2014年7月17日木曜日

入院患者に生じた皮疹の観方

ICU勉強会  担当:皮膚科ゲストDr

「入院患者に生じた皮疹の観方」

・所見の記載のための用語集
 ・斑
   →皮膚の色調変化を主体とする限局性病変で、
      原則として立体的変化を伴わない
 ・紅斑
   →硝子圧で退色する淡紅色〜紅色斑。
     真皮乳頭層の血管拡張、充血による。
   ・浸潤性紅斑
      →炎症細胞浸潤により、浸潤を触れる
        (少し盛り上がってざらざらする)紅斑
    ・硬結性紅斑
      →真皮〜皮下の強い炎症により、強い硬結を触れる紅斑。
        結節性紅斑、丹毒、蜂窩織炎などを考える。
 ・紫斑
   →硝子圧で退色しない鮮紅色〜紫色斑。真皮内出血による。
   ・浸潤を触れる紫斑(palpable purpura)
      →強い炎症のため隆起してざらざらする。
        血管炎の可能性を考える。
 ・丘疹
   →径5〜10mm以下の隆起
 ・結節
   →径5〜10mm以上の隆起
 ・腫瘤
   →結節よりさらに大きいもの(3cm以上?)
 ・膨疹
   →皮膚の限局性の浮腫。
    境界明瞭で扁平に隆起。蕁麻疹と同義。
 ・水疱
   →水疱内容液は常色(皮膚色)〜橙色で漿液性のもの。
 ・血疱
   →水疱内容液が血液を含んで紫紅色のもの
 ・膿疱
   →水疱内容液が膿性で黄白色クリーム状のもの
 ・びらん
   →表皮の欠損。
 ・表皮剥離
   →外傷により表皮が欠損したもの。
 ・潰瘍
   →表皮〜真皮、あるいは皮下組織におよぶ欠損。

・急性に全身に紅斑が拡大する場合
    ・既存の皮膚疾患の悪化
       →慢性湿疹、接触皮膚炎、尋常性乾癬などの急性増悪
    ・膨疹
        →蕁麻疹
    ・target lesion
       →中央が暗赤色〜紅褐色に陥凹し、
         辺縁が環状に隆起し、標的状、虹彩状を呈するもの
        →多形紅斑(多形滲出性紅斑)、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、
                  中毒性表皮壊死症(TEN)
    ・水疱、びらん
       →多形紅斑、SJS、TEN、
         SSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)
 ・上記の特徴がなく診断困難な場合「中毒疹」と称することが多い。
    ・ウイルス性発疹症
       →入院中に発症する可能性は低いか?
       →麻疹、風疹、伝染性単核球症(EBウイルス、CMVなどの初感染)、
         伝染性紅斑(パルボB19ウイルス)など
    ・薬疹
       →播種状紅斑丘疹型薬疹、多形紅斑、SJS、TEN、
         DIHS(薬剤過敏症症候群)など
    ・TSS(Toxic Shock Syndrome)
       →黄色ブドウ球菌の外毒素による。
    ・猩紅熱
       →溶連菌の外毒素による。通常は小児に生じる。
 ・上記以外の何らかの感染症に対する免疫応答?
・EM,SJS,TEN,DIHSの原因
 ・多形紅斑
   →感染(特にHSV)、薬剤、悪性腫瘍、食物など、
     何らかの抗原に対する免疫応答
  ・SJS
    →薬剤のことが多い。
     マイコプラズマなどの
  ・TEN
   →薬剤によるものが大半。
   →感染症によると推定される症例もあり。
 ・DIHS
    →限られた薬剤+HHV6などの再活性化

・薬疹発症のタイミング
  ・即時型アレルギー(蕁麻疹、アナフィラキシー)
             ・内服開始1時間以内の発症でなければ薬疹をほぼ否定。
      ・現在内服中に感作が成立して抗体(抗原特異的IgE)
        →内服継続中はすぐに抗原と結合して消費されてしまい、
          症状誘発に必要な抗体量に到達しないため発症しない。
  ・遅発型アレルギー(播種状紅斑丘疹型薬疹、多形紅斑、SJS/TENなど)
      ・内服開始2〜3日後(day 3〜4)の発症であれば薬疹を否定。
      ・内服開始3〜4週以降の発症であれば薬疹の可能性はやや低くなる。
      ・過去の内服により感作成立
        →再度内服直後-1時間以内に発症
      ・現在内服中に感作成立(5日〜2週間かかる。抗原特異的T細胞産生、活性化)
        →内服開始5日〜2週間後(DIHSは2週〜6週後)に発症
  ・DIHS(薬剤過敏症症候群)の場合は内服2-6週後の発症が多い。
         ・DIHSを生じる薬剤は限られている。
       ・カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、
        アロプリノール、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルホン、
        メキシチール、ミノサイクリンなど

