2017年4月19日水曜日

Postoperative Nausea and Vomiting

初期研修医勉強会  担当:H先生

「Postoperative Nausea and Vomiting」

・術後嘔吐の発生率は約30%、術後嘔気の発生率は50%
  →高リスク患者においてはPONVの発生率は80%!
・PONVは患者にとって不快
  →さらに早期離床を妨げ退院の遅れや再入院の原因となる。
  →PONVの発生率を低下させることが医療費の削減にまでつながる。
・嘔吐中枢は延髄網様体にある。
  →種々の求心性刺激に対して嘔吐を起こす。
  ・嘔吐を引き起こす求心路にはおよそ5つの経路がある。
   ①セロトニン(5-HT)によって活性化される化学受容器
    または機械的受容器から入り迷走神経を介する経路
   ②前庭迷路系から第Ⅷ脳神経を介する経路
   ③視覚中枢からの経路
   ④辺縁系を介する経路
   ⑤延髄の最後野にある化学受容器引金帯(CTZ)を介する経路
・PONV予防
 ・PONVのメカニズムは明らかにされていない。
 ・複数の受容体が関わっていることが考えられる。
 ・患者要因
   ・女性 (OR:2.57)
   ・PONVの既往 (OR:2.09)
   ・非喫煙者 (OR:1.82)
   ・乗り物酔いしやすい (OR:1.77)
   ・年齢 (OR:0.88,10歳上がるごとに)
 ・手術因子
   ・一般的にPONVのリスクとなる手術と言われている手術
     →腹腔鏡下手術、開腹/開胸術、形成、婦人科、脳外科、
      眼科(特に斜視手術)、泌尿器科、頭頸部手術など
   ・腹腔鏡下手術、婦人科手術、胆嚢摘出術は独立したPONVのrisk factor
   ・手術所要時間>60分でPONV発生率が上昇
 ・麻酔因子
   ・全身麻酔
   ・吸入麻酔;容量依存性に発症率が上昇
   ・亜酸化窒素(笑気)
   ・術後のオピオイド使用
    (術中のオピオイド使用は要因とはならない)
  →麻酔方法を工夫してみる
   ・全身麻酔
     →可能な症例は局所麻酔下で手術を行う;発生率1/9に

