ICU勉強会 担当:Y先生
「生体肝移植の術後合併症」
・出血
・凝固障害
→原因:術中大量輸血・輸液、代謝性アシドーシス、低体温など。
→凝固因子が十分であっても凝固障害が起こりうる。
・線溶系亢進
→無肝期の肝機能低下により線溶系が亢進。
・脆弱な側副血行路の破綻
・再開腹の場合、広範な癒着剥離
・吻合部からの出血
→出血は術後1~2日目の最大の合併症である。
・肝動脈血栓症(HAT)と門脈血栓症(PVT)
・頻度:HAT 1.3~12%, PVT 1.3~8%
・時期:術後1週間以内
・病因:凝固因子産生>抗凝固・線溶因子の産生回復遅延
・診断:US(CFD)、CT、MRI
・予防:抗凝固療法、潅流圧維持、循環血液量維持、
→ 抗凝固療法は原則ヘパリン(未分画or低分子)で行う。
FFP、ATⅢ維持(>80%)、血液希釈(Hct 25%前後に)
・治療
・HAT:速やかな血行再建。治療が遅れれば再移植。
・PVT:血栓溶解療法(urokinase、t-PA)、抗凝固療法
外科的血栓除去、再吻合
門脈圧亢進→内視鏡的静脈瘤結紮、遠位脾腎shunt術など。
・Outflow block
・移植後の肝静脈閉塞。
・頻度:2.7~3%、移植後晩期合併症としても発生しうる。
・症状:肝腫大、低蛋白血症、肝機能悪化、胸腹水貯留など。
・診断:臨床症状、Echo:CVP-HVP圧較差など。
・原因:左葉graft(HV吻合が2本以上)、graftのねじれなど。
・治療:経肝的or経静脈的バルン拡張
・胆道系合併症
・胆管狭窄、胆汁瘻
・頻度:11.5~19%
・リスク
・肝動脈血栓症(胆管は肝動脈のみで栄養されているため。)
・ABO不適合移植(抗体による胆管上皮の障害)
・治療:
・胆道狭窄→経皮経肝的拡張術
・胆汁瘻→minor leakではdrainage、major leakでは再吻合。
・免疫抑制
・基本的にはTacrolimusとMethlprednisolone2剤併用免疫抑制。
・Methlprednisolone
・施設によりprotocolは異なる。3~6ヶ月でoff可能。
・steroidの副作用
・steroidはHCVのreplicationを促進する?
・Tacrolimus→術直後より経静脈的投与、経口摂取開始後は内服へ。
・calcineurin活性化阻害
・血中濃度は毎日測定。
・代謝:cytochrome P-450→薬剤相互作用注意!
Ca-blocker、抗真菌薬、抗てんかん薬、抗生物質、…
・副作用:意識障害、痙攣、高血圧、腎機能障害、高血糖など。
・Tacrolimusの中枢神経合併症
・軽度の振戦 (35~55%)。
・頭痛、視覚異常、痙攣
→通常高血圧を伴う。高血圧脳症の臨床所見を呈す。
→Posterior leukoencephalopathyの画像所見を呈す。
→Posterior Reversible encephalopathy syndrome (PRES)
・神経学的合併症は通常reversibleである。
→経口への切り替え、減量、中止、cyclosporineへの変更など。
→ちなみにcyclosporineでも同様の症状は起こりうる。
・拒絶反応
・肝移植症例の36%に急性拒絶反応を認めたという報告も。
・好発時期:移植後1週間から3ヶ月
・臨床所見:発熱、移植肝の腫張・圧痛、便色が薄くなる、など
・検査所見:Bil、胆道系酵素、トランスアミナーゼ上昇
・確定診断:肝生検
・治療:ステロイドパルス療法
→治療抵抗性の場合はMuromonab-CD3 (OKT3)
→合併症:anaphylaxy反応、肺水腫、over immunosupressionなど。
・細菌感染(48%)
・術後1カ月以内
・真菌感染(22%)
・Candida:術後1カ月以内
・Pneumocystis jirovecci、Aspergillus等:術後3-5カ月以内
・ウイルス感染(12%)
・CMV、HSV、VZV、EBV、adenovirus、…
・EBV感染による移植後リンパ増殖性疾患:PTLDは致命的転機となりうる。
・EBV初感染例、over immunosupression例には注意。
・移植患者の感染症において留意すべき点
・免疫抑制状態において、感染兆候は発見しがたくなる。
・想起すべき起炎菌が莫大となる。
・抗菌薬が免疫抑制剤と薬物相互作用を持つ。
・感染の進行、重症化が一般健常人と比較して急速である。
・感染リスクが患者の状態によって異なる。
・その他合併症
・Small for size (SLV:standard liver volumeの40%以下)による合併症
→高Bil血症、難治性腹水、相対的門脈血流過剰による肝鬱血、…
→最悪の場合再移植が必要。
・腸管穿孔
→リスクとして再開腹例など。
・その他にも・・・
・移植後再生不良性貧血
・血球貪食症候群(HPS)
・血栓性微小血管傷害(TMA)