2018年5月10日木曜日

妊娠時における生理的変化

麻酔科勉強会 担当:O先生

「妊娠時における生理的変化」

・妊娠週数について
 ・妊婦の正期産は37-41週
 ・周産期の非産科手術については3半期に分けて考える
  ・第1三半期(妊娠0週0日~妊娠13週6日)
  ・第2三半期(妊娠14週0日~妊娠27週6日)
  ・第3三半期(妊娠28週0日~)
・気道について
 ・妊娠早期より毛細血管は拡張
   →上気道粘膜が浮腫状になる。
 ・機械操作による易出血性(喉頭鏡操作や経鼻挿管は注意)
 ・Mallampati分類は非妊娠時より悪化する。
  (12wに対して38wでMaallamapatiⅣは34%増加)
 ・Mallamapati分類は40%の妊婦で分娩進行時も悪化
   →妊婦の気道系は導入前に再評価。
 ・仮声帯部分の浮腫で声門開口部が狭くなる。
   →挿管時、非妊娠時より細いチューブも考慮
   →difficult airway management
・呼吸器系について
 ・換気量&血液ガス
  ・プロゲステロン作用によりCO2に対する呼吸中枢の感受性上昇。
  ・CO2の産生増加に対して、呼吸回数、1回換気量は上昇する。
    →正期妊婦の呼吸回数は15%up、1回換気量は40%up
  ・分時換気量は50%上昇する
  ・PaCO2は10mmHgほど低下、呼吸性アルカローシスに傾く。
  ・それに対してHCO3-は代償性に20mEq/lまで低下
  ・アルカローシスの進行
    →母体の意識消失、低換気・低酸素血症
   ・子宮血管の収縮による子宮胎盤血流の低下
   ・母体の酸素解離曲線の左方移動による胎児の酸素供給量の低下
     →術後の鎮痛不十分による疼痛には特に気をつける。
   ・分娩中には分時換気量が3倍にまで増加する。
 ・肺気量
  ・肥大した子宮が横隔膜を頭位に挙上
    →機能的残気量(FRC)は立位で20%、仰臥位で30%減少
     ・FRCがclosing capacity以下になると
      安静呼気時でも換気血流比が低下し低酸素に
  ・妊婦は妊娠正期で酸素消費量が60%上昇
  ・FRCの低下によって無呼吸時、急速に低酸素血症に
・循環器系
 ・心拍出量
   ・心拍出量(CO)=1回拍出量(SV)×心拍数(HR)
   ・妊娠5-32wにかけてCOは増大していく。
   ・妊娠5-8週までは主にHRが増大による(13wで15%↑)。
   ・以降はSVが増大していく(24wで30%↑)
   ・正期でCOは40~50%up (分娩時はさらにup)
     ※非妊娠時まで戻るには分娩後12-24wかかる。
 ・血圧
   ・プロゲステロンやプロスタサイクリン作用による体血管拡張作用
   ・低圧系血管床(胎盤絨毛管腔)の発達
     →体血管抵抗が20%下がる。
     →この結果、CO↑にも関わらず平均血圧は15mmHg低下する。
     →収縮期血圧より拡張期血圧の低下が大きいため脈圧は増大
 ・大動脈下大静脈圧迫症候群(仰臥位低血圧症候群)
   ・仰臥位で肥大した子宮が下大静脈を圧排
     →心臓への静脈還流が低下
     →心拍出量が低下
   ・妊娠20w以降は注意
   ・子宮胎盤血流も20%低下
   ・母体の交感神経の緊張の抑制、子宮静脈圧の上昇で血流低下
   ・腹部大動脈の圧迫も原因になることも(上肢血圧は正常)
   ・妊婦の右腰下に枕、手術台を左に傾ける、子宮を左方に押して対応
   ・妊婦のCPA時、胎児心拍の低下時、最も簡便にできる蘇生法の1つ
・血液・凝固系
 ・血液量
  ・血液量(8-16wは↓)、血漿量共にup→循環血液量up
  ・エストロゲン、プロゲステロンがRA系を活性化
        →Na貯留、水分貯留で循環血液量up
  ・正期で血液量は20%up、血漿量は35-45%up
    →このギャップのため、正期妊婦は相対的貧血になる。
  ・心拍出量増加、酸素解離曲線の右方移動で酸素運搬能維持
    →このギャップで血液粘性が20%↓
    →子宮胎盤循環の血管床開通性の維持
 ・凝固系
  ・出産時の出血の備えるため、凝固系はⅪ、XⅢ以外すべて亢進
  ・生理的抗凝固因子であるATⅢ、抗Xa因子は活性低下
  ・血小板は寿命のが短縮して軽度減少
   →結果としてDVT、PEのリスクが上昇する。
・消化器系
  ・肥大した子宮が胃や腸を圧迫する。
    →胃内圧が上昇
  ・下部食道が胸腔内に移動(LES圧の低下)
  ・プロゲステロンもLES圧を低下させる。
  ・LES圧は妊娠第2三半期から低下
  ・胃内容物の排泄時間は陣痛開始までは延長しない。
  ・原則として第2三半期以降はフルストマックとして対応
  ・術前投薬としてH2ブロッカーを推奨する参考書も
・腎臓
  ・妊娠早期より腎血流、糸球体濾過率は上昇する。
  ・第1三半期より50%上昇
  ・BUN,Creは低下するのが正常
    →「正常値」を示す場合は腎機能障害が疑われる。
  ・右の尿管が子宮に圧迫されて通過障害が起きやすい。
    →尿路感染症に注意が必要
  ・Naは再吸収されやすい一方、糖は再吸収されにくい。
・神経系
 ・中枢神経系
  ・MAC(吸入麻酔薬の最小肺胞濃度)は低下する。
    →プロゲステロンの鎮静作用?
    ・ただしMACの低下が鎮静作用の亢進を意味していないかもしれない。
    ・BISは必要と考えられる。
  ・導入時のチオペンタールの必要量は18%~35%減少
  ・導入時のプロポフォールの必要量は非妊娠時と変わらない。
  ・揮発麻酔薬は子宮筋弛緩作用がある。
  ・静脈麻酔薬は上記の作用がない。
 ・末梢神経
  ・脊髄クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔において局所麻酔薬の必要量が減少
  ・子宮の下大静脈の圧排
    →側副路として硬膜外腔の静脈叢の拡張
    →硬膜外腔の狭小化&脊髄クモ膜下腔の脊髄液量の減少
  ・プロゲステロンまたはその代謝物による感受性の亢進?
・筋骨格系
 ・リラキシンによって恥骨結合や靭帯が軟化・弛緩
   →硬膜外麻酔や脊髄麻酔時に注意
 ・脊髄の前彎が増大し、後方に反り返る。
   →脊髄の棘突起管腔が狭くなる
 ・骨盤が広がり、また脊柱彎曲がTh6~7で最低部になる。
   →側臥位で頭低位になりやすい。
 ・乳房の肥大、胸壁の前突
   →喉頭鏡の操作を困難に