2013年3月20日水曜日

POAF

ICU勉強会 担当:I先生

「POAF」

・POAF:post operative atrial fibrillation
  ・術後に起こる心房細動
  ・開心術で圧倒的に多い
  ・CABGで30%、弁置換術で40%、CABG+弁膜症手術で60%
・入院期間の延長と関連も予後とは相関しないという過去の報告
  →最近は、積極的に予防と治療をする方針となっている
・POAFはCABG後の院内死亡率、長期予後と関連し、
 長期死亡率上昇の独立した予測因子である
       J Am Coll Cardiol. 2004;43 :742-8
・POAFは長期・短期予後、ICU滞在期間、合併症と相関する
       Ann Surg. 1997;226:501-11
・AF自体がAFを誘発する(AF begets AF)
  ・電気的、構造的リモデリング
  ・ヤギに連日心房高頻度刺激を加え、
   AFを持続させると心房細動の持続時間が長くなる
            Circulation 1995;92:1954-68
・POAFの予防
 ・第1選択肢はβブロッカー
   ・適応があれば推奨(ACCP2005)
   ・術前から内服しているものは
     術後も内服することを推奨(CCS2010)
   ・禁忌がない限り推奨(ACCF/AHA/HRS2011)
 ・第2選択肢はアミオダロン
   ・β遮断薬が禁忌の患者に考慮 (ACCP2005)
   ・β遮断薬が禁忌の場合推奨(CCS2010)
   ・POAF高リスク症例で適切な予防法(ACCF/AHA/HRS2011)
 ・βブロッカーは絶対必要か
   ・根拠となっているRCT
     →低心機能患者・術前からPAFの既往がある患者は除外。
     →他の抗不整脈薬の同時投与がある
   ・BLOS trial
     →術前にβ遮断薬を投与していない群
     →術後投与してもPOAFの発症には有意差なし
            Heart 2004;90:941-2
・アミオダロンの有用性
   ・2つのメタ解析は有意にAFを減少させると結論
            Eur Heart J 2006;27:2846-57.
            Ann Thorac Surg 2006;82:1927-37.
   ・予防効果に有意差なしとの報告もある
            Am Heart J 2001;141:E8
            Am Heart J 1999;138:144-50
・抗炎症によるPOAF予防
  ・心膜の炎症
    →心房の伝導障害
    →POAFを起こすと言われている
  ・ステロイドはPOAFを減少させる
            Circulation. 2009;119:1853–1866.
  ・最近の知見では、コルヒチンがPOAFを減少させる
             Circulation.2011; 124: 2290-2295.
    →COPPS POAF trial
          ・Study design:イタリアの前向き多施設RCT
     ・Patients:開心術を受けた360人
     ・Intervention:
       ・3日目にコルヒチンを2mg分2で開始、
        1ヶ月間は1mg分2で継続
     ・Comparison:プラセボ
     ・Outcome:コルヒチンはPOAFを減らした
            (12.0% vs 22.0%,p=0.021,RRR=45%)
・POAFの治療
  ・原則レートコントロール(STS2011,CCS2010)
  ・AFFIRM trial
    →リズムvsレートコントロールで予後に差はなし
             Engl J Med 2002;347:1825-33.
    ・AFが持続すれば抗凝固療法
    ・リスク2個以上かつ48時間以上持続で適応(STS2011)
    ・72時間以上持続で考慮(CCS2010)
  ・Mgを代表とする電解質補正
         Ann Thorac Surg 2005;80:2402-6. 
         Am J Med 2004;117:325-33.
  ・Volumeを評価し、足りていなければ負荷


