2012年8月7日火曜日
外傷患者と輸液
ICU勉強会 担当:E先生
「外傷患者と輸液」
Immediate versus delayed fluid resuscitation for hypotensive patients with penetrating torso injuries.
Bickell WH, et al. NEJM 1994
ちょっと古いですが。。。
・体幹部の穿通性外傷
・血圧低下(収縮期圧<90 mmHg)を認めた598例
・RCT(奇数日と偶数日で振り分け)
①病院前からどんどん輸液(RCC投与も)
②手術室で全身麻酔導入するまでは最小限の輸液
・2群での死亡率に差があるか?
・除外症例:手術必要としなかったもの
・非早期輸液群でプロトコールを逸脱したのは22人
・598人中70人が手術室に入る前に死亡
・手術中の輸液量に差は無かった
・結果
・総輸血量(RCC Plt FFP)に差は無かった。
・早期輸液群死亡率vs非早期輸液群死亡率:38% vs 30%
→有意差あり(RR:1.26(95%CI 1.00~1.58))
・手術開始までの平均輸液量は
・病院前:870ml vs 92ml
・病院到着後:1608ml vs 283ml
・PT・APTTも早期輸液群のほうが悪化
Prehospital Intravenous Fluid Administration is Associated With Higher Mortality in Trauma Patients: A National Trauma Data Bank Analysis
Elliott R. Haut, MD et al. Annals of Surgery 2011
・出血性ショックで輸液が有害となる理由
・凝血塊がはじけ飛ぶ?
→血圧低下により一時的に止血
→輸液による血圧上昇で再出血する
・搬送時間が長くなる(止血処置が遅れる)
・「現場でいろいろやる」よりも「とにかくすぐ運ぶ」
・National Trauma Data Bank:NTDBに登録された外傷症例
①静脈路を確保された外傷患者
②静脈路確保されていない外傷患者
・両群について死亡率に差があるかを後方視的に検討
・データに漏れの無かった311,071人
・病院前静脈路確保と死亡率の相関について検討
・静脈路確保群の死亡オッズ比は1.11(95%信頼区間1.06-1.17)
・病院到着時死亡例を除外しても・・・
→静脈路確保群の方が有意に死亡率が高かった
→死亡オッズ比1.17 (95%信頼区間1.11-1.23)
・頭部外傷患者で血圧低下が起こると予後が悪化する?
・頭部外傷症例(10,909人)
・病院到着前に静脈路確保を行うと死亡リスクが34%増大
・オッズ比1.34:95%信頼区間1.17-1.54
・しかもGCS 9点未満の患者群
・最重症頭部外傷患者群(GCS 9点未満かつ頭部AIS 3-5点)
・いずれも輸液で転帰が悪化
・静脈路確保が行われた症例は行われなかった症例よりも死亡率が高い。
・この研究の限界
・「静脈路を確保したかどうか」しか見ていない
・輸液の有無・量についてはわからない
→輸液自体が悪いかどうかは不明
・搬送時間について調べていない
・輸液の有無よりも搬送時間が長いことが死亡率と相関している可能性。
・搬送時間などを調べて調整すれば輸液が有効な患者群が判明?
・病院前救護ではルーチンで静脈路を確保する必要はない
・EASTのガイドライン(2009年)
①体幹穿通性外傷患者
②受傷部位・受傷機転を問わず活動性出血が確認されない外傷患者
→静脈内輸液の実施を差し控えるべき
・イスラエル自衛軍のガイドライン
・出血が制御されていない出血性ショック症例では
①意識障害
②橈骨動脈脈拍触知不能
③収縮期血圧80mmHg未満
・上記3項目のうち一つが確認されるまでは輸液を開始してはならない
・救急車で運ぶと予後が悪い?
・ロサンゼルスからの報告では・・・
・重症外傷患者
・救急隊が搬送した症例vs個人の乗用車で搬送された症例
・個人搬送の方が生存率が高い
・重症度が高い群(ISS 13点以上)
一般市民が搬送した方が外傷センター到着までの時間が短かった
・JATEC
・鋭的外傷・血管損傷の止血処置が完了するまで
・脈拍を触知でき、意識レベルを維持できる程度の輸液量に
・鈍的外傷や止血処置がすぐにできない場合はこの限りでは無い
・頭部外傷を合併する場合
・二次的脳損傷を防ぐために収縮期血圧を120以上に。
当院5階より山側を望む