2012年7月31日火曜日

日本の集中治療室での栄養療法は遅すぎかつ少なすぎる

麻酔科勉強会   担当:H先生

「日本の集中治療室での栄養療法は遅すぎかつ少なすぎる」

・低栄養で予後が悪化する
・カロリー借金がおおければ感染増える
  ・カロリー・タンパクともに目標を満たした群
    →28日後予後が改善した。
・エネルギー借金と予後
  ・長期にICUを必要とすると思われる重症患者
    →カロリー及びタンパクを満たした群では予後は改善すると思われる.
    →同時にVAPの確率、人工呼吸器期間は延長すると思われる
・早期経腸栄養の目的と効果
  ・Am J Crit Care November 2010 vol. 19 no. 6 488  Khalid et al
    ・前向きコホート研究
    ・早期経腸栄養群(<24h)は遅れて開始した群に比べ生存率が高い。
    ・予後改善のため、24-48時間以内に投与を開始する必要がある!
・栄養投与改善法
  ・管理栄養士を置く
  ・プロトコールをつくる
  ・国際研究に参加して自分の施設の状態を知る
・International nutrition surveyについて
  ・人工呼吸を開始し、72時間以上ICU滞在を続けた成人患者
  ・調査項目
    →投与内容、開始時期、腸管蠕動薬や幽門後栄養の有無など。
  ・投与カロリー/目標カロリー比、合計投与カロリーなどを国際比較。
    →順位まで出してくれます。
・INSに参加し続けると 栄養投与改善する
  ・当院における取り組み
    ・2009年INSに参加。
      →様々な問題点が明らかとなった。
         ・プロトコールの不備
         ・栄養投与量の増加遅延
         ・不必要に経腸栄養を開始していないことがある。
         ・・・など。
  ・2011年までに、
     ・ICU内での問題認識
     ・脳外科、循環器科との栄養療法必要性の教育
     ・脳外科内の栄養療法担当医の誕生
     ・・・
       →2011年の調査ではかなり改善された。



       King visionがやってきました。

2012年7月23日月曜日

生体肝移植の術後合併症

ICU勉強会  担当:Y先生

「生体肝移植の術後合併症」

・出血
  ・凝固障害
    →原因:術中大量輸血・輸液、代謝性アシドーシス、低体温など。
    →凝固因子が十分であっても凝固障害が起こりうる。
  ・線溶系亢進
    →無肝期の肝機能低下により線溶系が亢進。
  ・脆弱な側副血行路の破綻
  ・再開腹の場合、広範な癒着剥離
  ・吻合部からの出血 
 →出血は術後1~2日目の最大の合併症である。

・肝動脈血栓症(HAT)と門脈血栓症(PVT)
  ・頻度:HAT 1.3~12%,  PVT 1.3~8%
  ・時期:術後1週間以内
  ・病因:凝固因子産生>抗凝固・線溶因子の産生回復遅延
  ・診断:US(CFD)、CT、MRI
  ・予防:抗凝固療法、潅流圧維持、循環血液量維持、
        → 抗凝固療法は原則ヘパリン(未分画or低分子)で行う。
        FFP、ATⅢ維持(>80%)、血液希釈(Hct 25%前後に)
  ・治療
    ・HAT:速やかな血行再建。治療が遅れれば再移植。
    ・PVT:血栓溶解療法(urokinase、t-PA)、抗凝固療法
        外科的血栓除去、再吻合
        門脈圧亢進→内視鏡的静脈瘤結紮、遠位脾腎shunt術など。

・Outflow block
  ・移植後の肝静脈閉塞。
  ・頻度:2.7~3%、移植後晩期合併症としても発生しうる。
  ・症状:肝腫大、低蛋白血症、肝機能悪化、胸腹水貯留など。
  ・診断:臨床症状、Echo:CVP-HVP圧較差など。
  ・原因:左葉graft(HV吻合が2本以上)、graftのねじれなど。
  ・治療:経肝的or経静脈的バルン拡張

・胆道系合併症
  ・胆管狭窄、胆汁瘻
  ・頻度:11.5~19%
  ・リスク
    ・肝動脈血栓症(胆管は肝動脈のみで栄養されているため。)
    ・ABO不適合移植(抗体による胆管上皮の障害)
  ・治療:
    ・胆道狭窄→経皮経肝的拡張術
    ・胆汁瘻→minor leakではdrainage、major leakでは再吻合。