外減圧後の合併症

ICU勉強会  担当:S先生

「外減圧後の合併症」

・外減圧後の合併症
  ・感染
  ・頭蓋内外の血腫、液体貯留
  ・Sinking Skin Flap Syndrome(SSFS)
・SSFSとは?
  ・1997年Yamamuraらによって報告
  ・広範な外減圧術後の稀な合併症
  ・減圧後数週〜数ヶ月後に発症
  ・大気圧>頭蓋内圧
・症状
  ・激しい頭痛、精神変容、巣症状、痙攣
  ・Paradoxical herniation
    →昏睡、死に至ることも。
・治療
  ・頭蓋形成術
・SSFSに関する論文
   Synking Skin Flap Syndrome and Paradoxical Herniation
   After Hemicraniectomy for Malignant Hemispheric Infarction
   ・27人中3人(11%)で3-5ヶ月後に発症
   ・4人(15%)で無症候性のSSF syndromeを認めた
   ・発症群の方が外減圧の表面積が小さい(P=0.05)
   ・発症群
     ・梗塞範囲が大きい
     ・年齢が高い
     ・頭蓋形成時期が遅くなっている傾向
・頭蓋骨は大切。



周術期体温管理

初期研修医勉強会  担当:Y先生

「周術期体温管理」

・人間=恒温動物
・核心温度 core temperature
  →通常37±0.2℃で調節されている
・行動性体温調節
  →寒いから服を着る、暖房をつけるなど
  →オペ室がさむくても患者さんは動けない
・自律性体温調節
  →血管拡張収縮、発汗、ふるえによる調節
  →全身麻酔下ではこれも制限されている
・麻酔中の体温低下のメカニズム
  ・熱喪失量の増加
     ・冷たい手術台への伝導
     ・冷たい空気が患者に当たることによる対流
     ・皮膚、露出した内蔵、気道からの蒸発
  ・全身麻酔による代謝率低下
     ・麻酔により体全体の代謝は20~30%も低下
  ・温度分布の変化
     ・核心温度:脳や胸腔内、腹腔内温度  
        ・外殻温度:皮膚・皮下・筋肉などの温度
     ・通常は核心温度>外殻温度に保たれている
      →麻酔により末梢血管が開く
      →体温が再分布してしまう
・全身麻酔下では
  →末梢血管収縮・シバリングの閾値温度が著明に低下
・体温管理
  ・室温の維持
  ・輸液剤、輸血用血液の加温
  ・吸入ガスの加温、加湿
     →肺循環からの直接的な熱の奪取を防ぐ
     →気化熱による体温低下も防止
    ・半閉鎖回路では
      ・酸素・空気の流量を減らすと
        →再呼吸するガス量が増える
        →熱喪失が減少
  ・温風対流式ブランケット
     ・最も有用な体温維持法
     ・手術30分程度前から使用すると
       →外殻温度が上昇
       →麻酔後の体温再分布による体温低下が防げるという報告
  ・温水還流式ブランケット
  ・オーバーヘッドランプ
  ・人工心肺
  ・アミノ酸輸液
・体温モニタリング
  ・鼓膜温、鼻咽頭温、食道温など様々な部位で測定される
  ・鼻咽頭温
     ・簡便
     ・深すぎると口腔内に近くなる。
     ・肺動脈に比べて0.5℃程度の誤差あり
  ・鼓膜温
     ・内頚動脈の血流支配下
     ・脳内温度として測定される
  ・食道温
     ・下部食道に留置すると大動脈温に近似
     ・上腹部・開胸手術では正確に測定しづらい
  ・肺動脈温
     ・ほとんど大動脈温と同じであり理想的
     ・肺動脈カテーテル挿入が必要
  ・直腸温
     ・一応、中枢温
     ・腸内ガスや糞便や手術操作の影響を受けやすい
      →本来の中枢温より低めに測定
  ・膀胱温
     ・手術操作に影響されやすい
     ・直腸温より中枢温によく相関する

