2017年7月19日水曜日

酸素化戦略

麻酔科勉強会 担当:O先生

「酸素化戦略」

・人間には約60兆個の細胞が存在
・各細胞は食物から得られるADPをATPに変換し、ATPをエネルギーとして全身で利用
・その際に酸素を利用することで、効率的にATPを産生
・ADP1単位から好気性代謝でATP36単位、嫌気性代謝で2単位生成
・輸液療法も輸血療法も酸素化療法(人工呼吸管理)
  →最大の目標は『全身の酸素化』
   ・酸素供給
   ・酸素需要
   ・酸素利用率
・血液中の酸素
 ・酸素を運搬しているのはHb
 ・SO2=酸素Hb/総Hb
 ・酸素解離曲線の存在
 ・溶存酸素(ml/dL)=0.03(ml/L)×0.1×PO2(mmHg)
 ・動脈血酸素含有量(CaO2;ml/dL)
   =1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2;正常値:20
 ・静脈血酸素含有量(CvO2;ml/dL)
   =1.34×Hb×SvO2+0.003×PvO2;正常値15
 ・溶存酸素は非常に小さい値なので(<0.3ml)
   →簡易酸素含量=1.34×Hb×SO2
・酸素を細胞内に取り入れる最大の組織は肺
 ・肺は肺胞/肺血管を通じて、CO2とO2を交換
 ・O2は血液に取り込まれHbに結合することで血中へ(わずかに溶存もする)
 ・ポンプ機能を持つ心臓によって全身に送られる(心拍出量に依存)
・酸素の供給
 ・酸素供給量はDO2(mL/min)で計算
 ・DO2=CO×1.34×Hb×SaO2×10
 ・正常値は900-1100mL/min、体格補正(体表面積;BSAで割ったもの)で520-600
   →250を下回ると組織の低酸素に至る
 ・輸液やカテコラミンは主にCOに影響
・酸素摂取量(VO2)
 ・組織内には酸素を貯蔵されない
 ・酸素摂取量=酸素消費量の包括的測定値
 ・酸素摂取量はVO2で計算
  →COを求めるFickの式を使用して計算
   VO2=CO×1.34×Hb×(SaO2-SvO2)×10
 ・限界もある。
   ・VO2の計算に必要な測定項目であるCO,Hb,SO2,血中酸素含量には
    測定誤差(内因性の変動)があり、最大で18%もの誤差がある
   ・肺の酸素摂取量が計算値に含まれていないため
    厳密には『全身の酸素摂取量』ではない
   ・肺のVO2は5%程だが炎症で20%まで変化
   ・全身のVO2の計算式:VO2=VE(分時換気量)×(FiO2-FeO2)
・VO2低下の原因
 ・代謝の異常(低代謝)と嫌気性代謝をもたらす組織酸素化の不足
   ・低代謝の原因
     ・全身麻酔薬の存在(鎮静、麻薬、筋弛緩)
     ・低体温
     ・低活動、高齢者
     ・敗血症(全身の炎症反応)
 ・VO2の正常値は200~270、体格補正後は110-160
 ・VO2/BSAから110を引いた値に時間をかけたものが『酸素負債』
 ・酸素負債と多臓器不全のリスクは直接関係する。
・酸素摂取率(O2ER)
 ・O2ER=O2ER=VO2/DO2
 ・溶存酸素を無視し、共通項(CO,1.34,Hb,10)を消して簡易化する
   →O2ER=(SaO2-SvO2)/SaO2
 ・正常値は0.20-0.30
 ・0.30を超える場合はDO2の低下を意味する(貧血や低心機能など)
 ・0.50(嫌気性代謝閾値)を超えると組織の低酸素になる(後述)
 ・0.20未満では組織の酸素利用障害を示す
   ・DO2が減少しても初期にはVO2に変化はない
