2012年7月23日月曜日

生体肝移植の術後合併症

ICU勉強会  担当:Y先生

「生体肝移植の術後合併症」

・出血
  ・凝固障害
    →原因:術中大量輸血・輸液、代謝性アシドーシス、低体温など。
    →凝固因子が十分であっても凝固障害が起こりうる。
  ・線溶系亢進
    →無肝期の肝機能低下により線溶系が亢進。
  ・脆弱な側副血行路の破綻
  ・再開腹の場合、広範な癒着剥離
  ・吻合部からの出血 
 →出血は術後1~2日目の最大の合併症である。

・肝動脈血栓症(HAT)と門脈血栓症(PVT)
  ・頻度:HAT 1.3~12%,  PVT 1.3~8%
  ・時期:術後1週間以内
  ・病因:凝固因子産生>抗凝固・線溶因子の産生回復遅延
  ・診断:US(CFD)、CT、MRI
  ・予防:抗凝固療法、潅流圧維持、循環血液量維持、
        → 抗凝固療法は原則ヘパリン(未分画or低分子)で行う。
        FFP、ATⅢ維持(>80%)、血液希釈(Hct 25%前後に)
  ・治療
    ・HAT:速やかな血行再建。治療が遅れれば再移植。
    ・PVT:血栓溶解療法(urokinase、t-PA)、抗凝固療法
        外科的血栓除去、再吻合
        門脈圧亢進→内視鏡的静脈瘤結紮、遠位脾腎shunt術など。

・Outflow block
  ・移植後の肝静脈閉塞。
  ・頻度:2.7~3%、移植後晩期合併症としても発生しうる。
  ・症状:肝腫大、低蛋白血症、肝機能悪化、胸腹水貯留など。
  ・診断:臨床症状、Echo:CVP-HVP圧較差など。
  ・原因:左葉graft(HV吻合が2本以上)、graftのねじれなど。
  ・治療:経肝的or経静脈的バルン拡張

・胆道系合併症
  ・胆管狭窄、胆汁瘻
  ・頻度:11.5~19%
  ・リスク
    ・肝動脈血栓症(胆管は肝動脈のみで栄養されているため。)
    ・ABO不適合移植(抗体による胆管上皮の障害)
  ・治療:
    ・胆道狭窄→経皮経肝的拡張術
    ・胆汁瘻→minor leakではdrainage、major leakでは再吻合。

・免疫抑制
  ・基本的にはTacrolimusとMethlprednisolone2剤併用免疫抑制。
  ・Methlprednisolone
    ・施設によりprotocolは異なる。3~6ヶ月でoff可能。
    ・steroidの副作用
    ・steroidはHCVのreplicationを促進する?
  ・Tacrolimus→術直後より経静脈的投与、経口摂取開始後は内服へ。
    ・calcineurin活性化阻害
    ・血中濃度は毎日測定。
    ・代謝:cytochrome P-450→薬剤相互作用注意!
         Ca-blocker、抗真菌薬、抗てんかん薬、抗生物質、…
    ・副作用:意識障害、痙攣、高血圧、腎機能障害、高血糖など。
    ・Tacrolimusの中枢神経合併症
      ・軽度の振戦 (35~55%)。
      ・頭痛、視覚異常、痙攣
        →通常高血圧を伴う。高血圧脳症の臨床所見を呈す。
        →Posterior leukoencephalopathyの画像所見を呈す。
        →Posterior Reversible encephalopathy syndrome (PRES)
    ・神経学的合併症は通常reversibleである。
      →経口への切り替え、減量、中止、cyclosporineへの変更など。
      →ちなみにcyclosporineでも同様の症状は起こりうる。

・拒絶反応
  ・肝移植症例の36%に急性拒絶反応を認めたという報告も。
  ・好発時期:移植後1週間から3ヶ月
  ・臨床所見:発熱、移植肝の腫張・圧痛、便色が薄くなる、など
  ・検査所見:Bil、胆道系酵素、トランスアミナーゼ上昇
  ・確定診断:肝生検
  ・治療:ステロイドパルス療法
    →治療抵抗性の場合はMuromonab-CD3 (OKT3)
    →合併症:anaphylaxy反応、肺水腫、over immunosupressionなど。

・細菌感染(48%)
  ・術後1カ月以内
・真菌感染(22%)
  ・Candida:術後1カ月以内
  ・Pneumocystis jirovecci、Aspergillus等:術後3-5カ月以内           
・ウイルス感染(12%)
  ・CMV、HSV、VZV、EBV、adenovirus、…
  ・EBV感染による移植後リンパ増殖性疾患:PTLDは致命的転機となりうる。
  ・EBV初感染例、over immunosupression例には注意。

・移植患者の感染症において留意すべき点
  ・免疫抑制状態において、感染兆候は発見しがたくなる。
  ・想起すべき起炎菌が莫大となる。
  ・抗菌薬が免疫抑制剤と薬物相互作用を持つ。
  ・感染の進行、重症化が一般健常人と比較して急速である。
  ・感染リスクが患者の状態によって異なる。

・その他合併症
  ・Small for size (SLV:standard liver volumeの40%以下)による合併症
   →高Bil血症、難治性腹水、相対的門脈血流過剰による肝鬱血、…
   →最悪の場合再移植が必要。
  ・腸管穿孔
   →リスクとして再開腹例など。
  ・その他にも・・・
    ・移植後再生不良性貧血
    ・血球貪食症候群(HPS)
    ・血栓性微小血管傷害(TMA)