・周術期低体温の予防と合併症

 ・人工股関節手術患者60名の前向きランダム化試験で
  積極的加温群で出血軽減
                  Schmied H ,et al;Lancet,1996
 ・中枢温度が1℃下がるだけで約16%出血↑、
  輸血のリスクが22%↑
        Rajagopalan S,et al;Anesthesiology,2008
 ・1時間程度の小手術でも加温が手術部位感染を抑制し
  術後抗生剤の使用量が減少
          Melling AC,et al;Lancet,2001
 ・周術期低体温により心イベント(VT、UAPなど)発生率増加
  シバリング発生率とは相関せず独立したリスクの可能性
              Frank SM,et al;JAMA,1997
 ・ヨーロッパでの体温モニタリングと加温の現状
  →全体で20%で体温モニターされ、
   約40%が積極的加温されているのみであった
    Torossian A;Eur J Anaesthesiol,2007
・周術期低体温に関するガイドライン
  →2008年、英国国立医療技術評価機構

・Deren ME,et al; J Arthroplasty,2011
 ・股関節・膝関節手術患者66名を対象
 ・高室温(24℃)とControl群(17℃)をランダム比較
   →積極的加温が開始されるまでの中枢温は有意差あり
   →手術開始までに積極的加温開始され、
    手術終了時点では両群間の中枢温に有意差なし
・Inaba K,et al;J Trauma Acute Care Surg, 2012
 ・外傷で緊急手術を要した患者118名が対象
 ・手術室の気温と患者の中枢温を記録  
   →全体の41%の患者で手術終了時点で中枢温低下あり
   →後ろ向き解析にて患者の中枢温低下と手術室気温は
    関連が認められなかった


2013年3月9日土曜日

Journal超ななめ読み2月

「Journal超ななめ読み2月」


Intraoperative tissue oxygenation and postoperative outcomes after major non-cardiac surgery: an observational study.
非心臓手術における周術期StO2と術後Outcomeの関連。
Br J Anaesth. 2013 Feb;110(2):241-9


Left ventricular volume and ejection fraction assessment with transoesophageal echocardiography: 2D vs 3D imaging.
経食道心エコーによるLV volumeとEFの評価、2D vs 3D。
Br J Anaesth. 2013 Feb;110(2):201-6.


Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.
再発性CD腸炎に対する経十二指ドナー腸便移植
N Engl J Med. 2013 Jan 31;368(5):407-15.


Pleth variability index is a weak predictor of fluid responsiveness in patients receiving norepinephrine.
ノルアドレナリン投与中の患者ではPVIは輸液反応性の指標とならない。
Br J Anaesth. 2013 Feb;110(2):207-13


A prospective randomized trial of lidocaine 30 mg versus 45 mg for epidural test dose for intrathecal injection in the obstetric population.
産婦人科手術の硬膜外麻酔におけるtest doseリドカイン30mgと45mgの比較。
Anesth Analg. 2013 Jan;116(1):125-32


Extracorporeal Membrane Oxygenation for Pandemic Influenza A(H1N1)-induced Acute Respiratory Distress Syndrome: A Cohort Study and Propensity-matched Analysis.
インフルエンザA(H1N1)によるARDSに対するECMO。
Am J Respir Crit Care Med. 2013 Feb 1;187(3):276-85.


Critical Illness Myopathy and GLUT4: Significance of Insulin and Muscle Contraction.
CIMとGLUT4~筋収縮におけるインスリンの重要性について
Am J Respir Crit Care Med. 2013 Feb 15;187(4):387-96.


Hydroxyethyl starch 130/0.38-0.45 versus crystalloid or albumin in patients with sepsis: systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis.
Sepsis患者に対するHES vs 晶質液またはアルブミンに関するメタアナライシス。
BMJ. 2013 Feb 15;346:f839


Three-step method for ultrasound-guided central vein catheterization.
3ステップ法による超音波ガイド下中心静脈カテーテル挿入
Br J Anaesth. 2013 Mar;110(3):368-73.



