初期研修医勉強会 担当:K先生
「ステロイドカバーについて」
・ステロイド使用患者における注意点
・ステロイドが適応となる原疾患に対する麻酔計画
→例えば・・・
・関節リウマチ患者の挿管困難に対する気道確保
・気管支喘息に対する発作予防
・血液疾患による汎血球減少に対する対策
・ステロイド長期投与に伴う副作用の管理
→例えば・・・
・耐糖能異常
・易感染性
・ステロイド分泌抑制に対する補充(ステロイドカバー)
・まずは床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を復習
・ストレスによりHPA系はpositive feedbackでcortisolを産生
・産生されるcortisolは8-10mg/day程度。
・cortisolは内因性も外因性も含めてHPA系にnegative feedbackをかける。
・ストレス下でのcortisol分泌量
・minor surgery→50mg/day
・greater surgical stress→75-150mg/day、まれに200mg/day以上
・二次性副腎機能低下症
・ステロイドはnegative feedbackによりHPA系を抑制する。
→CRH、ACTHの分泌が抑制される。
→それらの刺激を受けなくなった副腎皮質は萎縮する。
→何らかのストレスを受けてCRHやACTHが分泌されても
委縮した副腎皮質からは十分量のコルチゾールが分泌されないため、
副腎不全を呈することがある。
・周術期の二次性副腎不全の報告(1950年代)
・34歳男性。関節リウマチに対して
50mg/dayのコルチゾンを8ヶ月にわたり投与。
股関節形成術後ショックに陥り、術後3時間で死亡。
・20歳女性。関節リウマチに対して
75mg/dayのプレドニゾンを8ヶ月にわたり投与。
膝関節の術後ショックに陥り、術後6時間で死亡。
→いずれも病理学的所見で両副腎の萎縮、腺組織の顕著な変性を認めた。
→副腎不全が死因と考えられた。
→ステロイドカバーの必要性が提唱されるようになった。
・HPA系の評価
・intermediate patientsにはHPA系の評価を行うことを推奨する
・まず早朝コルチゾール基礎値でスクリーニングを行う。
・cortisol<5μg/dL
→HPA系抑制の可能性が高いためステロイドカバー行う
・cortisol>10μg/dL
→HPA系抑制の可能性は低いため常用量のみで可
・cortisol 5 to 10μg/dL
→追加検査を行うかempiricにステロイドカバーを行う
・早朝コルチゾール基礎値でグレーゾーンと判定された場合
→追加検査として迅速ACTH負荷試験を行う。
・迅速ACTH負荷試験
→ACTHを投与することでHPA系の下流にある副腎皮質の機能を調べる
・ACTH製剤(コートロシン®)250μg投与
→30分後 cortisol<18μg/dL→副腎機能低下あり
cortisol>18μg/dL→副腎機能正常
・ステロイドの内服期間が3w未満の患者
→用量にかかわらずステロイドカバーは必要ない。
・3w以上、PSL換算で1日20mg以上内服
→ステロイドカバーが必要。
・3w以上、1日5-20mg内服
→HPA系の抑制状態を評価するための検査を行うか、
empiricにステロイドカバーを行う。
・吸入ステロイドは?
・吸入ステロイドを使用中の患者の早朝コルチゾール基礎値(13研究)や
尿中コルチゾール(21研究)について調べた研究のメタアナリシス
(Arch Intern Med 1999; 159:941.)
→750μg/day以上のフルチカゾン(フルタイド)、
1500μg/day以上のブデソニド(パルミコート)、べクロメタゾン、
トリアムシノロンの吸入でHPA系の抑制が確認された。
・UpToDateでは?
→750μg/day以上のフルチカゾンや
1500μg/day以上のフルチカゾン以外の吸入ステロイドを
3週間以上使用している患者
→術前にHPA系の評価を行うよう勧めている。
・外用ステロイドは?
・Class Iの外用ステロイドを2g/day以上使うとHPA系が抑制される可能性。
(J Am Acad Dermatol. 2006; 54:1.)
・UpToDateではClass I-IIIの外用ステロイドを2g/day以上、
3週間以上使用した場合は術前にHPA系の評価を行うことを勧めている。
・ちなみに0.5gで両手掌に塗布する分量に相当するため、
体幹等にも塗るのであれば2g/dayはそれほど多い量ではなさそう。
・何をどれだけ投与するか?
・かつてはヒドロコルチゾンを術前、術中、術後に100mgずつ計300mgを
手術当日に投与しその後徐々に減量。
→この投与量は大手術を受けた正常患者の血中コルチゾール最高値を
上回るように設定
→多くの患者にとっては過量投与。
・副作用として血圧上昇、水分貯留、消化性潰瘍、
創傷治癒遅延、感染の増加などが多数報告された。
・周術期のステロイド補充量
・一般的に手術侵襲の大きさによって決めることが多い。
・健常人でのコルチゾール分泌量を参考とする。
・小手術では健常人ではコルチゾールの分泌はおよそ50mg/dayまで増加し、
24時間以内に平常値まで戻る。
・より大きな手術(例えば結腸切除術)では75-100mg/dayまで増加し、
24時間から48時間で正常化する。
・さらに大きな手術(例えば食道手術や心臓手術)では、
200-500mg/dayまで増加する。
・ただし術翌日には200mg/day未満となることが多い。
・そもそもステロイドカバーは必要か。
・侵襲の大きな手術を受ける患者でも常用量のステロイドで十分?
・炎症性腸疾患に対する手術を受ける患者に
常用量のステロイドのみを投与した後向きコホート研究
(Surgery 2012; 152:158.)
→血管作動薬や追加ステロイドの投与を必要とするような
循環変動は生じなかった。
・同じグループが2014年に発表したRCT(N=92)(Ann Surg 2014; 259:32.)
→常用量のみを投与した群とヒドロコルチゾン100mg×3回/dayを投与した群で
循環動態に差はなかった。
→現時点では周術期のステロイド投与による副作用よりも、
副腎不全のリスクを考慮してステロイドカバーは必要であるという意見の方が多い。