2014年9月5日金曜日

MICSと麻酔管理

「麻酔科EBM勉強会」  担当 M先生

「MICSと麻酔管理」

・MICS
  →Minimally Invasive Cardiac Surgery
  →Full Sternotomy を行わない、または人工心肺を用いない心臓手術。
    ・Off-pump coronary artery bypass(OPCAB)や、
     胸骨部分切開や右開胸による弁膜症手術を含む。
    ・補助手段として胸腔鏡や手術ロボットが使用されることもある。
・MICSの利点
  ・在院日数が短い
  ・人工呼吸期間が短い
  ・呼吸器合併症が少ない
  ・胸骨の感染率が低い(特に再開胸)
  ・再手術の際により安全にアプローチできる
  ・術後痛が少ない
  ・回復が早い
  ・美容的に優れている
・MICSの欠点
  ・習熟に時間が掛かる
  ・心臓までの距離が遠く視野も限られている
    →病変把握や予期せぬ合併症位の対処が難しい
  ・大動脈操作や人工心肺必要時の操作が特殊
  ・逆行性送血
     →大腿動脈送血であるため脳血管合併症が
      ハイリスク患者では約2倍
     →その他末梢血管合併症も増える
     →血栓塞栓症、仮性動脈瘤、動脈解離、
      リンパ漏、鼠径部感染症など
  ・空気の除去が難しい
  ・苦手な主義がある
    →3次元的な空間把握が必要な手術、手技など
      ・Ross手術、David/Bentall、stentless AVR、腱索再建など
    →full-Maze、左心耳縫縮も難しいとのこと
  ・Aoクランプの難易度が高い
  ・Aoクランプ時間、CPB timeが長くなる傾向にある

・術前準備
   ・末梢の動脈や下行大動脈に病変がないか
   ・動脈サイズが小さすぎないか
     →CTAを用いて評価を行うのが望ましい
   ・末梢静脈、中心静脈、動脈ラインの場所をあらかじめ術者と相談
     →ラインによっては手術の妨げになる場合がある。
・麻酔方法
 ・OPCAB→局所麻酔(硬膜外麻酔)による管理でも可能
 ・人工心肺を用いる場合やTEEを用いる場合には全身麻酔となる
 ・体位は仰臥位で右上げ、右上肢は肩よりも下がる
     →腕神経叢や頚部にストレスがかからないように注意が必要
 ・皮膚には体外から除細動できるようにパッドを装着する
   ・左片肺換気を行っている場合
    適切に除細動ができない場合があるため一度分離換気をやめる
 ・da Vinciを使用している場合
   →一度ロールアウトすることを忘れない
 ・右小開胸の場合(M弁、T弁、Maze、ASDなど)
   →分離換気(OLV)が必要になる
 ・分離換気を行う場合DLT、気管支blockerどちらでも良い
   →DLTは位置がずれにくい、非換気側のPEEPや吸引ができる
 ・DLTは手術終了時にノーマルチューブに入れ替えが必要
・TEEの役割
 ・弁の機能障害、重症度評価
 ・心臓の容量と機能
 ・各種カテーテルの位置確認
 ・介入前後の病変の評価
 ・心内空気の検出
   →術野が狭く見えるものに限りがあるためTEEの重要性は増す!
 ・MICSの適応があるのかどうかを評価するのにも役立つ
   →下行大動脈のアテローム性動脈硬化が強い
   →MICSでは対応できないような他の病変が見つかる
   →MICS自体をやめることが必要になることも…
・カニュレーション
 ・脱血管の挿入
   ・術式に応じる。
   ・内頚静脈から上大静脈に脱血管を挿入したり、
    endopulmonary vent catheterの追加を行う。
 ・大動脈クロスクランプ
   ・Transthoracic aortic clamping
     →大動脈を外側から直接クランプする方法
   ・Endoaortic balloon occlusion
     →上行大動脈内でバルーンを膨らませてクランプ
     →右腋窩動脈または、大腿動脈の送血管と同じ部位から進め、
      上行大動脈内でバルーンを膨らませる
     →位置調整が難しい、コストがかかるというデメリットがある
   ・TAC vs EOBC
     ・TACはre-do症例では難しい。
     ・合併症の発生頻度に有意差はないとの報告も。
     ・TACのほうが手術時間が短く、出血量も少なく、
      術後CK-MBの値も有意に低かったという報告もある。
 ・心筋保護
   ・順行性心筋保護
     大動脈root canulation
     Endoaortic balloon occlusion
 ・逆行性心筋保護
  冠静脈洞canulation
  EndoPledge
   →冠静脈洞に直接カニュレーションするのは難しい
   →経静脈的にCSにカニュレーションする。
  ・Endopledgeのデメリット
    ・合併症にCS、RA、RVの穿孔が報告されている
    ・位置がずれやすい
    ・時間がかかる
    ・術者が必要としない(順行性で充分)
       →あまり普及していない
    ・左室肥大が著しい、CABGの既往がある、
     ARがあるといった症例では使ってもいいかも。
・人工心肺離脱後
 ・通常の管理と大きな違いはない
 ・クロスクランプ時間、心肺時間は長くなる
 ・ペーシングリード付きPAカテーテルを使用する場合
    →再灌流後リードを適切な位置に再調整する必要がある
 ・右室など術者から見えない部位が増える
    →TEEや各種パラメータのモニタリングの重要性が増す
 ・空気塞栓に注意
 ・片肺換気している場合は可能なら両肺換気で呼吸再開する

・術後鎮痛
 ・オピオイド静注が古くから行われている
 ・肋間神経に局所麻酔薬を投与するのも有効
 ・その他Paravertebral blockも有効と言われている
 ・従来の方法より痛みは少ない。

・予後について
 ・ICU滞在日数はMini-sternotomy群で有意に短かった
 ・在院日数、出血量、人工呼吸期間は有意差なし
 ・より大規模のStudyが望まれる