2017年11月16日木曜日

脳神経外科手術の麻酔

麻酔科勉強会 担当:E先生

「脳神経外科手術の麻酔」

・脳血流量について
 ・脳血流量(CBF)=脳還流圧/脳血管抵抗
 ・脳還流圧(CPP)=平均血圧(MAP)-頭蓋内圧(ICP)
   →MAP 50-100mmHgの範囲では自動調整される。
 ・脳血流量の平均は50ml/min
 ・  →血圧、代謝要求量、PaCO2、PaO2、
     血液粘度、神経性調節に影響を受ける。
 ・脳虚血、外傷、低酸素症、高CO2血症、浮腫、
  腫瘤による圧迫、揮発性麻酔薬、・・・
   ←自動調節能を抑制
   →患部の血流は平均動脈圧に依存してしまう。

・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)について
 ・20-80mmHgでは直線的に脳血流量が増加
 ・過換気は脳虚血の危険
   →normocapnia(PaCO2=30-35mmHg)
 ・EtCO2でなく、PaCO2で評価

・動脈血酸素分圧(PaO2)について
 ・低酸素症により脳血管は拡張(酸素供給を代償する)
 ・PaO2=60-300mmHg

・脳酸素代謝率(CMRO2)について
 ・脳組織の酸素消費
 ・体温低下1℃に対してCMRO27%低下
 ・麻酔薬(↓)、体温(↑)、痙攣(↑)、疼痛(↑)
  
・頭蓋内圧(ICP)について
 ・正常値:5-15mmHg
 ・ICP上昇
   →脳灌流圧が低下
   →脳ヘルニアや神経学的合併症を引き起こす
 ・臨床的徴候
   →頭痛、悪心、嘔吐、視力障害、うっ血乳頭、意識障害
 ・重篤な場合はCushingの3徴(高血圧、徐脈、不規則呼吸)

・生理学的に調節すべきもの
  ①脳血流量(CBF→MAP 50-150mmHg
  ②動脈血二酸化炭素分圧→PaCO2 30-35mmHg
  ③動脈血酸素分圧(PaO2)→PaO2 60-300mmHg
  ④脳酸素代謝率(CMRO2)→体温、疼痛、痙攣
  ⑤頭蓋内圧(ICP)→体位、PEEP、バッキング
 ・これらを調節して適切な脳内循環を維持する。

・麻酔薬
  ・吸入麻酔薬
    ・用量依存的にCMRO2減少(↓)、血管を拡張させCBF増加(↑)
    ・ただし亜酸化窒素はCMRO2(↑)、CBF(↑)となる
      ・1MAC以下では影響は少ない。
       ※頭蓋内コンプライアンスの低下した患者では注意
    ・利点として覚醒良好なことがある 
  ・静脈麻酔薬
    ・用量依存的にCBFとCMRO2を減少させる。
    ・ただしケタミンはCBF(↑)
  ・麻薬、筋弛緩薬は脳血流量とCMRO2を変化させない。
  ・TIVA vs吸入麻酔に関しては議論が分かれる。
    ←多くの場合では少量の吸入麻酔を使用した
     バランス麻酔に加えて筋弛緩薬やオピオイドを併用する。
  ・ICPが上昇している患者に対しては静脈麻酔が有用。
・術中の麻酔管理
  ・前述の呼吸・循環管理
  ・脳の緊張緩和(relax brain)
    →硬膜を切開する前に脳が緊張していないように。
    →切開前にPaCO2 33-35mmHg
      →マンニトール、フロセミドの投与(高浸透圧の維持)
      ・過剰投与は反跳現象を引き起こし脳浮腫を助長する可能性。
  ・水分管理はevenバランスで適切な脳灌流と脳浮腫を予防
   →正常の血管内容量を保ち、高浸透圧状態にする。
  ・ステロイド×(脳卒中や脳外傷における有用性はない、浮腫は軽減)
  ・正常体温
  ・高血糖の予防(<170mg/dl)
  ・痙攣予防
  ・座位手術の場合は?
    ・メリット:良い視野、ドレナージが良好、出血量の減少
    ・デメリット:空気塞栓の可能性
      →術野が心臓より高い位置にある。
      →開放された静脈から空気を引き込み空気塞栓発生。
      →低酸素症、高CO2血症、気管支収縮、低血圧、循環虚脱など。
      ・特に右左シャントあるときは要注意。
      ・空気塞栓のリスクのある症例では中心静脈カテーテル、TEEも。
      ・モニタはカプノグラム、TEEなど。
・術後管理
  ・抜管・覚醒
   ・テント下(気道反射に影響を与える)の手術後や、
    長時間腹臥位の患者では慎重に。
   ・理想的には咳・筋緊張・高血圧を避ける。
   ・覚醒後の神経学的評価を行う。
   (従命、四肢の動き・視野の評価)
  ・術後鎮痛
   ・オピオイドは術後鎮痛目的に覚醒前に投与するべきではない?
    →覚醒・抜管後に評価したあとに投与する?
    →術後鎮痛や終盤の血圧管理のための気前の良いオピオイド投与は
     十分な神経学的評価を行えなくする可能性。
  ・PONV予防は必要。

・頭部外傷患者の麻酔
  ・traumatic brain injury(TBI)の患者の麻酔では、
   二次的脳障害を予防することが目的である。
  ・急性期にはCBFの自動調節能は破綻しており血圧の増減に応じて変化する。
    ・血圧低下→CBF減少→脳虚血
     ・血圧上昇→CBF増加→脳浮腫
  ・気道評価が重要(頚椎損傷の可能性も)
  ・フルストマックとして迅速導入。
   (→気道評価の上意識下挿管も)
  ・腹部・整形損傷などがマスクされていることがある。
  ・ICP上昇していたらTIVAがよい。