断面からの出血

・当院での生体肝移植麻酔振り返り。



ロボット支援下膀胱全摘・回腸導管造設術

日本麻酔科学会学術集会

日本麻酔科学会第62回学術集会が神戸市において行われました。
当院麻酔科からは6名の先生が演題発表を行いました。


発表前2週間にはスタッフ全員の前で予演会。


手術室より。ちなみに学会会場は当院より徒歩5分です。


学会発表された先生、お疲れ様でした。
今年は集中治療医学会学術集会も神戸、
引き続きの地元開催ですが、
若手の先生を中心にまた多くの演題が出せるよう、
専攻医教育にさらに力を入れていこうと思います。