2018年6月20日水曜日

肺高血圧症患者の麻酔

麻酔科勉強会 担当:K先生

「肺高血圧症患者の麻酔」

・肺高血圧症の定義と分類
 ・定義:安静時のmPAP ≧ 25mmHg
 ・分類:
   第1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)
   第2群:左心性心疾患に伴う肺高血圧症
   第3群:肺疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
   第4群:慢性肺血栓塞栓症に伴う肺高血圧症(CTEPH)
   第5群:詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
・ちなみに
 ・薬物誘発性PAH
   ・食欲抑制薬
   ・フランスではPAHの約10%が食欲抑制薬によるもの
 ・CTD-PAH
   ・全身性強皮症や混合性結合組織病、SLEで合併率が高い。
 ・HIV
   ・HIV感染症の約0.5%にPAHを発症
 ・PoPH
   ・肝移植対象例の5%にPAHを合併
 ・住血吸虫
   ・肺に到達した虫卵により肺動脈に炎症が生じPAHを発症
・心エコーによるスクリーニング
 ・PHが疑われる患者、PHを合併しうる疾患の患者
  →積極的に心エコーを行う。
 ・推定肺動脈収縮期圧=推定右房圧+三尖弁逆流圧較差
 ・推定肺動脈収縮期圧=推定右房圧+ 4 ×(三尖弁逆流ピーク速度)2
 ・IVC径 < 21mm かつ 呼吸性変動+→RAP 3 mmHg
 ・IVC径 > 21mm かつ 呼吸性変動-→RAP 15 mmHg
 ・それ以外→RAP 8 mmHg
 ・右房圧はあくまで推定でしかない。
   →三尖弁逆流ピーク速度自体を
    スクリーニングに使用することも推奨されている。
・PHを示唆する他の心エコー所見
 ・右室・右房の拡大
 ・右室による心室中隔の圧排
 ・肺動脈血流速波形の変化など
・肺高血圧症の治療
 ・一般的対応
  ・避妊
   →妊娠・出産による死亡率は25%
  ・肺炎の予防
  ・全身麻酔を避ける。
  ・監視下での運動療法
    ・適切な運動の様式や頻度,強度,持続時間は確立されていない。
    ・有害事象として失神や不整脈がある。
 ・支持療法
  ・利尿薬
  ・HOT
  ・経口抗凝固療法
  ・鉄の補正
  ・ACEi/ARB
  ・β-blocker
 ・特異的薬物治療
  ・PGI2誘導体
  ・PED5阻害薬
  ・エンドセリン受容体拮抗薬
・肺高血圧症患者の麻酔管理
 ・PH患者の周術期死亡率は1~9%と報告されている。
 ・麻酔法による死亡率や合併症発生率の違いは明らかでない。
 ・全身麻酔or硬膜外麻酔
   ・全身麻酔
     ・呼吸管理が確実だが、肺血管抵抗上昇、循環抑制のリスク。
   ・硬膜外麻酔
     ・陽圧換気を避けられるが、交感神経緊張などのリスクも。
   ・実際には抗凝固薬内服などで選択の余地がない場合も多い。
・循環動態が悪化する原因としては次の2パターン。
  ・肺血管抵抗の急激な上昇により肺高血圧緊急症(PHC)を来たす。
  ・PHCは発生していないが体血圧が低下して
   冠血流が低下し右心不全を来たす。
 →麻酔管理の目標は肺血管抵抗の上昇や体血圧の低下を避けること。
・肺高血圧緊急症(PHC)
 ・PVR上昇因子
   ・低酸素血症
   ・高二酸化炭素血症
   ・低体温
   ・アシドーシス
   ・交感神経緊張
   ・亜酸化窒素
・以上より・・・
 ・適切な換気、保温、鎮痛、適切な麻酔深度を保つことが重要。
 ・低血圧は肥大した右室の虚血をもたらす。
   →PheやNAD、VPで積極的に治療する。
 ・VPは肺血管抵抗を上昇させずに体血圧を上昇させる。
 ・右室機能が低下している場合
   →DOBやMilなどの強心薬を使用(体血圧低下に注意)
 ・肺高血圧の増悪に対してはPGI2やニトログリセリンなどを投与する。
   →体血管抵抗も低下させるため慎重に使用
 ・NOの吸入は体血管抵抗を変化させず肺血管抵抗のみ低下させる。
   →重症例では準備しておくべき。