   ・DO2が下がりすぎるとある一点でVO2が低下する。
   ・この点が嫌気性代謝の閾値
・これらを見るために必要なモニターは?
 ・SaO2にはパルスオキシメーター(Aガス)
 ・HbにはABG or VBG
 ・COはPAC、CV(プリセップ)、エコーで測定もしくは推測可能
 ・SvO2はPACのみ・・・
   →ScvO2でも推測可能
・混合静脈血
 ・上大静脈』『下大静脈』『冠静脈』の3つの静脈血、
  すなわち肺を除く静脈血の混合(合流)した静脈血の酸素飽和度
 ・3つの静脈の合流場所は右心房。測定場所は通常肺動脈
 ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2)
   ・65%-75%が正常値
   ・呼吸器の使用や酸素化されてSaO2が一定であれば
    その変化はERの逆に捉えることができる
         =ER=(SaO2-SvO2)/SaO2
   ・SvO2<65%は酸素供給量の低下(貧血、低心拍出量)
   ・SvO2<50%は組織低酸素
   ・SVO2>75%は組織の酸素利用障害
 ・中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)
   ・CVカテが留置されていれば測定可能
   ・先端が留置されている場所での静脈血のガス測定が可能。
    →『上大静脈』or『下大静脈』
   ・酸素が極端に少ない冠静脈は含まれない
   ・SvO2とScvO2の間には差がある(ScvO2の方が高い)
      ・ScvO2の変化は一般的に有意である
   ・正常値は70-89%
・SvO2とScvO2の解離
  ・正常でもScvO2はSvO2よりも3-11%程度高い。
  ・この差は心不全、心原性ショック、敗血症で大きくなる
  ・上大静脈にカテ先端が留置されている場合
     ・心不全、心原性ショックなどで低心拍出量
       →末梢血管抵抗の増大により脳血流が保たれる。
       →ScvO2は相対的に高い値を示す
  ・敗血症性ショックでScvO2がSvO2よりも比較的高い場合
    →腹部での酸素消費量の増加を示唆する
・乳酸値
 ・乳酸は嫌気性解糖の最終産物
 ・高乳酸値は低酸素状態(および脱水)を必ずしも反映しない
 ・低酸素状態になればlacは上昇するがVO2の低下から数時間遅れる
 ・これは乳酸が負に帯電しており細胞膜通過に時間がかかるため
・組織低酸素ではない高乳酸血症
 ・全身性炎症反応症候群
 ・チアミン欠乏(原因不明の高lac血症)
 ・薬物
   ・アドレナリン、メトホルミン
    抗レトロウィルス薬、リネゾリド
    プロピレングリコール
     →プロピレングリコールを含む薬剤
       ・ロラゼパム
       ・ジアゼパム
       ・エスモロール
       ・ニトログリセリン
       ・フェニトイン
 ・アルカローシス
 ・痙攣
 ・肝機能障害
 ・喘息発作
 ・悪性腫瘍
 ・シアン化合物
 ・一酸化炭素など
・乳酸そのものは有害なのか
 ・敗血症性ショックでは心臓における乳酸の酸化が亢進している
 ・低酸素状態の神経組織では乳酸の酸化が重要なエネルギー源である
 ・乳酸アシドーシスの治療は原因となった代謝異常を是正することが第一
・重症敗血症と高乳酸値
 ・細菌のエンドトキシン
   →ピルビン酸からアセチルコエンザイムAに変換される過程を障害
   →ピルビン酸の蓄積による高乳酸血症になる
 ・敗血症において高乳酸血症=酸素化の不足は一対一対応ではない