2014年7月14日月曜日

術中覚醒とBIS

麻酔科勉強会  担当:S先生

「術中覚醒とBIS」

・術中覚醒の定義
  →experience and explicit recall of sensory perceptions
   during surgery
   ・術中のことを明白に思い出せる
・頻度
  ・0.1-0.2%
    ・33%:痛みを覚えている
    ・50%:手術室の会話,音を思い出せる
    ・25%:挿管時に関連した記憶
    ・16%:PTSD発症
・術中覚醒の原因
  ・薬剤エラー
  ・麻酔技術
  ・機器の問題
  ・airway
 ・例えば・・・
  ・ディプリバンキット交換時に再開押し忘れ
  ・ルートのコネクタ外れていた
  ・セボフルラン補充してダイヤル回し忘れ
  ・TIVAで輸液ボトルが空
  ・ミズチバ
  ・ライン漏れ
  ・TCIポンプに体重誤入力
  ・三方活栓の向き間違い
  ・吸入麻酔薬が空
  ・・・
・術中覚醒のリスク因子
  ・心臓手術(最大1/100)
  ・女性
  ・若年 
  ・外傷、緊急手術
  ・緊急全身麻酔の帝王切開(4/1000)
  ・TIVA
  ・小児( 0.6% )
・Briceの質問票
・BISモニターによる監視は?
  ・BIS:Biseptral Index
    ・測定した脳波をCovidienが
      フーリエ変換を用いた謎のアルゴリズムで数値化
・進化するBIS
  ・BIS A-1050→BIS-XP→BIS-VISTA
・BISモニターのパラメーター
 ・SQI(Signal quality index)
   →BIS値の信頼度、アーティファクト、筋電図などで低下
 ・SR(Suppresion ratio)
   →1分間(63sec)に脳波がフラットになった時間の割合。
    麻酔が深くなると増加
 ・EMG(Electromyograph)
   →筋電図70-110Hzの波形の強さ(デシベル)を表示
 ・SEF(Spectral Edge Frequency 95)
   →日本語訳するとスペクトルエッジ周波数。
    全体のPower Spectrumのうちちょうど95%が
    その周波数以下に存在するFrequencyの値。
    一般に麻酔が深くなるとこの値は小さくなる。
・BISに影響を及ぼすもの
 ・EMG(特に前頭部の筋肉)
 ・Medical device
    ・ペースメーカー
    ・ウォーマー
    ・副鼻腔の手術の際に使う内視鏡やシェーバー
    ・電気メス・・・
   →BISを上昇させる。
 ・脳波の異常値
 ・麻酔薬やその他薬など
    ・ケタミン→BIS値上昇
    ・ハロタン→BIS値上昇
    ・イソフルラン→transient paradoxical response?
    ・笑気                    
    ・エフェドリン→BIS値上昇?
・BISをつければ術中覚醒は防げるのか?
 ・B-Aware trial:BIS群で術中覚醒少ない。
 ・Safe-2 trial:BIS群で術中覚醒少ない。
 ・B-Unaware trial:有意差なし
 ・BAG-RECALL trial:BIS群でむしろ術中覚醒多い。


 