   ・吸入(揮発性)麻酔
     →プロポフォールによるTIVAを行う
      高リスク群において、PONVの発生率が約25%低下
   ・亜酸化窒素(笑気)
     →使用しない
   ・術後のオピオイド使用
     →使用量を最小限に留める
      ・NSAIDsによる鎮痛、局所麻酔薬のみによる硬膜外鎮痛など
・予防薬
  ・セロトニン受容体拮抗薬
    ・腸管からの迷走神経刺激に基づく
     セロトニン分泌による嘔吐中枢の刺激を遮断
    ・嘔気よりも嘔吐に対してより効果を持つ
              (POV;NNT=6、PON;NNT=7)
    ・副作用
      ・セロトニン症候群
      ・QT延長作用
         →容量依存性。
          先天性QT延長症候群の患者では避けるべき。
          不整脈のリスクが高い患者においてはECGモニターを。
    ・5-HT3拮抗薬は最もcommonなPONV対策である@アメリカ
      →しかし、薬価が高価(\4,290/4mg)であり、
       その上日本では抗がん剤投与時以外は保険適応外である
    ・手術終了時に4mg投与することが推奨されている
  ・デキサメタゾン
    ・PONVの発生を約25%予防する (NNT=4)
    ・この結果はどの手術様式や全身/脊髄麻酔のいずれにもあてはまる
    ・PONV予防のメカニズムははっきりとはわかっていない。
    ・おそらくは手術に起因する炎症を減らすためであると言われている。
    ・日本では保険適応外=適応外使用 (cf. \97/1A)
    ・経静脈的に4~5mgを麻酔導入時に投与する。
      →4~5mgの投与と8~10mg投与はPONV予防の有効性は同等であった。
    ・副作用について
      →臨床的に重度な高血糖や創部感染の頻度は増加しない
      →しかしIGTやDM、肥満患者では8mg投与で
       投与後6~12時間に高血糖が生じるという研究があり、
       糖尿病の患者に投与するのは相対的禁忌である
       (4~5mgの投与が推奨されているのは、上記も要因となっている。)
    ・一度生じたPONVの治療には予防投与時ほど有効ではない  
  ・ドロペリドール
    ・中枢神経系においてドパミン、GABAの伝達を阻害。
    ・CTZにおいて受容体を遮断することにより、制吐作用を発現。
    ・オンダンセトロンと有効性は同等(NNT=5)
    ・手術の最後に投与することが推奨されている:0.625~1.25mg IV
    ・日本では保険適応外=適応外使用
    ・副作用
      ・QT延長作用:QT延長症候群の患者ではTdPに至る可能性あり
         →2001年にFDAで警告が発せられて以降、
          第一選択ではなくなった
         →短時間での使用なら問題ない、
          オンダンセトロンとQT延長作用について
          差異はないなどの見解もある。
            →現在も多くの国で用いられている
      ・間代性けいれん
  ・ニューロキニン受容体拮抗薬
    ・ニューロキニンは前嘔吐(pro-emetic)物質である
    ・術後~24時間のPONV予防効果ではオンダンセトロンと同等である。
    ・術後24~48時間では、嘔吐予防にオンダンセトロンより有用である。
    ・新しい薬剤のため、他の薬剤と比較し研究が少ない??
    ・日本において抗癌剤使用患者に用いられることはあるが、
     PONVに対しては保険適応外である。
  ・抗コリン薬
    ・正確な機序は判明していない。
    ・経皮スコポラミンがPONVの予防に用いられている。
    ・作用発現が遅いため、PONVの治療には適さない。
    ・効果発現までに2~4時間かかるため、麻酔開始の2~4時間前に貼る
    ・オンダンセトロン、ドロペリドールと同等の効果をもつという研究あり
    ・副作用
      →鎮静、視覚異常、ドライマウス、めまい
      →閉塞性緑内障の患者への使用は禁忌
    ・やはり、日本での保険適応はない…
  ・ドパミン受容体拮抗薬
    ・嘔気時に10mg(1A) IVが適応となっている
       →メトクロプラミドは制吐作用が弱く、
        10mgの投与ではPONVの発症率の低下につながらないという研究も。
    ・20mg以上の投与で効果が認められ、容量依存性に効果が上昇する。
     →しかし大量投与については疑問が残る。
     →これに代わる薬剤がないので日本では依然用いられている
・非薬物療法
  ・輸液
    →適切量の輸液がPONVの発生を減少させる!?
    →晶質液と膠質液との間に差異はない
    →全身状態や手術法など全般を考慮して行うかを決定する。
  ・ツボ刺激
    →P6(Pericardium 6;内関)というツボに
     針刺激や圧迫刺激を加えるとPONVの予防効果がある。
    ・P6;長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間で
       手首のしわから3 横指(2インチ)中枢側にある。
    ・麻酔導入前後のいずれに刺激しても効果に差異はない
・リスクに対する介入
 ・risk factorなし
   ・PONV予防薬の投与は必要ない
   ・しかし嘔吐の合併の可能性の手術を行う場合は予防薬の適応
 ・risk factor1つ
   ・予防薬の単一剤投与
   ・デキサメサゾン、アプレピタント、経皮スコポラミンは
    長時間作用効果がありPONVの発生を減少させる
 ・risk  factor複数
   ・2,3の薬剤を併用。
   ・可能であれば吸入麻酔薬の使用を回避=TIVA
   ・術後のオピオイド使用を最小限にとどめる
・発症後の治療について
 ・予防ほどの有効性はない。
 ・セロトニン受容体拮抗薬が最も一般的に用いられており、
  十分な研究が行われている唯一の有効な治療薬と言われている。
 ・デキサメサゾン、ドロペリドールも一定の効果がある。
 ・日本では適応がなくメトクロプラミドが用いられている。
 ・予防治療を行ったのにも関わらずPONVが進行した場合は、
  別の作用機序の薬剤を選択することが推奨されている。


