2017年11月17日金曜日

シバリング治療とガイドライン

麻酔科勉強会 担当:K先生

「シバリング治療とガイドライン」

・シバリングとは?
  ・骨格筋の不随意で小刻みな収縮
  ・末梢温が中枢温よりも極端に低い時に発生。
    →必ずしも中枢温が低くはない。
  ・体温調節性シバリングと非体温調節性シバリングがある。
・シバリングが起こる原因
  ・体温低下
  ・手術による炎症性サイトカイン分泌
     →体温セットポイントの上昇
  ・疼痛
・麻酔中の体温低下の原因
  ・第1相
    ・麻酔導入による熱の再分布
    ・麻酔導入前は末梢血管が収縮している状態。
      →中枢‐末梢温度較差が存在。
      →麻酔導入による血管拡張で熱の再分布が起こる。
      →中枢温が低下する。
  ・第2相
    ・熱喪失>熱産生
  ・第3相
    ・プラトー期
    ・低体温により体温調節性血管収縮が起こる。
・視床下部による体温調節
   ・脳、脊髄、深部組織、皮膚などの温度入力
     →視床下部前部で統合処理され体温調節機構が働く。
・体温調節性シバリング
  ・持続緊張性で筋電図では4~8サイクル/分の漸増漸減パターン
  ・全身麻酔中では体温が低下するが、
   麻酔薬によりシバリング閾値も低下するためシバリングは生じない。
  ・麻酔から覚醒するときにシバリング閾値が元に戻り、
   低下した中枢温を上回るときにシバリングが起こる。
  ・手術侵襲や感染などの体温のセットポイント上昇でも
   シバリング閾値が上昇しシバリングが発生する。
・非体温調節性シバリング
  ・5~7Hzの連射的な筋電図パターン
  ・呼気中のイソフルラン濃度が0.2~0.4%程度の低濃度で出現。
  ・病的クローヌスと同様のパターン。
  ・皮膚末梢温の低下は見られない。
  ・オピオイドやNSAIDsといった鎮痛薬で改善する。
  ・疼痛に関係する?
・シバリングを起こすリスク
  ・低体温
  ・レミフェンタニルの使用(μオピオイドによるシバリング抑制)
  ・手術侵襲(体温調節中枢のセットポイント上昇)
・シバリングの問題点
  ・酸素消費量の増加(2~4倍)
  ・主要臓器への酸素不足→心筋梗塞、脳梗塞、創傷治癒遅延
  ・二酸化炭素の発生
  ・呼吸不全患者で危険増加
  ・頭蓋内圧、眼圧、胸腔内圧、腹腔内圧の上昇
  ・皮膚緊張による創傷の増強
  ・末梢の血流障害と代謝性アシドーシス
  ・不快感
・シバリングの予防法
  ①熱の喪失の抑制
    ・放射を防ぐために室温を上げて
     温風加温システムで保温、加温する。
    ・輸液を保温庫で温め輸液加温システムで輸液をさらに加温。
  ②熱再分布の抑制
    ・導入前加温、導入前の血管拡張薬、麻酔前投薬、血管収縮薬
  ③熱産生
    ・アミノ酸輸液
  ④鎮痛
・シバリングの治療
  ・加温
  ・薬物療法
     ・メペリジン
     ・α2受容体作動薬
     ・ケタミン
     ・マグネシウム
     ・5-HT3阻害薬
     ・NSAIDs

Choi KE, Park B, Moheet AM, Rosen A, Lahiri S, Rosengart A.Systematic Quality Assessment of Published Antishivering Protocols.Anesth Analg. 2017;124:1539-1546. doi: 10.1213/ANE.0000000000001571.
によると・・・

・個々の薬物、理学的治療の有効性は確立されているが
 組み合わせた研究は少ない。
・近年のRCTメタアナリシスではクロニジン、メペリジン、
 トラマドール、ネホパム、ケタミンはRR 1.6~2.2、NNT 2~4で
 最適な薬剤であると確認されている。
・積極的な皮膚の加温もシバリング対策に好ましい。

・現実的に可能なシバリング対策としては・・・
  ・加温
  ・酸素投与
  ・アセリオ、ロピオンetc.
  ・オピオイド
  ・プレセデックス
  ・マグネシウム
  ・メペリジン(痙攣のリスク)
  ・
・明日からできるシバリング対策
  ・加温(温風式加温装置、輸液の加温。できれば導入前も)
  ・部屋の室温も上げる
  ・マグネシウム含有の輸液
  ・十分な鎮痛
  ・NSAIDs、アセトアミノフェンで体温のセットポイント上昇を抑制
  ・シバリングが起きた場合はオピオイド、マグネシウム、
   ケタミンを考慮する。

2017年11月16日木曜日

脳神経外科手術の麻酔

麻酔科勉強会 担当:E先生

「脳神経外科手術の麻酔」

・脳血流量について
 ・脳血流量(CBF)=脳還流圧/脳血管抵抗
 ・脳還流圧(CPP)=平均血圧(MAP)-頭蓋内圧(ICP)
   →MAP 50-100mmHgの範囲では自動調整される。
 ・脳血流量の平均は50ml/min
 ・  →血圧、代謝要求量、PaCO2、PaO2、
     血液粘度、神経性調節に影響を受ける。
 ・脳虚血、外傷、低酸素症、高CO2血症、浮腫、
  腫瘤による圧迫、揮発性麻酔薬、・・・
   ←自動調節能を抑制
   →患部の血流は平均動脈圧に依存してしまう。

