2018年5月9日水曜日

肺動脈カテーテル(PAC)

麻酔科勉強会 担当:O先生

「肺動脈カテーテル(PAC)」

・PACから得られる情報
 ・中心静脈圧
 ・(右房圧)
 ・(右室圧)
 ・肺動脈圧
 ・肺動脈楔入圧(PAOP, PAWP, PCWP)
 ・心拍出量(心係数)
 ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)
・測定エラーの確認
 ・ゼロ点:仰臥位(または半坐位30度)
 ・‘fast flush’test(Underdamping, Overdamping)
  →圧ラインをflushしたあとの反応性をみることで信頼性を評価
   ・正常では、四角形の波形を描き、垂直方向に落ちたあと、
    1回上昇してからベースラインに戻る。
   ・上下せずにそのままベースラインにもどる波形:Overdamping波形
     →カテーテル内の気泡、カテーテルのキンク、カテーテル内の血餅、
      フラッシュバッグ(へパ生)の量が少ない、
      フラッシュバッグにかかる圧が不十分、など。
     →equipmentを確認する必要あり。脈圧が低く表示される。
   ・何度も上下してからベースラインに戻っていく波形:Underdamping波形
     →カテーテルが長すぎる、三活がはさまっている、
      頻脈、心拍出量が大きいなど。
     →この場合収縮期血圧が高く見積もられて表示される。
・肺動脈圧波形
 ・右心拍出にひきつづく立ち上がりの成分(percussion wave)
   →Percussion waveの立ち上がり角度は右室の収縮性を反映。
 ・tidal wave
 ・肺動脈弁閉鎖と同時にみられるdicrotic notch(重複切痕)
 ・dicrotic waveは肺動脈弁閉鎖後の肺動脈収縮に伴って形成されるとも。
   →Dicrotic waveは1回右室駆出量に対する肺血管抵抗を反映する。
・肺動脈楔入圧波形
 ・LA圧を反映
 ・A波とv波からなる。
 ・A波はLAの収縮に伴って生じる(拡張期)。
 ・V波はM弁が閉鎖している状態で、PVからLAへ血液が充満し、
  LA内圧が上昇することで形成される(収縮期)。
 ・Afではa波は消失。
・肺動脈楔入圧波形の異常
 ・MRの場合
  ・MRではPAWPでV波増高。
  ・肺動脈圧波形は通常の順行性の波形に、
   逆行性のPAWP(LAP)波形を重ねたような波形になる。
  ・PAWPとPAPの区別がつきにくいので要注意。
    ①PAPの方が立ちあがりが速く急峻。
    ②PAPは正常なnotchではないものの谷ができる。
  ・Wedgeしていることに気づかずバルーンを膨らませると血管損傷。
 ・MSの場合
  ・MSではLA収縮に伴うa波増高(Afなのでa波はない)。
  ・拡張期にLAからLVに流れにくいのでV波の下降はゆるやか。
 ・左室コンプライアンスの低下
  ・a波は増高する。
  ・拡張期のLAからLVへの血液の流れは悪くないので、
   V波の下降が急峻であるのがMSとの違い。
 ・Overwedging
  ・過剰楔入:カテーテル先端が血管壁に当たる。
  ・拍動性の消失、圧の上昇
  ・カテーテルが遠位に移動したりバルーンが偏って拡張すると起こる。
  ・血管損傷や肺梗塞の原因となるので、
   速やかにカテーテルを後退させる必要がある。
 ・カテーテルの動揺
  ・RVから駆出される血液によってカテーテルが動揺することがある。
  ・この場合、R波に一致してアーチファクトとしてスパイクが生じる。
  ・拡張期圧が異常に低く出る。
  ・数cm抜き差しすると改善。
・左心系の前負荷について
  ・前負荷
   →細胞レベルでは心筋細胞の静止長を長くする力
   →静脈灌流により心室に加わる力
   ・Frank-Starlingの法則に従い、
    静脈灌流が増えると心筋が伸長されて収縮力が増強する。
  ・前負荷は拡張末期容量に相当
  ・容量の代わりに圧を測定することで前負荷の指標とする。
  ・ただし容量変化に対する圧の変化はコンプライアンスの影響を強く受ける。
    →心臓の病態次第では必ずしもこのルールに則らない。
・左室拡張末期圧
  ・PAC留置下では肺動脈楔入圧がEDLVPに相当する。
    →M弁に異常がない場合、拡張終期において
     肺動脈から左室にかけて障害物がないためこの関係は成り立つ。
  ・PAP-LAP=肺血流量×肺血管抵抗 
  ・Wedgeしているときは肺血流量=0 PAP=LAP
  ・ただし・・・
    ・Wedge pressure =LVEDPとなるのは肺毛細管圧>肺胞圧の時。
    ・そうでないときはPAWP=肺胞圧となる。
    ・この肺毛細管圧>肺胞圧となる領域を第3ゾーンと呼ぶ。
  ・第3ゾーンにカテーテルを置くには・・・
    →PAC先端がLAの高さより重力方向に入れることになる。
  ・ほとんどの場合PACは自然に下側の肺野領域に入る。
  ・楔入圧が呼吸性変動している場合
    →肺胞圧が毛細管圧より高い部位にPAC先端があることを示す。
    →肺胞圧が陽圧のときに楔入圧を測定すると肺胞圧を示してしまうため、
     肺胞圧が大気圧と最も近くなる呼気終末で楔入圧を測定することにより、
     LVEDPを推定することができる。
  ・BA、肺うっ血などで呼気相の気道内圧が上昇する時
     =内因性PEEPがかかるとき
    →PAWPも上昇するので要注意。
・拡張期PAP=LVEDP
 ・拡張末期において左室は肺動脈とつながる。
 ・拡張期肺動脈圧はEDLVPに近似される。