・免疫抑制
  ・基本的にはTacrolimusとMethlprednisolone2剤併用免疫抑制。
  ・Methlprednisolone
    ・施設によりprotocolは異なる。3~6ヶ月でoff可能。
    ・steroidの副作用
    ・steroidはHCVのreplicationを促進する?
  ・Tacrolimus→術直後より経静脈的投与、経口摂取開始後は内服へ。
    ・calcineurin活性化阻害
    ・血中濃度は毎日測定。
    ・代謝:cytochrome P-450→薬剤相互作用注意!
         Ca-blocker、抗真菌薬、抗てんかん薬、抗生物質、…
    ・副作用:意識障害、痙攣、高血圧、腎機能障害、高血糖など。
    ・Tacrolimusの中枢神経合併症
      ・軽度の振戦 (35~55%)。
      ・頭痛、視覚異常、痙攣
        →通常高血圧を伴う。高血圧脳症の臨床所見を呈す。
        →Posterior leukoencephalopathyの画像所見を呈す。
        →Posterior Reversible encephalopathy syndrome (PRES)
    ・神経学的合併症は通常reversibleである。
      →経口への切り替え、減量、中止、cyclosporineへの変更など。
      →ちなみにcyclosporineでも同様の症状は起こりうる。

・拒絶反応
  ・肝移植症例の36%に急性拒絶反応を認めたという報告も。
  ・好発時期:移植後1週間から3ヶ月
  ・臨床所見:発熱、移植肝の腫張・圧痛、便色が薄くなる、など
  ・検査所見:Bil、胆道系酵素、トランスアミナーゼ上昇
  ・確定診断:肝生検
  ・治療:ステロイドパルス療法
    →治療抵抗性の場合はMuromonab-CD3 (OKT3)
    →合併症:anaphylaxy反応、肺水腫、over immunosupressionなど。

・細菌感染(48%)
  ・術後1カ月以内
・真菌感染(22%)
  ・Candida:術後1カ月以内
  ・Pneumocystis jirovecci、Aspergillus等:術後3-5カ月以内           
・ウイルス感染(12%)
  ・CMV、HSV、VZV、EBV、adenovirus、…
  ・EBV感染による移植後リンパ増殖性疾患:PTLDは致命的転機となりうる。
  ・EBV初感染例、over immunosupression例には注意。

・移植患者の感染症において留意すべき点
  ・免疫抑制状態において、感染兆候は発見しがたくなる。
  ・想起すべき起炎菌が莫大となる。
  ・抗菌薬が免疫抑制剤と薬物相互作用を持つ。
  ・感染の進行、重症化が一般健常人と比較して急速である。
  ・感染リスクが患者の状態によって異なる。

・その他合併症
  ・Small for size (SLV:standard liver volumeの40%以下)による合併症
   →高Bil血症、難治性腹水、相対的門脈血流過剰による肝鬱血、…
   →最悪の場合再移植が必要。
  ・腸管穿孔
   →リスクとして再開腹例など。
  ・その他にも・・・
    ・移植後再生不良性貧血
    ・血球貪食症候群(HPS)
    ・血栓性微小血管傷害(TMA)



2012年7月18日水曜日

非心臓手術を受ける心疾患患者の麻酔管理

麻酔科勉強会  担当:Y先生

「非心臓手術を受ける心疾患患者の麻酔管理」

・周術期心合併症リスクの患者因子
  ・Revised Cardiac Risk Index(RCRI)
    1.手術手技
    2.虚血性心疾患の既往
    3.うっ血性心不全の既往
    4.脳血管病変の既往
    5.インスリン使用している糖尿病
    6.腎機能低下(血清Cr値>2.0 mg/dl)
・運動予備能(Metabolic equivalents)の評価
  ・METs(Metabolic equivalents)
・周術期心合併症リスクの手術因子
  1.高リスク手術(心血管合併症リスク5%以上)
  2.中リスク手術(心血管合併症リスク5%以下)
  3.低リスク手術(心血管合併症リスク1%以下)
・術前評価のアルゴリズム(Stepwise Approach)
  ・Active cardiac condition
    ・不安定冠症候群 
    ・非代償性心不全(NYHA Ⅳ)
    ・重症不整脈
    ・重症弁疾患
  →待機的手術は中止・延期、検査・治療を優先する。
・術前の非侵襲検査(運動負荷心電図)
  ・トレッドミルなど
・非心臓手術前の冠動脈再灌流(CABG, PCI)
・心筋梗塞後の待機的非心臓手術
  ・2002ガイドライン
    →MI後の待機的手術は4~6週間空けるのが妥当。
  ・2007ガイドライン
    →発症1か月以内の心筋梗塞は、高リスク因子
    →この時期は、虚血の評価・治療を優先すべき。
・PCI・抗血小板療法と手術
・POBA、BMS、DESについて
・薬物療法など