術後心房細動

後期研修医勉強会 担当:E先生

「術後心房細動」

・術後不整脈は周術期に頻度の高い合併症のひとつ。
・最も代表的な術後心房細動(POAF)は30-50%と高率に発症。
  ・冠動脈バイパス術後:30%
  ・弁置換術:30-40%,
   ・複合手術:40-50%
  ・肺手術(葉切除):10-20%
      (全摘術):40%         
・術後1週間以内に起こりやすい
  ・術後2日目が最も多い
  ・43%の患者が最低1回AFのエピソード
・新規発症のPOAFは、自然に洞調律化
  ・15-30%は2時間以内、80%以上が24時間以内、
  ・90%以上が術後6-8週間に洞調律化する
・発症機序
 ・トリガーとなる局所的な異常興奮
   →心房頻拍や心房期外収縮など
 ・電気的・構造的変化によるリエントリー
 ・術後急性期の一過性因子
   →血中カテコラミンの増加、炎症、心膜炎、
    電気的リモデリング、自律神経障害、心房の伸展、
    低酸素、電解質異常、代謝異常 
 ・詳しいメカニズムは解明されていない
・リスク因子
 ・術前リスク因子
   →高齢(>75歳)、遺伝、高血圧、糖尿病、肥満、COPD、
    左房・左室肥大、僧帽弁疾患
 ・術中リスク因子
   →術中侵襲(ベント・脱血管挿入)、心筋障害(虚血・低血圧)、
    急激な循環血液量の増減(拡張・虚脱)
   →人工心肺を使用した開心術では発症しやすい
 ・術後リスク因子
   →急激な循環血液量の増減、電解質異常(Mg、K)、
    交感神経系亢進(疼痛、貧血、発熱、炎症、カテコラミンの投与)
・合併症
 ・一次的合併症:
   →自覚症状(動悸)
    血行動態の破綻(心不全、血圧低下)
 ・二次的合併症:
   →周術期脳梗塞(発症率は3倍)
    ICU滞在日数・入院期間の延長→医療費の増大
    周術期・長期の死亡率の上昇
・発症予防
 ・ACCF/AHA/HRS心房細動患者管理ガイドライン(2014年)
 ・ESC心房細動治療ガイドライン(2010、2016年)
   →POAFの発症予防を推奨 (Grade1B)
   ・β遮断薬>アミオダロン、ソタロール(Grade1B)
   ・低コスト、重篤な副作用が少ない
   ・β遮断薬は可能であれば術前から開始し、術後も継続する。
   ・β遮断薬を使用できない患者
     →アミオダロン・ソタロールの使用を考慮。
   ・ソタロール副作用
     →TdP、徐脈、β遮断作用、腎不全患者には禁忌、QT延長
   ・アミオダロン副作用
     →徐脈、ペーシング使用の上昇、QT延長、
      肺合併症(間質性肺炎)を考慮、重症例には慎重
   ・メトプロロール(セロケン)<カルベジロール(アーチスト)
   ・ビソプロロール(メインテート)
   ・心房ペーシング△
   ・抗酸化ビタミンはβブロッカーに併用して使用する。(Grade2C)
     →術前から開始し退院まで継続。
   ・ビタミンC(1g)、ビタミンE(400IU)/日。
・管理、治療
 ・循環動態が安定した患者
   ①循環血液量の是正、電解質異常(Mg、K)の補正、
    低酸素・疼痛・貧血等のコントロール、カテコラミン減量・中止
   ②レートコントロール(<110/min)
   ③リズムコントロール
    ・レートコントロールvsリズムコントロール
     →抗不整脈薬による洞調律維持より、心拍数調節と抗凝固療法
    ・24時間以上持続する場合は、薬物的除細動を考慮する。
    ・循環動態が不安定な患者
      →除細動
 ・まとめると、最初は、低酸素、電解質異常、循環不安定の是正や、
  疼痛、カテコラミンの中止
   →そこからレートorリズム、除細動、抗凝固
 ・洞調律に復帰した患者でも、少なくとも4週間抗凝固療法を開始する。
         (CHADS2DS2-VASc score高値、HASBLED score低値)
 ・フル抗凝固になるまで静注のヘパリンは使用しない。
   ↑術後の出血リスク>脳梗塞リスク
    ただしPEや機械弁の患者には考慮してよいかもしれない。
・抗凝固療法
  ・複数回のAFエピソードのある患者、48時間以上持続している患者
    →周術期出血リスクが許容できるなら経口抗凝固薬が推奨される。
  ・高リスク患者(CHA2DS2-VASc score>2点)には48時間以内でも推奨される。
  ・ワーファリン(INR;2-3)>直接抗トロンビン・Xa因子薬 (Grade2C)
  ・抗凝固薬療法は、洞調律復帰後も最低4週間の投与継続が推奨される。(Grade2C)

