2013年3月20日水曜日

周術期体温管理

初期研修医勉強会  担当:Y先生

「周術期体温管理」

・人間=恒温動物
・核心温度 core temperature
  →通常37±0.2℃で調節されている
・行動性体温調節
  →寒いから服を着る、暖房をつけるなど
  →オペ室がさむくても患者さんは動けない
・自律性体温調節
  →血管拡張収縮、発汗、ふるえによる調節
  →全身麻酔下ではこれも制限されている
・麻酔中の体温低下のメカニズム
  ・熱喪失量の増加
     ・冷たい手術台への伝導
     ・冷たい空気が患者に当たることによる対流
     ・皮膚、露出した内蔵、気道からの蒸発
  ・全身麻酔による代謝率低下
     ・麻酔により体全体の代謝は20~30%も低下
  ・温度分布の変化
     ・核心温度:脳や胸腔内、腹腔内温度  
        ・外殻温度:皮膚・皮下・筋肉などの温度
     ・通常は核心温度>外殻温度に保たれている
      →麻酔により末梢血管が開く
      →体温が再分布してしまう
・全身麻酔下では
  →末梢血管収縮・シバリングの閾値温度が著明に低下
・体温管理
  ・室温の維持
  ・輸液剤、輸血用血液の加温
  ・吸入ガスの加温、加湿
     →肺循環からの直接的な熱の奪取を防ぐ
     →気化熱による体温低下も防止
    ・半閉鎖回路では
      ・酸素・空気の流量を減らすと
        →再呼吸するガス量が増える
        →熱喪失が減少
  ・温風対流式ブランケット
     ・最も有用な体温維持法
     ・手術30分程度前から使用すると
       →外殻温度が上昇
       →麻酔後の体温再分布による体温低下が防げるという報告
  ・温水還流式ブランケット
  ・オーバーヘッドランプ
  ・人工心肺
  ・アミノ酸輸液
・体温モニタリング
  ・鼓膜温、鼻咽頭温、食道温など様々な部位で測定される
  ・鼻咽頭温
     ・簡便
     ・深すぎると口腔内に近くなる。
     ・肺動脈に比べて0.5℃程度の誤差あり
  ・鼓膜温
     ・内頚動脈の血流支配下
     ・脳内温度として測定される
  ・食道温
     ・下部食道に留置すると大動脈温に近似
     ・上腹部・開胸手術では正確に測定しづらい
  ・肺動脈温
     ・ほとんど大動脈温と同じであり理想的
     ・肺動脈カテーテル挿入が必要
  ・直腸温
     ・一応、中枢温
     ・腸内ガスや糞便や手術操作の影響を受けやすい
      →本来の中枢温より低めに測定
  ・膀胱温
     ・手術操作に影響されやすい
     ・直腸温より中枢温によく相関する

・周術期低体温の予防と合併症

 ・人工股関節手術患者60名の前向きランダム化試験で
  積極的加温群で出血軽減
                  Schmied H ,et al;Lancet,1996
 ・中枢温度が1℃下がるだけで約16%出血↑、
  輸血のリスクが22%↑
        Rajagopalan S,et al;Anesthesiology,2008
 ・1時間程度の小手術でも加温が手術部位感染を抑制し
  術後抗生剤の使用量が減少
          Melling AC,et al;Lancet,2001
 ・周術期低体温により心イベント(VT、UAPなど)発生率増加
  シバリング発生率とは相関せず独立したリスクの可能性
              Frank SM,et al;JAMA,1997
 ・ヨーロッパでの体温モニタリングと加温の現状
  →全体で20%で体温モニターされ、
   約40%が積極的加温されているのみであった
    Torossian A;Eur J Anaesthesiol,2007
・周術期低体温に関するガイドライン
  →2008年、英国国立医療技術評価機構

・Deren ME,et al; J Arthroplasty,2011
 ・股関節・膝関節手術患者66名を対象
 ・高室温(24℃)とControl群(17℃)をランダム比較
   →積極的加温が開始されるまでの中枢温は有意差あり
   →手術開始までに積極的加温開始され、
    手術終了時点では両群間の中枢温に有意差なし
・Inaba K,et al;J Trauma Acute Care Surg, 2012
 ・外傷で緊急手術を要した患者118名が対象
 ・手術室の気温と患者の中枢温を記録  
   →全体の41%の患者で手術終了時点で中枢温低下あり
   →後ろ向き解析にて患者の中枢温低下と手術室気温は
    関連が認められなかった