2017年7月19日水曜日

術後心房細動

後期研修医勉強会 担当:E先生

「術後心房細動」

・術後不整脈は周術期に頻度の高い合併症のひとつ。
・最も代表的な術後心房細動(POAF)は30-50%と高率に発症。
  ・冠動脈バイパス術後:30%
  ・弁置換術:30-40%,
   ・複合手術:40-50%
  ・肺手術(葉切除):10-20%
      (全摘術):40%         
・術後1週間以内に起こりやすい
  ・術後2日目が最も多い
  ・43%の患者が最低1回AFのエピソード
・新規発症のPOAFは、自然に洞調律化
  ・15-30%は2時間以内、80%以上が24時間以内、
  ・90%以上が術後6-8週間に洞調律化する
・発症機序
 ・トリガーとなる局所的な異常興奮
   →心房頻拍や心房期外収縮など
 ・電気的・構造的変化によるリエントリー
 ・術後急性期の一過性因子
   →血中カテコラミンの増加、炎症、心膜炎、
    電気的リモデリング、自律神経障害、心房の伸展、
    低酸素、電解質異常、代謝異常 
 ・詳しいメカニズムは解明されていない
・リスク因子
 ・術前リスク因子
   →高齢(>75歳)、遺伝、高血圧、糖尿病、肥満、COPD、
    左房・左室肥大、僧帽弁疾患
 ・術中リスク因子
   →術中侵襲(ベント・脱血管挿入)、心筋障害(虚血・低血圧)、
    急激な循環血液量の増減(拡張・虚脱)
   →人工心肺を使用した開心術では発症しやすい
 ・術後リスク因子
   →急激な循環血液量の増減、電解質異常(Mg、K)、
    交感神経系亢進(疼痛、貧血、発熱、炎症、カテコラミンの投与)
・合併症
 ・一次的合併症:
   →自覚症状(動悸)
    血行動態の破綻(心不全、血圧低下)
 ・二次的合併症:
   →周術期脳梗塞(発症率は3倍)
    ICU滞在日数・入院期間の延長→医療費の増大
    周術期・長期の死亡率の上昇
・発症予防
 ・ACCF/AHA/HRS心房細動患者管理ガイドライン(2014年)
 ・ESC心房細動治療ガイドライン(2010、2016年)
   →POAFの発症予防を推奨 (Grade1B)
   ・β遮断薬>アミオダロン、ソタロール(Grade1B)
   ・低コスト、重篤な副作用が少ない
   ・β遮断薬は可能であれば術前から開始し、術後も継続する。
   ・β遮断薬を使用できない患者
     →アミオダロン・ソタロールの使用を考慮。
   ・ソタロール副作用
     →TdP、徐脈、β遮断作用、腎不全患者には禁忌、QT延長
   ・アミオダロン副作用
     →徐脈、ペーシング使用の上昇、QT延長、
      肺合併症(間質性肺炎)を考慮、重症例には慎重
   ・メトプロロール(セロケン)<カルベジロール(アーチスト)
   ・ビソプロロール(メインテート)
   ・心房ペーシング△
   ・抗酸化ビタミンはβブロッカーに併用して使用する。(Grade2C)
     →術前から開始し退院まで継続。
   ・ビタミンC(1g)、ビタミンE(400IU)/日。
・管理、治療
 ・循環動態が安定した患者
   ①循環血液量の是正、電解質異常(Mg、K)の補正、
    低酸素・疼痛・貧血等のコントロール、カテコラミン減量・中止
   ②レートコントロール(<110/min)
   ③リズムコントロール
    ・レートコントロールvsリズムコントロール
     →抗不整脈薬による洞調律維持より、心拍数調節と抗凝固療法
    ・24時間以上持続する場合は、薬物的除細動を考慮する。
    ・循環動態が不安定な患者
      →除細動
 ・まとめると、最初は、低酸素、電解質異常、循環不安定の是正や、
  疼痛、カテコラミンの中止
   →そこからレートorリズム、除細動、抗凝固
 ・洞調律に復帰した患者でも、少なくとも4週間抗凝固療法を開始する。
         (CHADS2DS2-VASc score高値、HASBLED score低値)
 ・フル抗凝固になるまで静注のヘパリンは使用しない。
   ↑術後の出血リスク>脳梗塞リスク
    ただしPEや機械弁の患者には考慮してよいかもしれない。
・抗凝固療法
  ・複数回のAFエピソードのある患者、48時間以上持続している患者
    →周術期出血リスクが許容できるなら経口抗凝固薬が推奨される。
  ・高リスク患者(CHA2DS2-VASc score>2点)には48時間以内でも推奨される。
  ・ワーファリン(INR;2-3)>直接抗トロンビン・Xa因子薬 (Grade2C)
  ・抗凝固薬療法は、洞調律復帰後も最低4週間の投与継続が推奨される。(Grade2C)