2014年7月4日金曜日

術中低血圧

初期研修医勉強会 担当:Y先生

「術中低血圧」

・ショックの分類
  ・Hypovolemic shock
    →脱水、出血、嘔吐、下痢、大量発汗など
  ・Cardiogenic shock
    →不整脈(徐脈、頻脈)、心不全、麻酔薬など
  ・Obstructive shock
    →肺塞栓症、緊張性気胸、心タンポナーデなど
  ・Distributive shock
    →神経原性ショック(麻酔薬)、アナフィラキシー
     敗血症性ショックなど
・術中の血圧低下の程度はどのくらい?
   ・全身麻酔を予定されている患者を対象としたstudy
      ・日中平均血圧、睡眠時血圧、術中血圧を測定、比較。
  →麻酔時は睡眠時よりも血圧が低下する。
・術中低血圧について
 ・術中低血圧についてのガイドライン、Reviewは存在しない
 ・高齢者を対象にしたstudy
    ・術中のMAPを45-55mmHgに管理した群
              vs 55-70mmHgに管理した群
        ・心血管イベントや死亡率に有意差はなかった
 ・ちなみに本では?
    ・術中血圧はMAP>80mmHgを目標に
       (羊土社:麻酔科研修チェックノート)
    ・脳の自動調節能は70-150mmHg、腎臓では80-180mmHg
      →これを目安に患者の状態に応じて適切な血圧管理が必要
       (日本医事新報社:麻酔への知的アプローチ)
・術中低血圧でoutcomeが変わるのか?
  ・前向きコホート研究
  ・2時間以上の手術が予想される成人腹部外科手術100例
  ・術中低血圧の定義
     ・MAP<60mmHg
     ・MAP<70mmHgかつbaselineより30%減少
  ・術中低血圧時間10分を閾値に入院日数や合併症が増加するか比較
     →術中低血圧は入院日数を伸ばす
・腎障害、心筋障害は増えるのか?
  ・非心臓手術を対象とした後ろ向きコホート研究
  ・n=33,330
  ・術中低血圧と術後AKI、心筋障害の関係を評価
     →MAP<55mmHgが維持すると・・・
     →AKI、心筋障害リスクが有意に上昇
・脳梗塞との関連は?
  ・大学病院での手術患者48,241人を対象
  ・後ろ向きコホート研究
  ・術後10日以内の脳梗塞発症についてオッズ比算出
     →MAPがbaselineより30%低下するとCIリスク上昇
     →絶対値よりも相対値が重要
・1年後死亡率は?
  ・大学病院での手術患者1,705人を対象
  ・術中低血圧の持続時間ごとに術後1年以内の全死亡率を比較
     →因果関係は明らかでなかった。
     →高齢患者では高い血圧閾値、短い低血圧持続時間推奨。


血糖コントロールまとめ

麻酔科勉強会  担当:H先生

「血糖コントロールまとめ」

・2013年のInternational Diabetes Federation(IDF)の発表
  →世界で3億8,200百万人が糖尿病(有病率8.3%)
   ・日本は720万人が罹患
   ・ちなみに1位は中国の9,840万人 
   ・糖尿病の人口の80%は低−中所得層の国の人々。
   ・40−59歳の年齢層で多い。
・糖尿病とは
  ・インスリンの作用不足による慢性高血糖が主徴
   →種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群。
  ・発症には遺伝因子と環境因子が共に関与する。
  ・代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすい。
  ・無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。
・ストレス性高血糖
  ・外傷、手術侵襲、sepsisなど
    →神経系、内分泌系、免疫系ストレス反応
    →異化の亢進
     ・タンパク分解促進
     ・グリコーゲン分解
     ・脂肪分解
     ・インスリン抵抗性の増大
    →ストレス性高血糖
・後期糖化反応生成物(AGEs)
  ・高血糖状態が持続することで産生が促進され、蓄積される。
  ・産生過程や構造は分からないことが多い。
  ・細胞表面に発現しているRAGE(receptor for AGEs)が
   急性炎症に関係している。
  ・RAGEノックアウトマウスでは敗血症モデルや
   エンドトキシンショックモデルで生存率の改善が報告されている。
・高血糖の弊害
  ・浸透圧利尿
     →脱水
  ・創傷部位の血流障害
  ・線維芽細胞の活動障害
  ・Vit.C吸収障害でコラーゲンの合成が阻害
     →創傷治癒の遅延
  ・好中球の遊走能・貪食能・殺菌能の低下
     →液性免疫の低下
  ・血管障害
・DIGAMI study
  ・AMI後にインスリンを使用して死亡率が変わるかを検討した
  ・620人の糖尿病合併のAMI患者が対象
  ・primary endpointは死亡率
   →インスリン使用で有意に死亡率が低下
   →急性期の血糖管理の重要性が広まった。
・Leuven study
 ・ICU入室の人工呼吸管理患者(外科系メイン)が対象
  ・強化インスリン療法群は死亡率が3.4%低かった。
・Leuven ll study
  ・今回は内科系メイン
 ・強化インスリン療法群は死亡率が2.8%低かった(有意差なし)。
・Leuven studyの問題点
  ・単一施設での研究
  ・Leuven I の対象患者の6割が開心術後
  ・Leuven IIでは有意差はなかった
  ・低血糖の発生率が高いなど
・強化インスリン療法の是非について
  ・NICE-SUGAR study
     ・BS値81-108mg/dlでコントロールする群(IIT)
        vs 180mg/dlを保つ群(従来)で90日間の死亡率を調査
     ・ICU42施設 6022人 最も大規模なstudy
     ・死亡率 IIT27.5% 従来24.9% (P=0.02)
        →有意にIIT群が死亡率が高い結果となった。
  ・小児を対象としたstudyでも
     (N Engl J Med. 2014 Apr 10;370(15):1469.)
    →Tight glicemic control群は低血糖発生率が高い。
・日本版敗血症診療ガイドラインでは・・・
  →目標血糖値は144-180mg/dl
  →強化インスリン療法は行わない。
     →NICE-SUGAR trialに由来