GICUで使うお薬あれこれ

ICU勉強会  担当 M先生

「GICUで使うお薬あれこれ」

・GICUでよく使うお薬を改めてまとめてみました。
・アセトアミノフェン
  ・50%鎮痛力価:NNT 3.5(NSAIDsは2-3程度)
  ・1回1,000mgまで、4-6時間おきに投与、最大4g/日まで投与可能
   (アルコール依存症、低栄養患者には投与量1日2g以下にする)
  ・天井効果があり1回量1,000mg以上を投与しても効果は増大しない
   →天井効果がないのは強オピオイドのみである。
・POAF予防薬
  ・POAFについて
    ・開心術後の20-50%に発症(CABG:約30%,弁置換術:約40%)
    ・胸部外科手術でも0.6-3.6%程度は生じる
    ・術後死亡率の増加につながる
    ・周術期脳血管障害、急性腎障害、心不全のリスク
  ・POAFリスク
    ・高齢者
    ・COPD
    ・弁膜症手術
    ・緊急手術
    ・低心機能(EF<30%)
    ・IABP挿入
    ・腎機能障害(eGFR<15ml/min/1.73m2)
  ・使われるお薬として・・・
   ・βブロッカー
     →ACCP 2005, CCS2010, ACCF/AHA/HRS2011の
      いずれのガイドラインでも第1選択となっている。
     →術前に投与されている場合は術後も継続する。
   ・アミオダロン
     →HR<60, sBP<100, 徐脈性不整脈など
      βブロッカーが使いにくい場合に考慮される。
・術後抗血小板薬
  ・アスピリン
   ・CABGにおいて・・・
    ・SVGグラフトの開存率を有意に改善する。
    ・内胸動脈グラフトの開存率の改善は示されていない。
      →もともと10年開存率≧90%と高いため
    ・術後イベント(心筋梗塞・脳梗塞・腎不全)の抑制が示されている。
    ・術後24時間以内には再開すべき。
   ・TAVI後はDAPTを導入する。
・スタチン
 ・適応は?
   ・ASCVD(atherosclerotic cardiovascular disease)既往
   ・LDL-C≧190mg/dL
   ・40-75歳のDM患者
   ・10年-ASCVDリスク≧7.5%以上
・鼻腔MRSA治療薬
  ・術前鼻腔MRSA検査の適応
   →ルーチンでの検査は推奨されない
  ・MRSAハイリスク患者
    →MRSA感染既往、最近の医療・福祉施設の入院・入所歴、
     血液透析など
  ・重篤・難治性感染のハイリスク手術
  (心臓手術・人工関節置換術)を施行する患者
  ・バンコマイシン(VCM)のSSI予防効果
             (vs. βラクタム抗菌薬)
    ・MRSA→0.44(p=0.05)
    ・MSSA→2.79(p<0 .001="" p="">    ・緑膿菌→0.96(P=0.95
   →MRSA陰性ならCEZのみ(VCMは不要)
   →MRSA陽性ならVCMは有効だが抗MSSAにCEZも必要
・ストレス潰瘍の予防
 ・潰瘍を予防する目的
    →ICU患者の75%-100%は入室後24時間以内に粘膜病変をきたし、
     自然経過ではその5-25%が出血に発展する。
    →重症患者において消化管出血が起きた場合、
     致死率は20-30%に達すると言われる。
    →しかし胃酸を抑制することにより感染症を発症しやすくなる
 ・潰瘍予防を推奨
   ・凝固異常(PLT<50,000/mm3, PT-INR>1.5)
   ・48時間以上の人工呼吸器管理
   ・1年以内に消化管潰瘍・出血をきたしている
   ・GCS≦10
   ・熱傷面積>35%
   ・肝部分切除
   ・多発外傷(injury severity score≧16)、
   ・肝不全
   ・脊髄外傷
   ・肝・腎移植、
   ・敗血症
   ・1週間以上のICU入室
   ・6日以上の潜血
   ・ヒドロコルチゾン250mg/day以上のステロイド投与
 ・H2RA vs PPI
  ・PPIの方が臨床的に重要な消化管出血を減少させるという研究が多い。
  ・医療関連肺炎の発生率はPPIの方が多いとされる研究が多い。

 臨床工学技士さん主催、人工心肺ハンズオン

2017年4月12日水曜日

2017年度新体制

当院麻酔科・集中治療部は新たに美馬部長の下、
新体制となって2017年度を迎えることとなりました。
今年も東は京都、西は沖縄から、
新たに5名の専攻医(後期研修医)を迎えることとなりました。








新専攻医たちもスタッフ医師の指導の下、
すでに手術室で活躍しています。
新たに来て頂いた2名のスタッフに加え、
西市民病院から研修に来られた後期研修医の先生1名、
および産休から復帰された2名のドクターを加えて、
さらに強力な体制となりました。
今後ともスタッフ一同、
若手ドクターの教育にはさらに力を入れていこうと思います。