2017年7月17日月曜日

ステロイドカバー

初期研修医勉強会 担当:K先生

「ステロイドカバーについて」

・ステロイド使用患者における注意点
 ・ステロイドが適応となる原疾患に対する麻酔計画
  →例えば・・・
   ・関節リウマチ患者の挿管困難に対する気道確保
   ・気管支喘息に対する発作予防
   ・血液疾患による汎血球減少に対する対策
 ・ステロイド長期投与に伴う副作用の管理
  →例えば・・・
   ・耐糖能異常
   ・易感染性
 ・ステロイド分泌抑制に対する補充(ステロイドカバー)
・まずは床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を復習
 ・ストレスによりHPA系はpositive feedbackでcortisolを産生
 ・産生されるcortisolは8-10mg/day程度。
 ・cortisolは内因性も外因性も含めてHPA系にnegative feedbackをかける。
・ストレス下でのcortisol分泌量
 ・minor surgery→50mg/day
 ・greater surgical stress→75-150mg/day、まれに200mg/day以上
・二次性副腎機能低下症
 ・ステロイドはnegative feedbackによりHPA系を抑制する。
  →CRH、ACTHの分泌が抑制される。
  →それらの刺激を受けなくなった副腎皮質は萎縮する。
  →何らかのストレスを受けてCRHやACTHが分泌されても
   委縮した副腎皮質からは十分量のコルチゾールが分泌されないため、
   副腎不全を呈することがある。
・周術期の二次性副腎不全の報告(1950年代)
  ・34歳男性。関節リウマチに対して
   50mg/dayのコルチゾンを8ヶ月にわたり投与。
   股関節形成術後ショックに陥り、術後3時間で死亡。
  ・20歳女性。関節リウマチに対して
   75mg/dayのプレドニゾンを8ヶ月にわたり投与。
   膝関節の術後ショックに陥り、術後6時間で死亡。
 →いずれも病理学的所見で両副腎の萎縮、腺組織の顕著な変性を認めた。
 →副腎不全が死因と考えられた。
 →ステロイドカバーの必要性が提唱されるようになった。
・HPA系の評価
 ・intermediate patientsにはHPA系の評価を行うことを推奨する
 ・まず早朝コルチゾール基礎値でスクリーニングを行う。
  ・cortisol<5μg/dL
   →HPA系抑制の可能性が高いためステロイドカバー行う
  ・cortisol>10μg/dL
   →HPA系抑制の可能性は低いため常用量のみで可
  ・cortisol 5 to 10μg/dL
   →追加検査を行うかempiricにステロイドカバーを行う
 ・早朝コルチゾール基礎値でグレーゾーンと判定された場合
   →追加検査として迅速ACTH負荷試験を行う。
  ・迅速ACTH負荷試験
   →ACTHを投与することでHPA系の下流にある副腎皮質の機能を調べる
    ・ACTH製剤(コートロシン®)250μg投与
      →30分後 cortisol<18μg/dL→副腎機能低下あり
           cortisol>18μg/dL→副腎機能正常
・ステロイドの内服期間が3w未満の患者
  →用量にかかわらずステロイドカバーは必要ない。
・3w以上、PSL換算で1日20mg以上内服
  →ステロイドカバーが必要。
・3w以上、1日5-20mg内服
  →HPA系の抑制状態を評価するための検査を行うか、
   empiricにステロイドカバーを行う。
・吸入ステロイドは?
 ・吸入ステロイドを使用中の患者の早朝コルチゾール基礎値(13研究)や
  尿中コルチゾール(21研究)について調べた研究のメタアナリシス
                 (Arch Intern Med 1999; 159:941.)
  →750μg/day以上のフルチカゾン(フルタイド)、
    1500μg/day以上のブデソニド(パルミコート)、べクロメタゾン、
    トリアムシノロンの吸入でHPA系の抑制が確認された。          
 ・UpToDateでは?
  →750μg/day以上のフルチカゾンや
   1500μg/day以上のフルチカゾン以外の吸入ステロイドを
   3週間以上使用している患者
    →術前にHPA系の評価を行うよう勧めている。
・外用ステロイドは?
 ・Class Iの外用ステロイドを2g/day以上使うとHPA系が抑制される可能性。
                  (J Am Acad Dermatol. 2006; 54:1.)
  ・UpToDateではClass I-IIIの外用ステロイドを2g/day以上、
  3週間以上使用した場合は術前にHPA系の評価を行うことを勧めている。
  ・ちなみに0.5gで両手掌に塗布する分量に相当するため、
    体幹等にも塗るのであれば2g/dayはそれほど多い量ではなさそう。
・何をどれだけ投与するか?
 ・かつてはヒドロコルチゾンを術前、術中、術後に100mgずつ計300mgを
  手術当日に投与しその後徐々に減量。
  →この投与量は大手術を受けた正常患者の血中コルチゾール最高値を
   上回るように設定
  →多くの患者にとっては過量投与。
 ・副作用として血圧上昇、水分貯留、消化性潰瘍、
  創傷治癒遅延、感染の増加などが多数報告された。
・周術期のステロイド補充量
  ・一般的に手術侵襲の大きさによって決めることが多い。
  ・健常人でのコルチゾール分泌量を参考とする。
  ・小手術では健常人ではコルチゾールの分泌はおよそ50mg/dayまで増加し、
   24時間以内に平常値まで戻る。
  ・より大きな手術(例えば結腸切除術)では75-100mg/dayまで増加し、
   24時間から48時間で正常化する。
  ・さらに大きな手術(例えば食道手術や心臓手術)では、
   200-500mg/dayまで増加する。
   ・ただし術翌日には200mg/day未満となることが多い。
・そもそもステロイドカバーは必要か。
 ・侵襲の大きな手術を受ける患者でも常用量のステロイドで十分?
  ・炎症性腸疾患に対する手術を受ける患者に
   常用量のステロイドのみを投与した後向きコホート研究
                    (Surgery 2012; 152:158.)
   →血管作動薬や追加ステロイドの投与を必要とするような
    循環変動は生じなかった。 
  ・同じグループが2014年に発表したRCT(N=92)(Ann Surg 2014; 259:32.)
   →常用量のみを投与した群とヒドロコルチゾン100mg×3回/dayを投与した群で
    循環動態に差はなかった。 
 →現時点では周術期のステロイド投与による副作用よりも、
  副腎不全のリスクを考慮してステロイドカバーは必要であるという意見の方が多い。

