麻酔科勉強会 担当:O先生
「亜酸化窒素について」
・吸入麻酔の歴史
1779年 笑気の麻酔効果を発見
1842年 エーテル麻酔による抜歯成功
1844年 笑気麻酔による抜歯成功
1847年 クロロホルム麻酔の臨床応用開始
1956年 ハロタンの合成
1959年 メトキシフルランの使用開始
1965年 イソフルランの合成
1966年 デスフルランの合成
1968年 セボフルランの合成
・亜酸化窒素のメリット
・鎮痛効果
・併用薬剤の減量
・コスト減?
・低血圧が減る?
・150年の使用経験
・導入・覚醒が速い
・術中覚醒の減少
・亜酸化窒素のデメリット
・PONV
・VitB12欠乏
・免疫抑制
・心筋虚血
・低酸素血症
・神経毒性
・催奇形性
・閉鎖腔の拡張
・頭蓋内圧亢進
・助燃焼性
・温室効果
・単剤で使用不可
・鎮静作用
・NMDA型グルタミン酸受容体の阻害。
→グルタミン酸を介する興奮性神経伝達を抑制。
・GABA受容体には作用しない。
・ちなみに静脈麻酔薬・他の吸入麻酔薬は
主にGABA受容体を介する神経抑制作用を増強する。
・鎮痛効果
・亜酸化窒素のMACは104%→単独使用は不可
・あくまでも補助的な使用
・鎮痛のメカニズムは???
・亜酸化窒素が青斑核でNA作動性ニューロンを活性化
→NMDA受容体の阻害
→視床下部でのCRFの放出促進
→中脳中心灰白質でOpioid作動性ニューロンを活性化
→脳幹でのOpioid放出はGABA作動性介在ニューロンを阻害
→脊髄のNA作動性抑制性介在ニューロンの脱抑制
→脊髄後角で一次求心性ニューロンから
二次求心性ニューロンへ痛み刺激が伝達されるのを阻害
・NA受容体(α2B-R)欠損マウスや
脊髄切断した動物では亜酸化窒素の鎮痛効果はみられない
→上記の下行性抑制系が主な機序であることを示唆
・ちなみに静脈麻酔薬・吸入麻酔薬によるGABA受容体活性化は
下行性抑制系を阻害する方向に働く
・理論上、他剤との併用で亜酸化窒素の鎮痛効果は減弱することになる。
・しかし実際には・・・
・亜酸化窒素の併用でセボフルランのMACは20-30%減少する。
→下行抑制系以外の経路の関与を示唆
・MAC sparing effect
→セボフルランの使用量を減少させる。
・フェンタニルで十分鎮痛された状況では、
亜酸化窒素を併用してもMAC sparing effectはみられない。
・レミフェンタニルの併用
・鎮痛効果を増強する可能性も。
・レミフェンタニルの使用による持続的なNMDA受容体刺激は
術後痛覚過敏の原因となる。
→亜酸化窒素との併用で術後痛覚過敏を抑制する可能性。
・代謝、排泄
・生体内での代謝率は0.004%と極めて低い
・ほぼ呼気中に排出される
・肝障害・腎障害に影響されない
・麻酔効果は可逆的、残存しない
・作用発現
・血液/ガス分配係数が0.47と低い
→作用発現・消失が迅速
・ただしデスフルランも同等に血液/ガス分配係数は低い。
・亜酸化窒素だけの特性ではなくなってきている。
・二次ガス効果
・亜酸化窒素が速やかに肺胞から組織へ移行する。
→他の吸入麻酔薬(=二次ガス)と併用すると、
肺胞内での二次ガスが濃縮され濃度が上昇していく。
→二次ガスの効果発現が早まる。
・術中覚醒への影響
・他の吸入麻酔薬より健忘作用が強い。
・亜酸化窒素の併用で術中覚醒が減少する。
・呼吸への影響
・呼吸抑制
→一回換気量は低下するが
呼吸数上昇で換気が代償されるためPaCO2は上昇しない。
