麻酔科勉強会 担当:O先生
「胸骨正中切開術後の心肺蘇生」
・心臓手術後の心停止は原因が限定されていることが多い
・Ope室では道具、薬剤が揃っている
→以上2つの理由により蘇生の可能性が高い
・しかし胸郭内構造物(胸骨ワイヤーなど)や心血管縫合部の脆弱性のため、
外傷リスク(二次性外傷)が高いことを念頭に置く
・通常のCPRとは蘇生方法が異なることを知っておく必要がある。
・心停止、蘇生の頻度
・入院患者における予期せぬ心停止の頻度は術後、非術後問わず0.4~0.5%
・心臓手術後は0.7~2.9%と心停止の頻度が高い
・非心臓手術後の心停止後の死亡率は70~80%
・心臓手術後の心停止後の死亡率は20%~60%←低い
・症例数が少ない(150症例/年)病院では死亡率が高い傾向にある。
・当院の症例数:開心術300症例/年
→心臓手術後の心停止患者は蘇生できる可能性が十分にある。
・心臓手術後の心停止のタイミング
・術後24時間以内に起こる。
・ICUで起こることがほとんどである。
→ICUのスタッフ、麻酔科医は対応に慣れている。
・搬送中の心停止は比較的稀(時間が短いから)。
→手術室のスタッフ、麻酔科医は対応に慣れていない。
・当院においても数年に1度の頻度でope室で起こる。
・手術室プロトコールの作成、シミュレーショントレーニングの必要がある。
・心停止の原因
・VFおよびVT:約70%
・Asys(心静止):約17%
・PEA(無脈性電気活動):約13%
・除細動で2分以内に心拍再開した場合の生存率は39%、
それ以降は22%まで低下する。
→VF,VTの場合は速やかに除細動を行うべき。
・心停止の原因(非VT/VF)
・nonVF/VTの心停止の原因4Hs4Ts
・4Hs
→hypoxia、hypovolemia、hypo/hyperkalemia、hypothermia
・4Ts
→tamponade、tension pneumothorax、thromboembolism、toxin
・EACTSガイドライン
・通常のCPRとの違い
・VT/VFの場合
→1分以内に除細動が行える場合は胸骨圧迫を即座に行うべきではない
・徐脈性不整脈から心停止になった場合まずはペーシング。
・ルーチンにアドレナリン(ボスミン)の投与を行うべきではない。
・蘇生の見込みが乏しい場合は再開胸を行う。
・PCPS(V-A ECMO)の使用も考慮。
・胸骨圧迫すると・・・
・心臓血管外科手術では二次性外傷のリスクが高い
・致死的頻度を検討した研究はない
・ただし・・・
・ペーシングで蘇生の見込みが乏しい場合
・ただちに除細動やペーシングができない場合、
・除細動やペーシングの適応ではない場合
→すみやかに胸骨圧迫を行う
・手術室での対応
・手の空いている人はCPA call。
・再開胸の準備は速やかにしておく。
・除細動、ペーシングが遅れるなら胸骨圧迫、BLSを開始する。
・再開胸の準備
・再開胸の準備は、なるべく速やかに開始する。
・再開胸に最低限必要な道具5つは以下のとおりである
①胸部外科用一体型滅菌ドレープ
②メス
③ワイヤーカッター
④ワイヤー持針器または鉗子
⑤開胸器
・これらの道具はICUにあるミニ再開胸セットに全て含まれている。
・その他吸引器、吸引チューブ、滅菌ガーゼも有用、ほぼ必須
・再開胸までの時間を短縮
・心停止後再開胸までの時間が10分未満の場合
→10分以上の症例と比較して生存率が48%vs12%(P≦0.001)と
優位に高いとする報告がある。
・再開胸までの時間を短縮することは非常に重要である。
・特に再開胸の準備は再開胸するしないに関わらず行っておくことが重要。
・機械的循環補助の考慮
・再開胸時には機械時補助循環が必要である可能性
→人工心肺とV-A ECMOが選択肢にある。
・ブラッドアクセスのことを考慮するとV-A ECMOが第一選択肢として挙がりそう。
・少なくとも手術室蘇生には6人必要
①胸骨圧迫係
・胸骨圧迫をA-line波形を見ながら100回/minで行う。
心臓血管外科医が行うことが望ましいかもしれない。
②気道、呼吸管理係
・純酸素にしpeepをoff。バックマスクに切り替え、
呼吸音(特に気胸)をcheck。チューブや回路に異常がないか確認。
特別な理由がない限り、麻酔科医が担当。
③除細動係
・除細動を接続・設定し、実行する。
④チームリーダー係
・CPRがプロトコールに従って行われていること、
各役割に人が割り当てられ、
適切に動いているかを確認、指示出しを行う。麻酔科指導医?
⑤薬剤、シリンジを運ぶ人
⑥コーディネーター(調整役)
・VT/VFの場合
・まずは2相性(当院ope室の除細動は全て2相性)で
150Jで連続3回除細動を行う。
※連続3回とあるが、1回ごとに心電図波形checkを行い、
心拍再開時にはもちろん、除細動は終了する。(続けない)
・1分以内に除細動が行える場合は胸骨圧迫を即座に行うべきではない
・3回の除細動後も心拍再開しない場合は
2分ごとに除細動、波形checkを行い、BLSをただちに開始する。
・1分以内に除細動ができない場合は胸骨圧迫をためらうべきではない。
・除細動は単相性より二相性が安全かつ効果が同等もしくは高い
・除細動による成功率は1、2、3回目で78%,35%,14%と低下していく。
4回目以降は5%を切る。
→3回の除細動後は蘇生の見込みが乏しく再開胸が必要。
・Asysまたは高度徐脈の場合
・直ちにペーシングを行う。
→出力は最大。可能であれば設定はDDDもしくはDOO90bpm
・上記無効例もしくはすぐにペーシングできない場合は、BLSを直ちに開始する。
・続いてアトロピン3mg(←!)投与。
・ワイヤペーシングがない場合や無効例では体外式を考慮。
・心拍再開もしくは再開胸が始まるまでBLSを続ける。
・PEAの場合
・ペーシングを行っている場合は直ちにペーシングをOFFにし波形をcheck。
←VFがペーシングによって隠れている場合がある
・VFだった場合には除細動から始まるプロトコールへ。
・PEAだった場合はただちにBLSを開始。
→心拍再開もしくは再開胸が始まるまで続ける。
・補足
・再開胸時には開胸心臓マッサージも考慮してよい
→A-lineで確認しながら100bpmで収縮期血圧>60mmHg
・AHAにアトロピンの記載なし
・アドレナリン使用する場合は100μg-300μg
・胸骨部分切開、小開胸ポートアクセス手術、低侵襲冠動脈バイパス術後でも
本プロトコールでCPRを行うべきである。
・TAVIでも本プロトコールに従ってCPRを行った方がいいかもしれない。
・気道と換気について
・もし人工呼吸器で管理されている場合はFiO2:100%、PEEPはoff
・100%酸素のBVMに変更し、挿管チューブの位置とカフ圧をcheck。
←そのまま気胸や血胸の除外目的で両側の呼吸音を聴取
・緊張性気胸が疑われたら第2肋間鎖骨中線に太いカニューレを留置
・上級医の指示なしにアドレナリンを投与しない
・IABPが留置されている場合は圧トリガーに変更する
・除細動やペーシングが1分以内に開始できなければBLS