硬膜外麻酔について

初期研修医勉強会  担当:K先生

「硬膜外麻酔について」

・August Karl Gustav Bier
 (24 November 1861 – 12 March 1949)
・コカインによる脊髄くも膜下麻酔を世界で初めて外科手術に(1898年)
・脊麻と硬麻
 ・世界初の硬膜外麻酔はスペインのFide Pagesによる腰部硬膜外麻酔(1921)
 ・脊麻も硬麻も局所麻酔の一種(区域麻酔)
 ・背中からの麻酔であることは似ているが違いを把握することが大事
・局所麻酔薬と神経線維
 ・ブロックされる順番は
   →交感神経>温覚>痛覚>触覚>圧覚>運動繊維
・神経線維のブロックはその太さやミエリン鞘の有無に影響される。
 ・局所麻酔薬によるブロックされやすさは原則、
   ・有髄神経<無髄神経
   ・神経線維が太い<細い
  ・運動をつかさどるA-α繊維
    →髄性で繊維も太いためブロックされにくい。
  ・位置覚などの固有知覚を司るA-α、A-β繊維
    →太いのでブロックされにくい。
  ・痛覚は有髄性で比較的細いA-δデルタ繊維と無髄で細いC繊維が司っている
    →ブロックされやすい。
  ・神経線維でもっともブロックされやすいのは?
    →自律神経節前繊維であるB繊維。
  ・ただし文献によってはC繊維よりも
   Aδ、Aβ繊維の方がブロックされやすいとしているものもある。
・分離麻酔と分節麻酔
 ・硬膜外麻酔において
   ・分離麻酔:麻酔薬の濃度を変えて遮断する神経種類(太さ)を変える
     Ex)リドカインは0.5%で交感神経、1%で知覚神経、
       1.5-2%で運動神経を遮断(筋弛緩)
      ・分節麻酔:麻酔薬の容量を変えて遮断する神経レベル(範囲)を変える
     Ex)1分節0.5mL~2mLと人によって異なる
・脊麻、硬麻の合併症
 ・血圧低下、徐脈、硬膜穿刺、局所麻酔薬中毒、くも膜下腔注入、血管内注入など。
 ・血圧低下や徐脈
   →起きてから対処するのではなく起きるものとして考える。
   →施行前の十分な輸液と昇圧薬とアトロピンの準備、酸素投与が重要。
 ・硬膜外カテーテル挿入後にテストドーズ
   →1-2%リドカイン3mLを試しに注入
   →くも膜下投与でないことを確かめる。
   ・この時に20万倍アドレナリンを添加したものを入れた場合に
    心拍数が20/分増加すれば血管内投与であることが確認できる。
・術後合併症
 ・頭痛(硬膜穿刺後頭痛)、馬尾症候群、脳神経麻痺、硬膜外血腫、
  硬膜外膿瘍、神経損傷、髄膜刺激症状、髄膜炎、尿閉など
 ・硬膜穿刺後頭痛頭痛
   →脊麻後頭痛と呼ばれ術後1~2日ごろに発症します。
   ・硬膜外麻酔の硬膜の誤穿刺では必発で若年女性に多い。
   ・安静臥床、輸液負荷が必要。
   ・難治性の場合は自己血パッチ。
 ・馬尾症候群
   →脊髄くも膜下麻酔後の歌詞運動麻痺、会陰部の知覚異常、
    膀胱直腸障害を症状とする。
   ・局所麻酔薬の神経毒性が主な病因とされる。
   ・近年は毒性が低いものを使うようになり頻度は減少している。
 ・その他低髄液圧によって外転神経麻痺による複視を起こすことも。
 ・硬膜外血腫は近年抗凝固療法の広まりと共に増加している、
   ・古いデータでは十万例に一人というデータもあるが、
    実際には最も多いと推測されている。
 ・遷延する尿閉は一過性の無菌性髄膜炎によるものとされ
  2~3日で軽快することが多い。
・硬膜外麻酔の利点
 ・持続投与が可能で長時間手術も可能
 ・術後疼痛管理が可能
 ・ブロックの範囲の調節性が高い
   →他のオピオイド全身投与よりも優れた疼痛管理
   →交感神経系ブロックや周術期免疫能の維持により患者の予後を改善?