・セボフルランとの併用時にセボの濃度を下げることができる。
→セボフルランによる呼吸抑制を起こりにくくする。
→自発呼吸が残しやすくなる。
・循環への影響
・軽度の陰性変力作用があるが、交感神経刺激作用もある。
→互いに相殺するため他の吸入麻酔薬に比べて循環抑制が乏しい。
・左室機能低下症例
→もともと内因性の交感神経が緊張しているため、
陰性変力作用が出現する。
・閉鎖腔の増大
・閉鎖腔は窒素で満たされている。
・亜酸化窒素は窒素よりも血液に溶けやすい。
→亜酸化窒素の流入が窒素の流出速度を上回るため閉鎖腔が膨張。
・気胸、イレウス、肺気腫、空気塞栓で問題になる
・中耳内圧上昇
→鼓室形成での移植片の移動
・気管チューブやLMAのカフ
→カフ圧チェックの必要性
・拡散性低酸素血症
・亜酸化窒素を投与終了した直後に十分な酸素投与をしなかった場合に発生
・亜酸化窒素の吸入中止
→亜酸化窒素が血液から肺胞へ大量に移行。
→肺胞の酸素分圧が低下。
・亜酸化窒素の投与終了後には
・高濃度酸素投与
・呼気中酸素濃度やPaO2のモニターを考慮。
・PONVの頻度の増加
・催不整脈作用
→交感神経亢進作用による
・神経毒性
→長時間の使用でミエリンの変性を来し脊髄を障害。
・ビタミンB12欠乏患者でハイリスク
→健常者では大量の亜酸化窒素を投与しないと起こらない。
2017年8月18日金曜日
筋弛緩の拮抗
初期研修医勉強会 担当:M先生
「筋弛緩の拮抗」
・ネオスチグミン
→抗コリンエステラーゼ薬
・コリンエステラーゼを阻害し
→神経筋接合部でのACh濃度を高める。
→非脱分極性筋弛緩薬に拮抗
・副交感神経でのムスカリン作用を拮抗するためにアトロピンを併用。
・副作用
・コリン作動性クリーゼ、不整脈(徐脈)、
腹痛、唾液分泌過多、流涙、気管支痙攣、・・・
・ネオスチグミンの問題点
・効果発現まで10〜15分ほどかかる
・深い筋弛緩状態ではネオスチグミンを増量しても
効果が出ない(天井効果 ceiling effect)
・筋弛緩からの自然回復が進んだ状態で
高用量のネオスチグミンを投与すると
かえって神経筋伝達が阻害される(逆説的な筋力低下)。
・スガマデクス
・効果発現は迅速
・浅い筋弛緩(TOFでT2発現時)では1.4分、
深い筋弛緩(PTC1 ~2)では2.7分でTOF比0.9まで回復する。
・健康成人に96mg/kgに達するスガマデクスを投与しても
いかなる有害事象も出現しなかったという報告もある。
・小児に対するスガマデクスの使用
・studyはほとんどない
・成人に対するスガマデクスの推奨量と同等量で
十分なリバースが得られる。
→しかしリバースまでの時間は短くなる
・2歳以上の小児における適度な筋弛緩の場合は
2mg/kgの量でリバースができる
・病的肥満の患者
・理想体重で算出した投与量では不十分
→理想体重で算出した投与量の+40%で
臨床的に有効な拮抗(平均回復時間<2分)ありとの報告。
・投与量に関して最終的なコンセンサスはない。
・妊婦
・妊婦に対するstudyはない。
・乳汁中に移行するかどうかは知られていない。
・妊産婦・授乳婦に対する影響はないと考えられている。
・ロクロニウムアレルギーに対する使用
・有効とする報告例はいくつかある。
・しかし明確に有効性を示した文献はまだない。
・もし考慮するのであれば早期に高用量(16mg/kg)での投与を。
・RSIにおいては?