2012年7月6日金曜日

Post Operative Atrial Fibrillation

麻酔科勉強会   担当:N先生

「Post Operative Atrial Fibrillation (POAF)」

・POAFの発生
  ・CABG単独・・・30%
  ・弁形成・弁置換・・・40%
  ・両方・・・50%
・POAF発症のピーク 
  →70%がPOD2まで、94%がPOD6までに発症。
・POAFはlife threateningである!
  ・Morbidity ↑ Mortality↑
  ・術後塞栓症、stroke発症が3倍。
  ・Hemodynamic  compromise
  ・心室性不整脈
  ・治療介入による医原性合併症
・POAFが病院リソースに与える影響
  ・入院期間が4-9日延長する。
  ・アメリカでは10,000-11,500ドルの余分なコストがかかる。
・POAFのリスクファクター
  ・70歳以上の高齢者
  ・AFの既往
  ・男性
  ・左室低心機能
  ・左房拡大
  ・弁手術
  ・COPD、CRF、DM、obesityもリスク。
・POAFのPathogenesis
  ・Pre-disposing factors
  ・Intraoperative factors
  ・Post-operative factors
  ・炎症
  ・活性酸素などなど
     →心房の構造的基質に影響
     →心房の電気生理学的基質に影響
     →POAF
・POAFの予防
  ・β-blocker
    ・Indication class Ⅰ
    ・交感神経活動の抑制によりPOAF予防?
    ・術前に飲んでた人は中止しない!
  ・アミオダロン
    ・ARCH trial、PAPABEAR trialなど
    ・徐脈と低血圧が増える可能性。
  ・心房ペーシング
  ・その他には・・・
    →Digoxin、CCB、Mg、スタチン、N-3脂肪酸、NSAIDS、ステロイド
・POAFの治療
  ・Rate control
    →術後は交感神経系が亢進
    →POAFのrate controlは難しい。
  ・Rhythm control
  ・カルディオバージョン
    →血行動態不安定、急性心不全、心筋虚血のとき。
・抗凝固療法
  ・出血のリスク
    →高齢、高血圧、出血の既往
  ・開始のタイミング
     ・POAF発症後48時間以降
     ・繰り返すPOAFの時

・まとめ
  ・POAFは頻度の高い合併症である。
  ・mortality、morbidityを増やす。
  ・塞栓、strokeのリスクが高まる。
  ・コストもかかる。
  ・POAFが起こったら
    →血行動態不安定ならカルディオバージョン
    →血行動態安定ならAV nodeブロックするクスリ。
  ・24時間以内にsinus復帰しなければ
    →classⅢorⅠc抗不整脈薬+早期抗凝固療法を考慮。



フィードバックカンファレンス

フィードバックカンファレンス  担当:H先生

「先月の症例振り返り」

・PH、MR4度、TR3度、VSD患者の帝王切開。
  →少量の脊麻+硬麻で管理。

・腫瘍による気管分岐部閉塞
  →VV-ECMO下にDLT挿管

・挿管困難症例その1
  →甲状腺ope後
  →Awake経口経鼻ファイバー挿管を試みるもできず。
  →鎮静局麻下に気管切開施行。

・挿管困難症例その2
  →頸部蜂窩織炎
  →咽頭、気管前面の腫張+++
  →awakeでAirway Scope挿管。

・肺胞蛋白症
   →VV-ECMO下に両肺胞洗浄

・術後出血の症例など。



    泌尿器科の3Dモニター使用手術にて

類洞閉塞症候群

ICU勉強会  担当:U先生

「類洞閉塞症候群(SOS)」

・類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome:SOS)
  ・veno-occlusive disease;VOD肝中心静脈閉塞症ともいう
  ・移植後3大合併症の1つ(感染・急性GVHD・VOD)
・臨床的診断
  ・移植後30日以内
  ・放射線照射、化学療法後
  ・他に原因となる疾患がない。
  ・疼痛を伴う肝腫大、腹水貯留、体重増加、ビリルビン上昇
  ・肝中心静脈閉塞を伴う循環障害性肝障害。
・診断
  ・腹部エコー
  ・腹水
  ・門脈波形変化
  ・胆嚢壁肥厚
  ・肝動脈抵抗指数0.75以上
  ・門脈逆flow
  ・Serum procollagen type III
  ・Antithrombin and protein C
  ・Plasminogen activator inhibitor type 1
・病理学的には・・・
  →肝中心静脈の閉塞と中心静脈域の肝細胞の壊死および鬱血。
・移植後にVODの危険因子
  ・前処置中からの感染症
  ・ウイルス性肝炎
  ・移植前の長い化学療法歴
  ・肝障害例
  ・ブスルファンを中心とした前処置
  ・前処置中の肝障害
  ・同種移植(特に非血縁者やHLA不一致donorからの移植)など。
・予後
  ・軽症例での多くは自然に回復。
  ・重症例(肝不全・多臓器障害)では90%以上の致死率。
  ・発症後、重症度がどこまで進むかについて予知困難
  ・severeになると治療抵抗性
・治療
  ・tPA治療しか有効な治療法がない。
  ・tPA治療の副作用(出血)を考慮すると判断に難渋するケースも。
  ・デフィブロタイド、トロンボモジュリンなども。