「初期研修医勉強会」 担当:H先生
「PONVまとめ」
・PONV:Postoperative Nausea and Vomiting(術後嘔気嘔吐)
・術後嘔吐の発生率は約30%、
・術後嘔気の発生率は50%
・高リスク患者においてはPONVの発生率は80%
→患者にとって不快
→早期離床を妨げる
→日帰り手術では退院の遅れや再入院の原因に
→PONVの発生率を低下させることが医療費の削減にまでつながる。
→PONVの発生率の低下が患者の手術への満足度の上昇につながる。
・嘔吐の生理
・嘔吐中枢は延髄網様体にある。
・種々の求心性刺激に対して嘔吐を起こす。
・嘔吐を引き起こす求心路にはおよそ5つの経路がある
・5-HTから迷走神経を解する経路
・前庭迷路系から第VIII脳神経を解する経路
・視覚中枢からの経路
・大脳辺縁系を解する経路
・延髄最後野のCTZを解する経路
・PONVのメカニズムは明らかにされていない。
・PONVは特定の受容体拮抗薬で完全に抑えられない
→いくつかの受容体が関わっていることが考えられる。
・PONVの患者要因
・女性 (OR:2.57)
・PONVの既往 (OR:2.09)
・非喫煙者 (OR:1.82)
・乗り物酔いしやすい (OR:1.77)
・年齢 (OR:0.88,10歳上がるごとに)
・Apfel Score
→該当リスク項目が1つ増えるごとに PONV 確率は 20 % 増加する。
・女性、非喫煙者、PONV既往、術後オピオイドの使用
・小児におけるPONVのリスクファクター
・30分以上の手術
・3歳以上
・斜視手術
・血縁者にPOVまたはPONVの既往
・小児のPONV
・嘔吐は成人の2倍の頻度
・年齢の増加とともにリスクは増大し、思春期以後は減少
・思春期以前は性差なし
・一般的にPONVのリスクとなる手術と言われている手術
・腹腔鏡下手術、開腹/開胸術、形成、婦人科、
脳外科、眼科(特に斜視手術)、泌尿器科、頭頸部手術など
・独立したPONVリスク因子となりうる手術
→腹腔鏡下手術、婦人科手術、胆嚢摘出術
・手術時間はPONV発生率に関連する
→手術時間60分以上はリスク因子
・Koivuranta Scoreには上記項目が考慮されている
・麻酔要因
・全身麻酔
・吸入麻酔→容量依存性に発症率が上昇
・亜酸化窒素(笑気)
・術後のオピオイド使用
・術中のオピオイド使用はPONVの要因とはならない
・薬物による治療
・アメリカのガイドラインでは多数の薬剤がラインナップ
→日本ではほとんどが保険適応外・・・。
・セロトニン受容体拮抗薬 (オンダンセトロンなど)
・腸管からの迷走神経刺激に基づくセロトニン分泌による
嘔吐中枢の刺激を遮断
・嘔気よりも嘔吐に対してより効果を持つ
(POV;NNT=6、PON;NNT=7)
・手術終了時に4mg投与することが推奨されている
・副作用
・セロトニン症候群
・QT延長作用
→容量依存性
→先天性QT延長症候群の患者では避けるべき
→不整脈のリスクが高い患者ではECGモニターが必要
・米国では5-HT3拮抗薬は最もcommonなPONV対策
→しかし薬価が高価(\4,290/4mg)
→日本では抗がん剤投与時以外は保険適応外である
・デキサメタゾン
・PONVの発生を約25%予防する (NNT=4)
→手術様式や麻酔方法に関わらず効果あり。
・PONV予防のメカニズムははっきりとはわかっていない。
→手術に起因する炎症を減らすため?
・日本では保険適応外=適応外使用 (cf. \97/1A)
・標準的な予防投与量
→経静脈的に4~5mgを麻酔導入時に投与する方法である。
→4~5mgの投与と8~10mg投与はPONV予防の有効性は同等。
・副作用
・臨床的に重度な高血糖や創部感染の頻度は増加しない
→IGTやDM、肥満患者では8mg投与で
投与後6~12時間に高血糖が生じるという研究あり。
→糖尿病の患者に投与するのは相対的禁忌である
→4~5mgの投与が推奨されているのは、
上記も要因となっている。
・一般的にデキサメサゾンは一度生じたPONVの治療には
予防投与時ほど有効ではない
・ドロペリドール
・中枢神経系においてドパミン、GABAの伝達を阻害。
・chemoreceptor trigger zoneにおいて受容体を遮断
→制吐作用を発現。
・オンダンセトロンと有効性は同等(NNT=5)
・手術の最後に投与することが推奨されている
→0.625~1.25mg IV
・日本では保険適応外→適応外使用となる
・副作用
・QT延長作用:QT延長症候群の患者ではTdPに至る可能性あり
→2001年にFDAで警告
→第一選択ではなくなった
・短時間での使用なら問題ないという報告も
・QT延長作用はオンダンセトロンと差異はないなどの報告も。
・間代性けいれん
・低用量(<1mg or 15ug/kg;0.3~0.5mgでも有効か) でも
有害事象なく十分な制吐作用をもつとの報告も。
・ニューロキン受容体拮抗薬
・抗コリン薬
・日本で保険適応がある薬剤は?
・メトクロプラミド(プリンペラン:ドパミン受容体拮抗薬)
・嘔気時に10mg(1A) IVが適応となっている
→メトクロプラミドは制吐作用が弱い
→10mgの投与ではPONVの発症率の低下につながらない
という研究も…(NNT=30)
・プロクロルペラジン(ノバミン:D2受容体遮断薬)
→5〜10mg静注 手術終了時
・ヒドロキシジン(アタラックスP:抗ヒスタミン薬)
→25〜50mg静注、点滴静注。悪心嘔吐時、手術終了時
・非薬物治療
・輸液
・適切量の輸液がPONVの発生を減少させる!?
→晶質液と膠質液との間に差異はない
・小児における斜視手術での報告
・30ml/kg VS 10ml/kgでは
30ml/kgの群でPOVの発生率低下 (22% VS 54%)
・P6刺激法
・ツボ刺激
・長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間で手首のしわから3
3横指(2インチ)中枢側にある。
・麻酔導入前後のいずれに刺激しても効果に差異はない
・Up to Dateでは効果は小さいとの記述が
・アロマセラピー
・酸素療法
→エビデンスはなく有効性も不明だがコストは低い。
・介入について
・risk factorなし
・PONV予防薬の投与は必要ない
・嘔吐の合併の可能性の手術を行う場合は予防薬の適応
・risk factor 1つ
・予防薬の単一剤投与
・デキサメサゾン、アプレピタント、経皮スコポラミンは
長時間作用効果がありPONVの発生を減少させる
・risk factor 2つ以上
・複数の薬剤を併用。
・可能であれば吸入麻酔薬の使用を回避
TIVA、術後のオピオイド使用を最小限にとどめる
・PONV発症後の治療
・予防ほどの有効性はない。
・セロトニン受容体拮抗薬が最も一般的に用いられている。
・デキサメサゾン、ドロペリドールも一定の効果がある。
・日本ではいずれも適応がなくメトクロプラミドが用いられている。
・予防治療を行ったのにも関わらずPONVが進行した場合
→別の作用機序の薬剤を選択することが推奨されている。