・RSIにおいてロクロニウム−スガマデクス複合体は
サクシニルコリンよりも安全である。(Cochrane review)
・スガマデクスの臨床的な副作用(>2%)
・早期拮抗により
・浅麻酔時の咳き込みや体動、苦悶表情。
・気管内チューブによる嘔吐。
・QT延長、AV blockの可能性(研究により様々)。
・アレルギー反応(初回投与でも起こりうる)。
・筋弛緩の再出現(投与量が不十分な患者での報告)。
・禁忌
・絶対的禁忌
→スガマデクスに対するアレルギーのみと考えて良い
・相対的禁忌
・出血性疾患
・腎機能不全
・トレミフェンやフィジン酸の使用
・筋弛緩のモニタリング
・TOF(Train-of-four;4連刺激)
・2Hz(0.5秒間隔)で4回連続の最大上刺激を与える。
・TOFは第1刺激による反応(T1)と
第4刺激による反応(T4)の比(T4/T1)を%で表示する。
・麻酔導入時:気管挿管のタイミング: TOF=0%(反応数 0/4)
・麻酔維持中:適切な維持状態 TOF=0%(反応数 1〜2/4)
追加投与のタイミング TOF=0%(反応数 3〜4/4)
・覚醒時期 :拮抗薬投与のタイミング TOF=25-35%以上
抜管時期 TOF=80-90%以上
・TOF比>0.9
→残存筋弛緩からの回復を示唆する一般的な指標。
・TOF刺激による2回目の収縮反応(T2)の再出現を
「浅い筋弛緩状態」と呼ぶ。
・PTC(Post-tetanic count)
・深い筋弛緩時のモニター。
・5秒間50Hzの刺激を与えて3秒間休止。
・引き続き15回1Hzの刺激を与え検知された反応数を表示。
・PTCが1なら10分以内にTOFのT1が出現する。
・PTCが5なら3-4分で、7ならまもなくT1が出現する。
・筋弛緩の再出現
・末梢分画のロクロニウムが中枢分画(血中)に戻る。
→肝臓での代謝能力、または血中での包接可能量を超える。
→神経筋接合部に移行。
→再び筋弛緩状態となる。
・完全な筋収縮(TOF=100%)
→75%のACh受容体が筋弛緩薬で占められている場合にも起こる。
→循環によって増加した少量のロクロニウムでも
再び筋弛緩を引き起こすのに十分な量になりうる。
「筋弛緩の拮抗」
・ネオスチグミン
→抗コリンエステラーゼ薬
・コリンエステラーゼを阻害し
→神経筋接合部でのACh濃度を高める。
→非脱分極性筋弛緩薬に拮抗
・副交感神経でのムスカリン作用を拮抗するためにアトロピンを併用。
・副作用
・コリン作動性クリーゼ、不整脈(徐脈)、
腹痛、唾液分泌過多、流涙、気管支痙攣、・・・
・ネオスチグミンの問題点
・効果発現まで10〜15分ほどかかる
・深い筋弛緩状態ではネオスチグミンを増量しても
効果が出ない(天井効果 ceiling effect)
・筋弛緩からの自然回復が進んだ状態で
高用量のネオスチグミンを投与すると
かえって神経筋伝達が阻害される(逆説的な筋力低下)。
・スガマデクス
・効果発現は迅速
・浅い筋弛緩(TOFでT2発現時)では1.4分、
深い筋弛緩(PTC1 ~2)では2.7分でTOF比0.9まで回復する。
・健康成人に96mg/kgに達するスガマデクスを投与しても
いかなる有害事象も出現しなかったという報告もある。
・小児に対するスガマデクスの使用
・studyはほとんどない
・成人に対するスガマデクスの推奨量と同等量で
十分なリバースが得られる。
→しかしリバースまでの時間は短くなる
・2歳以上の小児における適度な筋弛緩の場合は
2mg/kgの量でリバースができる
・病的肥満の患者
・理想体重で算出した投与量では不十分
→理想体重で算出した投与量の+40%で
臨床的に有効な拮抗(平均回復時間<2分)ありとの報告。
・投与量に関して最終的なコンセンサスはない。
・妊婦
・妊婦に対するstudyはない。
・乳汁中に移行するかどうかは知られていない。
・妊産婦・授乳婦に対する影響はないと考えられている。
・ロクロニウムアレルギーに対する使用
・有効とする報告例はいくつかある。
・しかし明確に有効性を示した文献はまだない。
・もし考慮するのであれば早期に高用量(16mg/kg)での投与を。
・RSIにおいては?
