「麻酔科EBM勉強会」 担当 M先生
「MICSと麻酔管理」
・MICS
→Minimally Invasive Cardiac Surgery
→Full Sternotomy を行わない、または人工心肺を用いない心臓手術。
・Off-pump coronary artery bypass(OPCAB)や、
胸骨部分切開や右開胸による弁膜症手術を含む。
・補助手段として胸腔鏡や手術ロボットが使用されることもある。
・MICSの利点
・在院日数が短い
・人工呼吸期間が短い
・呼吸器合併症が少ない
・胸骨の感染率が低い(特に再開胸)
・再手術の際により安全にアプローチできる
・術後痛が少ない
・回復が早い
・美容的に優れている
・MICSの欠点
・習熟に時間が掛かる
・心臓までの距離が遠く視野も限られている
→病変把握や予期せぬ合併症位の対処が難しい
・大動脈操作や人工心肺必要時の操作が特殊
・逆行性送血
→大腿動脈送血であるため脳血管合併症が
ハイリスク患者では約2倍
→その他末梢血管合併症も増える
→血栓塞栓症、仮性動脈瘤、動脈解離、
リンパ漏、鼠径部感染症など
・空気の除去が難しい
・苦手な主義がある
→3次元的な空間把握が必要な手術、手技など
・Ross手術、David/Bentall、stentless AVR、腱索再建など
→full-Maze、左心耳縫縮も難しいとのこと
・Aoクランプの難易度が高い
・Aoクランプ時間、CPB timeが長くなる傾向にある
・術前準備
・末梢の動脈や下行大動脈に病変がないか
・動脈サイズが小さすぎないか
→CTAを用いて評価を行うのが望ましい
・末梢静脈、中心静脈、動脈ラインの場所をあらかじめ術者と相談
→ラインによっては手術の妨げになる場合がある。
・麻酔方法
・OPCAB→局所麻酔(硬膜外麻酔)による管理でも可能
・人工心肺を用いる場合やTEEを用いる場合には全身麻酔となる
・体位は仰臥位で右上げ、右上肢は肩よりも下がる
→腕神経叢や頚部にストレスがかからないように注意が必要
・皮膚には体外から除細動できるようにパッドを装着する
・左片肺換気を行っている場合
適切に除細動ができない場合があるため一度分離換気をやめる
・da Vinciを使用している場合
→一度ロールアウトすることを忘れない
・右小開胸の場合(M弁、T弁、Maze、ASDなど)
→分離換気(OLV)が必要になる
・分離換気を行う場合DLT、気管支blockerどちらでも良い
→DLTは位置がずれにくい、非換気側のPEEPや吸引ができる
・DLTは手術終了時にノーマルチューブに入れ替えが必要
・TEEの役割
・弁の機能障害、重症度評価
・心臓の容量と機能
・各種カテーテルの位置確認
・介入前後の病変の評価
・心内空気の検出
→術野が狭く見えるものに限りがあるためTEEの重要性は増す!
・MICSの適応があるのかどうかを評価するのにも役立つ
→下行大動脈のアテローム性動脈硬化が強い
→MICSでは対応できないような他の病変が見つかる
→MICS自体をやめることが必要になることも…
・カニュレーション
・脱血管の挿入
・術式に応じる。
・内頚静脈から上大静脈に脱血管を挿入したり、
endopulmonary vent catheterの追加を行う。
・大動脈クロスクランプ
・Transthoracic aortic clamping
→大動脈を外側から直接クランプする方法
・Endoaortic balloon occlusion
→上行大動脈内でバルーンを膨らませてクランプ
→右腋窩動脈または、大腿動脈の送血管と同じ部位から進め、
上行大動脈内でバルーンを膨らませる
→位置調整が難しい、コストがかかるというデメリットがある
・TAC vs EOBC
・TACはre-do症例では難しい。
・合併症の発生頻度に有意差はないとの報告も。
・TACのほうが手術時間が短く、出血量も少なく、
術後CK-MBの値も有意に低かったという報告もある。
・心筋保護
・順行性心筋保護
大動脈root canulation
Endoaortic balloon occlusion
・逆行性心筋保護
冠静脈洞canulation
EndoPledge
→冠静脈洞に直接カニュレーションするのは難しい
→経静脈的にCSにカニュレーションする。
・Endopledgeのデメリット
・合併症にCS、RA、RVの穿孔が報告されている
・位置がずれやすい
・時間がかかる
・術者が必要としない(順行性で充分)
→あまり普及していない
・左室肥大が著しい、CABGの既往がある、
ARがあるといった症例では使ってもいいかも。
・人工心肺離脱後
・通常の管理と大きな違いはない
・クロスクランプ時間、心肺時間は長くなる
・ペーシングリード付きPAカテーテルを使用する場合
→再灌流後リードを適切な位置に再調整する必要がある
・右室など術者から見えない部位が増える
→TEEや各種パラメータのモニタリングの重要性が増す
・空気塞栓に注意
・片肺換気している場合は可能なら両肺換気で呼吸再開する
・術後鎮痛
・オピオイド静注が古くから行われている
・肋間神経に局所麻酔薬を投与するのも有効
・その他Paravertebral blockも有効と言われている
・従来の方法より痛みは少ない。
・予後について
・ICU滞在日数はMini-sternotomy群で有意に短かった
・在院日数、出血量、人工呼吸期間は有意差なし
・より大規模のStudyが望まれる