・周術期の最低StO2が低ければ術後死亡、合併症が増える可能性。
・LV volume、EF計測については3D TEEに特に利点はない。
・再発性CD腸炎に対しては便移植が有効。
・NAD使用中の患者ではPVIは輸液反応性の指標として有用でない。
・硬膜外麻酔のtest doseはリドカイン30mg+ADでよさそう。
・H1N1 fluA関連ARDSではECMO群と非ECMO群で死亡率に差はない。
・CIM患者ではGLUT4が偏在し筋への糖取り込みが阻害される。
・Sepsis患者にHESを使う理由はない。
・「3ステップ法」中心静脈穿刺は安全で成功率が高い。


局所麻酔薬中毒

初期研修医勉強会 担当:M先生

「局所麻酔薬中毒」

・局所麻酔薬
  ・リドカイン
  ・メピバカイン
  ・ブピバカイン
  ・ロピバカイン
・分子式
  ・共通構造:脂溶性の高い芳香基
    ・メピバカイン:共通構造+CH3
    ・ロピバカイン:共通構造+C3H7
    ・ブピバカイン:共通構造+C4H9
  ・塩基型(B)とイオン型(BH+)の平衡状態にある。
・電位依存性ナトリウムチャネル
・電離していない塩基型(B)の状態で細胞膜を通過
  →イオン型(BH+)に変化
  →細胞質側から電位依存性ナトリウムチャネルをブロック
  →作用を発揮
・局所麻酔薬のpKa(酸解離定数)が7.4に近いと
  →作用発現が早くなる
・脂溶性が高いほど
  →局所麻酔の作用が強くなる
・ブピバカイン
  ・長時間作用型の局所麻酔薬
  ・長年にわたり使用されてきた
  ・ブピバカインの偶発的な血管内注入
     →蘇生抵抗性の心停止が起こる
・ロピバカイン
 ・長時間作用性の局所麻酔薬
 ・脂溶性が低い
 ・心毒性が低い
 ・毒性の低いS(-)-エナンチオマーのみから構成
 ・副作用
   ・中枢神経障害
      →意識障害、痙攣、めまい
   ・循環障害
      →ショック、血圧上昇・低下
       頻脈・徐脈、不整脈
 ・典型的な症状は
   ・中枢神経興奮(聴覚障害・口周囲の違和感・興奮)
 ・中枢神経抑制(昏睡・呼吸抑制)・けいれん
 ・循環促進(高血圧・頻脈)
 ・循環抑制(低血圧・徐脈・心停止)
 ・内頸動脈や、椎骨動脈などに流入した場合
    →けいれんや循環障害が突然生じることも

・局所麻酔薬中毒の予防
    →血管内への注入を防ぐこと!
    →針やカテーテルの血管内に留置されていること
  ・穿刺時に陰圧をかける
    →2%程度の偽陰性が存在する
  ・Test Dose
    ・フェンタニル100μg→傾眠傾向
    ・エピネフリン10〜15μg/mL
      (1)HR 10bpm以上の上昇
      (2)sBP 15mmHg以上の上昇
          →感度 80%
  ・分割投与
    ・3~5mLを15〜30秒の間隔をあけながら注入する。
    ・HR、BPをモニターしながら。
    ・血管内注入の場合は1分以内に変化が現れる。
  ・超音波ガイド下局所麻酔
・治療
  ・まずは気道確保
    →高CO2、低O2、アシドーシスは局所麻酔中毒の増悪因子
  ・痙攣が起こったら
    →ベンゾジアゼピンにて鎮痙攣
・心停止、致死的不整脈が生じたら
  →基本的にはACLSガイドラインに従って蘇生
  →しかしブピバカイン誘発性の心停止は蘇生に抵抗性
・脂肪乳化剤注入
  ・局所麻酔中毒に対する治療での副作用は報告されていない。
  ・膵炎症状のない高アミラーゼ血症の報告も
  ・脂肪乳化剤を中止すると約45分後に循環が不安定に
 ・投与方法
   ・20%脂肪乳化剤を理想体重で1.5mL/kgボーラス投与
   →循環が安定したら
    →0.25~0.5mL/kg/minを10分程度まで持続投与
   →循環が安定しなければ
    →再度ボーラス投与+0.5mL/kg/minで持続
   ・30分で10mL/kgがが上限
   ・ただ適応症例や投与時期に関しては議論の余地がある。
・同じ脂肪乳化剤でもプロポフォールは使わない。