・RSIにおいてロクロニウム−スガマデクス複合体は
サクシニルコリンよりも安全である。(Cochrane review)
・スガマデクスの臨床的な副作用(>2%)
・早期拮抗により
・浅麻酔時の咳き込みや体動、苦悶表情。
・気管内チューブによる嘔吐。
・QT延長、AV blockの可能性(研究により様々)。
・アレルギー反応(初回投与でも起こりうる)。
・筋弛緩の再出現(投与量が不十分な患者での報告)。
・禁忌
・絶対的禁忌
→スガマデクスに対するアレルギーのみと考えて良い
・相対的禁忌
・出血性疾患
・腎機能不全
・トレミフェンやフィジン酸の使用
・筋弛緩のモニタリング
・TOF(Train-of-four;4連刺激)
・2Hz(0.5秒間隔)で4回連続の最大上刺激を与える。
・TOFは第1刺激による反応(T1)と
第4刺激による反応(T4)の比(T4/T1)を%で表示する。
・麻酔導入時:気管挿管のタイミング: TOF=0%(反応数 0/4)
・麻酔維持中:適切な維持状態 TOF=0%(反応数 1〜2/4)
追加投与のタイミング TOF=0%(反応数 3〜4/4)
・覚醒時期 :拮抗薬投与のタイミング TOF=25-35%以上
抜管時期 TOF=80-90%以上
・TOF比>0.9
→残存筋弛緩からの回復を示唆する一般的な指標。
・TOF刺激による2回目の収縮反応(T2)の再出現を
「浅い筋弛緩状態」と呼ぶ。
・PTC(Post-tetanic count)
・深い筋弛緩時のモニター。
・5秒間50Hzの刺激を与えて3秒間休止。
・引き続き15回1Hzの刺激を与え検知された反応数を表示。
・PTCが1なら10分以内にTOFのT1が出現する。
・PTCが5なら3-4分で、7ならまもなくT1が出現する。
・筋弛緩の再出現
・末梢分画のロクロニウムが中枢分画(血中)に戻る。
→肝臓での代謝能力、または血中での包接可能量を超える。
→神経筋接合部に移行。
→再び筋弛緩状態となる。
・完全な筋収縮(TOF=100%)
→75%のACh受容体が筋弛緩薬で占められている場合にも起こる。
→循環によって増加した少量のロクロニウムでも
再び筋弛緩を引き起こすのに十分な量になりうる。
2017年8月8日火曜日
留学通信1
神戸市立医療センター中央市民病院では規定を満たしたスタッフ医師に対して研究休職(サバティカル)を認めており、現在当科K医師がこの制度を利用してUniversity of Pittsburgh Medical Center(UPMC)麻酔科に留学しています。
以下、K医師からの留学通信です。
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私は現在、中央市民病院の研究休職制度を利用して、UPMC麻酔科において麻酔科領域におけるレジデント教育とシミュレーション教育について主に勉強させて頂いております。
日米医療体制の違いを感じつつ、病院の規模や医療体制はもちろんのことながら、システマティックに構築された教育体制や、先進的なシミュレーション教育に常に刺激を受けながら毎日を過ごしています。
臨床留学が資格などの面でなかなか難しい中、大学院で博士号を取得してから研究留学というのが医師の留学の一般的な道筋であることを考えると、市中病院で長らく臨床を続ける医師がそのまま留学を目指すというのはなかなか難しいことだと思っていました。それに対して「市中病院の臨床医にも留学の道を与える」ということでこの研究休職制度が作られ、今回認めて頂いたことは大変な喜びです。
こちらでしっかり勉強して医学教育、シミュレーション教育について知識と経験を積んで、帰国後に麻酔科のレジデント教育はもちろん、中央市民病院全体でのスタッフ教育のさらなる充実につなげて、神戸市の医療をよりよいものにしていく一助となればと思います。また時折現状を報告させて頂きます。
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以下、K医師からの留学通信です。
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私は現在、中央市民病院の研究休職制度を利用して、UPMC麻酔科において麻酔科領域におけるレジデント教育とシミュレーション教育について主に勉強させて頂いております。
日米医療体制の違いを感じつつ、病院の規模や医療体制はもちろんのことながら、システマティックに構築された教育体制や、先進的なシミュレーション教育に常に刺激を受けながら毎日を過ごしています。
UPMC Presbyterian Hospital
UPMC Montefiore Hospital (私の主な勤務場所)
シミュレーション教育センター:WISER
臨床留学が資格などの面でなかなか難しい中、大学院で博士号を取得してから研究留学というのが医師の留学の一般的な道筋であることを考えると、市中病院で長らく臨床を続ける医師がそのまま留学を目指すというのはなかなか難しいことだと思っていました。それに対して「市中病院の臨床医にも留学の道を与える」ということでこの研究休職制度が作られ、今回認めて頂いたことは大変な喜びです。
こちらでしっかり勉強して医学教育、シミュレーション教育について知識と経験を積んで、帰国後に麻酔科のレジデント教育はもちろん、中央市民病院全体でのスタッフ教育のさらなる充実につなげて、神戸市の医療をよりよいものにしていく一助となればと思います。また時折現状を報告させて頂きます。
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