喉頭蓋炎とPRISと気胸

ICU勉強会  担当:N先生

「喉頭蓋炎とPRISと気胸」

1.急性喉頭蓋炎での挿管の適応は?

・基本的には明確な基準はなくcontroversy
  ・小児→気道狭く早めに挿管すべき
     ・就学前の小児749人で気道確保をしなかった群
        →挿管・気切した群より死亡率が高かった。
  ・成人→ICU等で経過観察が可能?
     ・重症呼吸困難がなく、気道が50%以上開通している場合
       →経過観察が推奨
       →79%で経過観察で治療成功が報告
・総合的な判断が必要となる
  ・4つのポイント
    ・時間経過:発症が急激(1日以内)
    ・症状:呼吸困難、stridor、流涎、チアノーゼ
    ・所見:ファイバーでの喉頭蓋の腫脹
    ・血液検査:WBC、CRPなどの炎症反応
  ・その他、起炎菌(Hib)、基礎疾患(糖尿病など)も

2.プロポフォールの副作用
  ・PRIS
  ・循環器:血圧低下(ICUの約25%)、徐脈、不整脈
  ・神経系:興奮作用→痙攣様、ミオクローヌスなど
  ・感染→6-12hr毎のルート交換(CDC guideline)
  ・アナフィラキシー
  ・高TG血症
  ・膵炎
  ・呼吸性アシドーシス
 ・PRIS(Propofol infusion syndrome)について
  ・長期間・高用量の投与で起こるまれな致死性合併症
    →代謝性アシドーシス、脂質異常症、多臓器不全が進行
    →徐脈性不整脈、心停止に至る
  ・乳酸アシドーシスやBrugada型心電図変化が先行
  ・ミトコンドリア脂質代謝障害や遺伝子欠損症の関与
  ・PRIS発症の危険因子
    ・高用量>4㎎/kg/hr or 67μg/kg/min
    ・長期間>48hr
    ・乳幼児
    ・重症患者
    ・低タンパク・高脂質の摂取
    ・先天的なミトコンドリア脂質代謝異常
    ・カテコラミン・ステロイド投与
  ・PRISは成人でも発症する
  【症例報告】
    ・43歳女性、血管奇形に対して開頭術後
    ・術直後に原因不明・重症の乳酸アシドーシス
    ・術中に7mg/kg/hr、ICUで3.5mg/kg/hr
    ・プロポフォールの投与を中止、アシドーシス補正で改善

3.気胸の画像診断
  ・Xp:背臥位での気胸の所見
    ・double diaphragm sign
    ・deep sulcus sign
    ・depression of diaphragm
    ・basilar hyperlucency
    ・medial stripe sign
  ・肺エコー
    ・正常所見
       ・Bat sign:上下の肋骨+胸膜
       ・A-line:胸膜より深部に並行
          →胸膜下のAirを反映
       ・Mモード
         ・平行線→表面組織
         ・不均一→肺実質
         ・Seashore sign
           →表面組織と肺実質の境界
    ・気胸所見
       ・Lung slidingが消失
       ・M modeでSeashoreが消失