後期研修医勉強会 担当:E先生
「術後心房細動」
・術後不整脈は周術期に頻度の高い合併症のひとつ。
・最も代表的な術後心房細動(POAF)は30-50%と高率に発症。
・冠動脈バイパス術後:30%
・弁置換術:30-40%,
・複合手術:40-50%
・肺手術(葉切除):10-20%
(全摘術):40%
・術後1週間以内に起こりやすい
・術後2日目が最も多い
・43%の患者が最低1回AFのエピソード
・新規発症のPOAFは、自然に洞調律化
・15-30%は2時間以内、80%以上が24時間以内、
・90%以上が術後6-8週間に洞調律化する
・発症機序
・トリガーとなる局所的な異常興奮
→心房頻拍や心房期外収縮など
・電気的・構造的変化によるリエントリー
・術後急性期の一過性因子
→血中カテコラミンの増加、炎症、心膜炎、
電気的リモデリング、自律神経障害、心房の伸展、
低酸素、電解質異常、代謝異常
・詳しいメカニズムは解明されていない
・リスク因子
・術前リスク因子
→高齢(>75歳)、遺伝、高血圧、糖尿病、肥満、COPD、
左房・左室肥大、僧帽弁疾患
・術中リスク因子
→術中侵襲(ベント・脱血管挿入)、心筋障害(虚血・低血圧)、
急激な循環血液量の増減(拡張・虚脱)
→人工心肺を使用した開心術では発症しやすい
・術後リスク因子
→急激な循環血液量の増減、電解質異常(Mg、K)、
交感神経系亢進(疼痛、貧血、発熱、炎症、カテコラミンの投与)
・合併症
・一次的合併症:
→自覚症状(動悸)
血行動態の破綻(心不全、血圧低下)
・二次的合併症:
→周術期脳梗塞(発症率は3倍)
ICU滞在日数・入院期間の延長→医療費の増大
周術期・長期の死亡率の上昇
・発症予防
・ACCF/AHA/HRS心房細動患者管理ガイドライン(2014年)
・ESC心房細動治療ガイドライン(2010、2016年)
→POAFの発症予防を推奨 (Grade1B)
・β遮断薬>アミオダロン、ソタロール(Grade1B)
・低コスト、重篤な副作用が少ない
・β遮断薬は可能であれば術前から開始し、術後も継続する。
・β遮断薬を使用できない患者
→アミオダロン・ソタロールの使用を考慮。
・ソタロール副作用
→TdP、徐脈、β遮断作用、腎不全患者には禁忌、QT延長
・アミオダロン副作用
→徐脈、ペーシング使用の上昇、QT延長、
肺合併症(間質性肺炎)を考慮、重症例には慎重
・メトプロロール(セロケン)<カルベジロール(アーチスト)
・ビソプロロール(メインテート)
・心房ペーシング△
・抗酸化ビタミンはβブロッカーに併用して使用する。(Grade2C)
→術前から開始し退院まで継続。
・ビタミンC(1g)、ビタミンE(400IU)/日。
・管理、治療
・循環動態が安定した患者
①循環血液量の是正、電解質異常(Mg、K)の補正、
低酸素・疼痛・貧血等のコントロール、カテコラミン減量・中止
②レートコントロール(<110/min)
③リズムコントロール
・レートコントロールvsリズムコントロール
→抗不整脈薬による洞調律維持より、心拍数調節と抗凝固療法
・24時間以上持続する場合は、薬物的除細動を考慮する。
・循環動態が不安定な患者
→除細動
・まとめると、最初は、低酸素、電解質異常、循環不安定の是正や、
疼痛、カテコラミンの中止
→そこからレートorリズム、除細動、抗凝固
・洞調律に復帰した患者でも、少なくとも4週間抗凝固療法を開始する。
(CHADS2DS2-VASc score高値、HASBLED score低値)
・フル抗凝固になるまで静注のヘパリンは使用しない。
↑術後の出血リスク>脳梗塞リスク
ただしPEや機械弁の患者には考慮してよいかもしれない。
・抗凝固療法
・複数回のAFエピソードのある患者、48時間以上持続している患者
→周術期出血リスクが許容できるなら経口抗凝固薬が推奨される。
・高リスク患者(CHA2DS2-VASc score>2点)には48時間以内でも推奨される。
・ワーファリン(INR;2-3)>直接抗トロンビン・Xa因子薬 (Grade2C)
・抗凝固薬療法は、洞調律復帰後も最低4週間の投与継続が推奨される。(Grade2C)