・動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)について
 ・20-80mmHgでは直線的に脳血流量が増加
 ・過換気は脳虚血の危険
   →normocapnia(PaCO2=30-35mmHg)
 ・EtCO2でなく、PaCO2で評価

・動脈血酸素分圧(PaO2)について
 ・低酸素症により脳血管は拡張(酸素供給を代償する)
 ・PaO2=60-300mmHg

・脳酸素代謝率(CMRO2)について
 ・脳組織の酸素消費
 ・体温低下1℃に対してCMRO27%低下
 ・麻酔薬(↓)、体温(↑)、痙攣(↑)、疼痛(↑)
  
・頭蓋内圧(ICP)について
 ・正常値:5-15mmHg
 ・ICP上昇
   →脳灌流圧が低下
   →脳ヘルニアや神経学的合併症を引き起こす
 ・臨床的徴候
   →頭痛、悪心、嘔吐、視力障害、うっ血乳頭、意識障害
 ・重篤な場合はCushingの3徴(高血圧、徐脈、不規則呼吸)

・生理学的に調節すべきもの
  ①脳血流量(CBF→MAP 50-150mmHg
  ②動脈血二酸化炭素分圧→PaCO2 30-35mmHg
  ③動脈血酸素分圧(PaO2)→PaO2 60-300mmHg
  ④脳酸素代謝率(CMRO2)→体温、疼痛、痙攣
  ⑤頭蓋内圧(ICP)→体位、PEEP、バッキング
 ・これらを調節して適切な脳内循環を維持する。

・麻酔薬
  ・吸入麻酔薬
    ・用量依存的にCMRO2減少(↓)、血管を拡張させCBF増加(↑)
    ・ただし亜酸化窒素はCMRO2(↑)、CBF(↑)となる
      ・1MAC以下では影響は少ない。
       ※頭蓋内コンプライアンスの低下した患者では注意
    ・利点として覚醒良好なことがある 
  ・静脈麻酔薬
    ・用量依存的にCBFとCMRO2を減少させる。
    ・ただしケタミンはCBF(↑)
  ・麻薬、筋弛緩薬は脳血流量とCMRO2を変化させない。
  ・TIVA vs吸入麻酔に関しては議論が分かれる。
    ←多くの場合では少量の吸入麻酔を使用した
     バランス麻酔に加えて筋弛緩薬やオピオイドを併用する。
  ・ICPが上昇している患者に対しては静脈麻酔が有用。
・術中の麻酔管理
  ・前述の呼吸・循環管理
  ・脳の緊張緩和(relax brain)
    →硬膜を切開する前に脳が緊張していないように。
    →切開前にPaCO2 33-35mmHg
      →マンニトール、フロセミドの投与(高浸透圧の維持)
      ・過剰投与は反跳現象を引き起こし脳浮腫を助長する可能性。
  ・水分管理はevenバランスで適切な脳灌流と脳浮腫を予防
   →正常の血管内容量を保ち、高浸透圧状態にする。
  ・ステロイド×(脳卒中や脳外傷における有用性はない、浮腫は軽減)
  ・正常体温
  ・高血糖の予防(<170mg/dl)
  ・痙攣予防
  ・座位手術の場合は?
    ・メリット:良い視野、ドレナージが良好、出血量の減少
    ・デメリット:空気塞栓の可能性
      →術野が心臓より高い位置にある。
      →開放された静脈から空気を引き込み空気塞栓発生。
      →低酸素症、高CO2血症、気管支収縮、低血圧、循環虚脱など。
      ・特に右左シャントあるときは要注意。
      ・空気塞栓のリスクのある症例では中心静脈カテーテル、TEEも。
      ・モニタはカプノグラム、TEEなど。
・術後管理
  ・抜管・覚醒
   ・テント下(気道反射に影響を与える)の手術後や、
    長時間腹臥位の患者では慎重に。
   ・理想的には咳・筋緊張・高血圧を避ける。
   ・覚醒後の神経学的評価を行う。
   (従命、四肢の動き・視野の評価)
  ・術後鎮痛
   ・オピオイドは術後鎮痛目的に覚醒前に投与するべきではない?
    →覚醒・抜管後に評価したあとに投与する?
    →術後鎮痛や終盤の血圧管理のための気前の良いオピオイド投与は
     十分な神経学的評価を行えなくする可能性。
  ・PONV予防は必要。

・頭部外傷患者の麻酔
  ・traumatic brain injury(TBI)の患者の麻酔では、
   二次的脳障害を予防することが目的である。
  ・急性期にはCBFの自動調節能は破綻しており血圧の増減に応じて変化する。
    ・血圧低下→CBF減少→脳虚血
     ・血圧上昇→CBF増加→脳浮腫
  ・気道評価が重要(頚椎損傷の可能性も)
  ・フルストマックとして迅速導入。
   (→気道評価の上意識下挿管も)
  ・腹部・整形損傷などがマスクされていることがある。
  ・ICP上昇していたらTIVAがよい。

2017年11月4日土曜日

経皮的気管切開ハンズオンセミナー

「経皮的気管切開ハンズオンセミナー」

麻酔科医師(GICU、麻酔部門)・初期臨床研修医を対象として、ブタの気管および肺検体を用いた経皮的気管切開のWetLabが開催されました。(以下の写真で検体部分には黒塗りをかけてあります)





麻酔科医にとっては知っておかなければならない技術でありながらハンズオンの機会が少ない手技でもあり、参加者の先生方には大いに勉強になり、盛り上がったようです。
今後ともこのようなハンズオン教育セミナーを企画していきたいと思います。